支援機関との密なる連携・協力体制を強みに
職員全員で障害者の長期雇用に向けた職場環境作りを推進
- 事業所名
- 社会福祉法人安房広域福祉会 (指定障害者支援施設 中里の家)(法人番号 1040005014957)
- 所在地
- 千葉県館山市
- 事業内容
- 知的障害者支援施設(生活介護、施設入所支援等)
- 従業員数
- 全社 131名(当該事業所 70名)
- うち障害者数
- 全社 6名(当該事業所 3名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 知的障害者の生活支援(食事・入浴・運動等の介助) 内部障害 知的障害 精神障害 4 知的障害者の生活支援(食事・入浴・運動等の介助) 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要
房総半島の南端、平砂浦を望む台地に、社会福祉法人安房広域福祉会が運営する重度知的障害者の生活支援施設である「中里の家(定員80名)」がある。隣地には同法人が運営する就労継続支援B型事業所「中里ワークホーム(定員65名)」と「障害者就業・生活支援センター 中里(以下「支援センター中里」という。)」があり、道路を隔てて千葉県立安房特別支援学校がある。同法人は、安房地域で初めての知的障害者の施設として昭和61(1986)年に設立認可され、翌年「中里の家」を開設、平成7(1995)年には「中里ワークホーム」を開所した。今では、その他に「ふれあいショップ平砂浦」「社会就労センター和麺屋中里」「就労継続支援B型事業所ワークス館山」「児童デイセンターこすもす」「ケアホームなかざと」「ケアホーム平砂浦」「生活介護事業所桜の里」の7箇所の知的障害者のための各種就労・生活支援施設を同地域に展開している。
「中里の家」はその中核施設であり、利用者一人ひとりのニーズを尊重しそのご家族と共に個別支援計画を作成し、その支援計画に基づいたライフスタイルとそのサポートを実施している。また、運動や創作活動・作業を中心とした「生活班」、高齢や身体的な理由からリハビリテーションを必要とする利用者を対象に体操やストレッチを行う「リハビリ班」、アルミ缶の回収・プレス、草花の栽培など個々の利用者に合った作業を行う「軽作業班」、露地やハウスで草花・野菜の栽培を行う「農園作業班」、外出やカラオケ、お菓子作りなどを行う「余暇活動」等があり、利用者の方が楽しく安心して生活できる施設運営を目指している。
現在雇用している精神障害のある職員3名は、「生活班」、「リハビリ班」、「軽作業班」にそれぞれ所属している。
2.障害者雇用の経緯
同法人が障害者雇用に取り組むようになったのは、平成22(2010)年4月に障害者就業・生活支援センター事業を受託した際、地元のハローワークから法人としても障害者雇用に取り組むよう勧められたことが契機になっている。また、安房地域の利用者のニーズに応えていくためにも、恒常的な介護・福祉人材の不足の中で障害者雇用を検討していく必要があると感じていた。そこで、ハローワークや支援センター中里と連携を図りながら、「中里の家」を中心に障害者雇用を推進する取組が開始された。
また、3名の障害のある職員の雇用の経緯は次のとおりである。■Aさん
最初に雇用することになったAさんは、支援センター中里からの紹介で、実習生として「中里の家」の支援員補助の仕事に従事することになった。ことば数は少ないものの温厚な性格で、特に「介護の仕事がしたい」との強い希望がありヘルパーの資格取得に向け勉強するなど介護の仕事に対する強い意欲が感じられた。同法人としても介護や福祉の仕事に関心のある人を採用候補者の条件としており、このことがAさんの採用の決め手となった。実習当初はベテランの職員がAさんに付き添い、利用者の部屋の清掃、衣服の整理、食事の介助やトイレの誘導等の業務を一つひとつ確認しながら指導を行った。そして実習期間を経て、担当業務や仕事の仕方にも慣れ、利用者のAさんに対する評価も高かったため、平成25(2013)年3月に支援員補助として、本採用となった。採用後もAさんには、利用者との円滑なコミュニケーションが必要となる「散歩の同行」、「直接利用者の体に触れるおむつ交換」の仕事にチャレンジさせるなど、本人の可能性を見極めながら業務の範囲を徐々に拡大するための育成・指導を行った。
■Bさん
Bさんは、ハローワークを通じて応募があり、平成26(2014)年4月に支援員として、本採用となった。Bさんは利用者に喜んでもらえる介護の仕事に誇りを持っており、手の不自由な利用者に対する食事の介助、トイレの介助なども苦にならないと言う。平成26(2014)年と平成27(2015)年は比較的安定して勤めていたが平成28(2016)年9月からしばしば体調を崩すことがあったので、理由を確認すると精神障害があるとのことであった。家庭環境が影響し情緒不安定な状況が続き入退院を繰り返していたが、家庭環境が改善され徐々に安定してきた。その後も職場の人間関係により体調を崩すことが繰り返され、長期間休むこととなった。この間、本人と支援センター中里の職員、事業所の職員が定期的に連絡を取りながら、職員の配置や業務内容の見直しなど職場復帰に向けた取組を行うことで平成29(2017)年4月より復職している。
■Cさん
Cさんは、Bさんから半年遅れで支援員として採用になった。パソコン操作に優れ毎日行っている介護サービス等の記録も正確に入力するなど、職員間の利用者情報の共有にも寄与している。Cさんは、過去に、自治体で仕事をしていたが、体調を崩してから支援センター中里を利用し、その後、人に接する仕事にやりがいを感じて同法人を希望した。本人は、「利用者が笑顔になってくれることに喜びを感じる。いつまでも、利用者の傍で支援の仕事を続けていきたい。」と言う。現在、社会福祉主事の資格取得に取り組むなどとても意欲的である。なお、Cさんが抱えている私生活面での精神的負担を考慮し、支援センター中里に対して、支援の継続を依頼している。
3.取組の内容
指定障害者支援施設「中里の家」に障害のある人を職員(支援員)として受け入れる場合に、越えなければならない「ハードル」がある。それは、同施設には重度の自閉症やダウン症の利用者がおり、このような利用者に対して、コミュニケーションを円滑に取りながら介護・福祉のサービスを提供できる人材が求められることから、精神障害のある人が、このような「現場」に本当に支援員として、勤務できるかどうかが大変危惧された。
そこで、先ず精神障害の特性や配慮すべき事項等について組織として学習することからはじめ、その上で本人の自主性を尊重し、本人の主体的な努力によってこなせる仕事を徐々に拡げていくことを基本に、担当する職員全員で辛抱強く指導・育成する方針で臨んだ。
また、職場に受け入れるに当たり、本人に精神的な負担を感じさせないよう、所属グループの職員に対して、本人を特別視せず対等に接するよう徹底した。更に、精神障害のある職員一人ひとりについて、現時点で「できること」と「まだできないこと」を所属グループ全員で把握するとともにその情報を共有し、本人に対する育成・指導に役立てるようにした。例えば、「歯磨きの介助はできるが髭剃りの介助はまだできない」といった具合である。
元々中里の家の職員は障害者の就労に理解があり障害のある職員が働きやすい職場環境にあると言える。また、定期的に開催される労働安全衛生委員会における意見交換の場が、本人から仕事の悩みや意見を吸い上げる機会として機能するなど、障害のある職員が職場定着を図る上で、効果的な仕組みも整備されている。
ところで、職員と利用者との間で相互の認識不足や誤解、相性が悪い等により、人間関係がうまくいかないこともある。特に、精神障害のある職員と利用者との間に齟齬が生じた場合には、施設長は本人の就労継続に対する赤信号と捉え特段の注意を払って対処している。具体的には、全職員との面談を実施し職場全体の現状・課題の把握に努めるとともに、障害のある職員を取り巻く利用者等との人間関係についても正確かつ公平に理解するように努めた上で真相を究明し個別に対処するようにしている。解決策として障害のある職員の勤務の見直しや配置替えを柔軟に実施した場合には、現場に混乱が生じないようにグループの全員が障害のある職員一人ひとりの障害特性、症状や対処方法についての理解を深めるよう指導を続けている。
また、その原因が障害のある職員の私的な生活環境にあると思われる場合には、支援センター中里と連携しながら両者で協力し合い課題解決に努めている。
4.取組の効果と今後の展望
「中里の家」では、障害のある職員が利用者とのコミュニケーションを円滑にとって介護や福祉のサービスを提供できる人材となるように組織的に取り組んでいる。
自らコミュニケーションが苦手だと語っていたAさんは、いつでも利用者と会話ができるように、散歩の際には必ず利用者の手を取るように心掛けていた。その結果、今では特定の利用者から悩みごとを打ち明けられる程に人間関係作りがうまくなり、そのことに喜びを感じられるようになっていた。また、悩みごとの相談を受けたときには、上司に相談にのってもらった上で対処できるように成長していた。
Bさんは、昨年9月に家庭内の問題で体調を崩し7か月入院し、今年4月から職場に復帰したばかりであるが、「利用者の笑顔に会うと元気になれる」と語ってくれた。また、「利用者の気持ちを汲んであげられる」「相手の気持ちが分かる」支援がしたいなどと、利用者とのコミュニケーションを深めることに意欲的であった。
また、Cさんは、利用者の笑顔に接することのできる現在の仕事に大変満足していると語ってくれた。「今は自分の仕事に遣り甲斐を感じる」「利用者の方のそばにいてその笑顔が見られるように頑張りたい」と抱負を語ってくれた。
このように、利用者と円滑なコミュニケーションを図ることにとても意欲的な3人の仕事ふりからは、就労への自信と安定感がうかがえる。
「中里の家」の全職員による組織的な取組が功を奏し、障害のある職員が仕事を通じて精神面でも安定が図られる職場環境が醸成されているように思われた。
「中里の家」が障害者雇用に取り組むようになって得たメリットがある。その一つは、精神障害のある職員への理解が深まることによって、職員全員が従来以上に障害のある職員や利用者への配慮を的確に行えるようになったことである。
それでも、施設長からは「いまだ取組が十分でないと認識しており、更に職員の理解を深めるために専門家をお呼びし、職員全員を対象とした講習を実施したい」との発言があった。
もう一つのメリットは、施設で職員が使用している介助等の各種サービスに関する「業務マニュアル」の標準化が図れたことである。障害のある職員に対して各種サービスの提供の仕方を指導することを通じて、障害のある職員にも分かりやすいように「業務マニュアル」の見直しが何度も実施された。そして、誰が見ても分かりやすい職員向けの 「業務マニュアル」が完成した。その結果、どの職員も標準的な仕事の進め方ができるようになり、チーム全体の業務効率化が図られることになった。今後は、これを基にして職員の仕事の再配分も検討し、更なる業務の効率化につなげていきたいとのことである。
5.障害者雇用を進める企業へのアドバイス
精神障害のある人を職員として雇用する場合には、例えば統合失調症の症状がどのようなもので、配慮すべきことは何かなど、その障害特性等を管理者が十分に理解した上で職員に対しても正しい知識に基づき教育・指導する取組が重要である。
しかし、知識の付与だけでは不十分である。仕事を通して障害者の人と直接接することで一人ひとりの個性の違いや症状の違いなどを正しく理解し把握することが更に重要である。一緒に働く職場の上司や同僚が障害のある職員の情報を全員で共有し、その情報に基づいて一人ひとりに適した効果的な配慮を職員全員が行えるような職場作りを目指すことが大切である。
また、精神障害のある職員の体調管理には特に気を配っており、定期的に症状の把握に努めることにしている。そして、職場環境の改善を主とした配慮だけでは不十分で、本人に対する生活面での支援などが必要と判断した場合には、支援センター中里と連携した支援を行うことにしている。支援センター中里は、本人の私生活や病気の症状などに係る問題についても、家族や主治医と連携し適切な対応を講じてくれるからである。このような、就労支援機関と密なる連携と協力が得られる関係にあることは、同事業所の障害者雇用の強みであると感じている。精神障害のある職員を職場に定着させ安定した就労ができるまでの間は、障害者・就業生活支援センターなどの就労支援機関等の活用をお勧めしたい。
最後に、採用にあたってアドバイスすることがあります。それは、事業所の職場風土に馴染めない人は能力が高くとも雇用の継続が難しいということです。同法人でも就職の斡旋を受けたものの本採用に至らなかったケースは、全てこれに該当しています。
同法人では、利用者との間でコミュニケーションを円滑にとって介護・福祉のサービスを提供できる人材が求められ、このような人間関係を主体とする職場環境にも馴染めかつやりがいを感じることのできる人でないと長期の雇用継続は困難であると考えています。
現在就労している3名の障害のある職員は、今後も長期にわたる就労が期待できるものと考えています。それは、3名の職員のいずれもが介護という仕事を通して利用者との触れ合いに意義を見出し、充実感を味わえることに大きな喜びを感じているからです。
執筆者:高年齢者雇用アドバイザー 新井 将平
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