関係機関との連携や実習を通して障害者雇用を積極的に推進
- 事業所名
- 社会福祉法人 希望の家(法人番号 4060005003550)
- 所在地
- 栃木県鹿沼市
- 事業内容
- 障害者支援
- 従業員数
- 165名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 支援員 肢体不自由 1 支援員 内部障害 2 支援員 知的障害 1 支援員 精神障害 3 支援員 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
社会福祉法人希望の家(以下「希望の家」という。)は、知的障害者授産施設として昭和48(1973)年に設立された。設立者は、ソニー創業者の一人である井深大である。
井深は、「世の中から遠ざけられがちだった知的障害者が、生きていることの意味を自覚して、生き生きとした日々を送ってもらいたい・・・。」 [平成5(1993)年創立20周年記念誌より]という思いからこの希望の家を設立し、今現在もこの設立精神は施設運営の根幹となっている。
希望の家は、平成15(2003)年に栃木県初のISO9001認証を取得し、国際的な品質管理システムにおけるサービスの提供が開始された。また、平成25(2013)年には創立40周年を迎え、施設入所支援や日中活動として生活介護事業や就労継続支援事業、就労移行支援事業など、障害者支援において幅広い事業を展開している。
2.取組の内容、障害者の職場配置と職務内容
(1)取組の内容
現在勤務している9名の障害者の中から、1名の採用に至るまでの経緯(取組内容)を紹介する。
Aさん(38歳男性)精神障害者(統合失調症)/精神障害者保健福祉手帳2級
Aさんは、平成10(1998)年に専門学校を卒業し、卒業後直ぐに就職するが、人間関係の悪化や他の社員から酷いことなどを言われることが多くなり、退社する。
その後も派遣会社を通じて何社か就職するが、人間関係の悪化や本人の能力以上の仕事を要求され、数か月で退社するということが続き、平成20(2008)年、統合失調症を発症してしまう。
その後、精神病院への入院や就労移行支援事業所の利用を通じて病状が安定し、障害者就業・生活支援センター(以下「センター」という。)との連携を通じてB社に平成25(2013)年に就職した。
平成27(2015)年に、希望の家の利用者の、B社での職場実習に向けた打合せがあり、その後の実習現場見学の際に見かけたAさんの仕事ぶりは、他の社員とは比べ物に成らないほど素早く、目を見張るものがあった。しかしながらB社の雇用管理体制に課題があることからAさんの支援を行っているセンターの担当者のDさんに対して、希望の家内にある就労移行支援事業所武子希望の家(以下「JSP班」という。)へ、作業員としての転職はどうかという提案を行い、Dさんを通じて、まずは見学だけという条件でAさんの希望の家見学の段取りを行った。
このJSP班では、浴槽に使われる防水パッキンの二次加工業務を行っており、就労支援で障害者39名が利用している。JSP班のみでいえば、職員は13名で、内5名が障害者である。また、見学前にセンターより、Aさんの具体的な留意事項などについて情報提供を受けた。具体的な留意事項は次のとおりであった。
- 2工程以内の仕事を行う。
- 複雑な判断は求めない。
- 仕事や環境に慣れるまでに時間がかかる。
- 人の期待に応えようと頑張りすぎてしまうので、ブレーキをかけることが必要
- 不安感が強いため、フォローを要する。
- ア.
- JSP班見学
センターのDさん同行で、希望の家の見学が行われ、もし働くこととなった場合、次のことを約束した。
- 仕事は1工程の作業のみをお願いする。
- (慣れるまで時間がかかるので)ミスしても怒ったりせず、優しく声掛けする。
- 利用者の支援は一切担当させない。
- 残業は一切課さない。
見学の際、具体的に、もしJSP班で働くこととなった場合、どのような作業を行ってもらうか具体的に説明し、実際に作業を見てもらったところ、この作業であればできると本人も納得したため、後日改めて1週間の職場体験実習を行う運びとなった。
- イ.
- JSP班での体験実習
実習期間は5日間、勤務時間は8時30分~17時の時間帯とし、作業は、見学時にも説明した「分割パッキンの貼付作業」であり、浴槽に、分割パッキンという部材を1台につき1枚、1日で多い時には500台(枚)程、貼付する作業である。
実習初日。表情は硬いが私語などなく、真面目に作業を行う。行ってもらった「分割パッキン貼付作業」は本来、ライン作業であるが、作業自体に慣れてもらうため、ライン上ではなく、別の場所で1台ずつ、マイペースに作業を行ってもらった。使用される部材は細く、B社に勤めていた時の様に全身を使う作業ではなく、手先を使う作業のため、慣れないこともあって手間取っていた。作業が終わった後、疲れ具合を尋ねると、慣れない環境下での作業ということもあり精神的な疲労はあるが、体力的には全く疲れていないとの回答があった。
実習3日目。引き続きライン上ではなく、別の場所で作業を行い、分割パッキンの扱いにも随分慣れてきたため、スピードを意識して貼付してもらった。また、随時、あまり頑張りすぎない様声掛けをし、時々小休止をしてもらった。
実習最終日。全実習期間を通じて、ライン上ではなく、別の場所で分割パッキンの貼付作業を行ってもらう。作業スピードも実習前半に比べると大幅に向上し、ライン上で作業を行っても支障ないレベルに達する。
作業終了後、Aさん、センターのDさんとの反省会の席上で、Aさんより、入社したいとの意思表明があったため、法人内で検討し、後日採用が決定する。入社の意思が固まった理由について後日Aさんに尋ねたところ、次の話が出た。
- 職場の環境が良かった。(ミスをしても職員が優しいなど)
- 主治医より、現在勤めているB社を早めに退職し、希望の家に入社した方が良いと後押しをもらった。
(2)障害者の職場配置と職務内容
入社後も引き続き、ライン上ではなく、別の場所にて「分割パッキンの貼付作業」を担当してもらったが、Aさんより、「近くで作業を行う利用者の視線を感じる。」といった話や「分割パッキン貼付作業」について、あまり得意ではないとの話があったことから、「仮止め作業」(図1)という別の作業に挑戦してもらった。この作業は、浴槽の排水口の部分に当たる部材を、専用の治具を使って取り付ける作業であり、JSP班の中でも比較的体力を使う作業である。慣れるまで時間を要したが、作業に慣れた途端、B社でみられたようなテキパキとした動きで作業をこなし、動きも非常にスピーディーになり、Aさんからも、「この仕事が自分にあっている」との発言があったことから、現在もこの作業の担当をしている。また、周りで作業を行う利用者とも仲良く作業を行えるようになり、入社してまだ日が浅いときには表情が硬かったAさんも、徐々に笑顔がみられるようになり、冗談なども言えるように変わっていった。さらに、センターのDさんへの相談電話も徐々に回数が減り、現在では全くなくなった様である。
図1 仮止め作業
3.取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
障害者の雇用に関しては、様々な機関と連携をとっていきながら進めていくことが肝要であると考える。今回のケースでは、センターのDさんよりAさんの障害特性などについて、事前に情報提供を受けていたため、見学の段階から、「1工程のみの作業をお願いする」、「優しく声掛けする」など、Aさんにとって適切な対応をとることができ、それが転職を決断する大きなきっかけになった。
また、実習は、本人と企業のマッチングを見極めていく上でとても有意義であると考える。不安感が強いAさんも、言葉だけの説明ではなく、実際に5日間作業を行ってもらったことで、実際の作業や職場の雰囲気を味わい、それが不安の軽減へと繋がっていった。就職する上で、仕事ができるかどうか、本人の能力にあっているか否かという要素も大事だが、長く会社で勤めることを考えると、そこで働く社員たちとの人間関係というものも極めて重要な要素である。実際に職場実習を行い、その職場に入ることで、「この職場なら勤められる」という気持ちになってもらうことが、何よりも大切ではないかと考える。
更に、精神疾患の方の支援において、日々の生活が安定しているということはとても大切である。Aさんのケースにおいても、残業は一切課さず、定時にしっかり退社してもらうことで、生活リズムが安定し、病状の安定にも繋がっていった。個々の障害特性に配慮した、職場環境の改善が求められる。
(2)今後の展望と課題
Aさんが希望の家に入社する前、B社の雇用管理体制に疑問を持ちながらも、退社したら行き先がないと思い込んでいたことで精神疾患を悪化させたが、Aさんに限らず、不安を感じながらも、辞めることもできずに孤立している障害者はまだまだ多数いるのではないかと思われる。就労支援に携わる者として、就労することがゴールではなく、就労した後、「職場での人間関係や生活が安定しているか」、「何か問題を抱えていないか」などを常に把握し、関係機関と連携を取りながら的確に支援を行うことが極めて大切である。
最後に、平成25(2013)年に法定雇用率が2%となったが、希望の家として、障害者雇用に積極的に取組めているかというと、現状まだ不十分と言わざるを得ない。地域における社会福祉の中心的役割を担う施設として、これからも積極的に障害者雇用に取り組んでいくことが今後の課題であると思われる。
執筆者:社会福祉法人 希望の家
武子希望の家(JSP班) 就労支援員(主任) 根本 学
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