成功体験を積ませることで、自信を持たせ、モチベーションアップを図る
- 事業所名
- 社会福祉法人 更生会(法人番号 6340005006102)
- 所在地
- 鹿児島県南九州市
- 事業内容
- 障害者支援施設、特別養護老人ホーム、給食センターほか
- 従業員数
- 260名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 16 調理、調理補助、食品製造など 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要
昭和46(1971)年6月法人設立。「LOVE&HEART」の基本理念の下、以下の主たる施設を中心に第1種及び第2種社会福祉事業、公益事業を展開している。
・障害者支援施設(就労継続支援B型事業所併設) 2か所 ・障害者支援センター 1か所 ・グループホーム(介護サービス包括型) 2か所 ・グループホーム(外部サービス利用型) 1か所 ・指定介護老人福祉施設 1か所 ・特別養護老人ホーム 1か所 ・給食センター「つどい」(就労継続支援A型事業所併設) 1か所 今回紹介するのは、平成24(2012)年11月に開設された給食センター「つどい」である。本事業所には現在42名の職員が勤務し、うち16名が知的障害のある職員(療育手帳A2所持者2名、同B1及びB2所持者14名)である。
事業内容は、本法人の各種施設の利用者に向けた給食の提供、地域の独居老人宅への食事の個別配達(2つを合わせた給食の提供数は950食前後である)、味噌や菓子類などの食品加工・製造、そして一般の人が利用できる併設のビュッフェ形式レストラン「つどい」の運営である。
2.障害者雇用のきっかけ・経緯
中村邦彦理事長の話。「様々な理由で勤務先を退職し、故郷へ帰ってきたものの、受け入れ先がほとんどない地元ではなかなか次の就職先が見つからず、障害者たちは行き場をなくしてしまっていた。その現状を憂い、何とかしなければならないと考えた先代(初代)理事長が、まずは彼らの「居場所」を作ろうとしたことが障害者との関わりの始まり。
そこから数十年。障害者を就職に結びつけるために懸命に努力してきたが、人口も企業も少ないこの地域ではなかなか思うような成果につながらなかった。ならばいっそのこと、法人で働く場所を提供すればよいと考えたことがきっかけとなり、給食センターつどいの開設に繋がった。」
3.障害者雇用の取組(その1:採用ルート、労働時間、採用面接、通勤手段)
今回、取材に応じてくれたのは、給食センターつどいのセンター長である鶴留芳人氏と同センターのサービス管理責任者を務める福元ゆかり氏のお二人である。
給食センターで勤務する障害のある職員の採用ルートは二つ。ハローワークを通じての採用(現6名)と、併設する就労継続支援B型事業の利用者(以下「法人施設利用者」という。)からの採用である。雇用保険の制度であるトライアル雇用は利用していない。後者のルートだと、障害者個々の障害特性や能力をある程度把握できていることから、採用に伴うリスクは少ないものと考えられ、障害者支援施設を運営していることの強みでもある。
所定労働時間は、週30時間と40時間(1日6時間と7.5時間)があり、勤務時間は、障害のある職員に合わせた配慮を行っている。給料は、最低賃金を支払っている。
知的障害者の場合、業務内容にもよるが、療育手帳の判定区分と職務遂行能力とは必ずしも一致しないため、採用に当たっては必ず面接を行う。
面接では、健康面以外に、「体力があること(いずれの部門も立ち仕事で肉体的負担が大きい)」、「衛生観念があること」、「数を数えることができること」などをチェックしている。また、職場体験実習(以下「実習」という。)を通じて職業適性を把握し、採用の参考にしている。ちなみに実習にはもう一つのメリットがある。それは実習の段階で周囲との人間関係が少なからずできるため、採用後のコミュニケーションが非常にスムーズに図れることである。
通勤手段は自転車、自家用車、鉄道、バスなどの公共交通機関を利用する人もいるが、法人施設利用者からの採用者は、全員近接するグループホームからの徒歩通勤などである。
4.障害者雇用の取組(その2:業務における工夫や取組)
どのように仕事を覚えて貰い(教えていき)、どういった仕事を任せるか。障害者雇用管理マニュアルといったようなものはないが、大まかな流れ、パターンのようなものは存在する。
まず、全ての部門に共通する衛生管理に関する取組を紹介する。白衣や衛生靴の着用、手洗いの手順などはマンツーマンで教える。手洗いについては手順を図解したイラストを全ての水道の前に掲示してその徹底を図っている。
また、事あるごとにセンター勤務者全員を対象(障害の有無に関係なく)とした研修会を実施し、さらに毎月一回、障害のある職員だけを対象とした勉強会を行っている。こうした研修会や勉強会を行うに当たっては、洗剤や衛生資材などの購入先(取引先)にお願いすることも少なくない。ローコストで確実な効果が見込まれる点がメリットである。
次に給食部門に関しては、障害のある職員が従事している業務には(ア)下処理室における野菜の洗浄作業、簡単な皮むき・カット、ヘタ取り、(イ)調理室での食缶の準備、調理員の補助、(ウ)洗浄室での洗い物、(エ)盛付室で副食を弁当箱に盛り付ける作業、(オ)給食の配送先毎に、食器(飯茶碗や汁椀、しゃもじやお玉)の数を数えて分ける作業、清掃などがある。
新人職員は、職場に慣れるまでの間、洗浄室で、はし・スプーンなどの洗浄作業につかせるなどの配慮を行っている。副食の盛り付け作業では、見本を一つ作成して、それを見ながら作業を行ってもらうようにし、量などは、障害のない職員が常にチェックしている。(なお、ベテランになると見本は必要なく、口頭の説明だけで作業可能だという。)
味噌・食品加工部門では、午前中は清掃作業に従事している障害のある職員を、午後は同部門に配置し、味噌の計量を任せている。この職員が、清掃が好きで、数字に強く、さらに几帳面な性格であることが、この作業部門に適している。
その他、始業時及び終業時には必ず事務所に顔を出すことを義務付けている。常に様子を観察しておくことは異変の兆候の把握、早期のケアに繋げることができるからである。また、時や場所、相手や状況によって臨機応変に声のかけ方を変えるようにしている。ちょっとしたことだが、非常に効果的な労務管理である。
また、配置転換に関しても積極的である。気分転換(人間関係につまずかないように)や同僚との相性の問題を解決することにもなるからである。
手洗い場の様子
盛付作業の様子
5.障害者雇用事例(その1:Aさんの場合)
Aさん(男性)は給食センター「つどい」オープンからのメンバーである。高い業務スキルと適応力を持つ彼は、地域のイベントや学校が行うバザーなど外部の催しに同施設が参加するときにその出店先の仕事をこなすなど、同事業所における大きな戦力として活躍していた。
そんなAさんが平成28(2016)年のある日、退職を申し出た。センター開設から3年9か月余の勤務で自信を持った彼は、都会で働いて自活したいと言う。鶴留センター長は頭を抱えた。せっかく育て上げた優秀な人材が手元を離れていくことが単に残念だったというわけではない。これまでと全く異なる新しい環境のもと、十分な支援を受けることができるかどうかも分からない状態で、言わばゼロからやっていくことができるのかという不安が大きかったからである。
悩みに悩んだ鶴留センター長だが、チャレンジするAさんの背中を押してあげる決断をした。「ここがゴールではない。」、「どこにいても同じ釜の飯を食べた者は仲間である。」というのが法人の障害者雇用の理念の一つだからである。
(現在Aさんは首都圏で元気にがんばっているという。)
6.障害者雇用事例(その2:Bさんの場合)
Bさん(女性)はレストラン「つどい」のホールスタッフとして活躍している。知的障害と精神障害を重複している。元々、法人施設利用者であった彼女は、給食センター開設時に所属を移った。これまで鹿児島県障害者技能競技大会(喫茶サービス部門)に2度出場し、優秀な成績を収めてもいる。
勤務は8時30分から17時30分、休憩時間1時間30分(30分と1時間の2回)の実働7時間30分。この間、清掃作業などの開店準備、来店客へのお茶出し、一部メニューのオーダー取り、空になった料理の補充、レジでの料金徴収まで、ホールスタッフとしての全ての業務をテキパキとこなす。
ビュッフェ形式では、来店客のテーブルに空の食器がたまっていく。「空の食器が重ねてあったら下げてね。」と教えられ、それを忠実に実行していた彼女に対して、ある時、客からクレームがついた。「空の食器をすぐに下げられると、早く帰って欲しいと言われているようで不愉快だ。」
食器を下げるタイミングは客の個人差もあって一様ではないから「食器が重ねてあったら・・」と教えたのだが、これが裏目に出た格好だ。結論から言うと、空の食器を下げる前に「空いたお皿をお下げしてもよろしいですか。」と一言添えることで解決する。だが、サービス管理責任者の福元ゆかり氏は、これをただ単に指示の変更や追加で終わりとしない。クレームでいくらかへこんでいるBさんに寄り添いながらまずは「自分がお客様の立場だったらどう思うか考えてみよう。」と問いかけ、従来の指示を忠実にこなしてきたBさんへの感謝も伝えつつ、一言添えた場合との違いを一緒になって考えることで、理解ができたBさんは、新しい指示を一度で受け入れ、スムーズに行動に移した。
レストラン開店準備の様子
7.障害者雇用がうまくいっている理由(Bさんへのインタビューを通して)
Bさんに対して、「仕事を行う上で一番たいへんなことは何ですか。」、「お客さんがたくさん来たときはどうですか。」、「仕事をしていて一番うれしいことは何ですか。」、「できなかったことができるようになったときはどうですか。」とインタビューしてみた。
インタビュー中、内容を噛み砕いて易しいことばで質問する必要は一切なかった。「理解力は高いですよ」との福元氏のことばどおりである。
勤務当初苦手だった、空になった料理の補充もできるようになり、最近導入された「インカム」も使いこなせるようになってきた。B型事業所にいたころはやや引きこもりがちだったというが、レストラン勤務になってからはそういうこともなくなったというのもうなずける。今でも時折、気持ちが落ち込んでしまうこともあるが、退社後にリフレッシュして翌日にはまた元気に出勤するそうだ。
できないことをできないままで終わらせない。障害のある職員だけでなく周囲もあきらめない、雇用管理マニュアルがないから、ケースバイケース、トライ&エラーではないが、ある意味手探りで課題克服を目指す。こうした粘り強い姿勢が障害者雇用を成功に導いている秘訣の一つであろう。
このようにして得た小さな成功体験が積み重なることで、障害のある職員は自信を持ち、このことが就労へのモチベーションを高めるとともに、自らの成長を実感することにも繋がる。そもそも仕事には、仕事を通じてのみ得ることのできる喜びや充足感(これは一種の幸福と言える)がある。だから仕事をすることは、人間の幸福追求の権利でもあるわけだ。
AさんやBさんに限らず、ここで働く障害のある職員は自信と成長の実感を手にすることができるから、雇用(職場定着)がうまくいっているのではないか。
一方、鶴留センター長や福元氏を始めとする、障害のある職員を取り巻く同僚は、「あの言い方でよかったのだろうか。」、「もっと別な方法があったのではないか。」と常に自己の指導や発言を振り返り、自問自答の毎日を送っているという。これは障害のある職員と強い信頼関係で結ばれていたいという思いが根底にあるからこその悩みではないか。ここにもまた、障害者雇用成功の秘訣があると考える。
8.結びに代えて
Bさんは毎月の給料日をたいへん楽しみにしている。将来の夢は一人暮らしをすることだ。働く喜びと夢を持つことができる職場、障害者にとっても障害のない人にとってもある意味理想の職場である。
執筆者:社会保険労務士ほりえ事務所 所長 石神 啓介
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