事業所外観

1．事業所の概要

LIXILグループは、戸建住宅・マンションからオフィス・商業施設などの非住宅向けまで、多岐にわたる建材・設備機器と幅広い住宅関連サービスを提供するグローバル企業である。長年培ってきた知見・ノウハウを生かし、社会・環境に配慮しながら、美しいデザインと長きにわたり信頼される質の高い商品を提供している。

株式会社LIXILは、LIXILグループの主要な事業会社で平成23（2011）年に国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合して誕生した。以後、海外企業の統合により世界的ブランドを傘下に収めつつ、国内においては営業活動を担うLIXILジャパンカンパニーを軸に幅広く資材・住宅関連の事業を展開している。

株式会社LIXILは障害者の雇用促進にも積極的に取り組んでおり、平成28（2016）年5月には厚生労働省委託事業「精神障害者等雇用優良企業認証」も取得している。また、東京都江東区の事業所内には障がい者就労センター「WING　NIJI」を設立し、様々な障がいを持った社員の職域の開発や就業能力の拡大を図っている。平成29（2017）年6月1日現在の障害者雇用数は299名（身体障害者192名、知的障害者76名、精神障害者31名）となっている。

2．障害者雇用の経緯と取組

（1）雇用されたAさんのこと

発達障害のあるAさんは、発達障害のある学生を対象に大学生活・就職支援・卒業後のフォローアップなどを行う「学生支援室」を利用し、卒業後は発達障害者支援センターの支援を受けながらハローワークで求職活動を行った。しかし、「コミュニケーションに自信がない」、「対人に不安がある」、「ミスに対する不安が強い」、「新しい環境に対する適応に時間がかかる」などの障害特性があり、就職には結びつかなかった。その後、地域障害者職業センターにおいて職業評価を受け、就労移行支援事業所（以下「移行支援事業所」という。）を利用することとなった。

移行支援事業所では、個人のストレングスと苦手を把握し、自己理解を促すためアセスメントとモニタリングを重視し、職業適性検査等の各種テスト、ワークサンプルによる作業能力の把握を行った。また、Aさんが取得した免許や資格に関する実用性の有無を確認し、職業適性との関連を見極めている。本人との対話から明らかとなってくるAさんの特性を知る必要があると考え、個別の相談で精神的な特性把握にも時間をかけた。

（2）雇用に至る経緯

LIXIL中部支社北陸支店では、平成27（2015）年1月に初めての障害者雇用に関する募集を行い、Aさんは、筆記試験、適性検査、面接試験等の選考を経て採用内定を得た。

その後、石川県障害者職場実習制度を活用し企業と本人のマッチングを見るための実習の機会を設け、1か月後には正式採用となる。

（3）フォローアップによる定着に向けての取組とその効果

ア．

【取組1】チーム支援体制の整備

株式会社LIXIL中部支社北陸支店での初めての障害者雇用であることから、移行支援事業所、学生支援室、相談専門支援員、障害者就業・生活支援センター、発達障害者支援センター、医師を構成メンバーとするAさんの「チーム支援体制」を整備した。

【効果】

企業内外で発生する課題に速やかに対応できる態勢ができたことで、初めての障害者雇用に対する不安の解消とともに、Aさん自身が精神的安定を維持しながら、安心して仕事に就ける環境が整備できた。

イ．

【取組2】自己紹介シート

移行支援事業所より、企業に対してAさんの障害特性や適切な支援方法などを本人と共にまとめた「自己紹介シート」を提出した。

自己紹介シート

【効果】

自己紹介シートは、本人のストレングスや苦手を企業に伝える良いツールになった。また、課題が生じた場合の解決方法も記述していることから、企業にとっては障害特性等の共有化が図られ、受入れ体制の整備や働く環境づくりのヒントとなった。

ウ．

【取組3】相談を受ける機会をつくる

帰宅時に移行支援事業所に立ち寄り、仕事の振返りや悩みの相談を受けることができる機会をつくった。

【効果】

採用当時は、環境の変化に対する不安を抱え、適応するために時間がかかるAさんにとって、移行支援事業所に立ち寄り、信頼できる職員との相談や悩みを聞いて貰えることが課題や悩みを解決する方法として効果的であった。

このことで翌日の仕事に対する不安や仕事の整理ができ、ストレスの軽減に繋がった。同時に、本人の悩みや不安については、本人の同意を得て企業との共有化を図った。

採用当初は月15日、移行支援事業所に立ち寄っていたが、日を追うことに減って、入社3年目の現在、移行支援事業所に立ち寄ることはなく企業の中で信頼できる社員との相談をとおして、Aさん自ら、課題（悩み）解決が可能となっている。

エ．

【取組4】移行支援事業所と連携会議の開催

業務内容のステップアップ(責任を持たせる・自分で考えさせる)や追加があった場合や職場環境に変化が生じた場合には、企業（センター長、人事担当者、同じ部署に働く社員）と移行支援事業所（管理者、就労支援員）との連携会議を開催した。（4～5回の連携会議の開催）。

連携会議の様子

【効果】

Aさんのストレングスや苦手をアセスメントで把握している移行支援事業所から、マッチングの可能性が高い仕事内容や職場環境等への適応能力、生活習慣の情報を得ることにより、Aさんの能力が発揮できる環境づくりが可能となった。

オ．

【取組5】企業のAさんに対する合理的配慮

Aさんの職場内での行動を、移行支援事業所からの情報「自己紹介シート」と照らし合わせながら特性確認する。センター長が仕事の様子を観察、記録する。現場担当者が仕事上の特性を把握し具体的な合理的配慮の提供を行う。

（合理的配慮の内容）

＊業務面・環境面での窓口対応者を配置
＊短い簡潔な指示
＊ミスに対する対応の仕方を教える
＊デスクの配置
＊昼休みにおいて、外で散歩する等の提案等

【効果】

安心した職場環境（合理的配慮）の提供により、社員とのラポール関係が成立し仕事に対する不安が軽減した。入社当時は不可能と思えた、電話（特定の対象者）の応対も可能となっている。

また、集団や会話が苦手なAさんが、福利厚生でのアフターファイブに参加できるようになっている。長期休暇を取得し自分で旅行するなど、多様な余暇活動も可能となり、人生を謳歌している。

Aさんの職場の様子

3．今後の展望

今回のAさんは高い学歴を持ち、得意分野については、もともと大変高い能力を持っている人である。しかし、コミュニケーション力の不足や環境への不適応、人との接し方の不慣れなどの失敗経験からくる自己肯定感の乏しさ等により、ストレングスを発揮するには環境や精神的安定を維持することが必要となる。株式会社LIXILにおいては、ダイバーシティーの尊重という企業風土が、障害者を受け入れ、対象者の障害特性に応じた環境づくり、合理的配慮の提供、ストレスの軽減等の精神面のフォローまでも行う文化的基盤となっていることが理解できた。中央本社だけでなく地方においても一貫した理念で障害のある社員が自分の特性をフルに活かせる企業である。

執筆者：就労移行支援事業所 LIAISO　所長　中山　肇