事業所外観
（平成30（2018）年1月に開院予定の新病院棟）

1．事業所の概要

大原綜合病院は、病院、看護専門学校、保育所の7施設を持つ一般財団法人大原記念財団が運営する、福島県北地域の中核となる医療機関である。明治25（1892）年の開院以来大原綜合病院は、125年の歴史を誇り、「地域医療支援病院」や「日本医療機能評価認定病院」等の各種認定を受けた429床の病院である。脈々と流れる伝統の中で受け継がれてきた「人を愛し、病を究める」という法人全体の理念は、利用者を中心とした最良の医療を積極的に探求していくものであり、医師や看護師をはじめ医療に携わるすべてのスタッフが、ホスピタリティあふれる対応で最善を尽くし、利用者が元気になって笑顔を取り戻す医療を目指している。

平成30（2018）年1月には、救急医療及び専門医療を更に充実させた新病院に移転・開院することとなっている。新病院は、「中心市街地の活性化に関する法律」（平成10年法律第92号）に基づいて策定された「福島市中心市街地活性化基本計画」の「上町地区暮らし・にぎわい再生事業」にも指定されており、県内外の病院や診療所等と連携しながら、地域医療を支え、市民に寄り添う「信頼される市民病院」として歩んでいる。

2．障害者雇用の経緯、背景及び理念

障害者雇用については取り組む必要性を感じていたものの、医師や看護師といった免許が必要な従業員が8割を占めていることから、障害者雇用を広く進めることが難しい状況であった。

しかしながら、勤続年数の長い障害のある従業員の定年が迫ってきたこと、「障害者の雇用の促進等に関する法律」により従業員数に応じた雇用義務による法令遵守及びCSR（企業の社会的責任）の観点を踏まえ、法人全体として障害者雇用の拡大に努めている。

また、身体障害者がなかなか採用できないこと、障害者である求職者の約半分が精神障害者であること及び精神障害者の雇用が義務化されることなどを踏まえ精神障害者の雇用も併せて進めることとなった。

なお、「個人に合わせた業務量の設定」を障害者雇用の理念として、できるだけ長く病院において働いていただけるように取り組んでいる。

3．企業における体制等

障害者雇用を進める上で、以下の取組を行った。

（1）管理者研修

障害者雇用の必要性について、管理者研修で説明を行い、理解を進めた。

（2）障害者が担当する業務の洗い出し

病院内の各部署において、障害のある従業員を受け入れることができるよう職域開発・業務開拓を実施し、障害のある従業員を配置する部署及び仕事内容をある程度確定したうえで採用活動を行うこととした。

（3）職場見学の実施

採用内定者について、事前に従事する業務の職場見学を実施し、ミスマッチを防ぐ取り組みを行った。

（4）配属予定先の課員等への周知

障害のある従業員が配属される予定の部署において、障害の状況や留意事項を課員に周知・共有した。障害のある従業員に対する指導者を指名し、指示する者を所属課長又は指導者からのみとした。

（5）組織図に美化チームを整備

清掃業務のイメージをよくするため、庶務課の一部門として美化チームを整備した。

（6）障害者職業生活相談員資格認定講習の受講

標記講習について、人事担当者を受講させている。今後は障害のある従業員の配属部署の所属長の受講も行うことを考えている。

4．採用活動

2の経緯を踏まえ、以下の採用活動を行っている。

（1）ホームページを活用した職員募集・採用活動

一般財団法人大原記念財団本部のホームページにおいて、他の職種・募集区分と同様に、「事務職 パート（障害者）」の募集区分で掲載し、随時募集・採用活動を行っている。

（2）ハローワーク担当者との連携による採用活動

病院内各部署において職域開発・業務開拓し、障害のある従業員を配置する部署及び仕事内容をある程度確定したうえで、ハローワークの担当者に病院が求める人物像について説明を行い情報共有してマッチングを図っているほか、ハローワーク主催の障害者の就職説明会に積極的に参加し、採用活動に取り組んでいる。

5．障害者の従事業務

病院内の各部署において、障害のある従業員を受け入れることができるよう職域開発・業務開拓を積極的に行っている。現在、障害のある従業員が行っている業務は次のとおりである。

（1）身体障害者

入院されている利用者のカルテの各部署間の運搬、入院及び退院される利用者に対する各種説明、利用者の病歴・栄養関係に係るパソコン入力・管理業務等（看護部、病歴管理室）

（2）精神障害者・発達障害者

各種書類の印刷・発送等の事務補助、病院内清掃及び観葉植物の管理、利用者情報の情報システム入力、カルテ・その他の書類等の各種整理。（総務部総務課、庶務課、医事課）

6．障害者の職場定着への取組

（1）全体的な取組

ア．

所属長との面談

最低年に1回、障害のある従業員が所属している各所属部署の所属長との面談を実施している。面談においては、日ごろの業務遂行を行ううえでの課題やその他の困りごと、不安に感じていることはないかなどを含めて聞いている。ヒアリング内容は、ヒアリングを実施した所属長と総務部人事課で共有することとしており、改善等を行ったほうがよいと考えられる事項があった場合は、協議を行ったうえで改善を図っている。

イ．

採用時等におけるヒアリング

障害のある従業員を採用する際に、所属長等との面談においてヒアリングを行い、就業時間帯や業務内容等の本人の希望を踏まえ、個々人に応じた業務設定を行うようにしている。

例えば、ヒアリングを行った際に、体調等の理由により午前中から午後の早い時間にかけての業務時間を希望する場合、希望に応じた始業・終業時間にしたうえで、午前中に業務が集中する部署に配置するなどの措置を行っている。

また、採用してから一定期間経過後に障害のある従業員からヒアリングを行い、ヒアリングを踏まえた始業・就業時間、仕事内容の変更等柔軟な処置を講じている。

さらに、一定期間問題等がなければ、基本給をあげるなどモチベーション向上の取組も行っている。

（2）ヒアリング等を踏まえた障害者に対する取組例

ア．

身体障害者

体に負担のかかる作業はさせないように配慮している。また、採用当初別の業務を行っていた肢体不自由のある従業員に対し、身体の負担感等があるとのヒアリング結果を踏まえ、業務をカルテ運搬業務に変更し、運搬に当たってはカートを導入して負担の軽減を図るなどの取組を行った。

イ．

精神障害者・発達障害者

対人面での不安があることから、多数の利用者の対応が必要な受付や会計業務は避け、利用者対応のない部署に配置した。また、本人の体調を優先しており、適宜他の職員がフォローしている。

（3）地域障害者職業センターとの連携

精神障害のある従業員を雇用するにあたって、地域障害者職業センターの支援等を受けた。

本人の希望等もあり、病院としても初めてジョブコーチ支援制度を利用し、精神科医やジョブコーチの連携により障害のある従業員に対するアドバイスやフォローを受け職場定着を図り、病院内においてもノウハウの蓄積を行っている。

7．障害者雇用の効果

病院内各部署において職域開発・業務開拓した業務等により、障害のある従業員を配置している中で、ワークシェアリングが進み他の従業員の残業の軽減につながったこと、障害理解が進んだことが効果としてあげられる。また、カルテ整理など個々の障害特性にあわせて業務を切り出した結果、障害のある従業員以外の従業員よりも効率的に作業が進んだ例もあったことなどが効果として挙げられる。

8．今後の展望・課題

障害者雇用を積極的に進めているところであるが、現時点での課題は以下のとおりである。

（1）障害者担当者へのフォロー

障害のある従業員から相談を受けた際に、内容によっては担当者が悩むこともあるので、適宜所属長等からのフォローを行う必要がある。

（2）事務職員以外の部署への展開

医師や看護師といった免許が必要な従業員が8割を占めており、事務職以外の部署への採用・配置が難しい状況にある。病院内各部署において職域開発・業務開拓した業務に係る採用枠が埋まってきている状況もあり、新たな業務の洗い出しが課題となっている。

今後においても、更に業務の切り出しを検討することとしている。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
福島支部　高齢・障害者業務課　楢原　國章