難病患者(天疱瘡)のある人の雇い入れ、現在の状況、今後の展望
- 事業所名
- にじのとびら
- 所在地
- 愛媛県四国中央市
- 事業内容
- 自立・就労支援事業、子育て支援事業、各種相談、イベント企画・運営・主催
- 従業員数
- 2名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 事務、ポスター制作、イベント企画 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 難病(天疱瘡)
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
平成26(2014)年に、愛媛県四国中央市に「にじのとびら」として、事業所を開設する。主に、自立・就労支援事業、子育て支援事業を展開している。職場内の業務としては、主催イベントの計画・準備、チラシやポスター、広報物の制作、需要がある場合は、チラシ・名刺のデザイン、各種相談、カウンセリングを行っている。また、職場外での業務としては、セミナーの講師、イベント出展物の準備や当日の販売、一時的なカフェの手伝いも行っている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者を雇おうと思った経緯について、「私自身も障害をもっていて」と代表は語る。代表自身、中途で精神障害になり、その後の就職活動では苦労した。当初は、履歴書や面接時に精神障害であることをオープンにすると不採用になり、クローズにしておくと後に苦しくなるという経験をした。就職活動終盤ではオープンの姿勢で臨んだ。代表は、障害者を雇い入れるときのモットーとして、「自分が今まで苦しい思いをしたので、面接に来た人に対しては、どういう人で、どういうことに困っているのかということを考えるようにしています」と語る。
雇い入れた障害者は、天疱瘡という難病患者であった。ハローワークからの紹介では難病の疾患があるということだけ聞かされていた。そのため具体的な病名などについては、面接時に初めて知った。また、対象者から定期通院のため、平日に1日休む必要があること、病状が安定しており緊急性のある病気ではないとの話があった。
にじのとびら代表
2.取組の内容と効果
(1)Aさんへの取組
今から15年前Aさんは大手の会社で事務職をしていた。自分の業績を正当に評価してもらえない、残業代がつかないなどの理由で退職した。その後は自ら事業を立ち上げようとしたが、8年前に難病疾患の天疱瘡になった。その後7か月間入院し、市役所の臨時のアルバイト職員などの経験を経て、2年前に「にじのとびら」に入社する。
- ア.
- 病気に対する理解
天疱瘡とは、表皮や粘膜を癒着させる働きのあるタンパクに対する自己抗体が引き起こす病気で、症状としては、皮膚や粘膜に水疱が生じる。顔や頭皮などにも水疱が現れることもある。代表はまずAさんの病気について知ることから始めた。雇い入れてからはAさんの普段の様子から、僅かな体調の変化も読み取っていった。Aさんは、「自分自身は全く自覚がないのですが、雇用主さんが『ストレスがかかっているのかな?』と気にかけてくれていると思います」と語る。代表は、「毎日会っていますから。仕事が忙しいときやストレスがたまっているようなときには『休みますか?』と声をかけています」と語る。日々共に仕事をしていく中でAさんの病気について理解しようとしている。また、通院については、必要に応じて臨時通院も認めているが基本的にはAさんの判断に任せているという。
- イ.
- 柔軟なスケジュール構成とフレックス勤務
Aさんの1日のスケジュールは9時出勤、18時退社、昼休憩1時間の8時間労働が基本となっている。この事業所に勤めてからは体調変化の波も少なく、病気が理由で会社を休むということはなくなったという。とはいえ、服薬の影響もあり、定時に出勤できない場合には、代表に一報を入れ、出勤時間を遅らせることもある。このように勤務時間を柔軟に変更できるフレックス契約を採用している。Aさんは、「1日に必ずこれはやるというノルマはなく、1週間のトータルの勤務時間で調節をしています。特に、外部のイベントで時間が押したときも『余分に働いた分は別の時間に充てていいよ』と言われると働く人も気分的に楽ですよね」と語る。代表は、「Aさん自身の体調に合わせて出社の時間を調節してもらっています。ただその時々の体調に合わせてできるだけ勤務の時間を柔軟に考えるようにしています」と語る。このように、Aさんの体調に配慮したフレックス勤務の労働契約となっている。
- ウ.
- 小さな事業所だからこそのコミュニケーション
代表を含め3人で運営する事業所ではコミュニケーションは不可欠である。代表は、「小さな会社なので1つのことを一人でやるわけではなく、一緒にすることが多いです。色々な話をする中で、『今日は気分の浮き沈みがあるかな?』と感じることもあるが、もう一緒に働いて2年になりますから」と語る。Aさんの病状は、現在、安定した状態で、緊急性はないが、症状が悪化すると入院になる場合がある。そのため日頃から、仮に、そのようなことになったらどのように仕事を回すかということについて話し合っている。「幸い僕はデスクワーク担当なので、冗談で『病室にパソコンを持ち込んでやります』と言っていますが、大きなイベント前に入院となると、そういう訳にもいかないので、臨時の職員を雇う必要があるのかなという話はしています」とAさんは語る。同じ空間で日頃から顔を合わせて話をするからこそ、僅かな体調の変化に気が付き、すぐに対処できる。また、病気のことを気にしながらも、「このような場合にはどうする」という解決策などを代表、Aさんが共有していることが、働く上での「安心」へと繋がっている。
(2)Aさんの取組
- ア.
- 入社までの経緯
Aさんはハローワークの求人を見て、今の事業所に入社したが、入社するまでにいくつかの会社の面接を受けている。しかし、病気のことを履歴書に書くと、面接までもいけないという経験をしている。Aさんは、「面接でアピールする場(機会)がない「書類選考」だけではしんどいかなというのが現状です。」と語る。
- イ.
- 取り組んでいる仕事について
Aさんの仕事は、主にデスクワークである。依頼があれば、チラシや名刺も作成している。4か月に1回のペースで開催されるハンドメイドのイベント「ふぃ~る♪」の企画、準備、運営も行う。基本的にはハンドメイドの雑貨を出展者が持ち寄り、販売するイベントである。その中で自立を目指す障害者や支援者にボランティアに来てもらったり、就労体験をしてもらったりという活動の手助けもしている。Aさん自身も「ふぃ~る♪」のポスターを制作したり、開催当日に、販売のサポートをするなどイベント自体にも携わっている。取材当時は、イベント開催の2週間前ということもあり、本番に向けての準備中であった。また、新居浜市のカフェが人員不足ということで、定期的に簡単な調理補助の仕事もしている。
- ウ.
- 自身の病気について
Aさんは、自分自身の病気について「この病気って治らない病気なのですが、その中でも自分自身順調にきています。自己分析ですが、病気を気にしない、相手にしない、それが一番かなと思います」と語る。しかし、服薬の影響で躁と鬱などの気分の変化があるという。Aさんは、「仕事であれば、『あ、やらないといけない』と思うのですが、例えば本屋さんに行きたいと仮定します。そして車に乗って出発しようとすると急に行きたくなくなるのです。しばらくして家に帰ると、また、行きたくなるというサイクルです。自分の頭の中が自由になっている時にはこのサイクルが数分に1回入れ替わります」と語る。
目に見える症状については発疹が挙げられる。Aさんの場合には、全身に発疹ができる。とても柔らかいもので、水膨れになり、それが裂けると組織が外に出て痛みを伴う。また、口の中にもできるので、食事がしにくいこともある。Aさんは、イベントなどで人前に出るときに「周りの人が自分の発疹を見て気にならないか?」という点が心配だという。Aさん自身は、特に帽子を被り発疹を隠すというようなことはしていないという。
発疹の原因は本人も分からないと言うが、Aさんは、ストレスが原因だと分析している。症状が出てから、「今週の仕事の量が原因かな?」というように感じるという。
- エ.
- 現在のAさんについて
現在は、大学附属病院でしか受診ができないため、定期的に1日仕事を休み通院をしている。今の事業所に入社して以降は、服薬の量も減り、発疹の悪化も見られないという。Aさんが居住している市内では、Aさんが2人目の天疱瘡の難病患者であり、市内に患者会のようなものはないという。
Aさんが製作したポスター
Aさんの仕事の様子
3.今後の課題と展望
(1)Aさんの意見
Aさんは、自分自身の就職活動の経験から、「『その職場に入りたい』という意思表示に対する入り口は広げてほしい」と語る。応募書類だけで判断せず、まずは面接をしてみてほしいという。また、雇う側だけでなく、天疱瘡の患者の意識も変えていけば就職に繋がるのではないかという。先にも述べたようにAさんは、病気の受け入れ方が前向きで、Aさん自身も特殊な考え方だと表現している。しかし、同じ難病患者の意見をネットなどで見ると、病気を気にしすぎているように感じるという。Aさんは、「手も足も動くし、食事もできると前向きに考えています」と語る。
「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」などについては助成期間が長くなれば雇用者も被雇用者も安心して働くことができるという。Aさんは、「僕の場合は、難病なので1年半は助成金が出ました。例えば、僕が入院するとして、僕を雇用したまま別の人を雇用すると人件費が倍になります。期間が長くなれば、入院して仕事に就けなくても助成金を使って臨時の人などのお給料に回せると考えれば気持ちも楽ですよね」と語る。
今後についてAさんは、小さな会社なりにできる範囲のことを手助けしていきたいという。「助ける人は山ほどいますし、代表と違ってカウンセラーの資格はないが、自分の経験談を話すなど、自分のできることをとおして、会社の一員として、今後も仕事を続けていきたい。」と語る。
(2)代表の意見
代表は支援上の課題として、自立支援、就労支援、ひきこもりの人に対しての支援のさらなる充実を挙げている。この事業所を立ち上げた理由として代表は、「精神障害になった自分の経験から困っている人の力になりたいと思いました。行政機関には、相談には行けるが、担当者が変わり、継続的な支援が難しいです。それであれば自分がそういう事業をしようと決めました」と語る。
今後も事業の内容と照らし合わせながら、入社希望者がいれば積極的に障害者雇用を行っていくという。現在の事業所の環境は変えない予定だが、入社を希望する人の障害状況に合わせて検討していきたいという。代表は、今後の障害者雇用を考えている雇用主に対して、「障害のある人は採用しにくいと言われますが、個人の特性ってあると思うんです。その人の特性を生かした仕事ができる。まずは面接をして、そのあたりを見いだしてほしい。応募書類だけでなく、本人と会ってみるというのが全ての始まりかなと思います」と語る。
執筆者:愛媛大学 教育学部特別支援講座 准教授 苅田 知則
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