事業所外観

1．事業所の概要、難病のある者の雇用の経緯

（1）事業所の概要

同法人には、医療機関と介護保険関連施設があり、「『専門的医療サービス』と『地域のニーズに即した高齢者・各世代へのトータルケアサービス』を提供する」という理念の元に運営している。

平成元（1989）年に蔵王みゆき病院として開院した後、老人デイケア、介護老人保健施設、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、通所介護事業所、通所リハビリテーション事業所、認知症対応型共同生活介護などを開設している。医療機関ではベッド数を増床するだけではなく、回復期リハビリテーション病棟の設立とリハビリセンターを開所し、医療と介護サービスのトータルサービスを提供できるように取り組んでいる。同法人が運営する施設は上山市に留まらず、山形市や河北町にもサービス提供施設を開所し、住み慣れた地域で生活ができるようサービスの提供を行っている。

なお、運営施設は、上山市内にみゆき会病院、介護老人保健施設みゆきの丘など、山形市に、南館クリニック、ライフケアセンター南館、河北町に介護老人保健施設紅寿の里などがあり、山形市のライフケアセンター南館は居住安定化モデル事業として認定を受けている。

（2）Aさんの求職活動と雇用の経緯

就職活動はハローワークで難病（ベーチェット病）を開示して行った。同事業所のパートタイム求人は午前9時から午後4時までの6時間勤務であったが、Aさんから体力面に関する不安の申し出があり、ハローワークを介し事業主の合理的配慮のもと求人票に記載のあった勤務時間を2時間短縮し午前9時から午後1時までの1日4時間勤務で雇用されることになった。

2．Aさんの業務内容と事業所の取組

（1）Aさんの業務内容

介護老人保険施設みゆきの丘に所属し、介護助手として勤務しているが、これまで製造業に従事しており、介護に関する知識は持っていなかった。

採用後2週間かけてリネン交換などの手順指導を受けた後、5階建て建物140床のうちの3階居室47床全てを1人で任され、1週間（月曜日～金曜日）で全て交換することがメインの業務となっている。

作業は基本的に利用者がベッドから離れている時間帯に行うこととなるため、食事や個別の入浴時間、入所・退所のスケジュールなど、利用者各人の予定を把握することが必要となる。そのため、業務スケジュール表や週間助手業務チェック表、入退所予定表を自ら作成、準備し、漏れのないよう計画的に作業を行っている。また、急な対応を求められた場合も指示にあわせて円滑に業務遂行ができるよう、余裕を持って計画し、作業に取り組んでいる。

（2）事業所の取組

ア．

募集から採用まで

同事業所では、リネン交換、施設内の共有スペースと居室の環境整備、入浴介助の補助などを行う「介護助手」を募集していたが、「介護助手業務の全てを行える人でなければならない」という考えに固執することなく、募集、面接を実施した。その結果、介護に関する知識や経験はなかったが勤務時間を配慮することでリネン交換、環境整備業務を行えることが分かり採用となった。

採用後は「人手が増えて助かる」との想いがある反面、難病に関する知識や対応の仕方などの経験が不十分で、雇用継続に対する不安があった。また、病気は人によって症状や程度が異なるため、本人からの配慮に関する申し出には一つひとつ確認し可能な範囲で対応した。

採用に際しての配慮としては、申し出のあった勤務時間（短時間勤務）への配慮のほか、足のしびれと、介護に関する経験不足によるリスクを考慮し、利用者に触れる業務を避け、リネンの補充業務、発注業務などの在庫管理を加えた。また、リネン交換業務は通常2人1組で行うが、疲労が蓄積しても相手のペースに合わせてがんばりすぎてしまうため、ペアを組まず単独で作業することとしたほか、不明な点が出た際の確認担当者を決めたこと、業務遂行の目標（1週間で全部）を決めたこと以外は本人に任せることとした。

イ．

雇用後から現在

雇用後3か月が経過した頃、Aさんからの勤務時間延長の申し出があり、1日4時間の勤務を6時間の勤務へ伸ばした。

また、勤務時間の延長にともない担当業務拡大の検討が必要となり、所属部署人事担当者（以下「人事担当者」という。）から各部署へ業務の切り出しを依頼、提案された新規業務を精査しAさんの新たな業務として追加した。

その結果、これまでのリネン交換、物品補充、環境整備のほか、クリーニングサービスのとりまとめ、事務処理関係業務の補助として、書類の整理、施設利用計画書の入力などパソコン操作に関する業務、処方薬に貼付するための名前シールの作成など、以前の職場で培ったパソコンスキルを活用できる業務も増やした。

なお、契約更新は年度単位で行われており、更新に係る面接が年1回実施されているほか、日々の業務の中でもAさんと人事担当者や従業員間の声がけが常に行われており、良好な人間関係が構築されている。

また、ハローワークが「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金」に係る実地調査で同事業所を訪問した際に、常に体調悪化への不安がある旨の相談をしている。

3．取組の効果と課題

Aさんが希望する短時間勤務から雇用を開始したこと、ペアを組まず単独で業務を行ったことなど、当初から過度なストレスがかからないよう相談しながら対応したこと、また、業務遂行の目標をおおまかに設定したことは、Aさん自身のペースで計画的に作業でき、安定した勤務や業務遂行につながっている。

Aさんにとって安定した勤務や業務遂行、勤務時間の延長、従事業務の拡大は自信となっただけではなく、契約更新時に時間給が増額され、モチベーションの維持・向上にもつながり、好循環となっている。

同事業所にとっては、Aさんの熟練度が増したこと、業務内容の増加により、他の従業員(主に介護職)の雑務に要する負担が軽減され自身の業務に専念でき、よりよいサービスの提供につながっており、必要な人材になっている。

現在は各部署から人事担当者にAさんへの作業依頼の相談が出るようになっているが、安定した勤務の維持のため体調や業務遂行状況を確認し、過度な負担が発生しないように留意しつつ、作業の可否を判断している。

同事業所の従業員は30代が中心でAさんより年下の場合が多く、平日の昼間であればいつでも会えること、50代という年齢や人柄から同僚に慕われ、休憩場所などで若い従業員の良き相談相手となっている。本来業務ではないがこの様な場面でも採用したメリットを人事担当者は感じている。

今後の展望として、Aさんがこれまでの経験を生かせる備品の修理や、パソコンを使用した管理表の作成などの業務を増やしていきたいと考えている。互いにどこまでが対応可能なものなのか探りながら調整を図っている現状である。

執筆者：独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
山形支部　高齢・障害者業務課