難病のある方への合理的配慮・就労支援・雇用の取り組み
- 事業所名
- 合同会社エコカレッジ(法人番号 7280003000938)
- 所在地
- 本社 島根県雲南市
三刀屋出張所 島根県雲南市三刀屋町 - 事業内容
- 中古専門書ネット通販、地域の加工品や伝統産品加工
- 従業員数
- 27名
- うち障害者数
- 20名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 古本のメンテナンス 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 古本業務(発送・本の入力作業) 内部障害 知的障害 3 わら作業(しめ縄・わら草履作り) 精神障害 5 古本業務(発送・本の入力作業) 発達障害 4 古本業務(発送・本の入力作業) 高次脳機能障害 2 本の入力作業・農作業 難病等その他の障害 3 和紙用の楮の白皮作業
農作業 しめ縄作り- 本事例の対象となる障害
- 難病(脊髄小脳変性症(多系統委縮症を除く))
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
平成13(2001)年7月 東京都文京区にネット通販古書店を設立 平成15(2003)年5月 有限会社化 平成18(2006)年10月 島根県邑智郡川本町に本社移転、障害者雇用事業スタート 平成21(2009)年1月 島根県雲南市木次町に流通拠点設置 平成24(2012)年1月 アエラが選ぶ「日本を立て直す100人」に代表の尾野が選出される 平成26(2014)年5月 就労継続支援A型事業所として島根県より認可
有限会社エコカレッジの100%子会社として合同会社エコカレッジ設立平成27(2015)年11月 同三刀屋出張所開設 (2)障害者雇用の経緯
代表の尾野が大学生の時に、大学で使う教科書があまりに高価なのでリサイクル(不要な教科書を学生から買取り販売する)をしてみたところ、教科書だけでなく大学の教職員向けの中古専門書のニーズがあることがわかり通販古書店を立ち上げた。
東京都文京区に店舗兼倉庫を構えたが、家賃が高くて事業継続に限界を感じ事業を止めるつもりでいた。
大学院に進み地域振興をテーマとするゼミに所属し、調査・研究の一環で島根県邑智郡川本町を訪れた。同町は過疎地であり、商店街にあった書店も閉店していた。インターネット通販で古書販売をしていたことから、閉鎖店舗の活用を勧められ、地元の人の書店再開に向けた強い思いに押され、平成18(2006)年10月に会社を現在の地に移転した。
インターネット通販で古本販売を過疎地で行う利点として、「家賃が東京の100分の1であること」、「大きなスペースを確保できること」、「気象条件が本の保管に最適な場所であること」、「宅配便が発達しており過疎地でも集荷・配達が可能であること」などを挙げることができる。
インターネット古書販売は、古本の仕入、銀行振込・入金管理、棚の整理・清掃、受注、梱包、発送などの多岐に亘る業務があり、負荷の程度も様々で、障害者にも取組みやすい業務と考えられる。
当初、町内にあった就労継続支援B型事業所から職場実習という形で数名の障害者を受け入れたのがきっかけとなり、徐々に当社での障害のある従業員の正規雇用が進んでいった。このような中で、島根県(障害福祉課)からの強い勧めもあって、平成26(2014)年5月に有限会社エコカレッジの100%子会社として合同会社エコカレッジ(就労継続支援A型事業所)を島根県雲南市木次町に設立した。「過疎地を盛り上げたい」という代表の思いもあり、地域の豊かな資源を活用した、「干し柿作り」、「とうがらしの栽培」、「和紙の原料の楮の薄皮剥ぎ」、「しめ縄作り」なども手掛け、一人ひとりの障害特性に合った作業ができるように工夫している。
また、平成27(2015)年11月5日には、「合同会社エコカレッジ」、「地域の町つくり協議会」、「訪問看護コミケア」の三者が、総称『ほほえみ』を世代間交流の場として三刀屋に開設した。この施設は、障害のある利用者に配慮しバリアフリー化されている。
(3)業務内容
- ア.
- 古書の出品作業
古書名、出品価格、古書の状態などをパソコンで入力しインターネット上に出品する作業で、テンキーとマウス操作でほぼすべて完結するため、簡単な操作で作業ができる。また、個々の障害の程度によって作業量が調節しやすく、さらに、屋内の座り仕事であることがメリットである。
- イ.
- 古書の発送作業
ネットで受注した古書を全国へ発送する。当日の発送予定リストを作成し、それに基づいて該当する古書をピックアップし、古書の状態と注文内容の確認、納品書の封入、住所ラベルの貼付などの作業を行う。なお、古書の状態と注文の内容に相違がある場合には、注文者への説明などの新たな業務が発生することもある。
- ウ.
- 古書の在庫管理
古書の保存については、ホコリを防ぐためのハタキ掛け、日焼けを防ぐための布掛け、湿気を防ぐための布外しなどの作業がある。また、古書を新品に近い状態にするためのヤスリ掛け、番号付きタグの表示、パソコンを活用した年2回程度の棚卸作業などがある。
2.取組の内容と効果
(1)Aさんの障害状況
- 進行性の病気である。(同じ病気の人を見たときに年上の人でしたが車いすだったのに自分もいずれはそうなるのかとショックを受けた)
- 歩行時のふらつき。
- ことばが出にくい。
- 目がちかちかする。(本人の話では目の前に明かりが飛んで見える。)
- 元々美容師をしていたのに、はさみが思うように使えなくなった。
(2)募集・採用
Aさんは、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)の依頼により、職場体験(職場実習)を1週間行い、一般就労の経験も豊富で社会性も身に付いていたことから採用した。また、勤務時間は、Aさんの身体的負担などを考慮し、1日5.5時間、週5日勤務とした。
(3)職場配置
Aさんの仕事は採用当初は、本社で古書の発送作業と出品作業を担当していた。しかし、「パソコン作業中に目がチカチカする」、「職場内の移動の際に歩行が困難になってきた」、「梱包作業などの立ち作業が困難になってきた」などの訴えがあり、病状の進行を考慮し平成27(2015)年11月にオープンした三刀屋出張所での座り作業(古書の番号付けるためのタグ切り・楮の薄皮剥ぎ・ワラの穂先取りなど)に変更した。また、異動の際には、障害のない従業員に対して、Aさんの病状と配慮事項を伝えることで、理解と協力を得ることができた。
(4)業務内容
Aさんには、精神面や身体面の負担を配慮し、Aさんとの相談を踏まえながら次の作業を担当して貰っている。
- ア.
- 古書の番号を付けるためのタグ作り
インターネット古書販売での古書の入力作業が終わった古書に番号を付けて管理していくための作業である。
- イ.
- 楮の白皮作業(伝統ある斐伊川和紙の和紙作り委託業務)
楮の薄皮剥ぎのことで、和紙の原料である楮の木を蒸して木から皮を剥ぎその皮の表面の薄皮を剥ぐという作業である。
写真は、乾燥した楮の皮を水に浸けて一本一本専用の小包丁で薄皮を剥いで黒皮が残ったりデコボコがないよう丁寧に作業を行っている様子である。
- ウ.
- しめ縄作りの下準備作業
しめ縄は伝統ある吉田ふるさと村の商品で、村の業務委託を受け、本社(木次町)の利用者が手作りするお正月用のしめ縄である。Aさんは、その下準備作業のワラの選別や穂先取りを担当し、本社と協力しあって完成させている。
(5) 指導上の配慮と支援機関との連携
Aさんは病気の進行に不安を抱いているので、作業を指示する際には、病状と健康状態を把握しながら行うこととしている。
Aさんとは、月1回程度の面談を実施し、「日常生活や作業を行う上での困りごと」、「コミュニケーションや人間関係での悩み」などに関する相談を行い、精神面の安定を図りつつ穏やかな環境で作業ができるように配慮している。
また、Aさんを交え、支援センター職員及び雲南市役所の保健師による定期的な支援会議を事業所において実施している。その際に、保健師から難病に関する研修会などの情報提供がある場合には管理者が参加するなど情報の共有、関係機関との連携強化に努めている。
一方、Aさんは同じ難病を持ち同じような立場の人によるピアサポート活動なども行っている。このように、管理者の取組み、Aさんのピアサポート活動、支援センター、南雲市役所との連携などが、Aさんの難病に対する不安の軽減、安心感に繋がっているものと考えられる。
3.今後の課題と展望等
Aさんの障害(難病)が今後進行すると座り作業に限定されるため、それに向けた作業の提供が必要となる。現在は、Aさんは自ら車を運転して通勤しているが、「残像が見えて気分が悪くなる」、「物が重複して見える」などの症状が起こることもある。今まで当たり前にできていたことができにくくなることで不安になったり、落ち込んだりすることもある。このため、様々な症状や病気の進行への不安に対する精神的配慮・環境への配慮は働く意欲のあるAさんの雇用を継続する上で重要だと考えられる。
現在、合同会社エコカレッジは、古書業務が半分、もう半分は地域の加工品作りや伝統産業の原料作りなど、地域において担い手不足となっている様々な仕事を行っている。後者の方が増えてきており、障害者が過疎地の季節労働の担い手となって活躍するのを支援する事業体となりつつある。引続き、地域の豊かな資源を活用して過疎地の障害者雇用を進めて行きたいと思っている。
執筆者:合同会社エコカレッジ 施設長/管理者 吉田 直美
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