聴覚障害者の就労を中心に職場の連帯感を保つ取り組み
- 事業所名
- 株式会社ダイキ 田川工場(法人番号 8120001130396)
- 所在地
- 大阪市
- 事業内容
- 変圧器用絶縁紙の加工等
- 従業員数
- 26名(派遣社員3名含む)
- うち障害者数
- 18名
障害 人数 視覚障害 聴覚・言語障害 12 肢体不自由 内部障害 知的障害 5 精神障害 1 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害
- 目次
-
絶縁紙を加工する工場での様子
1.会社の概要
株式会社ダイキ田川工場(以下、ダイキ田川工場とする。)は阪急電車十三駅から徒歩15分の所にある。ダイキ田川工場は、昭和57(1982)年に株式会社ダイヘンの特例子会社となり、過去には障害者雇用優良事業所厚生労働大臣賞や大阪府ハートフル企業「ランプのともしび大賞」なども受賞した事業所である。
親会社である株式会社ダイヘンでは、変圧器に始まり、溶接機、産業用ロボット、半導体製造装置用の高周波電源、太陽光発電用のパワーコンディショナーを製造し、最近ではAGV(自動搬送台車)向けワイヤレス給電システムにも力を入れており、常に最先端の技術で社会の要請に応えた新しい価値の創造に取り組んでいる。このような事業の中で、ダイキ田川工場は、変圧器用の絶縁紙加工を行っている。今回、ダイキ田川工場を訪問し取締役の橋本さん、福井さん、職業コンサルタントの大村さんに障害者雇用についてのお話を伺った。
ダイヘンで製造された変圧器。
電柱などでよく見かける2.障害者雇用の経緯
前述したようにダイキ田川工場が株式会社ダイヘンの特例子会社となったのは、昭和57(1982)年のことである。当時、障害者の法定雇用率への対応もあり、企業としての障害者雇用のあり方を見直す中で特例子会社の設立がなされたのである。
なぜ、他の事業でなく変圧器の製造に関わる作業をダイキ田川工場で行うようになったのかについて、福井さんは2つの理由を挙げている。「一つは、当時外注していた絶縁紙加工を事業所内で行えないかということ。もう一つはかねてより障害者に適する仕事を検討していく中で、絶縁紙の加工は全般的に軽作業であり、手作業の繰り返し作業が多く、障害者の作業としてはうってつけだったことです。」
これはとても重要なことである。まず、ダイキ田川工場が単に障害者を雇用するために設立されたものではなく、外注作業を企業内で行いたいという事業所ニーズに応えたものであったということ。このことは、ダイキ田川工場の存在が株式会社ダイヘンにとってより価値ある存在となっていることを示唆する。そして、障害者雇用を継続的に確立していくために、その作業が障害者に合ったものかどうかという検討があったということ。単にその場しのぎの対策ではなく従業員の職業適性を考えて、無理なく働き続けられるようにとの思いが見受けられる。親会社と工場、工場と従業員という良好な縦の関係が、現在のダイキ田川工場の障害者雇用を支えているのであろう。
3.作業内容
現在、12名の聴覚障害がある従業員をはじめとする18名の障害のある従業員が働いており、変圧器用絶縁物の断裁、加工、組み立て、塗装、運搬など様々な作業に従事している。
「就職してから、イメージと違うということのないように、就職前に作業を見学してもらい、職場実習をしてもらって、ここで働きたいかどうか、自分に合っているかどうかを考えてもらいます」と話す福井さん。また、各種支援学校や支援施設からも積極的に職場実習を受け入れ、さらに、「従業員には、様々な作業ができるようになってほしいとの思いから、色々な作業経験をしますが、かといって無理はさせず適材適所を基本に、その人の職業適性をみて具体的な作業を決めます」と橋本さんは話す。
工場では積極的に従業員の資格習得も奨励している。単に、雇えばいい、雇用率を達成すれば良いというのではなく、従業員に長く働いてほしいという思いが伝わってくる。また、ダイキ田川工場ではさらなる取り組みに挑戦している。工場には20数名の従業員がいるが、実質的に現場作業を担当している障害のない従業員は3名で、ほとんどが障害のある従業員ということになる。
そして、その多くが聴覚に障害がある従業員であり、お互い手話を用いてコミュニケーションを行うことができる。ある意味、ここでは手話が話せないほうが『障害者』だという。その中で、今後、現場のリーダーや役職といったポストにも障害のある従業員を登用するため育成を始めている。聴覚障害者の場合、周囲とのコミュニケーションが難しく指示ができないなどの理由から能力があっても現場のリーダーや役職に昇進できないというケースを耳にすることもあるが、聴覚障害者の多い職場では聴覚障害のある従業員が現場のリーダーや役職となり能力を十分に発揮できる可能性も高い。実際に聴覚障害のある従業員に将来について聞いたところ、「将来は、後輩の相談に乗り、指導担当ができるよう研鑚を積んでいきたい」と言うことばが返ってきた。企業のこのような取り組みが、聴覚障害者自身の働く励みとなっていることは間違いない。
変圧器に用いる絶縁紙の加工
材料を等間隔に貼り付ける治具により
誰もが正確に作業できるクレーンを操作する聴覚障害者
4.取り組み
- ハード面(物理的な取り組み)
聴覚障害者の多く働くダイキ田川工場では視覚的な工夫が数多く見られた。例えば、機械が作動中かどうか、故障していないかといったことは、機械に取り付けてあるランプで確認することができる。また、休憩時間などには、シグナルランプが点灯し、時間を教えてくれる。これらの視覚的工夫について、単に個々人が聞えないから、それを補うというだけでなく、工場としてみんなが作業に共通認識を持つためにも必要であると大村さんは言う。「単にその場にいる従業員が見えるようにしたというだけでなく、遠くにいる他の従業員も機械ランプを見て、今どのような状態なのかを確認できるし、時間だって各自が腕時計を持って確認すればいいかもしれないが、仕事では工場の時間に従ってみんなが動いているという意識の向上にもつながっている。」
機械にはランプが設置されている
時間を知らせるシグナルランプ
- ソフト面の取り組み
工場を案内してくださった大村さんはダイキ田川工場を定年退職後、職業コンサルタントとして再雇用された方である。大村さんは手話が堪能で、朝礼などでも手話通訳を行っている。定年退職の数年前、田川工場で勤務してから聴覚障害者に出会い手話を習い始めたという。手話ができ現場の作業にも熟知してる大村さんを職業コンサルタントという形で再雇用したことにより、聴覚障害のある従業員のストレス軽減や現場での円滑な指示伝達につながっている。また、繁忙期でない限り月に1回、1時間程度手話の学習会を就業時間内に全員参加で行っているという。「就業時間に全員参加で行うことにより、手話で話すことがこの工場にとって、ここでの仕事にとって重要であるという認識を従業員全員に持ってもらうためです。もし、就業時間外で趣味の範囲でのサークルのようにしてしまうと、事業所内で手話のできる人と手話を話さない人で分断してしまいます。」と大村さんは語る。最近では、知的障害のある従業員の中にも手話を覚え、聴覚障害のある従業員と簡単な会話をする者もでてきた。
ダイキ田川工場でのハード面、ソフト面双方の取り組みを通して共通して言えるのは、これらの取り組みが「聴覚障害者」のためというよりもむしろ、工場で働く従業員が誰一人として、置いて行かれることなく働く仲間としての連帯感を保つためのものであるということである。
筆者がインタビューから終始受け取ったのは、「聴覚障害者」のためにしてあげているという上から目線ではなく、職場として当然のことをしている中で、うちではこのような形になっているという自然体のメッセージであった。それは、大げさな言い方をすれば、ダイキ田川工場のスタイルであり、一種の文化なのかもしれない。
工場を案内し熱心に説明してくれた大村さん
5.むすびにかえて~聴覚障害者への「理解」~
最後に、福井さんにダイキ田川工場に来てから驚いたことをお聞きした。「違う世界に来たような、いい悪いではなく常識が異なっているのだなということを学びました。例えば、面談をしてこちらが説明すると「うんうん」とうなずくのですが、しばらくするとさっき説明したのに、質問をしてくる。そういうことが何度か続き不思議に思っていたのです。それから、ある人から説明を受けて知ったのですが、彼らの「うん。うん。分かった。」は、「了解しました。指示に従います。」というような、私の発言の意図を理解したものではなく、私が何と言ったのか、その日本語が分かった(口が読めた)という合図だったのです。そういうことはここに来るまで知りませんでした。」
ともすれば、理解力を疑いかねない状況で、聴覚障害者の障害特性を理解し、お互いの違いを認め合う。ダイキ田川工場で聴覚障害者が長年勤務し続けられている要因をかいまみた気がする。
今回、株式会社ダイキ田川工場を訪問し、インタビューや工場見学をする中で従業員一人ひとりと向き合い、職場における連帯感を大切にすることの重要性を改めて感じた。このような取り組みを行う企業が、今後も増えていくことを切に願う。
文責:関西学院大学人間福祉部 非常勤講師 平 英司
- ハード面(物理的な取り組み)
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