事業所外観

1．施設の概要

同法人は昭和49（1974）年に認可を受け、現在では特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、デイサービスセンター、介護予防センター、居宅介護支援事業所、認知症対応型共同生活介護など高齢者の生活を支援していく様々な事業を展開している。西野ケアセンターは平成11（1999）年11月に特別養護老人ホームとして開設された。従来型の特別養護老人ホームとして、入所定員は80名、短期入所は11名の利用が可能である。同施設は5階建ての2階・3階に置かれており、同建物内には軽費老人ホーム（4・5階）、デイサービスセンター（1階）なども併設されている。

清潔感があり、皆が明るく楽しく過ごせるよう専門性を持ち、また連携を図り、信頼される施設を目指して運営が行われている。敷地内にはシンボルとなる藤棚があり、時季にはきれいな花を咲かせ、利用者や近隣住民を楽しませている。

2．障害者雇用の経緯

（1）障害者雇用に対する施設の考え

同法人は障害の有無に関係なく、その人が力を発揮できるような業務への配置が重要であると考えている。障害者雇用を進めたきっかけとして、職員の確保を行っていくための「働きやすさ」を大切にしていく中で、施設入居者と関わる介護スタッフの専門性が十分に発揮できる業務体制づくりが必要と考え、業務の役割分担を進めていったことがあげられる。介護に関する専門性がより発揮できるよう、介護スタッフの業務を一般的なものと専門的なものに分けることにより効率化を進めている。特にバックヤードにおけるベッドメイキングや洗濯などの業務については、一般業務として位置付け、介護スタッフ以外での対応が可能と考え、そのスタッフとして障害がある人の雇用を進めていくこととなった。

多くの介護現場では、介護スタッフの業務は身体介護、環境整備、事務作業など含め多岐にわたっている現状であり、このような視点からの取組は、様々な施設で参考となるものである。

また、これまでも同施設では、障害がある人の雇用を行っていたが、受け入れ体制がシステム化されておらず、支援に携わるスタッフ「個人」のつながりの中で行われることが中心であった。しかし、それでは支援スタッフの配置転換などで、支えていた「個人」がいなくなってしまうと、うまくいかない状況となり、継続したサポートができないため、組織としてスタッフを配置するなど、障害者雇用の支援体制のシステム化を進めている。

法人全体としての障害者雇用率は3.6％であり、さらに同施設の雇用率は5.5%と高くなっている。

（2）障害者雇用における対応

業務内容や条件を勘案して、障害のある人の雇用を進めていく中で、ハローワークを活用した求人を進めている。これまで採用を少しずつ増やして、現在では5名の障害のある職員を雇用している。採用にあたっては面接を行うが、その際、就労支援に携わっているスタッフやその人が利用しているグループホームのスタッフなどの同席を認めるなどの配慮を行い、必要な情報共有を行える体制をとっている。採用にあたっては、障害があることについて必要に応じて他のスタッフへも伝えることの本人同意を得ている。

採用後、業務に慣れるまでは基本的にジョブコーチを活用しながら取り組んでいる。すべての障害者に対してジョブコーチが入り、その期間に同施設としても支援のノウハウなどの情報提供を受けながら対応を進めている。本人が業務に慣れてきたらジョブコーチの支援日数を徐々に減らし、現在では、年に数回の実務に関する検証などでかかわる程度となっている。ただし、何か困ったことがあればすぐにジョブコーチに相談できる体制は確保している。同施設としても相談窓口となるスタッフを1名配置し、本人の相談や、ジョブコーチとの情報交換などを行っている。窓口スタッフと障害のある職員との関係性はとても良好であり、ちょっとした悩みなどは気軽に相談が行われている。窓口スタッフに話しづらい相談などは別の上司が対応する体制も整えられている。また、定期的な面談も年2回ほど行われている。

3．障害者の業務内容

障害のある職員が行っている主な業務内容としては、バックヤードで入居者の衣類などの洗濯や乾燥、清掃、ベッドメイキングを行っている。ベッドメイキングなどは入居者一人ひとりに求められる敷き方が異なっているが、それらをすべて把握し、対応することで入居者からの信頼も厚い。

バックヤード業務は障害のある職員5名が携わっており、障害のないスタッフは窓口対応で関わっているのみである。勤務はシフト制となっており、現在は6時間程度の勤務の者が多い。基本的にはチームで業務に取り組んでいるが、障害の特性に合わせて個別で業務を行う方が良い場合や、チームで業務を行う方が良い場合といった点に配慮も行われている。

業務中に体調を崩した場合には休みをとれるような態勢も整えられており、またチーム体制であるため、万が一、誰かが体調不良で欠勤したとしても、お互いにフォローができる状態で、仕事をしていく上での安心感にもつながっている。

一方、バックヤードで過ごすことがほとんどであるため、介護スタッフなどと関わる機会は少ない状況である。

4．A氏の就労状況

A氏（20代　男性　精神障害）は地域障害者職業センターにおいて3か月ほど職業準備支援を受けた後、同施設の紹介を受け、実際に施設見学を行った。印象も良かったため、面接を受けてそのまま採用が決まった。働いて約1年経つが、体調不良での欠勤が2回程度あったものの、安定して勤務することができている。以前は服薬の調整などを行っていたが、現在は状態が安定している。

バックヤードチームの関係性も良く、昼食を一緒に食べたり、懇親会などを行って交流したりと、公私ともに充実した生活に結び付いている。

業務における細かな点もしっかりと把握し、入居者からの信頼も厚くなっている。同施設にとってなくてはならない重要なスタッフであり、担当している責任者からも安心して業務を任せられる存在となっている。現在ではA氏がバックヤードの勤務シフトを作成したり、後輩の指導を行うなど中心的な役割を担っている。

A氏は、「介護施設におけるベッドメイキングや洗濯などバックヤードの業務について、これまで経験したことがないため、最初は難しくて大変さもあった。特に、入所者一人ひとりに対応が異なる点について覚えていくことが難しかった。今の仕事は充実しているので、精いっぱいやって、これからも続けていきたい。」と話しており、大変さもあるが充実した就労となっている。

A氏の作業の様子

5．障害者雇用の効果と更なる向上にむけて

障害者を雇用することで、各スタッフの専門性の向上や役割が明確になるなど業務の効率化やスタッフの定着に結び付いてきている。障害者雇用は障害がある人のためという視点ではなく、同施設全体の働きやすさを向上させていく取組の一部であるという視点がポイントになっている。また、スタッフは福祉を学んできた者が多いが、高齢者に関することが中心で障害者についての知識は不足している部分もある。身近にいる障害がある人との接点を通して障害（者）に関する理解を深めることは、結果として「人」と関わる専門職として、より専門性の高い知識を有する人材育成にも結び付いていくことが効果として期待できる。また、福祉・介護職を志す学生などが実習に来た際には、障害者雇用の現場を見てもらい、高齢者だけではなく、障害者の働く場を知り、理解を深める機会にもなっている。

課題としては、以前に聴覚障害の人が面接に来たことがあったが、聴覚障害に対する受入体制が十分に整っておらず、そのときは断ってしまったことがあげられる。今後は様々な障害（者）について、雇用の受け入れができるように、スタッフの資質の向上や支援体制の整備を行っていきたいとのことであった。

人手不足が言われている福祉の現場において、同施設の取組は障害者を雇用するといった側面だけではなく、福祉の現場において働きやすさを作っていく、スタッフみんなの「WIN－WIN」を作っている取組の事例である。

執筆者：北海道医療大学看護福祉学部 近藤　尚也