事業所外観

1．事業所の概要

TIY株式会社は、タイヨー機械株式会社の生産部門として設立された。

機械設計をしていた先代社長が、昭和45（1970）年に独立してタイヨー機械株式会社を創業し部品加工を始めることによりスタートした。昭和49（1974）年にはベアリングメーカーの協力会社として取引を開始し部品組立を始め、順調な推移の中で平成18（2006）年には工場を拡張し、平成20（2008）年にベアリングの組立部門を独立させTIY株式会社を設立した。

現在、事務用機械部品が4割、自動車部品が6割で、産業用機械部品の組立に特化しているが、多品種小ロットという生産のため、大掛かりな自動化や機械化はしないで、自社独自で治工具を開発して誰でも作業ができるように工夫している。

2．障害者雇用の経緯

部品組立検査後の製品を出荷用トレイに並べる作業は、多品種小ロットのため自動化や機械化するメリットがないことから、人手による作業をしている。ベアリング製品の組立は単純な作業と思われがちであるが、精密さや正確さ、クリーンな状態が求められる製品製造工程でもある。

一方で、手作業による工程は、大量の受注が入ると生産量増化にともない、作業をする人手が不足する事態も発生するようになった。人的やり繰りも限界となり出荷すらままならない状況の中で、ハローワークに求人登録をしたが単純作業のため応募者がなくて困っていたところ、以前、施設見学で出会った障害のある人たちのことを思い出した。見学先の障害者施設では、機能回復訓練をしており、当社の作業なら手先が使える人なら誰でもできるのではないかと思いつき地元の特別支援学校（以下「支援学校」という。）に、社員の募集に関する相談を行った。企業側から申出があるのは珍しいとのことで、今では、一般的に行っている職場実習（以下「実習」という。）制度は整っていなかったが、「実習から始めた方が良いのではないか」と教員からのアドバイスを受け実習をスタートさせた。その結果、作業の指示が明確であれば問題なく作業ができ、製品ごとにトレイを変更し、上下の向きについても指示が明確であれば支障がないことが分かり、夏休み明けから正式に実習生の受入を開始した。

実習生が卒業となり、社員として受け入る段階で、「実習生」と「社員」とでは大きく異なるため会社として、全面的に受け入ることには不安があったことから、最初は、福祉作業所に在籍のまま週3日間だけ出社してもらった。その後、正式に雇用する際には、最低賃金適用除外制度の活用も考えたが、当社では、障害の有無にかかわらずパート従業員も同じ作業をするので『同一労働・同一賃金』を基本として雇用した。

その後、卒業生が在職していることから支援学校からの実習生の受け入れが始まり、卒業後の就職先として考えられるようになった。以後、障害者を雇用している企業として知られるところとなり、ハローワークや知人の紹介により障害のある社員が増え現在に至っている。

3．取組の内容と効果

障害のある社員が、主に従事していた事務用機械部品の並べ作業は、海外生産が進むにつれて規模が縮小し作業が減少してきた。作業がなくなったことを理由に雇い止めはできないため、障害のある社員も従事できるように数を数えなくても一定量の部品をすくうことができるスプーンの作業道具を経験豊富な技術職の社員が開発、工夫することで作業の単純化を図った。その結果、作業各工程の出来数が増えることから、一人で複数の工程を担当していたときと比較しても、生産性に変動がないため単能工化を進めることができた。自閉症の傾向と知的障害のある社員は、作業を単純化したことにより集中力も高まり作業効率もアップした。また、精神障害のある社員は、服薬の関係もあることから勤務時間を午後4時間に短縮を図り、体調の良い場合は午後5時間勤務と時間に配慮したことで、出勤の負担が軽減された。

治工具を開発、工夫し、誰でも部品の組立てができるということは、当社の特徴であり様々なオーダーに対応できる強みでもある。事務用機械部品に加えて、自動車部品にウエイトは移ってきているが、この先、自動車関連も海外での現地生産が進んでいったとしても、自社での開発、工夫の創造力があれば、引き続いて障害のある社員も含めて雇用の継続ができるものと思っている。

4．就労事例

Aさん

支援学校卒業後、他社で勤務していたが倒産したためハローワークからの紹介で採用した。仕事に対する理解力があり機械作業もできるので同僚からの信頼も厚い。もっと仕事の幅を広げたいとフォークリフトの運転免許取得を目指して教習所に通った。自動車免許を持っていないコースで学び学科試験を受験し一度不合格の後、自ら奮起して学科試験は合格した。続いて実技試験を受けたが緊張のため壁に衝突し、試験実施機関の教官から「実技試験でも壁にぶつかる恐れがある」ので断念するようにとの連絡があった。本人は学科試験合格の自信もあり、工場内で練習して挑戦したいと言ったが、労災事故にも繋がりかねないのであきらめるように説得した。本人の努力と熱意は伝わるものがあり、その上で、「フォークリフトだけが仕事ではない、あなたには力があるので、支援学校からの実習生の面倒を見たりしてほしい」と話したところ、涙を流しながらも納得して、以後は、今までにも増して業務に励むようになった。

Bさん

支援学校高等部在籍中に実習を体験し卒業後、採用した。ゆっくり話せば本人には伝わるので作業はじっくり教えた。周囲の社員も簡単な手話での挨拶を教えてもらい、和気あいあいと作業をしている。ときにはトラブルになることもあるが携帯電話のメール機能を利用して、意思の疎通を図っている。聾学校からの実習生が来ると手話を駆使して世話係を務めている。

Cさん

他社で就労していたが多動性があり、工場内を走り回り、外に出てしまうことがあるということで一度、会ってもらえないかと相談があった。部品組立の作業をやってみたところ多動性もなく何も問題なくできたので採用した。部品を組み合わせて一つの製品が出来上がる様子は、先の見通しが立つようでじっくり取り組めることが分かった。今では支援学校へ組立実習を教えに行くこともできるようになった。

5．今後の展望と課題

機械化、自動化をするまでもない隙間の仕事を単純化し、道具を工夫することで誰にでもできるようにしてきたが、仕事が途切れないという保証はない。常に新しい仕事の開拓をしていきたい。

また、生活が安定しないと勤労意欲もわかないので、「同一労働・同一賃金」の存続とあわせ、職業生活全般について、どこまで関わりを持っていくかが課題だと考えている。当社における障害のある社員の定着率が高い理由の一つは退職しても、他社では雇用してもらえないという現実があるためであるが、障害者自身がそれぞれの可能性に挑戦しながらステップアップできる仕組み作りが必要だと考えている。障害者雇用は一企業だけの課題と考えず、企業、学校、行政機関、地域社会全体で連携し、「働きたい人」に「働いてもらえる場」を提供できるようにしていく繋がりを大切にしていきたい。

6．最後に

「TIY株式会社(タイヨー機械株式会社)は、働きたい人に働いてもらいたい会社」と朝礼でも話している。企業が社員に「働かせてやっている」という関係では成り立たない。「生きることは社会と繋がること」と考えるため、「みんなが楽しく働ける会社」として社会と繋がる関係作りを大切にしてきたい。

また、「ほめられたい」、「認められたい」、「役に立ちたい」という願望は、障害の有無に関係なく誰でも持っているもの、働くことでその願望を満たすことができるものと考えており、そんな「場」を提供できる会社にしてきたいと思っている。

社員がいつも笑顔で、明日も働きたいと思える職場環境を創り続けていきたい。

作業の様子

作業の様子

作業の様子

作業の様子

執筆者：TIY株式会社（タイヨー機械株式会社）代表取締役　小出　晶子