関係機関と連携し、安全で、充実した職場の環境づくりの取組
- 事業所名
- 鳥取いなば農業協同組合(法人番号 9270005000332)
- 所在地
- 鳥取県鳥取市
- 事業内容
- 農業協同組合
正・准組合員3万人の組合組織で、営農指導、金融・共済、購買、販売事業のほか、地域に必要な事業(介護施設、葬祭センター等)を行っている。 - 従業員数
- 740名
- うち障害者数
- 18名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 事務一般 聴覚・言語障害 1 事務一般 肢体不自由 4 事務一般 内部障害 3 事務一般 知的障害 4 作業職 精神障害 5 作業職、事務一般 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の取組の経緯
(1)事業所の概要
同組合は、平成7(1995)年10月に鳥取県東部15市町村の農業協同組合が合併し「鳥取いなば農業協同組合」として誕生。鳥取市、岩美町、八頭町、若桜町、智頭町、を事業区域とし、農業者を中心とした地域住民が組合員となって、相互扶助を共通の理念として運営されている協同組織である。
同組合は、地域の一員として、農業の発展と健康で豊かな地域社会の実現に向けて、事業活動を展開しており、JAの総合事業(営農指導、金融、共済、購買、販売、加工、利用等)を通じてサービスを提供するだけでなく、心のよりどころとして、なくてはならない存在をめざし、農業や助け合い精神を通じて社会貢献にも努めている。
(2)障害者雇用の取組の経緯
- ア.
- 障害者雇用のきっかけ —「理念に立ち返り、関係機関との交流」—
障害者雇用の取組の大きなきっかけは、行政当局から「法定雇用率未達事業所」であると、指摘を受け、平成13(2001)年、同組合の「公平、公正、正直、他者への配慮」の基本理念と社会的責任の立場から、真剣に障害者の雇用を行うため、障害者雇用4年計画を作成した。
ハローワーク鳥取、地域支援総合センター(地域交流施設「しらはま交流センター」)等雇用対策関係機関と相談を行い、また障害者雇用セミナー等に積極的に参加して、本格的に障害者雇用の取組を始めた。
- イ.
- 情報収集とネットワークづくり —「セミナーへ積極的に参加」—
障害者の雇用対策を実施する関係機関主催のセミナーや雇用促進大会等に積極的に参加し、障害者雇用の知識を習得するとともに、東京で行われた知的障害者雇用促進セミナーに参加し、全国各地の雇用対策などに関する情報収集を行った。
それにより、障害者の保護者が就労を切実に願っていること、各企業が障害者雇用に真剣に取り組んでいることなど、認識を新たにした。
- ウ.
- 現場担当者への指示と理解 —「職場の職種の可能性と理解活動」—
組合には、学校と病院以外のいろいろな職種があり、障害者にもできる仕事があるという前提に基づき、各職場で障害者の仕事を検討するよう現場責任者へ指示した。
しかし、成果の問われる各現場責任者は、職場環境や作業手順の整理等を考えると、なかなか障害者雇用に前向きになれない。「障害者をなぜ自分の部署へ」という負担感や抵抗に対して、交通事故や疾病等により自分自身が障害者になる可能性があり、他人事ではないことを説明し、粘り強く理解を求めた。
- エ.
- 採用方針の転換 —「新規学卒者の採用へ転換」—
在職していた障害のある職員が、死亡や病気また自分には仕事が向かないなどの理由から数名の者が離職した。
また、トスク(小売部門)と燃料センター(ガソリンスタンド、ガス事業)の分社化により、障害者雇用率も低下し、雇用計画の仕切り直しとなった。
障害者の長期雇用をめざすなら、新規学卒者を採用しようと採用方針を変え、養護学校(特別支援学校)の実習生を受け入れることとなった。
- オ.
- 両下肢機能障害者1名の障害者雇用からスタート
養護学校(特別支援学校)から両下肢機能障害1級の生徒を実習生として受け入れた。
仕事は、職員名簿のチェックや日計等の伝票計算である。
実習生は、「おはようございます」と9時に出社、午後3時に帰る時も「失礼します」と大きな声でのあいさつが所属部署の職員全員の「いい声でいいな」との好印象につながり、すぐに採用内定となった。
この実習生の採用により、障害者が従事できる職務を切り出すことで、障害者雇用を推進できるとの認識が役・職員一同に深まり、障害者雇用の流れがでてきた。
2.取組の内容と効果
(1)職場配置
現在の職場配置は以下のとおりである。
障害名 新卒・中途 入社年月 所属・職種 下肢機能障害3級 中途 S52(1977)年5月 精算管理業務:営農部 果実園芸課 下肢機能障害4級 新卒 S54(1979)年12月 事務一般:内部監査室 腎臓機能障害1級 中途 S55(1980)年11月 事務一般:営農部 営農企画課 心臓機能障害1級 中途 H2(1990)年4月 事務一般:金融部 金融企画課 下肢機能障害4級 中途 H8(1996)年10月 事務一般:企画管理部 人事教育課 知的障害 B 新卒 H16(2004)年4月 清掃業務:企画管理部 総務課 視覚障害5級 新卒 H19(2007)年4月 事務一般:営農部 果実園芸課 上肢機能障害3級 中途 H19(2007)年10月 産直販売管理業務:営農部 直販推進課 精神障害2級 新卒 H20(2008)年4月 事務一般:企画管理部 経理課 知的障害 B 新卒 H21(2009)年3月 産直販売業務:営農部 直販推進課 聴覚障害2級 中途 H21(2009)年11月 精算管理業務:営農部 果実園芸課 心臓機能障害4級 中途 H21(2009)年11月 精算管理業務:営農部 果実園芸課 精神障害2級 新卒 H25(2013)年4月 産直販売業務:営農部 直販推進課 精神障害2級 中途 H25(2013)年7月 精算管理業務:営農部 果実園芸課 精神障害2級 中途 H25(2013)年11月 事務一般:営農部 営農企画課 精神障害2級 中途 H27(2015)年7月 直売店舗業務: 営農経済課 知的障害 B 中途 H27(2015)年12月 米穀管理業務:営農部 米穀課 知的障害 B 新卒 H28(2016)年4月 清掃業務:企画管理部 総務課 (2)職場環境の改善
- ア.
- 車いす用トイレの設置
車いすを使用する障害者の職場実習を行ったとき、車いす用の洋式トイレがなく、養護学校(特別支援学校)からトイレを借りて一部屋に研修生のための仮設トイレを設置した。
雇用に際して、障害者用洋式トイレの設置工事、1階スロープ、点字ブロックなどの改修、設置を行った。
- イ.
- 障害者職業生活相談員の選任
職員に「障害者職業生活相談員資格認定講習」を受講させ、障害者雇用の知識を深めさせるとともに、障害者職業生活相談員として選任し、仕事への心構えなど、仕事に関する責任者として障害のある職員のサポートを行っている。
- ウ.
- 行事等には、障害のある職員が容易に利用できる施設を選定
歓送迎会や互助会の旅行などを計画する際には、障害のある職員が参加しやすいように、障害のある職員が容易に利用できる施設や会場を選定するなどの配慮を行った。
(3)取組の内容
クリーンメイトとは障害のない職員一人と障害のある職員二人の清掃業務担当チームであり、リーダー(50歳代)のもとにAさん、Bさんの二人の知的障害のある職員が全館の清掃を担当している。
一階の一室をクリーンメイトの基地にして、ごみ掃除、トイレ掃除を日常の主な業務としている。勤務状況はフルタイム(7時間45分)と短時間労働(6時間15分)で、各館ローテーションで実施している。
現在では、すっかり職場に溶け込んで、休むこともなく、リーダーと一緒に元気で働いている。リーダーとは親子のような年齢差もあって、リーダーは自分の子供のように接している。Aさん、Bさんはよく話しかけ、相談事はリーダーが面倒を見ている。最初は、各関係機関の支援を受けて、業務のやり方や障害のある職員に対する接し方などを教わり、リーダーが実際にやって見せることで、現在の形に仕上がってきた。また、クリーンメイトの一人は社交的であることから、バリアフリーの職場づくりを醸成するなど、障害のある職員に対する思いやり、やさしさなど、職場内において意思疎通の活性化が広がってきた。
関係機関との連携とこうした粘り強い業務支援が実を結び、ワーキングフェスタ(就労促進セミナー)での体験発表ができるまでに成長した。
一階のクリーンメイト室の様子
トイレ清掃の様子
館内清掃の様子
ワーキングフェスタでの
体験発表の様子(4)取組の効果
- ア.
- 受け入れ当初の職場
法定雇用率を遵守しなければならないという強い意識は組合幹部にあった。同組合にはたくさんの部署があり、個々の障害特性に合わせて各種の作業・業務が考えられるという漠然とした安心感もあった。
しかし、当初、周りの職員は、障害のある職員に対して「どういう障害だろう」「どう接したら」「手間がかかって能率が上がらないだろうな」といった漠然とした不安を抱えていた。日常での障害のある職員との接し方、緊急時での対応など、障害(者)に対する意識や知識不足が担当者や職場にあったからである。
- イ.
- 組合の強い方針、何としても法令遵守を
日常の職場では、コンプライアンス遵守と浸透が強く打ち出されていた。社会的責任、社会的貢献により組織は成り立っているという強い方針があったからである。
そうした矢先に、関係機関から法定雇用率未達成の指導を受け、組合幹部に強い衝撃が走った。何をしていたのか、組織運営に対する懺悔の気持ちもあった。そうしたことが、何としても法定雇用率をクリアしなければと強い姿勢となって各部署に方針が伝えられ、障害者雇用は当たり前という意識転換が各職場に浸透していった。
- ウ.
- 関係機関との連携と恵まれた職種の多さ
養護学校(特別支援学校)、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)との密接な連携が、職場の安心感につながった。
職場に目配り・気配り・心配りの気持ちが広がり、障害のある職員に対する思いやりが組合全体に浸透、障害のある職員から学ぶことも多い。
同組合には多くの職種があり、「その人に合った職場は必ずあり、それを引き出すのが私たちの役割だ。」と担当のCさんは話す。定着してきた障害者雇用に安堵と自信が感じ取れる。
作業はOJTで指導することが基本で、時には仕事のやり方について筆談で教えたりもする。
仕事のことは同組合、家庭・プライベートな悩みごとは支援センターと役割分担しているが、ときには障害のある職員のことで支援センターから相談が入ってくるなど、連携体制で障害者雇用がうまくいっている。
- エ.
- 労災事故もなく、障害のない職員も感化され仕事姿勢が高まる
当初、現場はどこまで配慮してよいかわからなかったが、現在では職場も様子がわかってきて、お互い溶け込んだ状況を醸し出している。
同組合の自慢は、労災事故がないという点、そして一生懸命仕事に取り組む障害のある職員の姿に障害のない職員も感化され仕事への姿勢も引き締まり、一緒に成長しているという点である。
そんな状況から「できるだけ長く働いてもらいたい」「定年後も働いてもらいたい」「できれば新卒から育てていきたい」などの声がある。
3.今後の展望と課題
(1)障害者の法定雇用率達成を基本に
現在、障害のある職員18名の雇用で法定雇用率を上回っている現状を維持していくが、状況の変化に対応し、障害特性に応じ働くことのできる場はまだまだ確保できると考えている。
風通しの良い、気軽に相談できる相談体制のある組織づくりをさらに充実させたい。それぞれの部署で「相談しやすい方を見つけてください」と気軽に声かけをし、本人の気持ちに寄り添おうとしている。
人権研修等も積極的に取り組み、関連会社を含めて1,200名を10回に分けて実施。障害者差別解消法も施行され、「合理的配慮」を行うことなどを通じて共生社会を実現していくという精神を受け継ぐため、人権研修も「あいサポート運動」をテーマにするなど、研修に力を注いでいる。
(2)鳥取県施策に呼応
鳥取県では、これまで取り組んできた「あいサポート運動」「障がい福祉サービスの充実」
「手話言語の普及等」の取組を更に発展させ、障害者が、その人格と個性を尊重され、障害の特性に応じた必要な配慮や支援を受けながら、地域社会の中で自分らしく安心して生活することができる社会の実現を目指すため、「鳥取県民みんなで進める障がい者が暮らしやすい社会づくり条例」(通称「あいサポート条例」)が平成29(2017)年9月1日に施行された。
同組合もこの条例制定に呼応し、対応していくことを方針としている。
この条例においては、「障がい及び障がい者に対する理解を深めること」、「障がいを理由とする差別の解消を図ること」、「障がい者本人が望む適切なコミュニケーション手段その他情報を取得する手段を選択することができるよう支援を充実させること」、により「障がい者情報アクセシビリティを保障すること」、「災害時であっても障がい者が安全かつ安心な生活を営むことができるようにすること」、「地域社会において、障がい者が自分らしく安心して生活することができるようにすること」とされている点を踏まえ、同組合も取り組むこととしている。
具体的には、障害者とのコミュニケーションをこれまで以上に進めていくための「一声運動」を職場に浸透させたり、定期的に行っている災害時を想定した避難訓練、火災訓練に対して、障害者担当を指定、居場所把握の確認や対応など、障害のある職員の視点を取り入れた緊急時の対応など、優先順位の高いものを想定し、順次職場に取り入れていくこととしている。
(3)今後の課題
障害者雇用に当っては、受入れ部署はもとより職場全体の理解を得なければならない。
見た目ではわからない障害特性もある。それだけに障害者個々の障害特性などをよく理解しなければならない。緊急時の対応もその一つである。
基本は、その人にふさわしい仕事を選んで担当させていくという堅実さが求められる。
そのためには、障害のある職員が求めているライフスタイルの向上支援を基本とし、ライフサイクルの視点に立って、仕事の充実とステップアップを支援する責務が雇用者側に課せられている。障害のある職員自身も一人の成長する人間として取り組んでいくことが求められる。
そのためには、障害のある職員に寄り添い、コミュニケーションを図りながら障害のある職員自身による自己管理を促し、職業人としての充実、成長のシナリオをサポートしていくことが同組合に求められている。
執筆者:中小企業診断士 穐田 誠一郎
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。