事業所外観

1．事業所の概要・障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

特別養護老人ホーム　健祥会たんぽぽは、徳島県西部の東みよし町に平成9（1997）年4月に開設された。今年で20周年を迎え、眼下に流れる四国三郎と四国山脈の山並みに囲まれた自然あふれる地に根を下ろしている。同事業所は、プライバシーと個人の尊厳に配慮し、入所者が普通に生活することを目標にするとともに、「いつの日　かえる地　安心空間つくります」をモットーに自分達が生活したいと思える施設作くりを心掛けている。

また、おむつゼロ・骨折ゼロ・拘束ゼロ・褥瘡(じょくそう)ゼロ・胃瘻(いろう)ゼロの「5つのゼロ」への挑戦を掲げ、介護職員・看護職員などの専門職が連携して意思疎通と情報共有を図り、より良い品質ケアの提供に努めている。

（2）障害者雇用の経緯

介護現場では手厚い介護が年々求められており、清掃や洗濯業務を業務時間内でこなしていくことに時間的にも体力的にも難しさを感じていた。そうした状況の中で、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）からのアプローチを受け、当時特別支援学校生徒であったMさんの職場体験実習（以下「実習」という。）を平成27（2015）年9月に2週間、同年11月に3週間行った。Mさんの実習中の業務に対する前向きな取組姿勢や就労への熱意を感じ、翌年4月から採用することとなった。採用後にはジョブコーチ支援の制度を活用し、Mさんの支援体制の整備に努めている。

2．取組の内容と効果について

（1）Mさんの職場配置

同事業所はMさんを採用するに当たり、実習の際、ある程度は性格や能力を把握していたつもりであったが、実際に就労するとなると現場からはいくつかの不安の声があがった。介護現場では、職員それぞれが業務を目一杯にこなしており、「Mさんの支援にまで手が回るだろうか」、「入所者に迷惑をかけないだろうか」、「職員が関わる時間が不足すれば、Mさん自身が不安になったり困惑したりしないだろうか」などと危惧していた。しかし、Mさんは性格が明るく、会話するうちにその場の雰囲気が和み、職員との意思疎通も図れていたことから、そういった心配はすぐに払拭された。

業務内容については、本人の希望を考慮した上で、施設内で検討した結果、「洗濯業務」と「清掃業務」に決定した。指導方針を統一するために、実際の作業現場で業務指導を担当する職員を固定し、毎日担当職員が業務内容を細かく教えることで、人によって指導方法や指導内容が違うといったトラブルを未然に防ぐようにした。しかし、清掃業務では指示されたことがなかなか覚えられず指示を何度も繰り返す必要があった。また、洗濯業務では洗濯物の配り忘れが目立ったことから、Mさんの課題を踏まえた改善策として、以下の点に配慮した指導を行った。

（2）具体的な取組

ア．

依頼したことについては的確に行えるが、自分で考えて行動することが苦手なため、曖昧な表現を避け、本人が理解できる方法（言葉、モデリングなど）で伝える。

イ．

1日の業務内容に関するタイムテーブルを作成する。

ウ．

注意事項を納得、理解ができるように、間違っていることは必ず個々の場面において速やかに指摘する。

エ．

一度に複数の業務をこなすことが難しく、それが原因で混乱しミスを招くことがあるので、1回につき指示事項を原則一つとし、業務の優先順位をつける。

オ．

口頭の指示だけではなく、職員が業務に取り組む様子を本人に見てもらい、視覚的に指示をとらえられるよう支援を実施する。

以上のことを継続して実施することで、次第に作業の手順や要領を覚えるに至った。

また、今回がMさんにとっては初めての就労となるので、本人にとって働くことが大きな精神的負担やストレスにならないように配慮し、安心して仕事ができるよう職場環境を整えた。Mさん自身も、業務内容や注意を受けた内容をメモ帳に記載するなど、自分自身でも忘れないように工夫をしている。

Mさんの洗濯作業の様子

Mさんの清掃作業の様子

（3）支援機関との連携

職場での作業指導については、主に職員が指導にあたっているが、Mさんに対する接し方や指導方法については、地域障害者職業センター（以下「職業センター」という。）、支援センターなどの支援機関から具体的な助言やアドバイスを受けながら定着に向けた取組を行っている。

また、職場においては、施設長と本人による月1回の相談日を設け、支援センターのジョブコーチもMさんの相談や施設長や現場担当から現状報告などを受けながら、精神面での負担やストレスを軽減するための職場定着支援を実施している。

また、Mさんはグループホームを利用しており、就労面での支援だけでなく、生活面での指導、支援も受けている。通勤途中で、事故などのトラブルが発生した場合は、支援センターに連絡が入るとともに、グループホームへの連絡も迅速に行える仕組みが確立している。

（4）取組の効果

Mさんの作業工程での適性を検討し指導体制を整えていても、作業効果という観点から見れば、他の職員と同じとはいえない。しかし、就業開始時間より早めに出勤して業務の準備をし、仕事にひたむきに取り組み、決められたことはしっかり守るといった真面目な勤務態度は、職場全体に良い影響を与えている。

また、同事業所では、日頃から観察眼とコミュニケーションを大切にし、Mさんのモチベーションが低いときや、プライベート面で問題を抱えている様子が窺えるときなどは、ジョブコーチなどと連携を図りながら問題解決に努めている。

最初はMさんの対応に不安を抱えていた職員も、それぞれがコミュニケーションの取り方や関わり方を工夫するようになり、職員の意識改革や障害特性に対する理解も深まりつつある。

3．今後の課題と展望

Mさんは、就労開始からまだ9か月と日が浅く、施設としては、今後中・長期的なビジョンでどのような支援を展開していくことがより効果的なのかという点に関して検証する必要がある。

障害者の雇用と就労継続については、本人の能力を最大限に活かせる配置と環境を整備することが必須であり、その上で本人のスキルアップを図っていくことが重要なテーマとなってくる。また、事業所と支援機関がより密な連携を取ることもポイントである。日々のやり取りや問題が発生した時の連絡、連携も欠かせないと実感している。

同事業所は、徳島県の西部圏域で設立している「にし阿波・障害者雇用を支える企業ネットワーク」に加入しており、障害者雇用に積極的に取り組んでいる。今後は、障害者雇用を継続して行うために、ハローワークや職業センター、支援センターなどとの連携をより強化し、情報を共有しながら障害者雇用を支えていく必要がある。

最後に、障害を障害と捉えず「障害も一つの個性」として社会全体が捉えることで障害者への理解が深まり、今後より一層の障害者雇用の機会が拡大することを心から願っている。

執筆者：障害者就業・生活支援センターはくあい　森　由子