「企業は人なり」 社員も障害者も「幸せに」
- 事業所名
- 菱岡工業株式会社(法人番号 8170001004983)
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 電気機器・制御機器の試作、製作
電子電気回路の設計
ハーネス加工
板金加工 - 従業員数
- 140名(平成29(2017)年4月現在)
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 工場内作業 精神障害 2 工場内作業 発達障害 3 工場内作業 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
- ア.
- 沿革
昭和49(1974)年4月 創立 昭和49(1974)年5月 三菱電機㈱和歌山製作所の協力会社として、ミシン部品の加工・組立を開始 昭和51(1976)年9月 ノーリツ鋼機㈱の協力会社として、写真現像機器組立を開始 昭和62(1987)年10月 三菱電機㈱和歌山製作所の業務用空調機器・冷凍機器の制御機、ワイヤーハーネス等の製作を開始 平成15(2003)年8月 本社(現:海南工場)を和歌山市中島に移転 平成19(2007)年4月 海南工場にて板金加工を開始 平成24(2012)年8月 西浜工場を新設 板金加工から組立の工場一貫生産を開始 - イ.
- 工場
1. 本社工場 和歌山県和歌山市 2. 西浜工場 和歌山県和歌山市 3. 海南工場 和歌山県海南市 - ウ.
- ビジョン
1. 仲間同士や異分野他業種とのネットワークを活用して、人材交流の活性化とマーケティング技術の強化を図る。 2. 既に有する技能・技術を尊重し、それを基に創造的な技術力を磨いて新製品を開発する。 3. 経営資源の最適配分による創造開発費の投入を促進する。 4. 加工技術、生産力をより進化させながら、設備増強を計り、独自の製造能力を最大限に高めて、お客様のご要望にお応えする。 - エ.
- クラフトマンシップ
三菱電機㈱和歌山製作所を定年退職した岡田音次郎が、和歌山県海南市で「菱岡工業」を立ち上げたのが同社の始まり。その後、業務用エアコン・冷凍機器の制御機器組立に加え、ワイヤーハーネスの製造を開始。海南工場で板金加工に着手。エアコン・冷凍機器以外の製品も含めたさまざまな製品を一貫生産できる体制が完成した。
同社の強みはこの一貫体制と、人が持つ「技能」。機械化やデジタル化が進んでもクラフトマンシップの重要性がなくなることはない。細やかな人の手だけが生み出すことのできる製品の価値を大切にし、一方で最新の加工設備やシステムを使いながら少量多品種にも、大量少品種にも対応できる製造体制の整備をめざしている。
- オ.
- 事業内容
<ハーネス加工>
電気機器・制御機器の組立において使用するハーネスを自社生産、販売も行っている。
<組立加工>
電気機器や制御機器、一般産業機械全般の組立加工を行っている。これまで培ってきた経験と技術力、センスでハンドワークを駆使し、試作・製作から組立、検査、納品までトータルに対応している。
<板金加工>
顧客からの図面を元に加工方法等の提案を行い、高品質・短納期をモットーに最新の加工設備やシステムの導入による生産を行っている。
(2)障害者雇用の経緯、背景
- ア.
- 障害者雇用までの経緯
最初の取りかかりは20年以上前になる。前社長がハローワークからの障害者雇用の要請により車いすの身体障害のある社員や知的障害のある社員を受け入れたがなかなか職場定着しなかった。
その後、前社長の逝去に伴い、後継した現社長が平成14(2002)年頃、ある会合で同席した特別支援学校(以下「支援学校」という。)の先生から生徒の受入れを依頼され、実習や見学受入れを決めた。ただ、当時は会社として製品の納期遵守等の懸念があり社内ではなかなか理解を得られなかった。
そのような中、平成17(2005)年に支援学校卒の知的障害のある社員を雇用し、試行錯誤しながら支援を続けた結果、11年間勤続することができた。
会社には子供を持つ女性社員が多く在籍しており、その人たちを中心に徐々に社長の取組や考えが理解されて今日に至ることになる。
- イ.
- 事業所としての姿勢
現社長は、前社長が53歳で急逝した際に悲しみが癒える間もなく、会社存亡の危機に直面した。従業員に囲まれ、「何とかします!」と後継を決断したのは26歳の時であるが、当時の切迫感、緊張感、重圧が計り知れないことは想像に難くない。後継に不安を覚え会社を去る人もおり、展望が見えない中、残った社員が支えてくれたとのことである。
社長は当時を「一難去らずにまた一難」と振り返り、「打つ手は無限にあるはず」と自分に言い聞かせ、60数名の生活を預かる重責を乗り越えてきた。
その中で、社会に生かされていること、大勢の人に支えてもらっていることから社会に必要とされ、喜んでもらえる会社にしたいとの思いをより一層強く持つことになる。
こうした点からも障害者雇用に対する前向きな姿勢を窺い知ることができる。
障害者も積極的に社会参加でき、自立した生活が送れるよう協力し支援を行うとともに、子育て中の女性や高齢者等にも広く就労の機会を提供するダイバーシティ経営の実現をめざしている。
2.取組の内容と効果
(1)取組の内容
- ア.
- 募集・採用
トライアル雇用、職場実習(以下「実習」という。)、支援学校のインターンシップ、障害者就職面接会、就労移行支援機関等を活用して積極的な雇用につなげるようにしている。
- イ.
- 障害者の業務・職場配置
採用年月日 障害の種類 職種 性別 Aさん 平成18(2006)年 2月 発達障害 工場内作業 男 Bさん 平成21(2009)年 2月 精神障害 工場内作業 男 Cさん 平成27(2015)年 7月 発達障害 工場内作業 男 Dさん 平成28(2016)年 5月 精神障害 工場内作業 男 Eさん 平成28(2016)年12月 知的障害 工場内作業 男 Fさん 平成29(2017)年 8月 発達障害 工場内作業 男 <業務内容>
■Aさん(本社工場)
勤続11年7月で制御箱の組立てを担当している。一般就労のアルバイトとして入社したが、人間関係や業務で課題が生じることがあり、面談を重ねるうちに障害があるのではないかと感じられたため、平成28(2016)年春頃から障害の可能性をAさんと話し合い通院を勧めたところ、障害のあることがわかった。その後、平成29(2017)年春に認定と地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)のカウンセラーや職場適応援助者(ジョブコーチ)の支援を受けることになった。その後も支援を継続し、本人の意識向上を図ったところ、作業時間も安定するなどの効果が確認できるようになった。また、本人自身もさることながら周囲の同僚も障害の特性について少しずつ理解を深め、人間関係の改善も見受けられる。
■Bさん(本社工場)
勤続8年7月で短時間パート勤務である。作業能力が高い。制御箱組立の前工程業務を丸テーブル作業台(本人の様子がよくわかるとの現場アイデアで作成)にて働いている。前の職場で課題があったため、職場異動を行い現在本社工場勤務である。
前の職場で精神的に不安定になり、私生活でも問題を抱えていたため、本来踏み込まない生活支援を働きかけ、今はグループホームで生活している。服用する薬が変わったときは遅滞なく会社に報告するよう指示をしており、その際には普段より注意深く様子を観察してもらえるよう周りの同僚に依頼している。
■Cさん(西浜工場)
発達障害があり、職業センター経由で入社した。勤続2年2月でファンボックス取付け、シリコン塗布、断熱材貼り付けなどを担当している。頑張りすぎるため、季節の変わり目などに体調を崩すことがある。短時間勤務とし、休養を十分とってもらうよう配慮している。
■Dさん(西浜工場)
勤続1年3月である。板金作業、バーコード読取り、断熱材張付け、パソコン操作等を担当している。元は1日5時間の週25時間の勤務であったが、体調も良く、直近では1日6時間勤務に増やしたところである。強迫障害があるが、今は安定して勤務しており、仕事にも意欲的に取り組んでいる。
■Eさん(本社工場)
フルタイムで働いている。職業訓練校から実習を経てトライアル雇用で勤務を始め、組立ラインでの作業を担当している。入社当初は男性との仕事が苦手で安定しなかったが、周りを女性社員に変更するなど配慮したところ、落ち着いて業務ができるようになった。理解していないのに「ハイ」と言うところがあり、仕事の指導とともに作業工程を写真で示し、忘れてはいけない注意点等を掲示している。ご家族に会社見学をしてもらうなどフォローを欠かさない。最近、責任感も出て良い方向に向かいつつある。
■Fさん(本社工場)
大卒で前職は介護関係やサービス業で一般就労し、数年前に障害者認定を受けた人である。前職で女性同僚との関係がうまくいかず、いじめなどによるトラウマがあると聞いている。職業センターからの紹介で7月に実習を1週間行い、8月からトライアル雇用で勤務を始めたところである。
現在短時間勤務であるが、ゆくゆくはフルタイム勤務を希望している。
仕事中のAさんの様子
仕事中のEさんの様子
作業手順・指示
丸テ-ブル作業台
- ウ.
- キャリアアップ
障害のある社員は、アルバイト、パートの身分である。引き続き、支援を欠かさずモチベーションを上げて、今後は正社員を目指すチャレンジができる環境を整えたい。
- エ.
- 障害者への配慮事項等
定期的面接(年4回を基本)を行い、意見聴取や状況判断の機会としている。入社間もない人には週1回と、頻度を多くしながら実施している。総務課長は職場巡回し、毎日の声かけ(西浜工場では出向いたときは必ず)を欠かさず、不安や悩みなどの解消に努めており、障害のある社員から希望や意見が出た場合は即座に対応するようにしている。
具体的には、Bさんは当初のフルタイムから希望により短時間のパート勤務とした。また、Cさんは当初、1日5時間勤務であったが希望により6時間勤務としている。この先、フルタイム勤務の希望もあり、今後の状況を見て判断することとしている。
過去に就労していた障害のある社員で板金加工を担当していた人は、仕事の難易度が高く、退職を申し出たが、関連会社の特定非営利活動法人ジョイ・コム(以下「ジョイ・コム」という。)での就労を勧め、現在はそちらに転籍して勤務を続けている。
これらは、障害のある社員が退職して所属先がなくなり、社会とのつながりが途絶することを避けるという社長の思いを主眼としている。
また、昨年、新卒で入社希望の人は、実習を実施したが社会性が乏しく、挨拶ができないなどの課題があり同社への入社は難しいと判断したが、ご家族に相談し、まずはジョイ・コムで社会性を身につけることとした。改善ができれば、菱岡工業株式会社に転籍できる道を残している。
(2)取組の効果
- ア.
- 障害者からの声
総務課長は巡回時に例外なく声かけをしてくれるので、不安が解消される。
自分のことを一瞬で理解してくれる方に巡りあうことができ、随分救われている。
- イ.
- 波及効果
従業員の中には、人とのコミュニケーションが苦手なため、黙々と作業をする製造業を選んだ人も多い。その彼らが会社の障害者雇用に対する前向きな取組に接し、障害のある社員の就業状況を報告してくれる機会が増えている。また、障害のある社員の所属するラインの団結力がより強くなっている。
会社がこれらの報告、連絡、相談に正面から取り組むことを理解し、自分の仕事、人間関係、家庭問題等についてまで相談にくる従業員も増えるなど新たなコミュニケーションが進んだ側面もある。
現場では、治具を手作りし、仕事が楽にできる工夫をしている。表示もわかりやすくし、ルールを決めて稼動させている。腰痛に悩んだ障害のある社員の作業台を段ボールプラスチックで高くし、腰痛を軽減させることができたことから、障害のない社員も同じ工夫で腰痛を克服できた例もある。障害のある社員に優しい取組は障害のない社員にも優しい取組となり、会社の生産性向上に繋がるとの認識を新たにしている。
3.今後の課題と展望
今後は、他社で一般就労し、課題が生じるなどに悩んできた障害者を一人でも多く受け入れ、積極的に居場所を提供したいと考えている。彼らが社会との関わりを失くさないよう定着支援を行うことで、私生活の充実を図りつつ生き生きと生活できるようになることの思いを強くしている。
一方、現法人の枠内での拡充には限度もあるため、平成30(2018)年5月に操業開始予定として、本社敷地内に4階建て社屋を建設し生産ラインの拡張を計画している。また、企業内託児所を設置することとしており、その社屋1階部分には、関連のジョイ・コムが運営するチョコレート専門店「わかやまショコラtoko*towa(とことわ)」2号店になるカフェを併設し、安心して気持ちよく働ける環境を作りたいとしている。
代表取締役の岡田社長は、こうしてこれまで培ってきた技術や技能を礎として、「子育てや障害者の就労を支援できる施設にしたい」との思いを掲げ、関係機関との意見交換や連携を大事にし、その実現に向けた力強い着実な歩みを進めている。
執筆者:高齢・障害・求職者雇用支援機構 和歌山支部 丸山 佳之
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