障害者雇用の理解促進への取組
- 事業所名
- 株式会社エヌ・エフ・ユー(法人番号 2180001091597)
- 所在地
- 愛知県半田市
- 事業内容
- 福祉サービス事業、人材派遣、業務請負事業、情報サービス事業、施設管理事業など
- 従業員数
- 392名 平成28(2016)年6月1日現在
- うち障害者数
- 12名 平成28(2016)年6月1日現在
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 3 事務業務 内部障害 知的障害 6 清掃業務 精神障害 3 清掃業務 開発業務 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
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事業所外観
清掃作業
1.会社設立20年を前にしてスタートした取組とその背景
設立20年を目前にして、「地域で役に立てる企業にしていきたい」そんな想いを経営トップから聞かれたことがきっかけでスタートしました。実際に地域で役に立てる新規事業を考えたとき、社内の状況を今一度見渡すと、障害者の法定雇用率が未達成であり、なおかつどの部署でどのような障害のある社員が働いているのか、分からない状況でした。また、特別支援学校からの新卒採用社員は、配属先の社員の年齢層が高く、なかなか職場環境に馴染むことができず、トラブルに発展することも多々ありました。詳細な状況を知り得たのは、ごくわずかな社員のみであり、ほとんどの社員は障害者雇用の実情は知らず、さらに広く周知される機会もありませんでした。
2.取組の具体的内容
(1)他企業や地域の支援機関での交流と学び
現場任せではなく、組織として障害のある社員の受入れをしていくという前提で、現場の状況を詳細に把握するため、障害のある社員が配属されている部署(施設課清掃業務)へ事業推進担当者が実習生として受入れてもらい、「障害のある社員を指導してきた社員」と「障害のある社員」それぞれに指導者となってもらい業務を共に行いました。その結果、障害のある社員が配属されている部署は、想像以上に会社に対する不信感や不満も多く、しっかり向き合って、理解してもらえる取組を進めなくてはならないことを痛感し、時間をかけて信頼関係を築いていくようにしました。
また、他社への視察に行く機会が多く持たれ、人材育成および関わり方、障害のある社員を多く雇用している企業の筋の通った考え方などを学びました。
特別支援学校、愛知障害者職業センター(以下「職業センター」という。)、知多地域障害者就労・生活支援センター ワーク、半田市相談支援センター(以下「相談支援センター」という。)、ハローワーク半田など行政機関・支援機関との関わりの中で地域での交流が進み、問題点や疑問点、不安点に対して的確な回答が得られると同時に障害者雇用への視野を広げる機会となりました。(2)セミナーや研修での学び
「障害者職業生活相談員資格認定講習」では、講義内容も多岐に亘り、座学だけでなくグループワークや視察などにより、社外の状況も同時に理解することができ、自身の組織の振り返りにつながりました。
「職場適応援助者養成研修」では、知識のみならず、職場適応援助者としての人的資質および人的形成においても学べる大変有意義な研修であり、「意欲」、「意識」の高い研修生が多く、他の研修生から学ぶべきことが非常に多い研修でした。6日間の研修では研修生同士の関わりが多く、修了後もつながりが持て、情報交換や相談などができる心強い仲間が社外に増えました。(3)セミナー等
行政やコンサルティング会社、支援機関が主催するセミナーへの積極参加により、新しい情報の収集や知識の習得に結び付けていけるよう活用しています。
(4)障害者雇用の理解推進ワークショップ
社内の状況は障害者雇用の推進ができるような状況ではなかったことから、障害者雇用の理解を推進することを目的として、障害者雇用の理解推進ワークショップ(以下「ワークショップ」という。)をスタートさせました。もともと、事業推進する担当者だけが経験や知識を高めても社内に広めなくては意味がないという視点で、全社員約380名のうち40名弱の正社員を対象に社内研修を開催しました。
- 第1回「知る」
第1回は社内における障害者雇用の現状、障害のある社員や指導者達が日頃どのように業務に従事しているか、何を考え、何を思って働いているのか、など障害のある社員も参加して共有する機会として開催しました。
- 第2回「本人に合った仕事を創る」
ワークショップで本人理解から自分たちの仕事(職場)分析をグループワークで実施。グループワークでは、自分の部署だったらどのような業務を担ってもらえるか、を考える上で「本人理解」と「自身の業務(職場)理解」が欠かせないことを理解する機会となりました。
- 第3回「私も就労体験実習生の受入れができる!」
誰でも就労体験実習(以下「実習」という。)生の受入れができるように、「どのようなサポートや工夫があれば、自分自身も実習生の受入れをすることができるのか」をサブテーマにグループワークを実施しました。
- 第4回「本人を活かす実習計画をつくろう~私が実習生を受入れる!~」
実習が持つ『意味(お互いの成長)』を理解し、実習生の受入れをするために大事なことを再確認し実践しました。地域で就労を目指す障害のある3名の人にも参加いただき、実習に至るまでのフローをそれぞれ公開で実施し、実習実施計画書の作成までをグループワークしました。
- 第5回「苦労のしがい と 工夫のしがい」
前回の実習実施計画が、どこまで達成できたのか、実習の成果を振り返り、たくさんの苦労と工夫を共有しました。また、ワークショップの最後には、参加者全員が、「これから私ができること」という内容の1分間スピーチをし、自分自身に対するこの間の取組を振り返る機会となりました。
- 障がい者雇用 理解促進 シンポジウム
全5回のワークショップを踏まえて、地域に対する当社の取組を紹介し、社外の有識者の皆様から高い評価をいただく機会を得ました。これは同時に社員に対しても、社外の有識者及び参加いただいた支援機関、他企業の担当者と交流できる機会でもあり、これまでの自分たちの取組を振り返る機会となりました。
会場には、これまで関係のあった支援機関や特別支援学校、他企業の概要や障害者雇用の状況などのポスターを展示し、より多くの情報を視覚的に得られるための工夫もしました。また、シンポジウムの開催に際しては、全11の支援機関、特別支援学校、企業の皆様に協力をいただき、地域の関係者との連携を促進することとなりました。
(5)社内報の作成
ワークショップの参加対象者は正社員だけでしたが、社の方向性や動きが全社で共有できるように、社内報を作成し全社員への配付を始めました。内容に関しては、「障害者雇用」というキーワードが際立たないよう、社内全体のトピックスの中に自然と馴染むように掲載し、特別なことという印象を与えないようにするなどの工夫をしました。
(6)通信教育での知識習得(全社員向けの障害者雇用の理解促進プログラム:その1)
ワークショップのアンケートには、「障害に対する知識がないことに対する自身への不安」が多く挙げられました。改善策として、ワークショップという実践と並行し、平成26(2014)年度から正社員に日本福祉大学通信教育部の科目等履修生として特定科目(障害者福祉論・就労支援サービス)を履修し、知識向上に努めました。平成27(2015)年度は対象を全社員に広げて任意履修とし、13名が学んでいます。通信教育での履修は、日常生活や業務の合間での学習であることからかなりの負担も強いられましたが、学びの効果は大きなものがありました。
(7)働くバリアフリー研修(全社員向けの障害者雇用の理解促進プログラム:その2)
社内報の作成、通信教育の履修、シンポジウムの開催、事業推進担当者の就労体験や実習生の受入れなどにより、少しずつ障害者雇用の理解が現場に広がりつつある中で、他企業や社会における障害のある人の働く状況に関心を寄せる声が聞かれるようになりました。そんな関わりから生まれたプログラムが『働くバリアフリー研修』で1日のプログラムに集約した形となりますが、参加者の高い満足度が得られました。
【プログラムの具体的内容】
- ア.
- 社内での取組を報告し、当社の方向性や正社員を対象として進めてきた具体的な取組内容を共有した。
- イ.
- 地域の支援機関の紹介として、相談支援センター相談支援専門員を講師に招き、地域の支援機関の紹介や企業との関わりなどの研修を行うことで、地域の支援機関などとの連携の必要性を理解した。
- ウ.
- 他企業の障害者雇用事例紹介として、株式会社アグメントの副社長から、障害者を初めて採用することに伴う、支援機関との連携、社内での理解促進などの具体的な事例を紹介いただき、実際の働く現場を視察させてもらった。視察現場では、指導担当者からも話をいただき、企業内での障害者雇用に対するイメージを具体的に理解できた。
- エ.
- 就労継続支援A型・B型事業所及び就労移行支援事業所での体験入所。 近隣の3事業所に半日体験入所させていただき、事業概要の説明や各事業所の視察、実際の訓練を体験するなど就労を目指している障害者と共に場と時間を共有することで、地域の支援機関の現状や支援者の想いなども理解する機会となった。
(8)メンタルヘルス研修(全社員向けの障害者雇用の理解促進プログラム:その3)
精神障害を理解することと、セルフケアの両面からの視点で、医療法人一草会一ノ草病院の精神保健福祉士から講義とグループワークで具体的事例も交えながら学び、自己理解と相互理解につながりました。
(9)当事者研究(障害のある社員向けプログラム:その1)
当事者研究とは、「自分自身の体験やかかえる生きづらさ(見極めや対処が難しい圧迫感や不快なできごと、病気の症状や薬との付合い方、家族・仲間・職場における人間関係の苦労など)、日常生活のできごとから「研究テーマ」を見出し、その事がらや経験の背景にある前向きな意味や可能性、パターンなどを見極め、自分らしいユニークな発想で、その人に合った“自分の助け方”や理解を創造する一連の“研究活動“」の総称ですが、これまで、障害のある社員が社内研修を受ける機会はなく、そればかりか障害のある社員同士が話合いをする場(機会)も得られていなかった。この取組は初めてでしたが、自分のことを誰かに伝える、誰かの話を聞いて意見を言う「当たり前」の当事者同士の研修に、障害のある社員自らが、このような場(機会)を欲していたことに改めて気付くこととなりました。また、当事者研究をとおして、自己理解だけでなく同僚の想いにも気付く場面が多々見られ、相互理解につながりました。
(10)ビジネスマナー研修(障害のある社員向けプログラム:その2)
当たり前の身だしなみができていない、本来ならば注意をして然るべきところ、障害のある社員と業務を共にする社員は、注意しても良いのかどうか悩ましく、注意することへの不安がある現状も否めませんでした。このことを踏まえて、障害のある社員に対して理解を促進することと同時に、障害のある社員が社会人としてのマナーを学ぶ機会を皆で共有することで、障害のある社員自身のスキルアップにもつながり、お互いに注意し合える環境改善にもつながりました。
3.採用フロー
事前アセスメント【実施計画作成】<実習生に対して>*支援機関からの情報提供*本人の意向とヤル気の確認*特性理解と配慮事項の確認*想定する実習先部署の見学
・想定できる業務内容の確認・職場環境の確認
<実習先部署に対して>*本人に了承を得られた部分に関して情報共有*自身の業務内容と業務フローの見直し*職場環境の見直し*業務のマニュアル化
就労体験/職場実習/委託訓練*業務指導の担当者を決める*実施計画に基づいて進めるが、状況に応じて臨機応変に対応*配慮事項の整合性の確認
*日々業務終了時に振返りの時間を設け、次につなげるようにする*定期的に支援機関の支援員の方に訪問いただき、状況を共有し、必要に応じてアドバイスをいただく
*必要な配慮以外の特別な対応はしない*最終日は支援機関の支援員も含めた振返りを行う (振返りシートの活用)
採用<採用対象者に対して>*本人の意思で就労を望むのかを確認する*主治医の意見をもらう*産業医の意見をもらう*就労条件の詳細について確認
<社内に対して>*配属先部署の社員から実習を通したヒアリング*体制等の確認*助成金やジョブコーチ等、社会資源の確認
<支援機関に対して>*定着支援の連携について確認*ご家族との連携について確認
定着<新規採用者に対して>*業務日報の作成*定期面談の実施(社内、支援機関) *必要に応じて、主治医および産業医との面談*研修等の実施
<配属先部署に対して>*指導担当者からの定期的ヒアリング*配慮事項に準じた職場環境の改善
障害のある社員が健全に長く働き続けること、いわゆる職場定着を図るためには、採用に至るまでにどれだけの問題や課題を抽出し、それを具体的に改善していけるかどうかが働く社員の負担や不安を少なくし、共に働いていける見通しが持てることにつながります。そのためにも、採用前のアセスメントを受入れる側の代表者だけでなく、共に働く社員も一緒に、支援機関とともに実施できることが望ましく思います。
また、障害者自身にとっても、就労に向けた準備期間が取れることで、過度の精神的な不安を少しでも和らげ安心して、就労へと一歩踏み出せる環境が整うのではないでしょうか。4.まとめ
障害者を雇用しよう(したい)となったとき、「誰に」、「何を」、「どのように」相談したら良いのか、という悩みに突き当たります。また、何のつながりもない状態では、職業センターやハローワークなどの行政機関や支援機関での相談はとても敷居が高く、仕組みなどが複雑に思われ、どうしても躊躇してしまいます。しかし、躊躇していても何も始まらないので一歩踏み出せば、必然とどこかにつながり何かが始まる!
「障害者のために」という考え方が間違っていることにいつしか気が付くようになりました。また、障害のある社員が業務の遂行が可能となるためには、障害のある社員のスキルをどうやって上げれば良いのか、ではなく、誰もが働きやすい職場を目指せば、それは障害のある社員にとっても働きやすい職場につながるということが理解できるようになりました。障害の有無にかかわらず、社員一人ひとりが自分のことをどれだけ自己理解し、相手のことをどれだけ相互理解しようとするかで、企業が抱える人材育成は大きく飛躍するように思われます。
「障害者のために」という視点で捉えがちですが、実はそれは障害の有無に限ったことばかりではなく、誰にでも得手不得手があり、それを補いながら最大のパフォーマンスにつなげることが、組織力の向上にも大きくつながると、様々な取組をとおして実感しています。
執筆者:株式会社エヌ・エフ・ユー ソーシャルビジネス推進課長 酒井和希
- 第1回「知る」
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