難病患者の離職を防いだ職場の配慮は、定着を創出した事例
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事業所外観
1.事業所の概要
NPO法人市民生活支援センターふくしの家は、現代表者が平成8(1996)年5月に設立、佐賀県では初めての宅老所を、まだ介護保険等が整備されていない状況下、民間住宅において利用者ゼロの状態から開所。程なく障害者施設で働いていた経験を活かし、児童および障害者の一時預り所を加え、地域において、子供から高齢者まで、身体が不自由でも安心して暮らせる、優しい福祉のある街づくりのために、生活支援に視点を置く様々な福祉サービスや助け合い、支え合い活動を行うことを基本理念に事業の展開を図った。
平成11(1999)年、NPO法人の認証を取得し、県内でNPO法人初の指定通所介護事業所となり、佐賀市委託事業として特別支援学校の学童保育、平成16(2004)年には県内で民間初の児童デイ・サービスを開始した。翌年には、さが福祉移動サービス・ネットワーク事務局を設立、福祉輸送事業限定のタクシー事業を開始した。
それまでの地域に根差した活動は、託児に関するニーズも多様化する中で、早朝や夜間、一時預かりなどに24時間対応し安心して利用できるサービスを提供していること、障害の有無にかかわりなく地域共生の社会づくりに率先して取り組んでいることが評価され、平成20(2008)年に佐賀県よりユニバーサルデザイン大賞、翌年には内閣府よりバリアフリー・ユニバーサルデザイン奨励賞を受賞し、何れも県内初の受賞であった。
設立から20年が経過し、高齢化や支える側の人口の減少などにより、事業を取り巻く外部環境の変化は厳しさを増す中、設立の理念でもある、地域は地域で支えることを基本に、そこに暮らす住民も事業所も行政も一体になって取り組んでいく思いは一事業所に留まらず、賛同する事業所とともに、県内の宅老所をはじめとする小規模ケア拠点の連携により、高齢者、障害者、児童が地域でいつまでも自分らしく暮らし続けることを支援し、地域福祉に寄与することを目的に佐賀県地域共生ステーション連絡会を開設、現在佐賀県との協働事業を推進している。
2.障害者雇用の経緯
(1)障害者雇用の基本理念
ライフスタイルの多様化、複雑化に伴い、行政をはじめ地域や家族のあり方が改めて問われる中で、地域における社会資源をフル活用するための連携や情報共有、具体的な行動は、今後益々必要となってくる。その一躍を担うために同事業所では、社会的弱者である高齢者、障害者、児童の三者を共生の核と捉え、その支援活動の中に世代、性別、障害の枠を超えた人材を投入することが、これからの地域の安心、安全、活性化には不可欠と位置付けている。
(2)雇用の実際
同事業所の事業内容は、介護保険サービスや障害福祉サービス、保育施設、委託事業等幅広く展開しているため、常にハローワークに求人登録し募集を行っており、募集条件には制限もなく、障害の有無も判断基準にはない。
それは、各事業の基本的な業務を成立させるために必要な、様々な周辺業務(事務、介護補助、清掃、配膳等)が存在し、応募者の状況、経験、要望などに応じた配置が可能であるためで、門戸は常に開かれている。
また、同事業所の入居するビルは、高齢者専用ケア付き賃貸住宅や障害者向けグループホーム、多機能型ホームなどが入る総合福祉ビルとなっており、同じく入居している障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)と共にそれらの運営を行っている。そのためハローワーク以外にも、その利用者などの縁や支援センターからの紹介により雇用するケースもある。
3.事例となるAさんの紹介
(1)障害の特徴
事例となるAさんの難病は、成人発症スティル病で、発熱、皮疹、関節症状を主な症状とする全身性の炎症疾患である。発熱に伴って、全身のだるさ、疲れやすさ、食欲低下等がみられることがあり、解熱とともに消失するという症状が特徴的である。
一般的に、20~40歳代の比較的若い成人が発症し、特に女性に多いとされる。治療の基本は、ステロイド系及び免疫抑制剤などの服用が必要とされている。
- ア.
- Aさんの症状
Aさんの症状は、起床後の時間帯から午前中にかけて、発熱を伴った関節症状と、全身のだるさや疲労感が出現するが、服薬により徐々に回復に向かうというのが特徴である。
なお、最近は治療の効果や病との上手な付き合い方、生活面の充実による精神的安定などにより、比較的落ち着いた状態にある。通院についても、現在2か月に1回の受診となり、薬の種類や量等の調整を行っている
- イ.
- 面接に至るまでの経緯
- 発症
介護施設で勤務していた21歳のときに発症、Aさんによるとインフルエンザに感染した際のウイルスによるものではないかとのこと。当時は発症前から准看護師の資格を取るべく勉学中で、発症後試験に合格、晴れて23歳で准看護師として就労するも、闘病中の身体は看護師の仕事に耐えることが難しく、僅か3か月で退職することとなる。
- 同事業所との出会い
Aさんは、同事業所とは2度の出会いがある。1度目は8年程前に、友人の紹介により1年半の限定で勤めている。その後、看護師や医療事務などで病院に勤務するも症状を上手くコントロールできず退職、一般の事業所に再就職するが、病気の特性を理解されず、人間関係に悩んだ末に退職を繰り返すことになる。
そのような失意の状態のときに、ハローワークで同事業所の児童保育の募集に出会い、すぐに応募することにした。Aさん曰く、「一度目に勤務したときのスタッフの皆さんの配慮が忘れられず、他の事業所で勤務したことで、より一層その思いが強くなった」と話す。
- 発症
4.取組の内容
(1)面接時の配慮
今回取材を行った事務局長さんは、今でも悔いが残っていることとして、「Aさんが難病患者であることを告知されずに、2か月後に退職されたことがあり、当初から分かっていれば、実習を行いながら適材適所に配置できたのに・・・」という思いから、障害の有無やその特性、応募者自身の症状、要望、通院など、そしてできることとできないことについて、面接時によく聴くことが大切な要素だと捉えている。
その内容に応じて、勤務体制や仕事の範囲を決定し、サポート体制等を図るようにしている。
(2)職場配置する上での配慮
Aさんが応募した職種は、同事業所が委託を受けている特別支援学校の学童保育の仕事であり、小学1年生から高校3年生までの軽度の知的障害のある学童を日々10名から18名くらいを預かっている。
スタッフは11名で構成され、予約状況や出勤体制に応じてその日のスタッフが決められるため、突発的な欠勤にもサポートできる柔軟な態勢が整備されている。
同事業所は、このような職場環境から、勤務体制を整え、発症した場合の措置と発症のリスクを少なくするサポートを行えば、Aさんの看護師としての経験を十分に活かせるとともに、戦力になると確信し配置を決定した。
(3)相談担当者の配置と担当業務への配慮
11名のスタッフはチームワークもよく、同性の職員がAさんの相談担当者として、健康状態を聴き取り、体調に応じて担当する学童を決定するなどの配慮を行っている。
その日の体調に応じて、見守りだけでよい学童の担当や、動きが激しくマンツーマンでの対応が難しいようであれば、一人の学童に対しAさん以外にスタッフを増員する態勢を整えている。また、体調を考慮し、屋外での活動よりも屋内での業務を優先し、工作などを担当する場合もある。
(4)雇用契約上の配慮
- ア.
- 勤務形態
勤務日は週3日~5日で、勤務時間は病気の特性上、起床後は関節痛があるため開始時間に配慮し、午前11時から午後18時までの勤務時間となっている。
- イ.
- 休憩時間
業務の特性上、昼食時間以外に休憩時間はないが、体調が悪いときにはいつでも座って休憩できるように配慮されている。Aさんは、「いつでも相談できる状況を作ってもらっているため、有難い」と話す。
(5)社内の受入れと配慮
- ア.
- 受入れ準備
同事業所の事業内容は、障害児(者)を含めた、幼児から高齢者を対象としたケア・サポートを行っていることから、事故やトラブルには過敏であり、「何かあったら・・・」というスタッフ自身の心配や不安を解消することを第一義に、受入れに際しては、障害特性や症状をレポートにして説明するとともに、社外講師(支援センター職員など)を招き、実務性や経験値の高い企業内研修を行っている。
- イ.
- 職域における配慮
前述のように、その日の体調に応じて担当業務が決められているが、相談担当者以外のスタッフも日常的に体調面への声掛けを行っている。また、「Aさんにはちょっと厳しいかな」と思えるような物の取扱いや行動、対応が難しい学童を担当する場合には、「交代しよう」、「一緒にやろう」という気遣いが浸透している。
5.取組の効果
(1)上司の評価
Aさんは、仕事に対して真摯に取り組み、明るい性格で他のスタッフからも信頼を得ている。担当する仕事については、本人と相談しながら決めているが、任された仕事に対しては、積極的に取り組んでいる。
そのため、Aさんの向上心に応えるために、話し合いを進めながらできる仕事を増やすとともに、少し難しい対応が必要な学童を担当してもらうケースもでてきた。
また、自から障害(者)に関する社外研修などを受講し、研鑚に励んでいる。
(2)Aさんの職場への思い
Aさんは、介護の仕事をしながら看護師の資格を取得し、これからというときに発症し、僅か3か月で断念せざるを得なかった。その後、闘病のなかで転職を繰り返すことになる。
医療関係の職場では体力が続かず、一般の企業では病を理解してもらえず、人間関係に悩んだ末に退職、そのジレンマの中で同事業所に出会うことになる。
根治するまでにはまだ治療方法も確立していない状況の中で、痛みを軽減するために服薬は必要であるが、治療を受け入れ、完治するためには精神や心の安定、仕事の充実は不可欠なものである。
同事業所の「支え合う社会」の理念を具現化するスタッフの配慮に支えられ、徐々に安定してきたことで、その思いは一層強くなった。職場の皆さんへの感謝の思いが笑顔から伝わってくる。
誰かの役に立ちたいとの思いで看護師を目標としたAさん、職域は変わってしまったが、役割はそのままで、子供たちを安全にサポートすることを心掛けながら、日々充実した時間を過ごしている。
学童を見守るAさんの様子
6.今後の展望と役割
同事業所の代表者は、『障害者の地域社会への移行は、今後さらに進んでいく。「共生社会実現」のためにも、地域で働く障害者の姿勢を住民が身近に感じることはとても大切なことである。今後も、可能な限り雇用を創出しマッチングを図りたい』と考えている。
執筆者:佐賀支部 高齢・障害者業務課 馬場 孝臣
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