意欲をもって働ける職場は難病リスクを軽減する事例
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事業所外観
1.事業所の概要
一般財団法人九州道路交通公安財団(以下「同財団」という。)は、平成12(2000)年7月、佐賀市にて創業。収益事業と公益事業の二つの部門において、九州各県に事業所を展開している。
同財団が収益事業として位置付けるのは、災害・事故などで破損した公的資産の道路施設復旧工事や警備等の部門である。また、もう一つの柱である公益事業は、交通安全普及活動や青少年健全育成活動の社会貢献事業で、特筆すべき事業として、ベトナムにおいて貧困や枯葉剤被害の児童たちへの就学支援などにも取り組んでいる。
平成27(2015)年7月に宮崎県新富町に事業所を開設、同年11月に同町と「雇用・労働」、「子どもの健全育成、高齢者・障害者支援」、「地域社会の活性化」の三項目において、「包括連携協定」を締結した。
また、同財団は、働く女性の地位向上にも積極的であり、厚生労働省が推進する「ポジティブ・アクション」の応援企業として登録、佐賀市においても、「佐賀市男女共同参画推進協賛事業所」として様々な取り組みを行っている。
2.障害者雇用の経緯
(1)障害者雇用の基本理念
同財団は、創業時より事業内容においても明白であるように、企業の社会的責任(CSR)、コンプライアンス遵守などを基本理念に、性別はもちろん性格や年齢、学歴、価値観などの多様な人材を活用することで生産性を高めようとする、「ダイバーシティ」の考え方をマネジメントの基本に据えた経営方針を定めており、「障害」についてもひとつの個性として捉えている。
(2)雇用の実際
基本的にはハローワークを通じて行っているが、面接時に障害を告知しないケースにおいては、その特性に応じた対応を図るために、採用後は本人の同意を前提に、プライバシーに配慮しつつ障害や障害者手帳の有無を確認することにしている。
また、関連業務として、同財団が支援している障害者に特化した訪問看護施設からの要請を請けて、体験実習、社内清掃などのトライアル就労体験(第一義は人に慣れることを目的に)の場を提供している。
3.事例となるAさんの紹介
(1)障害の特徴
難病指定の重症筋無力症で、特徴として骨格筋の筋力低下に伴い、運動の反復により筋力が低下(易疲労性)し、会話が難しくなったり、瞼が重くなったりする。また、喉の筋力低下により、嚥下が上手くできないことがある。
- ア.
- Aさんの症状
症状が朝夕で変わる日内変動や日により差がある日差変動、特に気温の高い夏や気圧変化のある台風接近時は疲れ易くなる。
併発してリューマチの症状もあり、朝は筋肉や関節が硬直するため、出勤時間を遅く設定している。そのため月1回、点滴やリハビリのための通院をしている。
また、2~3年に一度、複視の手術のために1週間ほど入院、自宅療養を行っている。
- イ.
- 面接に至るまでの経緯
- 発症
教職に就いていた23歳のときに、身体の異常に気付き転院を繰り返し、病名が確定するまでに1年半を要した。仕事上欠かすことができない、話すという行為は、この病の特性である発語障害により閉ざされ、退職を余儀なくされた。
- 同財団との出会い
退職後、3事業所に就職するも、日々の雇用や期間限定の職であった。その間、福祉関係の資格を多数取得、努力を惜しまなかった。
そのような時期に、通っていた県難病相談支援センター(以下「支援センター」という。)で、運よく増員を考えていた同財団の社員と出会い知己を得て、採用の運びとなった。
- 発症
4.取組の内容
(1)面接時の配慮
事前に、支援センターから病状説明に関する資料のほかに、公開されているAさんの手記(主に病状について記述)が掲載されている冊子の提供を受けたことで、Aさんをより知ることとなった。
面接日については、症状を勘案し、Aさんの申出を第一に、体調が良好な日時において行うこととし、緊張と疲労の蓄積を軽減するために、同財団の規定(面接官には採用権限のある女性社員を含める)により女性社員とキャリアコンサルタントの有資格者を同席させた。
(2)職場配置
配置について、本人と相談し前職が教職ということもあり、将来的に文章力や企画力などの能力を発揮できる部署で、同性の先輩社員の仕事を切り出し、補助し易い体制を整え入社当初の負担軽減を図った。
(3)相談担当者の配置
直属の上司(同性)で、Aさんと年齢の近い先輩社員を業務面のみならず、体調管理、社内生活全般に関する指導、相談担当者として選任した。
(4)雇用契約上の配慮
- ア.
- 勤務形態
入社から2年間は、週3日、隔日勤務の10時~16時であったが、体調が安定してきたことから、本人の要望により勤務終了時間を17時までに変更した。
- イ.
- 休憩時間
正規の休憩時間は60分であるが、体調に異変が認められたときなどは柔軟に休憩が取れるように配慮している。ただ、責任感が強い性格であることもあり、異変を感じながらも、自ら申し出ない状況であると認めたときは、周囲の同僚が休憩するよう促すこととしている。
- ウ.
- 通院と休暇
定期通院日は、有給休暇として取り扱うこととしており、通院日を確実に確保できるように、月間計画に組み入れている。
また、体調不良により突発的に遅刻や早退、欠勤をする場合は、不利益にならないように雇用契約を結んでいる。
- エ.
- 定期面談
採用から6か月後に、勤務形態などに関する状況とその他要望などを把握し、対応を行った。その後定期的な面談は行っていないが、常に担当者を通じて、体調の変化を把握することができるほか、要望事項などを把握し、対応できる体制を整えている。
(5)社内の受入れと配慮
- ア.
- 受入れ準備
職場環境として、長きにわたり障害のある社員と障害のない社員が空気のような存在で交わっているため、これまで同財団が進めてきた障害者雇用の経緯を踏まえ、新規採用者の障害特性は、当然のこととして社員全員で共有し、サポートできる体制を整えてきた。今回の場合においても、採用決定後、支援センターから提供された資料とAさんの手記を回覧することで、理解を深めることとした。
- イ.
- 社内における配慮
- 体調と業務量
入社当初は、担当者の事務補助を中心に、負担の少ない、期限のない仕事を主に担当した。疲労が蓄積すると発語障害や表情硬化などの症状が現れることから体調の安定を前提に、Aさんの意欲とモチベーションの維持を図りつつ、相談しながら徐々に質と量を増やしてきた。担当者やその他の社員は、「疲労が蓄積していないか」、「無理を重ねていないか」、常に体調と仕事量に配慮している。
- 緊急時の対応
突発的な症状悪化や事故(Aさんは車通勤者)などの場合は、緊急電話連絡網に従って連絡することが難しいと想定されるため、もう一つの正規連絡網として担当者や他の社員を含めたLINE(ライン)グループを結成し活用している。
- 体調と業務量
5.取組の効果
(1)上司の評価
Aさんは、前職を病気により退職し、転職を余儀なくされた経緯があり、それらのことが発条(ばね)になっているのか、任された仕事に対し要求以上の結果を出そうと取り組む、前向きで責任感の強い性格を持っている。そのため、精神的満足度を向上させることが病状悪化を抑えることに繋がるのではないかと考え、Aさんと相談しながら、これまで未整理であった総務系の文書類(就業規則や社内外文書等)の整理や新入社員の教育、研修会への参加等、担当する業務を余裕のある時間配分で徐々に広げてきたが、持ち前の文章力や提案力で精力的に取り組み、常に期待以上の成果を上げている。
(2)Aさんの職場への思い
「難病があることが大前提の上での採用であるにもかかわらず、同僚の皆さんの心遣いや理解のある接し方に、障害を意識することもなく、何でも相談できる社風に感謝している。
現在、会社の基盤となるコンプライアンスや教育等の仕事を任されるようになり、精神的に充実していることも体調を維持できている要因になっていると思う。不安も要望もなく、体調も良好で回復に向かっているような思いもあり、担当医に減薬を相談することにしている。
今後の目標として、現在の勤務形態は隔日の週3日の勤務であるが、仕事の習得度やレベルアップに合わせて、発症後経験のない連続勤務や週4日勤務にチャレンジしていきたい。」
以上のことは、Aさんの体調に配慮し電話での取材であったが、職場や上司、先輩社員への感謝の気持ちが込められ、落ち着いた話し声のなかに、充実した仕事ぶりを窺い知ることができた。今後の抱負を明るく語るAさんの益々の活躍が期待される。
6.今後の課題と展望
財団法人化以降、次世代育成支援行動計画を策定し、介護支援や育児休業などの制度を導入し、独自のキャリア形成プログラムを実施し、男女共同参画を推進している。
具体的には、女性の活躍推進のために、代表理事をトップとする男女共同参画推進委員会を意思決定機関として体制整備を行い、職域拡大のために、自己申告による職域転換希望を把握し、各種スキル習得を奨励している。また、登用の取組として、人事評価表を充実し、女性のキャリアアップを目的に外部教育機関において、リーダー研修、キャリアビジョン研修などを実施しており、パートタイム社員から正規社員への転換支援も積極的に行っている。
このように、同財団は「女性が能力を発揮し、永く働ける職場環境作りを目指す」この目標を具現化するために、体制や制度、職場環境の整備、職場風土の改善に積極的に取り組んでおり、その効果はワーク・ライフバランスに対する意識改革が実現し定着していることに表れている。
障害のある社員への処遇の在り方や接し方、それを生み出す職場風土の源泉は、培ってきた様々な取組の成果であり、女性を障害者に置き換えても、前述の全ての取組が同様に行われているといえる。
ゆるがない基盤作りが着々と行われる中で、その資源を大いに活用した社会貢献へのプランは留まることなく、今後も「就職困難者を中心に積極的に採用し、キャリアアップを図っていく」こととしている。障害者の「雇用」と「職場定着」に関しても、この理念に基づき積極的な取組を推進している。このような取組が、障害者の雇用や職場定着が進まない事業所に対する成功事例(モデル事例)として、大いに参考になるものと考えられ、同財団の活躍を期待したい。
執筆者:佐賀支部 高齢・障害者業務課 馬場 孝臣
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