事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

社会福祉法人かたの福祉会が運営する就労継続支援B型事業所「ワークハウスやわらぎ」は、「障害者ワーキングエリア」の一角にある。同エリアには、パナソニック交野株式会社（特例子会社）や、交野自立センター（障害者支援施設、社会福祉法人大阪府肢体不自由児者協会運営）もあるが、いずれも昭和50（1975）年代末から運営されている府内有数の老舗である。周囲には、特産品のブドウ畑が広がっている。

「ワークハウスやわらぎ」の前身は、昭和59（1984）年度に事業を開始した交野市立やわらぎ授産所であり、その後、指定管理者（地方自治法に基づく公立施設等の管理運営者）としての時期を経て、平成24（2012）年度からは民営施設として運営がされている。当日は、当事者であるAさん（男性）及びAさんの上司である辻専務理事兼事務局長、田伏総務課課長（以下「法人側」と記載）にお話をお聞きした。

（2）障害者雇用の経緯

法人側によると、特に障害のある人を雇用しようとして募集したのではなく、たまたま難病の人が応募し、採用に至ったとのことである。また、平成29（2017）年10月現在は、まだ、法定雇用率適用規模ではないが、平成30（2018）年度から2.2％に引き上げられると対象になるものである。

2．取組の内容と効果

（1）はじめに

Aさんは、以前建設業で働き3年前に発症、1年半の自宅療養を経たのち、求職活動を始めるが10数社応募して初めて、かたの福祉会に採用された。求職活動は、病気のことを全てオープンにして行なったとのことである。

なお、「車の運転業務についてはできないこと」も毎回自ら説明していったが、そのことがネックとなって採用を断られることが多かったという。

応募に際してオープンにして臨んだ理由を詳しく聞くと「車の運転免許は持っているが、人を乗せて何かあったら大変なので、最初から話した。自分には親・配偶者・子どもがおり、隠して働いて何かあっても困る。そこで最初からオープンにして、その上でご理解頂いて雇用してもらえるところを探した」と明快な口調で語ってくれた。

「特発性拡張型心筋症」がAさんの罹っている指定難病だが、心臓の筋肉を収縮する力が低下する病気で、その結果、心臓の左心室が拡張するというものである。症状としては、Aさんの場合は、現在、特に出ていないそうだが、自覚症状として動悸や呼吸困難、易疲労感等がみられるとされており、全国に1万数千人ほどの患者の人がいる。

（2）取組の内容

ア．

募集・採用

就労継続支援B型事業とは、一般企業で働くのが困難な障害者が作業を行い、工賃を得ていくものであり、そこで働く障害者と法人との間に雇用関係はない。障害者は、障害福祉サービスの利用者という立場であり、障害者総合支援法に基づき、事業が行われている。そして、Aさんが現在している職業指導員とは、利用者が作業を行う上での様々な支援をするものである。また、実際に職業指導員も利用者と一緒になって作業を行い、その中で信頼関係も作っていく。

そうした職業指導員に応募したAさんだが「少年野球の指導員はしていたが、福祉の指導員は初めて」という。福祉職場の経験がなく、難病があり送迎業務ができないAさんだが、採用の決め手は何だったのだろうか、法人側に伺った。

すると、その後、何度も出てくることになる「Aさんの人柄」というキーワードが強調された。確かに車の運転はできた方が望ましいし、病名だけ聞いてもどのような配慮をしたら良いのか分からないので、その点は本人に聞いたそうだが、そうした不安要素を上回るものとして「人柄」が決め手になったとのことである。

また、話をよく聞くと、病気であることをオープンにしていたことがマイナスに働かずに「人柄」というプラス面に作用したことが分かってきた。面接では、運転のこと以外にも、服薬（利尿剤）によりトイレの回数が人より多いことや、2か月に1度の通院のことも話されたという。その結果「後で言ってくるのではなく、最初から話してくれた」という好印象として、採用サイドに受け取られたわけである。

しかし、Aさんは、これまで10数社、同じように病名を開示し面接にチャレンジし、その度に断られてきたわけである。単にAさんが正直に言ったからというだけでなく、面接者の「話を聞く姿勢」にもポイントがあったのではないだろうか。その点を突っ込んで聞くと「主に知的障害者支援を仕事としている対人業務であるがゆえに、特に人柄を重視した」という趣旨の説明が返ってきた。福祉現場ならではの人柄重視の姿勢が、今回の採用に結びついた構図が、徐々に見えてきた。

イ．

障害者の業務・職場

就労継続支援B型事業として行っている作業の内、Aさんが担当しているのは、タオルのクリーニングとネジの組み立てである。タオルは、近隣の理容室やゴルフ場等が顧客で、設立以来30年以上のお付き合いだという。

クリーニングと聞いて「職場は暑いのでは」と気になり、その辺りを尋ねると「クリーニング室ではなく、その隣で、出来上がったものをたたんで袋詰めし、お店に出荷する部署を担当している」旨、説明があった。更に「そもそも利用者の作業環境を考え、クリーニング室についても、大型空調機を入れて快適な職場にしている」との補足が、法人側からなされた。

また、Aさんの前職は建設業であるが、そのことに関連して、何か「昔取った杵柄」のような活躍事例はないかとお聞きした。謙遜のことばを重ねながら、Aさんが話してくれたのは、壊れたところの修理や、必要な道具づくりというものであった。もちろん、病気ゆえの制限もあるので、重いものを持ったり急に走ったりということは控えなければならないが、手先の器用さなどは活かせたわけである。

障害のある人向けに工夫した冶具（じぐ）が古くなってきても、最初に作った人ほどの器用さを持った職員がいないため、一部破損した道具を使い続けるという例もあるが、Aさんは、このような場面でも存在感を発揮している。

Aさんが作成した冶具（手前の台）

「ネジにワッシャーを取り付ける作業があるけど、力がないと無理ということで。僕が来る以前から、台に穴をあけて、そこにおいてネジを上から棒で押し込むという道具があって、それがだいぶ老朽化してきたんで、それを新しく作ったり。自分が考えたというよりは、今までおられた方々がやってはったんで、それを真似しているだけです」、そう控えめに語るAさんだが、中途障害者や難病者が、以前の経験を活かしている好事例でもあると感じた。

なお、かたの福祉会では他に、より重度の障害者が利用している生活介護事業も運営しており、その関係で看護師が常駐している。更に提携病院も近くにある。こうした福祉の職場であるがゆえの環境も、万が一、Aさんが体調を崩したときにも、安心感につながっていると考える。

（3）取組の効果

Aさんを雇用したことで、職場全体にどのような影響があったかを聞いてみた。「他の職員が、Aさんに自然に職員として接する。ちゃんと職員同士の中で、注意喚起がおのずからできるようになったということではないのかなと思う。Aさんは難病だからと、わざわざ言うのではなくて。自然とカバーし合うというような雰囲気づくりかな」と、法人側から回答があった。

具体例を聞くと、Aさんは二つのエピソードをあげてくれた。一つは、送迎車両を運転する職員が休んでいるときも、Aさんに運転してもらいたいというような声はかからないということ。もう一つは、近くの農園での収穫が忙しい時期だったので、見に行ったら「一人で勝手に行くな」と怒られたとのことである。前者は暗黙の内に、Aさんの病気ゆえに「できない部分」を他の職員が熟知しているということであり、後者は常時は特に触れないが、Aさんの病気のことを「それだけ気にしてくれている（Aさんのことば）」雰囲気があるということである。

3．今後の展望と課題

将来の希望をAさんに聞くと、行く行くは介護福祉士の資格を取りたいと話してくれた。また、既に法人が運営するガイドヘルパーの養成講座を受講され、活動にも従事されているとのことであった。また、法人としては、今後、法定雇用率の適用規模になっていくが、雇用率の問題として雇うということではなく「将来の『かたの福祉会』を担っていける方」として雇用も考えていきたいと話してくれた。

今回の取材で最も印象に残ったのは、闘病生活を含め様々な経験を経てきたであろうAさんが、とても自然体で病気のことを語ってくれたこと、また受け入れる側も同様な姿勢で採用を決め、働いてもらっていることである。そして、そうした良いマッチングが実現した背景には、人を大切にすることがベースにある福祉現場での雇用ということがあったのではないかと思われる。「対人業務だから、障害者、難病者の雇用は難しい」ではなく、発想を変え、福祉現場こそ障害者雇用に積極的に取り組んで欲しいと実感した訪問であった。

執筆者：一般財団法人フィールド・サポートem．(えん)　代表理事
／日本福祉大学実務家教員　栗原　久