事業所外観

1．事業所の概要

同社は昭和38（1963)年に創業し、プラスチック射出成型技術で、自動車及び工業用部品の製造を行っている会社である。主な製品は、機械部品、産業資材などであり、製造した部品は取引先を通じて、海外へも輸出している。

また、同社の従業員の平均年齢は、約45歳となっており、比較的若い従業員が活躍する一方、長年勤続しているベテランが技術継承にも努めている。

2．障害者雇用のあゆみ

同社の障害者雇用の歴史は古く、平成元（1989）年に遡る。当時まだ、現役の社長であった先代社長が、地域の施設からの依頼を受けて、精神に障害のある人を職場に受け入れたのが始まりである。

同社は製造業であり、就労現場ではチームワークが必要となる作業が比較的少ない。現場では、従業員一人ひとりが機械と向き合い操作する。各人が作業を進めていくという個人作業が基本である。そのため、ある程度機械操作ができる人であれば、就労現場に受け入れられる素地があった。当時受け入れた障害のある従業員は、多いときで7～8人にのぼり、個人の体調によって勤務時間をそれぞれ調整しながら、勤務を続けてもらった。

同社の障害者雇用を語る上で、先代社長の果たした役割は重要であり、社長は障害者雇用の推進者として、自ら障害者雇用の先頭に立ち、当時受け入れた障害のある従業員一人ひとりに対し、根気強く丁寧に、作業の工程を説明するとともに、各人のスキルアップに努めた。

また、先代社長とともに当時の障害者雇用を支えた人物として、医療機関のケースワーカーが上げられる。このケースワーカーは、支援のために同社を頻繁に訪問するなど定着支援に尽力し、障害のある従業員のフォロー役として障害者雇用の大きな柱となった。

このような経験から、同社では、障害者雇用の推進には、障害者を受け入れる企業側と対象者の間に入るパイプ役を担う支援者の存在が重要であるという認識を持つに至り、その後、一歩進んだ障害者雇用を目指して、地域の就労支援機関との連携を積極的に行った。その功績が認められ、平成11（1999)年に愛知県から「精神保健福祉事業の向上に寄与」として表彰を受けた。

こうした一連の流れを通して、同社では障害者を職場に迎え入れる素地が培われ、「障害のある従業員を特別な目でみない。障害のない従業員と対等に処遇する。」という同社特有のポリシーが醸成された。その結果、障害者を受け入れる現場では、障害のある従業員を尊重し、障害の有無にかかわらずお互いに助け合う社風が培われた。

そのような社風の中で、今年勤続14年になるAさんから、製品の作り方など技術指導を受ける新人も現れた。

一方、自動車及び工業用製品は性格上、品質要求が高く、また、精度の高い検品が必要である。また、射出成型技術も変化してきており、会社として時代に即応する技術変化への対応と精度の高い製品を納めることが求められている。その中で、全社の目標と同様に、障害のある従業員も技術変化への対応と精度の高い製品作りに対応できるかどうかが障害者雇用の大きな課題である。

先代社長から受け継がれてきている同社のスタンスは障害の有無にかかわらず対等に処遇するというポリシーであり、企業経営の特長である。この隔たりのない社内土壌を活かしつつ、高性能の製品を製造し続けられる能力を今後とも追求してきたい。

3．新たな就労支援機関との出会い

（1）同社における障害者雇用の流れ

前述のとおり同社における障害者雇用の流れは、一貫して地域密着型である。これまで障害のない従業員の募集は、ハローワークを通じて行っていたが、障害者雇用については直接的にハローワークを通じて行うことはなかった。従って、同社での採用決定は、あくまでも地域との連携として、地域の就労支援機関などの要請に応えて行う職場実習（以下「実習」という。）に主軸をおいており、そのため、障害のある人には職場見学（以下「見学」という。）を行うことで職場を知ってもらい、実習を通じて仕事に対する理解を深めるというプロセスを経て、就労するかどうかの意思決定をしてもらっている。

（2）求人活動について

前述どおり、障害のない従業員の募集はハローワークを通じて行い、障害者については地域との連携で行っている。特に障害者雇用については、対象者も家族も安心して働ける職場とするためにも、見学と実習というプロセスを今後も続けることとしている。

（3）新たな就労支援機関との出会い

Bさんの受け入れを通して、同社は新たに地域の就労支援機関との連携関係ができた。

Bさんに対する就労支援機関の支援は、採用前の実習から採用後の6か月間で、具体的には、週1回の職場訪問による「就業中の見守り」と「業務終了後のヒアリング」という方法で行われた。Bさんにとって相談できる安心感と、見守ってくれる支援者の存在が安定的な就労に繋がったものと考えられる。なお、就労支援機関の支援は、訪問回数（原則2か月に1回）を減らしながら継続的に行われている。

また、指定難病である潰瘍性大腸炎患者のBさんは服薬により安定しており、配慮としては、定期通院の必要性を考慮し午前中に通院し、午後から勤務するなど柔軟に対応している。

会社としては、年に2回程度、家族と連絡を取る以外、特段の配慮はしていない。また、障害のある従業員であることも周囲には公表していないが、「適切な雇用管理」と「培われたお互いに助け合う社風」により、Bさんの症状は安定しており問題も起きていない。障害があることをあえて公表しないことも『配慮』の一つではないかと思っている。

4．今後の課題

「障害のある従業員を特別な目でみない。障害のない従業員と対等に処遇する。」という同社特有のポリシーを今後も生かしながら、障害のある従業員を尊重し、障害の有無にかかわらずお互いに助け合う社風の中で、共生・共育をすすめ、時代に求められている製品を安定的に提供し、社会貢献できる企業づくりを目指してく所存である。

執筆者：愛知支部 高齢・障害者業務課　早川　浩司