スキルアップやキャリアアップをとおして職場定着に取り組んでいる事例
-
事業所外観(本社工場)
1.事業所の概要
(1)設立
昭和52(1977)年2月1日「三菱電機のOBが退職金を持ち合い、力を後世に伝える」という趣旨で株式会社壮和を設立。その後、三菱電機の出資を受け株式会社ソーワテクニカに名称変更。事業としては、主流事業である自社ブランド送風機の開発・生産・販売を行う換気扇・送風機事業、三菱電機委託事業、換気送風用特殊部材事業の3事業を軸に、お客様に貢献するべく、あらゆるシーンで活用される各種製品の開発、生産、販売を行っている。
(2)事業概要
- ア.
- 換気扇・送風機事業
- 一次産業分野:畜産用換気扇・送風機、施設園芸用換気扇・送風機
防霜用パワーファン、ダクトファン - 産業分野:コンパクトパワーファン(工場扇)、ポータブルファン
- 機器組込分野(特殊品)
:薄形有圧換気扇<プラスチック羽根タイプ><鋼板タイプ>
<ステンレスタイプ>
:薄形両軸シロッコファン
:クロスフローファン
:低温用ダクトファン
- 一次産業分野:畜産用換気扇・送風機、施設園芸用換気扇・送風機
- イ.
- 換気送風用特殊部材事業:深型フード、丸形フード、深型ベントキャップ
- ウ.
- 拠点工場:送風機工場(岐阜県中津川市)
手賀野工場(岐阜県中津川市)
恵那パーツセンター(岐阜県恵那市)
(3)理念
「誠実・実行・感謝」の社是を行動規範とし、「お客様に満足いただける製品づくり」の経営方針のもと、積極的な事業展開を推進します。
(4)企業倫理・遵法宣言
業務に関わる法規及び社内ルールなどを念頭に置き、倫理的社内風土の醸成に努め、不正防止体制の確立を継続的に図るため、以下に宣言するところに則って行動します。
- ア.
- 法の遵守:法は最低限の道徳であることを認識し、法の遵守はもちろん、社会全体の倫理観や社会常識の変化に対する鋭敏な感性を常に持ち、誠実に行動します。
- イ.
- 人権の尊重:常に人を尊重した行動をとり、国籍、人種、宗教、性別等いかなる差別も行いません。
- ウ.
- 社会への貢献:企業としての適正利潤を追求するとともに、社会全体の発展を支えるとの気持ちを持ち、企業の社会的責任を自覚して行動します。
- エ.
- 地域との協調・融和:良き市民良き隣人の一員として、ボランティア活動等地域社会の諸行事に積極的に参加し、地域の発展に貢献します。
- オ.
- 環境問題への取組み:循環型社会の形成を目指し、資源の再利用をはじめ、あらゆる事業活動において、いつも環境への配慮を忘れずに仕事を進めます。
- カ.
- 企業人としての自覚:企業人としての自覚を持ち、自らの扱う金銭等の財産、時間、情報(特に電子メールやインターネットの利用)等に対し、公私を厳しく峻別し行動します。
2.障害者雇用の経緯
株式会社ソーワテクニカでは、元々聴覚障害者(重度)1名、事故による下肢障害者1名、内部障害者(心臓疾患)1名の身体障害者3名(カウント上は4名)を雇用していた。現状を維持することで法定雇用率を満たしていけると見越していたところ、疾病の回復や年齢を理由とする退職、転職を理由とする退職で障害者の雇用人数が0名となり、ハローワークから採用計画の提出等雇用促進への指導があった。雇用されていた障害者は担当業務に精通する熟練者で、障害のない者と同等の業務を行っており、聴覚障害者へのコミュニケーションへの配慮以外特別な配慮は不要であった。
新規雇用に関しては、「改正障害者雇用促進法」などに基づき、業務内容や配慮などの課題について社内検討を行っていたところ、ハローワークから1名紹介を受ける。紹介を受けた人への対応に、東濃障がい者就業・生活支援センターサテライトt(以下「支援センターサテライトt」という。)の支援を受けながら、ライン業務の補助的な業務を集め、現場実習(以下「実習」という。)に入ったが、当初は体力的についていけず、所定時間の勤務ができない日が続いた。支援センターサテライトtは実習の様子から就労へ繋ぐことの難しさを感じたが、本人の気持ちを聞くことが重要と考え、本人へ「本当に働きたいのか」と意思を確認したところ「働きたい」という強い意志表示があったので、もう暫く様子をみることとなった。その後、仕事にも徐々に慣れ、所定時間の勤務ができるようになったことから採用に繋げることができた。
企業は「法定雇用率」の達成をどうしても念頭に置いてしまい、人数の確保に重きをおいてしまいがちだが、同社では、個々の障害(者)のレベルに見合った「働きやすい職場環境」の整備に重点を置く必要があると考え、障害者の立場に立った雇用を継続的に進めている。
3.取組の内容と成果
(1)募集・採用
- ア.
- 募集に関しては、ハローワーク紹介、障がい者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)紹介、特別支援学校生徒の実習受入、派遣社員から社員への登用の4つの経路が活用されている。
(ア) ハローワークの場合は、障害者専用トライアル求人を通常の手続きに沿って、ハローワークに求人票を出して紹介を受ける。(イ) 支援センターの場合は、ハローワーク紹介の応募者に対して職場見学と実習の詳細を説明し、事前に実習が必要となる場合、岐阜県独自の短期間実習ができるチャレンジトレーニング(最大10日間、事業所と求職者に一日1,000円の助成)を紹介する。(ウ) 特別支援学校の場合は、希望者の職場見学を行い、実習への参加意思を確認し、定められた手続きや規則に沿って実習を実施する。(エ) 派遣社員の場合は、配属部署において1週間程度の実習を行い、一定期間の派遣契約を経て、本人の承諾が得られた者を派遣契約から直接雇用に切り替える。 - イ.
- 採用の要件として、最初の実習における教訓から「ヤル気」を重要視している。このため実習終了後は、単に作業ができるか否かを確認するだけではなく、熱意を持って業務に取り組むことができるかどうかという「ヤル気」の確認を必ず行うこととしている。
(2)障害者の業務・職場配置
- Aさんは平成22(2010)年7月に実習を終了し、常用雇用とした。作業内容はファン組立ラインの補助業務を担当している。
- 製品組立に至る部品生産から製品完成までの一貫した生産体制の中でファン組立ラインを担当している。
形状や性能が異なる全ての製品の知識と技術力が必要な業務である。(1)加工機操作の様子
- Bさんは平成26(2014)年6月にチャレンジトレーニングによる実習からトライアル雇用を終了し、常用雇用とした。作業内容はサービス部品梱包業務を担当している。
- 三菱電機中津川製作所のサービス部品数万点を要請時に迅速に提供できるように、常に調達から管理、梱包までを行っている。
(写真は、トムソン加工機で梱包用の段ボールを切り抜く作業を行っているところである)(2)加工機操作の様子
- Cさんは平成26(2014)年4月に、実習を終了した新卒生で常用雇用とした。業務内容は換気送風用特殊部材(調色)の塗装業務を担当している。
- Dさんは平成27(2015)年5月に実習を終了し、派遣契約から直接雇用とした。作業内容は換気送風用特殊部材(調色)の塗装業務を担当している。
- 換気送風用特殊部材(調色)事業部は、建物の換気送風用機器に取り付けられる各種部材について、顧客のご要望にも応じて色替えやさまざまな特殊仕様に短期間で対応する業務である。
塗装品の検査記録作成の様子
塗装作業の様子
(3)取組の効果
各人それぞれが担当部署で業務遂行に励んでいるが、その中でも最も知識や経験・技術が要求されるのが塗装業務である。塗装の仕上がりにおよぼす要因は種々あり、科学的な解明が困難なことから、自動車産業界では、大型設備の導入で塗装から乾燥工程の平準化を図っている。しかし、製品の色を決定する調色は、知識や経験を積んだ熟練の塗装工に頼っているのが現実である。
事業部においても、顧客指定の色調やロット間格差がない製品製造のために、親会社である三菱電機の社内資格に合格した塗装技術者と調色技術者を配置しているが、この資格取得にCさんとDさんが挑戦する意向を示した。
担当業務のスキルアップには、目に見える資格取得を目標にすることが唯一の選択肢と考えたのか、何事でも気楽に相談に対応している上司の影響なのか分からないが、自らスキルアップの意思を示したことは大変喜ばしい出来事と受け止められ、業務要領などの文書類の漢字にはルビを付けるなど、同僚の協力を得ながら仕事に励んでいる。
さらにCさんは、高校時代から陸上競技の走幅跳をしており、高校在学時の学生部から本年は成人部で平成28(2016)年度の地区予選を突破して岩手県開催の国民体育大会(希望郷いわて大会)に出場している。
同社では、過去に全日本ろうあ連盟の役員を務めていた社員がいたときに、活動の支援として就業規則にスポーツ・文化助成規定を設けている。活動内容により特別休暇の付与や交通費の一部支給するという内容などであるが、Cさんには特別休暇の付与と「2020年東京オリンピック・パラリンピックを目指せ!」のスローガンを掲げた壮行会が開催された。
出場結果は、走幅跳で優勝、50m走2位の成績であり、金、銀の2つのメダルを持参して帰社した。月例会では社長からの授与式を計画されている。
業務であれ、特技であれ「目標を高いレベルで設定し、困難な状況でもそれを最後までやり遂げる」達成志向は、企業における成果創出行動の重要な因子であり、業務以外でも享受できる機会があれば、業務にも通じるものとして積極的な支援がされている。
今回は、換気送風用特殊部材事業部の紹介であったが、他の部署の2名も同様に頑張っている。彼らの業務遂行姿勢は周囲のメンバーにも良い影響を与え、望ましい企業風土の醸成や安定生産にも貢献していると評価されている。
4.今後の展望
最近の動向として、障害者に限らずスキルや雇用実績により転職が容易で有利になることを熟知しており、就きたい仕事や労働条件のよい企業があれば、ホームページからの応募や直接交渉も含めてすぐに転職に踏み切る傾向が見受けられる。この傾向は、従来は身体障害者が主であったが、重度以外の知的障害者も含まれているとの話も耳にする。時間を掛けて育成してきた人材の流失は、企業にとって大きな損失となるだけに、定着化への取組は企業の喫緊の課題である。
特に、若年者層ほど業務を通しての成長を望む傾向が強いため、各個人の能力や特性を加味したスキルアップやキャリアアップのプログラム作成による目標の明確化を図る必要がある。また、定期的な進捗状況の確認、的確なフォローによる能力が確実に向上しているとの実感や目標を達成したときの成就感の享受等により、次の目標へとステップアップができるように制度の充実を図る必要があることから、職種の多様性も含めた成長への取組が開始されている。
取材後にCさん、Dさんが働いている現場を見学させていただいたが、業務遂行に不足する能力への配慮以外は、障害のない社員と同等の対応であり、お互いに特別に意識をするわけでもなく、ごく自然な雰囲気の中で作業が行われていた。
執筆者:東濃障がい者就業・生活支援センターサテライトt
生活支援ワーカー 石川 剛
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。