医療機関や支援機関との連携による障害者雇用への取組
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事業所外観
(特別養護老人ホーム)事業所外観
(グループホーム)1.事業所の概要
社会福祉法人積心会(以下「積心会」という。)は、平成13(2001)年6月に設立、翌年4月に「特別養護老人ホームひまわり荘」を開設し、地域の皆様に満足していただける介護サービスの提供により、高齢者とその家族の支えとなれるよう事業を開始。その後、平成18(2006)年5月に「グループホームひまわりの郷」を開設し、地域の高齢者福祉の拠点としての機能強化を図り、住み慣れた在宅生活を続けるための支援にも力を注いでいる。
- 【創業の基本理念】(原文ママ)
- 私たちは人権尊重の精神と積心会の理念である「愛と誠」をモットーに、お年よりが明るく健康的な生活が出来るよう自由と権利を守ります。
- 【運営の基本理念】(原文ママ)
- 一.看護や介護に「奉仕の心」を生かし、お年よりの皆さんが満足できるサービスを提供します。
- 二.明るく清潔で安全な生活環境づくりに努めます。
- 三.保健、福祉の専門職を育成し、常に新しい科学の目をもって自己研鑚に努めます。
- 四.職員ひとり一人の創造性と組織参画を大切にし、多様で個性的な福祉サービスを提供します。
- 五.家族や地域の皆さんとの連携を大切にし、地域に開かれた施設づくりに努めます。
関連グループとして、「医療法人 積心会」があり、老人保健施設、訪問看護ステーション、ケアプランセンターを開設している。
2.障害者雇用の経緯
積心会では、障害者雇用の経験がなかったこともあり、最初は障害者の受け入れに対して、どう進めていくと良いかなど分からないことが多く、決めきれない状態であった。しかし、障害者雇用率制度に伴う社会的責任を果たすという考えや、ハローワークからの問合せもあり、平成26(2014)年より初めての障害者雇用に積極的に取り組むこととなった。
最初に採用されたAさん(統合失調感情障害)は、「一般企業で働きたい」との意向があり、就労系福祉サービス事業所(以下「サービス事業所」という。)および障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)と相談し、ハローワークで就職先を探していた。積心会に興味を持ったAさんの希望により、ハローワークから積心会へ、ジョブコーチ支援や各種助成金制度などを含め、Aさんの雇用について説明が行なわれた。また、福井県障害者等就業体験支援事業による職場体験実習(以下「体験実習」という。)の活用により、採用に向けた前向きな検討が進み、体験実習後、本人の希望や積心会の意向により清掃業務での採用となった。
また、二人目に採用されたBさん(解離性障害・不安障害)は、医療機関および支援センターと相談する中で、「介護福祉士を目指したい」という希望があり、支援センターからハローワークの公共職業訓練(介護職員初任者研修)の受講についての情報提供を受け、受講することとなった。その職業訓練の企業実習(以下「実習」という。)先が積心会であった。本人の実習中の様子を見て職員の理解も得られたことや、本人の「この会社で働きたい」という希望もあり、介護業務での採用となった。
3.取組の内容と効果
(1)Aさんについて(清掃業務)
初めての障害者雇用に向けて、具体的な取組を開始するに当たり、ハローワークを中心にサービス事業所、積心会などを含めて、支援体制について検討を行った。その結果、サービス事業所、支援センターを利用し、まずは短期間の体験実習を開始することとした。また、同時に、積心会内においても体験実習を受け入れる体制を検討した結果、庶務課の中に体験実習受入担当者を配置するとともに、全体の把握、調整などを事務長が行う体制を整備した。
平成26(2014)年12月より開始した体験実習では、本人の体調、能力に合わせて、実習時間を段階的に増やしながら、様子を見守った。体験実習後は、両者から採用に向けての合意が得られたため、採用することとなったが、本人の体力、能力に合わせて1か月単位で勤務時間を延ばすこと、連続勤務への不安が大きいことから出勤日についての配慮を行うこととした。
採用後の支援体制として、まずはサービス事業所と支援センターのみで支援を行い、その1か月後よりジョブコーチ支援の利用も開始した。
採用後の定着支援において、本人の障害特性については、徐々に庶務課職員及びスタッフの理解を得ることができ、また、本人に対しての作業指導や助言なども積極的に行うことができた。それら指導、助言などにより、本人も業務を覚えることができ、さらに順調に勤務時間を延ばすことができ、本人の自信にも繋がっている。
現在も、体調の波に影響されながらもその都度相談を行い、積心会からの配慮もあって、頑張って続けていくことができている。
清掃業務中のAさん
(2)Bさんについて(介護業務)
本人と積心会との出会いは、公共職業訓練の実習先として本人が積心会を希望し、積心会も実習を受け入れたことがきっかけとなった。実習後、本人が就職先として、積心会を強く希望したため、採用となった。
採用に当たり、ハローワークを中心に積心会、医療機関を含め、支援体制について検討を行った結果、本人の能力や精神面に配慮した方が良いとの判断により、障害の具体的内容に関しては、雇用管理者(施設管理者、人事担当課)のみが把握し、同僚には知らせずに働くこととなった。そのため、勤務時間内における支援については、積心会が中心に行うこととし、勤務時間外における支援については医療機関、支援センターが中心に行うこととなった。また、職員の中に担当者(施設管理者)を配置するとともに、全体の把握、調整などは事務長が行う体制を整備した。さらに積心会では、医療機関とも連携し、主治医の助言を参考に労働条件などにも配慮を行った。
採用後の定着支援において、Bさんの職場には、Bさんが苦手とする調理業務があり、グループホーム利用者へ提供する食事の調理も担当しなければならなかった。Bさんが慣れるまでの配慮として、同僚とペアで行う形での調理補助業務を担当し、最初は頑張っていた。しかし、刃物に対する恐怖感とそれに伴う不安症状などが出現するようになり、この状況に関して、医療機関から積心会に対して、「刃物に対する不安等があることを同僚に伝え、Bさんの状況を理解してもらう必要がある」との助言があった。
このように、採用当初は障害特性のことを把握しているのは雇用管理者のみであったが、雇用が継続するにつれて、当初では予測できなかった本人の障害特性による調理業務等での課題が発生したこともあり、同僚にも障害特性のことを伝えて働くこととなった。そのため、勤務時間内においても支援センターの支援が行われるようになった。また、同僚に対して障害特性の理解を深めてもらうために、精神科疾患専門の医療機関からスタッフを派遣してもらい、職員研修を実施した。
本人は、何に対しても100%全力で取り組む特性があり、採用当初は公私のバランスを取るのが難しく、心身ともに辛い時期が多く、医療機関との連携が必須であった。しかし、雇用が続くにつれ、徐々に自分でバランスを取れるようになり、状態も安定してきたことから、支援センターや医療機関への相談回数も減り、順調に業務に従事することができるようになった。
社内研修の様子
介護業務中のBさん
(3)まとめ(事業所の主な配慮事項)
- ア.
- Aさん
- 段階的な勤務時間の延長
- 本人の体調に合わせた日常的な勤務時間、勤務日数の調整(早退・欠勤)
- 退院後の自宅療養期間の配慮
- イ.
- Bさん
- 医療機関の助言による勤務時間の調整
- 本人の障害特性に配慮した業務内容の見直し
- 入院先からの通勤を許可するなど通勤経路に対する配慮
4.今後の展望と課題
本事例は、地域障害者職業センター、サービス事業所、支援センターなど様々な支援機関が関わっているが、特に医療機関との連携が図られたケースである。雇用主側が医療機関の助言をほぼ全面的に受け入れ、本人のペースに合わせて事業所全体で見守ることにより、安定して働き続けることができていると感じた。
今後も関係機関との継続的な連携のもと、障害者の職場定着(雇用の安定)、促進が図られるものと思われる。
執筆者:社会福祉法人 敦賀市社会福祉事業団
嶺南障害者就業・生活支援センターひびき 松村 有希子
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