事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

セコムグループは、昭和37（1962）年日本初の警備会社として創業し、現在ではセキュリティ事業の他に、防災、メディカル、保険、地理情報サービス、情報通信、不動産の事業を展開している。そして、これらの7つの事業を結集し、誰もがより「安全・安心・快適・便利」な社会の構築を目指して、“ALL　SECOM”（セコムグループ総力の結集）で取り組んでいる。

セキュリティ事業では、提供するサービスのクオリティをより一層向上させるため、セキュリティ機器の開発・設計、製造、販売、設置工事や運用・保守まで、グループ内で自己完結的に行う一貫責任体制を構築している。

セコム工業株式会社は、昭和52（1977）年10月に設立。セコムグループにおける製造部門の中枢工場として、セキュリティ機器の開発・設計、製造を行う。NHQ運動（TQM活動）を軸に高いレベルの生産管理体制・品質保証体制を確立するとともに、多品種少量生産に対応する独自の生産方法を実践している。品質/環境マネジメントシステムISO9001/14001をそれぞれ平成6（1994）年と平成11（1999）年に取得している。

また、平成1（1989）年からハーブの生産・販売を開始し、東日本大震災からの復興を目指す地元企業と協力し、新商品の開発も行っている。更に、セコムグループの物流拠点として、AED・物品・工事材料の配送及び北日本方面への機器配送業務も担当している。

こうした取組により、平成4（1992）年宮城県労働基準局優良賞、平成8（1996）年労働大臣進歩賞、平成10（1998）年全国労働衛生週間努力賞をそれぞれ受賞した。

（2）障害者雇用の経緯

○平成24（2012）年（なにから始めよう？）

ア．

法定雇用率未達成であった。

障害者雇用を進め障害者雇用率を達成することは、企業としての社会的責任であるが、安定した障害者雇用を進めるにあたり以下のことを前提とした。

（ア）

社会人として当たり前のことを当たり前にやる。（あいさつ、身だしなみ等）

（イ）

会社の一員として、甘えることなく働いてもらう。

（ウ）

最終的に、会社にとって必要な戦力となり、経済的自立（収入）を目指す。

イ．

宮城障害者職業センターに相談

社内で障害者雇用についてヒアリングを行った。

ほとんどの社員が障害者と接したことがなく、業務内容や雇い入れた後の接し方のとまどいなど、障害者雇用に対するマイナスのイメージを持つ社員が多くいた。

不安を解消していくため、宮城障害者職業センターの障害者職業カウンセラーから課長会（社長・各セクションの部長も参加）で障害特性や障害者雇用を進める上での配慮事項等の情報提供を受けた。

課長会の結果を受け、社長が障害者雇用を積極的に進めていくことを決定した。社長のバックアップの下各部門の幹部が意思統一し、障害者雇用を進めるため社内体制の整備を進めることになった。

○平成25（2013）年（イメージがつかめてきた：情報収集＆社内環境整備）

ア．

県南障害者就業・生活支援センターに相談し、障害者雇用を進めている県内の企業や就労支援施設、支援学校等の施設見学を行い、障害者雇用を進める上での課題等の情報収集やネットワーク形成を行った。

イ．

障害者職業生活相談員資格認定講習受講（2名）

社内体制整備の一環として、障害者の受入部門のトップである取締役管理部長ほか1名が障害者職業生活相談員資格認定講習を受講し障害者（雇用）への理解を深めた。

○平成26（2014）年度（実習生を受けいれてみよう：Start）

ア．

実習生受入：3名

障害者雇用のスタートに向け、社内体制が少しずつ整備されてきたことから、実習生を受け入れることとした。

支援学校から1名、転職者1名、就労支援施設から1名の計3名で2週間の実習をスタートした。しかし、その内1名（精神障害者）は出社時に不眠を訴えることや通勤中に気分不調を訴えた。本人と面談を行い、実習は3日間で終了となった。この大きな要因として、送出側と受入側との間で、当該実習生に関する事前情報の収集・確認が不十分であったと考えている。このことは、その後の実習や採用に際して大きな教訓になった。

他の実習生2名は、製造現場に配置され部品をカットする作業に従事した。現場の社員は、どのように対応してよいかよく分からず不安な気持ちで遠くから見守っていた。

○平成27（2015）年（見えてきた課題を整理して、雇用から就労継続へ）

障害者を採用するに際し、どの部署（どのような仕事）に配属するのか、だれが指導するのか、どのように指導するのかなどの課題が考えられた。

ア．

平成27（2015）年4月、採用試験を経て前年実習した2名を採用した。

イ．

管理部（サポートライン）に配属

サポートラインとは製造現場から切り出した業務を請負う部署である。

ウ．

だれが教える、指導する

管理部総務課主任（保健師）が障害のある社員の教育担当になる。また、障害のある社員に関する対応は全て担当者を経由する、One Stop型とした。

エ．

就労継続へ

製造現場の不安を払拭しサポートライン（働く場）で育てていくための取組を開始した。障害のある社員には社会人としての基本（あいさつ・身だしなみ等）を身につけ、分からないことは聞く（聞いていいんだよということの理解）を徹底した。

また、指導する側も、普段何気なく使っている言葉や暗黙の了解が伝わりにくいことを理解し、「ここ・そこ、もう少し」等々の曖昧な表現をなくす。見える化（可視化：口頭では伝わりにくい指示も、写真や絵にすれば分かりやすくなる）を行う。工程を分ける。そして、なぜその作業をするのかを何度もくり返し伝えた。

更に、企業在籍型職場適応援助者の資格を取得し、よりよい職場環境の整備へ向けた取組を行い平成27（2015）年には、7名の実習生を受け入れた。

2．取組の内容と効果

（1）取組の内容

平成28（2016）年（就労継続・会社へ貢献）

4月に前年の実習を経てAさんを採用した。

Aさん（発達障害者）が入社し、前年入社の2名と併せ3名がサポートラインで働く体制となった。サポートラインでは「もっとよくなれ、サポートライン」を合言葉に、誰でも初めからうまくできなくて当然。「できる」を積み重ねることで、やる気と自信がでて仕事が面白くなる。更に、「できる」を増やすためにみんなで考え、「みんなの手順書」を作るなど様々な改善提案を行った。

Aさんは、以前働いていた職場では、注意されることが多く、「自分は嫌われているのでは」と思っていた。

Aさんは、他の社員と対面で作業をすると自分から話しかけてしまい、作業が止まってしまう。そのため、結果として仕事が進まない状況になっていた。こうしたAさんの障害特性を理解し、作業環境を改善した。サポートラインのレイアウトを、対面の作業デスク、壁面と向き合うデスク、他者に背を向けたデスク等のレイアウトに変更し、それぞれの障害特性に合わせた作業場所を選ぶことで、集中して作業できる環境を整えた。

Aさんは新たな作業環境で作業を行うことで、今までの自分は「仕事ができていなかった」ことに気付いた。

そこで、なぜその作業をするのかを、何度もくり返し伝え、目標シートを作成して、できたことを自分の言葉で記入させたり「ほめる」ことで、Aさん自身ができたことを実感できるように工夫した。

Aさんにとっては、前年入社した2人（ツートップ）が大きな目標となっており、追いつき追い越せるように頑張っている。

当初、サポートラインに仕事を切り出すのを不安視していた製造現場も、集中力が高いという障害特性から、業務によっては障害のない社員より仕事が早いことや、丁寧な仕事ぶりを理解してきた。

その結果、当初2つの業務を引き受けスタートしたサポートラインは、現在では生産・物流業務21種類の業務（定期・不定期を含め）を引き受けるまでになった。

作業風景

視線を遮り、作業に集中するための配慮

（2）取組の効果

最終的に会社にとって必要な戦力となり、経済的自立（収入）を目指すとの方針のもと、1～2年間を経過した現在の仕事の出来ばえを、会社経営陣が高く評価している。

その結果、平成29（2017）年から時給の大幅アップを決定した。

また、サポートラインのメンバーが毎年の研修（旅行）を自分たちで企画するようになったり、社内の業務改善提案に応募するようにもなった。

3．今後の展望と課題

サポートラインが稼動し3年目に入り、障害のある社員に対する社内評価も改善してきた。

今後は、外部に依頼している業務（清掃等）の内製化を進めるなど、会社の原価低減に貢献できる分野で更に障害者雇用の拡大を図っていきたい。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
宮城支部　高齢・障害者業務課