雇用はゴールではない
- 事業所名
- 医療法人大和会 西毛病院(法人番号 5070005003490)
- 所在地
- 群馬県富岡市
- 事業内容
- 医療業(除外率設定業種)
- 従業員数
- 460名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 総務課 内部障害 2 環境整備、洗濯業務 知的障害 4 環境整備、洗濯業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
医療法人大和会 西毛病院は昭和41(1966)年に群馬県西毛地域唯一の精神科病院として設立された。創立以後、昭和63(1988)年には、精神障害者の社会復帰への対応のために県内初の「精神科ディケア」を開設し、その後も高齢者化社会に向けて介護老人保健施設を開設、「一般療養病棟」、「老人性認知症病棟」、「精神科療養病棟」の増床を行い、西毛地域の精神医療・高齢者医療の専門病院としての充実を図っている。
現在、診療科目は「精神科」、「内科」、「皮膚科」、「歯科」、病床数は精神病棟60床、精神療養病棟180床、特殊疾患病棟60床、認知症治療病棟60床、療養病棟50床、介護療養病棟100床、合計510床と介護療養型老人保健施設50名(定員)がある。
(2)障害者雇用の経緯
障害者の雇用については、法定雇用率の遵守へ向けた取組がきっかけであった。それまで法人全体で肢体不自由や内部障害のある重度身体障害者2名を採用していたが、病院という現場においてさらに障害者雇用を進めるには、何をどのように取り組めばよいのかわからず、ハローワークの担当者に相談したところ、近隣の就労支援機関である障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)を紹介された。
この支援センターとの密接な連携の下、同事業所は知的障害のある職員の雇用に初めて取り組むこととなった。
2.採用人事における就業支援機関の活用
障害者雇用にあたって支援センターから受ける具体的な支援内容は、ア 就労支援ワーカーに現場を訪問してもらって現場の業務を確認してもらい、イ 業務内容の整理、ウ 職場実習(以下「実習」という。)の内容や雇用後の業務内容の選定についてアドバイスや提案を受ける、ことなどである。
採用については、ハローワーク主催の面接会などに求人を出し、応募者に支援センターを紹介し、本人の同意が得られれば支援センターの利用者として登録してもらう。登録後、支援センターの担当者が対象者本人と面接し、対象者の障害特性や何ができるかを把握し、職務内容とのマッチングを見極めて、初めて応募者として正式にエントリーしてもらう。エントリー後、2週間から2か月程度、病棟などでの実習を経て、採用面接及び作文試験、雇用契約という流れになる。
実習中は支援センターの担当者が対象者と事業所の双方をサポートすることとしている。採用面接のときには必ず就労支援ワーカーが同席している。
また、支援センターは就労だけではなく、生活面の課題などにも対応していることから、勤務時間の変更など、障害のある職員の生活リズムが変わるときには、本人との話し合いの場に必ず就労支援ワーカーに同席してもらっている。
3.事業所としての取組の内容と効果
(1)現場の理解
基本的に実習部署が採用後の配属部署になる。実習に入る前に「病棟会」で受け入れ部署のスタッフに対し、2回の事前説明を行っている。1回目は事務次長と支援センターの就労支援ワーカーが事前説明を行い、障害特性、指導のポイントなどを伝えて理解を求め、2回目は本人と顔合わせということで、本人を紹介し、本人からも苦手なものなどの説明をしてもらった。
(2)取組の内容および効果
- ア.
- 受け入れ環境づくり
支援センターとの相談の上、障害のある職員については、病院の利用者を直接介助しない業務の中で、ベッドの周りの環境整備を中心とした業務に従事してもらうこととしている。なお、同事業所の病棟における「環境整備」という仕事は障害者向けに特別に作ったものではなく、障害のない職員も従事している業務の一つである。
メインで指導するスタッフは一応決めているが、病棟での勤務体制はシフト制なので、指導のための担当者を固定して付けることは困難であり、全員がサポートできる体制を整備することとした。そのため障害のある職員を受け入れるのにあたって、カンファレンスで指導方法などの作業マニュアルの作成に取り組むこととした。
しかし、支援センターがカンファレンスでまとめたものをベースに作業マニュアルを作成してきたところ、作業マニュアルがあると、かえって周囲のスタッフが関わらなくなってしまうことが危惧されたことから、敢えて使用しないこととした。その結果、予想通り周囲のスタッフ全員が障害のある職員の状況を注意して見守ることにつながった。
知的障害のあるAさんの場合、対人コミュニケーションが苦手なところがあった。反応がなく、作業が終わっても「終わった」という表示がないまま、じっと立っているような状態であったが、意識して声掛けするようにし、教え方も工夫し、「ミスしても大丈夫」という感覚を感じてもらうようにして周囲のスタッフが接するようになった。
さらに、事務次長自ら声掛けにより現在の状態を本人から引き出し、スタッフと情報共有している。また、障害のある職員に対しての接し方について良かった事例などもフィードバックしている。
ところで、思わぬ副産物として、マニュアル作成にあたり、これまで作業工程が人によってそれぞれ異なったやり方をしていることに改めて気づかされたことである。このマニュアルづくりのノウハウは、新人向けとしても応用ができ、病棟での作業の平準化が進んだ。例えば、利用者の飲み物にとろみをつける(嚥下障害がある患者向け)作業ひとつとっても担当者によりやり方が様々であったということである。
- イ.
- 障害のある職員の成長
採用当初のAさんは人との関わり方、一度に二つ以上のことを指示すると混乱するなど、スタッフ全員態勢でのサポートが必要だったが、今ではAさんは自分でいろいろ考えて動けるようになり、自分から質問もできるようになっている。できないことは「できない」と意思表示もできるようになった。この例として、当初Aさんを全面的にサポートした上司が自身の異動の際、これまでの指導経過から異動先へのAさんの部署替えを考えたが、Aさん本人が「今の部署でやっていく」と意思表示をするなど成長を窺い知るエピソードがあった。
また、病棟の都合でシフトのパターンを9時から17時の勤務を8時から16時勤務に変更することにしたが、生活のパターンを変えることになるので、本人にできるかどうか確認してみたところ、「やってみないとわからない」という前向きな意思表示を受け、シフトの変更を試みたところ、特に問題もなくできたため、現在はこのシフトで勤務している。人手の足りない業務など新しい仕事を増やしているところであり、今では戦力として周囲が認めているところである。
なお、現在、Aさんが配置された部署では、当初からいたスタッフは2名しか残っていない。異動により新たに配属されたスタッフに対して、Aさんに関する特別なレクチャーは行っていないが、周囲のスタッフの特別な配慮がなくても業務をこなしている。
(3)労働条件について
待遇については、試用期間中はパートタイム勤務、その後は本人の希望を聞き、正職員になる者もいる。職種区分によって賃金が定められているため、障害の有無に関係なく同じ待遇としている。
(4)労務管理について
同事業所では障害のある職員に対して定期的な面談はしていない。労務管理については、衛生管理者及び人事担当者が担当し、障害のない職員と同じ関わり方をしている。ただし、対象者が障害者枠での採用が明確である場合には、配慮を行っている。
なお、事務次長は障害のある職員に限らず、顔色を見たら状態がわかるように、職員一人ひとりに目を配っているとのことである。
4.今後の展望
(1)雇用はゴールではない
同病院では「雇用はゴールではない」という障害の有無に関係なく共通した理念がある。
事務次長の大石氏は「障害者雇用については、継続して働けるか、本人にとってのやりがいがあるか、周囲との関わりはどうか、どれに偏っても上手くいかない。雇用したことだけをゴールにすることは、本人にとってもスタッフにとっても、そして企業にとっても決して納得のいく結果とはならないと考える。そのためにも入り口の部分でのマッチングが特に重要です。」と述べている。
障害のある職員が戦力になっていること、また、本人も自己成長できることにつなげるには、「本人も周囲も含めて皆がOKの状態とは何かを常に問い続けることが大事です。」とも述べている。
当初、障害のある人を実習で受け入れるための説明会でスタッフ側からの戸惑いの声が多く聞かれたが、今では皆が理解した上で受け入れている。
(2)今後の展望
「これまでは良い意味で余裕をもったマッチングを進めてきました。障害者雇用に取り組むことにより、やり方進め方の勉強ができたため、今は当初のような不安はありません。障害のある職員の雇用にあたっては、障害の軽重は関係なく、受け入れる職場環境をどれだけ作れるかが一番大きな課題となります。それを解消するには、支援センターとの関わり方と現場のスタッフが障害のある職員をサポートしていく仲間としてかかわっていくことが重要になると考えます。」と大石氏が語る内容は他の事業所へのメッセージである。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 群馬支部
高齢・障害者業務課 島津 麻衣子
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