事業所外観

1．事業所概要

同社は昭和37（1962）年11月に建設機械の販売、修理事業として島根県浜田市で創業した。以来、建設関連商品の販売、サービス、レンタルを一貫して営む企業として地域社会の発展に貢献してきた。社会構造の変化、時代のニーズに対応し、平成15（2003）年8月からは介護福祉用具販売、貸与事業も新設し、今期で55期目を迎える。現在、松江市に本社を置き、島根県内に5支社、鳥取県内に3支社、介護福祉用具を取り扱うスマイルケアは、県内外に7営業所を展開している。

「お客様第一主義」をモットーに技術力の向上、レンタル商品の高品質管理、新商品の提供を目指している。社員の資質向上のため、初回の資格取得費用を全額支給するといった取組を実施しており、実際に多くの社員が多種の資格を取得し、従事している。また、仕事と子育てを両立できるよう残業時間の短縮を促すなど、社員全員が働きやすい職場環境づくりにも努めている。

2．障害者雇用の経緯

元々社内に身体障害のある社員はいたものの、建設機械を扱う危険な現場では障害者雇用は適さないとの考えから、積極的な障害者雇用はしていなかった。しかし、平成21（2009）年より、現在の常務取締役が松江市同和問題協議会に参加したこと、翌年に開催された島根県人権教育研究大会において「日本でいちばん大切にしたい会社」と題した記念講演を聴いたことで、その考え方は大きく変化する。講師は従業員の7割が障害のある社員という日本理化学工業株式会社（川崎市）の大山泰弘会長と、演題と同名の著書がある法政大学大学院の坂本光司教授であった。日本にもこんな会社があるのかと驚き、講演内容に感銘を受け、障害者雇用を前向きに考える契機となった。「障害者の働く場所は多ければ多い方がいい」と常務取締役自らが社長へ訴え、このとき既に開設されていた介護福祉用具事業のメンテナンス部門であれば、危険も少なく、障害者雇用が可能であると提案した。また、それまでの社員の努力により、売上が伸び、雇用の場を広げられる状況にあったことも、障害者雇用を進める上での追い風となった。

3．取組の内容

同社で初めての障害者雇用となった知的障害のあるAさんの事例を紹介する。Aさんを採用する際には、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）から紹介を受け、まず職場見学から受け入れた。その後Aさん本人の希望もあり、10日間の職場実習（以下「実習」という。）、3か月間のトライアル雇用を行ない、勤怠面、職業適性などを見極めた。本来8時始業であったが、通勤距離が遠いことに配慮し、実習は8時30分より行なうこととした。実習を経験した上でも、やはり8時出勤に対して、Aさんが不安を示したため、トライアル雇用後も8時30分からの勤務とした。

実習時よりAさんが安心して作業できるよう、「仕事は一度に覚えられないから、少しずつやっていけばいい」といった声掛けや期限のない作業を行うなどの配慮を行なった。正式採用後も本人が作業をうまくできないとき、時間がかかるときでも「少しずつやっていけばいい」という声掛けを続け、本人のペースに合わせて指導した。また、現場の社員からその場で仕事の評価を伝えるだけでなく、「車いすのスポークが綺麗に磨けていてお客さんから褒められたこと」を本人にも伝えるなど、仕事のモチベーションが高められるような声掛けも行った。現在倉庫の責任者を任せている社員が障害者手帳を持っており、Aさんに対して非常に良い関わりや配慮をしてくれていた。他の社員にも、Aさんを採用した当初は「優しく接すること」、「追い詰めるようなことを言わない」など、ミーティングで繰り返し伝えていた。

社内講習の中でも「あいサポート研修」を実施し、全社員が障害のある社員に対して必要な配慮ができるよう取り組んでいる。Aさんは元々内向的な性格で自ら話すことはほとんどなく、聞かれたことに対し「はい」、「いいえ」と答えるのみであった。しかし、職場内でこうした関わりを続けてきたことで、職場でも少しずつ笑顔が見られ、周囲の者の会話にも加わってくるようになった。さらに職場の慰労会、忘年会、社員旅行への参加も促し、社員との交流を通じて、徐々に自分からも明るく話すようになっていった。最近は、慣れた社員たちとの会話では冗談を言えるまでになり、徐々にではあるが、仕事上の悩みだけでなく、生活面での悩みも職場で相談できるようになってきている。また、人間関係が職場外にも広がるよう、2か月に1回開催されている支援センター主催の交流会にも、本人の申し出があれば休みを許可し、積極的な参加を促している。

作業環境についても、採用当初は、駐車場の一画に設けられた暑さ寒さの厳しい作業場での作業となっていたのでエアコンを設置した。さらには部品庫を別棟へ移し、部品庫だった場所を倉庫兼メンテナンス室へと改装した。改装により作業スペース、通路などを広く確保したことで他の障害のある社員にとっても作業がしやすく、より安全な作業環境を整備することができた。これは労働安全衛生マネジメントシステム（OHSAS18001）の一環としての取組でもあった。天井吊り下げ式のエアーコンプレッサーを導入したことも、作業がしやすくなり、スペースの有効活用につながった。エアーコンプレッサーの使用時には、ゴミや埃が目に入ったり、吸い込んだりしないよう防塵眼鏡、マスクの着用を徹底し、社員の健康にも配慮している。この機にあわせ、作業環境だけでなく、社内の和式トイレを全て洋式トイレの温水洗浄便座付きに改修するなど、全社員にとって過ごしやすい職場環境となるよう整備した。

支援機関との関わりとして、採用後も支援センターと定期的な振り返りを継続し、Aさんに課題などが見られれば、その都度相談しながら対応してきた。

Aさんを採用して半年が経過した頃、振り返りの場で本人から「病院に通っている」との話があり、仕事が順調だっただけに周囲はとても心配した。Aさんの話だけでは詳細が分からなかったことから、支援センターを通じて家族にも状況を確認すると、本人が会社から帰宅後、自家用車の運転に対して、極度の不安を訴え始めたことから家族が受診を勧めたとのことだった。

しかし、通院先が専門医ではなかったこと、不安の内容が自家用車の運転だけにとどまらなかったことなどから、専門医での受診を勧めることとなった。専門医で受診し、1年程度通院と服薬を継続することで、徐々にAさんの不安は軽減されていった。元々Aさんは自ら支援センターなどへ悩みを相談することは少なかった。そのため、Aさんが仕事に集中できていない様子など、職場で何かあればすぐに支援センターへ報告したり、支援センターの担当者による定期的な面談で、その悩みを早期に把握したりと、できるだけ密な情報共有と課題へのタイムリーな対応を心掛け、連携しながら本人の職場定着を支えている。

Aさんを採用して3年以上が経過した。遅刻、早退、欠勤はほとんどなく、真面目な勤務態度と丁寧な作業という点は採用当初から変わらないが、作業スピードも徐々に向上した。最近はベッドのメンテナンスも1人で任され、後輩の指導もできるようになったことで、Aさんの中に仕事に対する自信、責任感が生まれ、周囲からも頼られる存在になってきている。

介護福祉用具の
メンテナンスの様子

エアーコンプレッサーを
使用した作業の様子

4．取組の効果

障害のある社員との関わりを通じて、他の社員同士も接し方が優しくなり、整理整頓や安全への配慮などを指導する際にも、指導する立場の社員が、接し方を強く意識して取り組むようになるなどの相乗効果が生まれた。

ハード面でも作業スペースや通路を広くしたことで障害のある社員に限らず、他の社員にとっても作業をしやすく、安全な作業環境となったため、業務の効率化、品質向上にも良い影響を与えることとなった。

5．今後の展望と課題

Aさんは現在準社員だが、本人の頑張り次第では、将来的に正社員登用の道も考えている。給料も毎年昇給しており、本人の自立を考えて今後も昇級を行いたいと思っている。また、前述したように資格取得費用に対する職場からの補助もあるため、Aさんにも取れる資格があれば積極的にチャレンジしてもらいたいと思っている。

さらなる障害者雇用、採用部署の拡大などについては現時点では難しいが、今後の売上や採用部署の受け入れ体制などの状況を踏まえ検討したいと考えている。また、障害のある社員への配慮を通して、今後も全社員が働きやすい職場環境づくりに取り組んで行きたい。

出雲障がい者就業・生活支援センターリーフ　安田大輔