農福連携 毎日が楽しく、笑顔あふれる職場づくり
- 事業所名
- 一般社団法人TIES(法人番号 6270005005094)
- 所在地
- 鳥取県東伯郡北栄町
- 事業内容
- 農業主体の就労継続支援A型事業所
- 従業員数
- 30名
- うち障害者数
- 24名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 農作業、出荷作業 内部障害 知的障害 9 農作業、出荷作業 精神障害 11 農作業、出荷作業 発達障害 1 農作業、出荷作業 高次脳機能障害 難病 1 農作業、出荷作業 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害、難病
- 目次
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事業所外観
施設外就労先
1.事業所の概要・障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
一般社団法人TIES(以下「タイズ」という。)は、鳥取県のほぼ中央に位置し、主に鳥取県の中部圏域に居住する障害のある人たちの就労支援を行う就労継続支援A型事業所(以下「A型事業所」という。)として平成26(2014)年3月に設立した。
当事業所は、代表者が営む齋尾農園から農作業全般を受託し、請負業務を行っている。
開設当初は、職員4名・雇用契約を結ぶ利用者(以下「利用者」という。)2名から始まり、現在は、職員6名、利用者24名で一年を通して、農作業に従事しているが、主に、以下のことを心掛けている。
- 利用者一人ひとりに適した作業をともに探し、毎日無理なく仕事ができる環境作り。
- 利用者同士、職員と利用者それぞれのつながりを大切にする。
- 毎日が楽しく、笑顔あふれる職場。
また、屋外での主な仕事内容は、一年を通してハウスでトマトを栽培し、肥料を撒く土作りから始まり→畑の畝作り→マルチシート張り→定植→仕立て(誘引→ヤゴ切り)→収穫→選別→袋詰め→出荷へと一連の流れで作業を行っている。
なお、他にもさつま芋、にんじん、落花生など色々な野菜を栽培しており、特に冬の間には、露地での白ネギ、ハウスでの大根栽培にそれぞれ力をいれている。
(2)障害者雇用の経緯
齋尾農園の経営者でもあるタイズの代表は、就農当初の平成21(2009)年にビニールハウス3棟を設置しトマト栽培を開始、平成28(2016)年現在、単棟6棟、連棟6棟(80a)のハウスへ加温器を導入し、一年を通して、生産、販売ができるよう規模を拡大していった。
トマト栽培の作業は、ハウスの準備、定植、仕立て、収穫、選別、出荷作業など多岐にわたるが、作業量に対しての人員確保が課題であった。
そんな折、障害福祉サービス事業所へ作業委託を行い、主に、収穫作業を行ってもらったことが福祉関係者との連携の第一歩となった。
実際に農作業を行いながら、障害者の人と関わっていく中で、障害者の働ける場所が少ないことを感じた。
また、農園運営では、規模の拡大に伴う人員確保に課題がある中で、障害者の働く「場」の確保ができること、また、個々の障害特性に合わせた作業方法を確立し、提供することができれば、「規模の拡大」と「障害者の働く場の確保」が両立できるのではないかとの想いから、障害福祉サービス事業所の設立に取り組み、平成26(2014)年3月にA型事業所のタイズを立ち上げた。
ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、養護(特別支援)学校など近隣の障害者雇用に関わる関係機関の担当者に呼びかけ、事業所の見学会を開催し、多岐にわたる作業内容の周知・広報に積極的に努めた結果、当初、利用者2名での事業開始が、新規学卒者、一般求職者などの採用で、現在利用者24名が就労している。
一般的な傾向として、A型事業所は、平均した作業の確保のため、受託先の開拓が必要となる場合もあるが、タイズの代表も務める齋尾農園が主な受託先となり、農園作業全般をタイズの利用者が行うことで、年間を通して、安定した作業に従事することができている。
2.取組の内容
農作業を主体としている事業所であるため、障害の有無にかかわらず、仕事は畑での作業を基本としている。
当事業所を利用する障害者は、雇用契約を結び「社員」となるが、多くは農業に興味があり、自然豊かな環境で体を動かす作業を理解しての応募であるものの、初めて農作業をする人も少なくない。このことから、屋外作業ならではの取組がある。
(1)共通事項
- ア.
- 一日の仕事内容の確認については、毎朝、作業指示が書いてある「掲示板」を見に行き、それぞれが担当する作業場所に出勤する。そこで指導者より、その日に行う細かな作業指示を受ける。
また、このときに、併せて体調確認も行うが、企業就労を目指す事業所でもあるため、体調管理は、基本的に利用者自身が行うこととし、必要に応じて指導者に報告することになっているが、指導者も個々の利用者の体調を注視し、声掛けなどを行っている。
申し出のあった利用者については、体調の具合により軽作業や屋内作業にシフトしている。
- イ.
- 農作業に関しては、事業所の指導者と、齋尾農園の職員が作業工程の指導・管理業務を行なうため利用者と共に作業場に入る。
- ウ.
- 就労場所には、休憩場所を設け食事や休憩に利用している。近くには自動販売機、仮設トイレを用意している。
また、脱水症状を防ぐため、こまめな水分補給に留意し、休憩場所やハウスまでは距離があるため、水筒を肩に掛ける、腰にぶらさげるなどの方法を指導し、すぐに水分補給できるよう心掛けている。
- エ.
- 利用者の危険が予測される動力付農機具の使用は控えている。
(2)作業別事項
次のアからエの項目は1月、3月、6月、9月の定植に合わせて行う作業である。
- ア.
- 肥料撒きと土作り
土作りは、その後の半年間のトマトの生育に大きく関わる大切な作業である。
肥料20キログラムを専用の肥料まき機に入れ、背中に背負い、広いハウス内を何度も往復し均等に撒く必要がある。
主に、上肢障害のある利用者、精神障害のある利用者が担当している。
- イ.
- 畑の畝作り
トマトの苗を植えるために、土を盛って周囲より高くした床を作る。
- ウ.
- マルチシート張り
トマトの苗を植えるために作った畝(うね)に、マルチシートを張る作業で、長さ50~60メートルあるハウスの上下にまっすぐ線引きし、これに合わせてマルチシートを張る。少しの誤差が大きなズレを招くため、正確な作業が必要となる。この作業も上記のアと同様に上肢障害のある利用者、精神障害のある利用者が担当している。
- エ.
- 定植
定植(苗植え)は、関わった者みんなが「大変だ。」と口を揃えて話す作業である。一つのハウスに多い所では1200~1300本の苗を植えるので、その苗を植える箇所にマルチシートに穴を開け、はがし、定植できる大きさの株穴の土を掘り、虫除けの農薬を撒いて苗を植える。
それぞれの作業が“しゃがんで”行う作業のため、身体的負担も大きく、なおかつ作付け期間も限られているため、多人数での作業となり、利用者、指導者が協力し役割分担が大切となる。
定植ができる利用者は限られており、農業経験豊富な利用者と指導者、農園職員が行い、付随するもろもろの作業は関わることができる者が総出で行う。
次のオからケの項目は年間通して行う作業である。
- オ.
- 誘引
- カ.
- 脇芽取り
誘引、脇芽取りの作業は、トマトの成長過程を理解した上で、半年から1年、それ以上の生育を予測しながらの作業である。
誘引は、作業経験があり指導に対して理解が早い利用者が主に行い、脇芽取りは、障害の種別にかかわらず作業経験を積んだ利用者が担当している。
- キ.
- 収穫
収穫は、他の作業と比べると比較的携わりやすい作業である。収穫して良い物か、もう少し生育を待つ物かは、色で見分けるが、慣れないうちは微妙な色の変化に戸惑う利用者も多い、しかし、実際に実っている物を「色見本」として渡し指導すれば、障害の種別や作業経験にかかわらず行える作業のため、採用直後の作業経験の浅い利用者が主に担当している。
- ク.
- 選別
選別は、一連の作業の中で責任を伴う難しい作業である。
品種、季節、品質、出荷先など多くの判別点があり、これらの判断がしっかりできていれば、後の作業もやりやすく、出荷先の信頼も得られる。
後述するが、難病疾患のある利用者と精神障害のある利用者が担当している。
- ケ.
- 袋詰め・出荷
袋詰めや出荷準備は、トマトの品種、商品の品質、重さなど個々の姿と、出荷先に対応した袋、パック、トレー、外箱などの組み合わせで様々の様式がある。
混乱や間違いを防ぐため、一覧表を作成し、障害特性にかかわらず作業に携われるように工夫している。
- コ.
- 加工作業
趣味で家庭菜園をしていた難病疾患のあるAさんが、ハローワークの紹介で応募してきた。
本人が農作業を希望し、少しの経験もあったので、農園での作業に配置したが数か月で体調不良を起こした。その後回復した様なのでAさんの了解のもと再び農作業に配置したが同じことの繰り返しであった。このため、Aさん並びに、その日の体調不良の利用者の受皿として、屋内作業の充実に取り組み、施設内で行えるトマトの出荷作業以外に、「規格外トマトを活用したドライトマト作り」、「さつま芋の干し芋作り」、「大根の漬物、切り干し大根作り」など農業ならではの加工作業にも力を入れ、近隣の道の駅、野菜直販売所などに出荷している。
3.取組の効果と今後の展開
上記のように農作業に合わせた取組を行ってきたが、初年度、二年目と試行錯誤の連続で紆余曲折を経て今日に至っているが、経験の積重ねで徐々に安定してきた。
農作業は農産物の多様化を含め、工夫次第で多くの作業の場を提供できる。養護学校(特別支援学校)の現場実習や就職希望者の見学、実習などに積極的に取り組むことで堅実に規模を拡大したい。
事業所開始から3年目となり、A型事業所での就労から企業での就労へのステップアップを想い巡らし始めた利用者もいる。
精神障害、知的障害、身体障害など個々の障害特性に合わせた支援や配慮を行いながら、それぞれの得意、不得意を見極め5年後、10年後を見据えた運営をして行きたい。
企業での就労への希望を芽生えさせ、芽吹いた想いを大切にし、障害がありながら社会に出て行く可能性を共に考え、共に歩んでいけたら、と考えている。
執筆者:一般社団法人TIES 職業指導員 岩本 由紀
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