2017.8.25付

事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

昭和27年（1952年）創業、昭和34年（1959年）法人設立。

事業内容は、家庭用及び業務用洗浄剤・消毒剤・うがい薬等の衛生用品と薬液供給機器等の開発・製造・販売、食品衛生・環境衛生のコンサルティング、食品等の開発・製造・販売である。

訪問した部署は、営業本部営業管理部であり、当日は、総務人事本部の木村副本部長、営業本部営業管理部の長澤部長と笹リーダー（障害者職業生活相談員、精神障がい者・発達障がい者職場サポーター）にお話を伺った。

（2）障害者雇用の経緯

サラヤ株式会社の障害者雇用の経緯については、木村副本部長によると「人材登用の方針としてダイバーシティを推進する。多様な人材の良いところを活用して、チームとして良いものを見出していく。その幾つかの取り組みの中に、障害者雇用を位置づけている。それぞれのダイバーシティには数値目標があるが、障害者雇用については、法定雇用率（2.0％）の安定的な達成がある」とのことであった。

以前の障害者雇用と現在の障害者雇用について、長澤部長が次のように説明された。「以前の障害者雇用は障害のある社員を各部署に配属し、各部署で対応していた。しかし、職場定着や業務の安定、また障害への理解のことなど様々な問題があり、なかなか安定的な雇用維持につながらなかった。一方、当時よく言われていたのが、社内の職務を切り出して雇用を創出していこうということだった。そのことをもう少し発展的にとらえて、チームで集中的に雇用を行って、そこでレベルの高い仕事をしてもらえば、会社全体として障害者雇用の維持・安定につながるのではないかと考えた。現在の障害者雇用はその考えのもと、営業管理部で職場でのコミュニケーションや仕事の進め方で配慮が必要な社員がチームを組み、リーダーを配置して包括的なフォローを行っている。」現在、本町ビル4階にある営業管理部には、精神障害のある社員7名（発達障害のある社員3名を含む）が働いている。

チームで行う「レベルの高い仕事」とは、顧客データの管理であり、分散するデータベースをメンテナンスする業務であり、この仕事は、会社にとって重要な問題であったという。そうした会社の抱える課題の解決策と、障害者雇用を結び付けたわけだが、この話をお聞きして浮かんだのは「一般企業内における特例子会社的なイメージ」である。インタビューを進めていくと、まさにそうした視点での取り組みがされていること、更にその結果として障害のある社員が戦力となり、会社の発展に寄与していることが分かった。

2．取組の内容と効果

（1）取組の内容

ア．

募集・採用

採用に当たっては、2～3週間の試用期間を設け、本人の「障害特性と仕事とのマッチング」について把握・検討されている。試用期間のみで終了してしまった人はなく、全員雇用につながったとのことである。

笹リーダーによると「最初にプロフィールや障害特性について書いたものを就労支援機関から提供してもらい、それに目を通して面接に臨んでいる」とのことだったが、こうした事前情報提供や面接への同席は、採用時における合理的配慮の一つといえる。就労支援機関は、採用後も定期訪問をしており会社としても就労支援機関を上手く活用している様子が窺えた。

イ．

障害者の業務・職場

採用時に把握・検討した「障害特性と仕事のマッチング」はどのように活きているのだろうか。また、課題が生じたときはどのように対応しているのだろうか。笹リーダーに具体的にお聞きすると、次のようなことであった。

「仕事の内容はパソコン作業なので、集中力を伴う。精神障害者等の障害特性にマッチした仕事といえるが合理的配慮も必要。例えば、服薬の影響から朝の出社が困難な人については、シフト制を敷いている。また、救護室もビルの中にあるので、しんどくなったら声をかけてもらい、休んで下さいと言うようにしている」

また、発達障害で騒音が気になる社員から「耳栓をしていたら、何か（音楽等）を聞いていると誤解されないだろうか」と相談を受けたこともあるそうだが「耳栓をすることで、仕事の能率が上がるのであれば、全く問題ない」と伝えたとのことである。他にも、たくさんのマニュアルの要点をA4用紙にまとめて、分かり易くするなどの工夫もされている。

更に採用直後は、仮に本人が「できます」と言っても、いきなり多くの業務量を与えることはせず、基本的な作業を一つしてもらってその様子を見ながら、また日報に書かれた作業量と時間も勘案して、徐々に増やすなどしていくと説明があった。

このように、集中力を伴う作業を得意とする人であれば、実にマッチングした職場ではあるが一方で、体調管理を重視した就労環境の整備（シフト制）や、感覚過敏等の特性への対応（耳栓）、そして、作業指示を理解してもらう上での視覚化、適切な作業量の提供というように、雇用後も合理的配慮が随所でされていることが分かる。

また、障害者が集中して雇用されているが故の強みもある。最初は、精神障害のある社員に対して「何故遅刻が多いのか」といった疑問を聴覚障害のある社員が持つといった課題もあったという。個別には説明していたが、やはりグループで話し合って理解してもらうことが適切と考え、定期的な勉強会をスタートしたとのことである。勉強会後に参加者に書いてもらっているコメントには「（他の障害者が）配慮して欲しいことが分かった」との声も寄せられており、まさにピアサポート（障害者同士での支え合い）を育む土壌となっていると感じた。先月は聴覚障害のある社員が講師となり、手話講座も行ったとのことで、これから、当事者同士の交流で、チームの結束力がより強まっていくのではないかという期待感を抱いた。

オフィスの様子

（2）取組の効果

営業管理部のチームは、本町ビルの4階にあるわけだが、こうした集中雇用形態のメリットをお聞きした。長澤部長によると、社内の他部署からダイレクトに精神障害・発達障害のある社員に仕事の依頼が来ると、要求水準が高すぎたり、専門用語が多かったりで、うまくやり取りができないという。そこで、チームとして他部署からの依頼を一括して受けることのメリットが活きてくるとのことである。

笹リーダーが、こんなエピソードも話してくれた。「発達障害の人に『さっきの』と言っても、いつのことなのか具体的に言わないと伝わらない。こうしたことも、日々接しているから分かるが、たまにしか接触がない社員がやり取りすると、うまくいかないこともある。そこで、自分が他部署との窓口になっているが、どのようにかみ砕いて伝えるか毎日格闘している」

最初に感じた「一般企業内における特例子会社的なイメージ」の良さがひしひしと伝わってきた。では、他部署の社員には、チームとして障害のあるメンバーが仕事をしていることをどういった方法で知ってもらっているのだろうか。その点は、社内サイトでPRしているとのことであった。

ところで、実際に働いている当事者がどのような感想を持っているのかも気になった。2名の社員がインタビューに応じてくれたので、紹介したい。

ある男性社員（発達障害）は「営業さんが持って帰ってきたデータを分かり易く直して、コンピュータに入れる作業をしている。この仕事、一人で黙々とやるということで、合ってるかもしれない」と話してくれた。

また、ある女性社員（発達障害）も「こつこつとした作業が好きなので、合っている。苦手なこともあるけど、経験を積めば、何とか」と語ってくれた。

発達障害のある人すべてが、こうしたデータ入力作業が適しているというわけではないが、窓口となる笹リーダーを介して、他部署から来たオーダーを地道にこなしていく現在の職場環境が精神障害・発達障害のある社員の得意な面を活かしていることは、よく理解できた。

3．今後の展望と課題

最後に、精神障害者、発達障害者雇用を考えている他社へのメッセージ、参考になることを、3人に伺った。

まず、笹リーダーは、自身の経験をベースに、次のように話された。

「雇用に当たっては、理解と覚悟が必要。障害のある人をマイナス要因と思わずに、得意なことを見出すことが大事なので、そこを見出して伸びしろを伸ばす。それが、企業としての生産性向上につながる。それから、当事者の人も夢があり、障害のない方も夢がある。その夢をめざして、一緒に仕事をしていけるような環境を作っていけたら、いいなと思っている」

また、木村副本部長には、人事の視点についても触れていただいた。

「障害者だけではなくて人が集まってやっていくというのは、お互い分かりあうというプロセスがいるので、対話と合意が必要。もう一つはあまり理想を掲げ過ぎないこと。我々だけではできることは限られている。でも、できることをできる範囲でできるところからやる。そういうスタンスであれば、最初の一歩が踏み出しやすい。そこから生まれてくることもあると思う」

最後に、長澤部長には、チームで働く社員の将来展望についても説明してもらった。

「一つは、日々の仕事で当事者が楽しめる、充実した時間を過ごせる、タスクを用意できるかどうかがポイント。二つ目が、対話。オープンダイアローグという考え方が、非常に有効であると思う。わいわい言ってると気持ちが楽になる。関心のあるキーワードである。また、チームで働く社員は、最初は時間給だが準社員になったメンバーもいる。そうした評価制度も動き始めている」

インタビュー中「対話」ということばが何度か出てきたが、障害のある社員が働く上で支障となる事項を改善するための合理的配慮にも対話が不可欠である。今回の取材では、対話を重視している社風だからこそ、ここまで精神障害者、発達障害者の障害特性を活かした雇用が可能になったのではないかと感じる瞬間が多々あった。

そして、障害のある人をマイナス要因と思わず、得意なことを見出そうとするスタッフや上司の発想があったから、戦力として会社の課題解決に貢献できたのではないかとも考える。一般企業の中にあって、特例子会社の特長を活かすこうしたチーム雇用の方法は、選択肢の一つとして、他社においても有効ではないかと感じた取材であった。また、今後、このチームの成果を社内の多くの社員が知ることによって、他部署での雇用も拡がることをぜひ期待したいと思う。

お話を伺った、
長澤部長、木村副本部長、笹リーダー（右から）

執筆者：一般財団法人フィールド・サポートem．(えん)　代表理事
／日本福祉大学実務家教員　栗原　久