1．事業所の概要

株式会社日本セレモニーは、山口県下関市に本社を置き、冠婚葬祭業を中心とした事業を全国的に展開する企業である。創業は昭和47（1972）年と歴史が深く、冠婚葬祭業のみならずホテル、レストラン、介護、仏壇仏具やブライダルジュエリーの販売など、時代の変化や顧客ニーズに柔軟に対応しながら事業を拡大し、現在では九州から東北まで合計417施設（平成30（2018）年1月末現在）を擁する「愛グループ」として成長、発展している。

同社の障害者雇用率は2.17％（平成28（2016）年度）であり、ここ数年で障害者雇用を積極的に進めているモデル的な企業である。

事業所外観

2．障害者雇用の経緯

同社では以前より障害者雇用を行ってきたが、社内や外部の支援体制が十分に整っていなかったこともあり、安定した雇用が難しかったという過去があった。しかし、障害者雇用を促進していこうとする時代の流れと社内における障害者雇用に対する問題意識の高まり、特に精神障害のある人の働き先が少ないのではないかという思いから、ここ数年、障害者雇用に積極的に取り組んでいる。

3．取組の内容と効果

（1）取組の内容

ア．

障害者の募集・採用

求人は、ハローワークや障害者就業・生活支援センター等と連携しながら行っているが、その際には業務内容や留意点をできる限り詳細に記載し、安心して応募してもらえるようにしているのだという。また、採用に当たっては、面接や1週間程度の就労前実習（以下「実習」という。）（職場実習制度を活用）により応募者の職業適性を見極めるが、特に実習は応募者が希望する業務内容と実際の業務内容とのミスマッチを減らすという役割も担っており、事実、実習を行ったことにより早期の退職者が激減したのだという。

その他にも、面接では支援機関職員、家族等の同伴を許可するなど、障害のある人が安心して応募できるとともに、できる限り長く働くことができるような配慮がなされている。

イ．

障害者の業務・職場配置

同社では、障害者雇用を行うに当たり、社内で行っている140を超える業務を改めて見直した。それは、障害者のための業務を新たに作り出すのではなく、現在行っている業務の中に障害者の個々の障害特性にマッチングした業務が必ずあるという思いからであった。その結果、緊急性は決して高くないが、いずれ取り組まなければならず、他の業務と並行して行うには負荷が大きい業務を各部署からピックアップした。

具体的には、互助会申込書等の紙媒体書類の電子化や個人情報を含む書類の破棄、業務マニュアルの作成等であり、これらの業務を一括して行う「就業支援室」を立ち上げ、障害者雇用の場の一つとした。

就業支援室では、障害のある社員が安心して働ける職場作りに尽力している。例えば、就業支援室には専任の担当社員1名が常駐しており、何かあればすぐに相談できる態勢が整えられている。新しい社員が就業支援室に雇用された際には、会社の概要や就業支援室でのルール等を説明するオリエンテーションがあり、専任の担当社員を中心に、自身の特性や配慮してほしいこと、配慮してほしくないことを同僚に自ら話すことのできる座談会や専任の担当社員との個人面談なども行われる。

こうした中で、社員同士の信頼も高まり、安心して働くことができるようになっている。専任の担当社員にお話を伺うと「特別な配慮は何もしていません。配慮しなければと考えることもありません。みなさんが普段の悩みや様々な提案を言ってくださるので、それらにお応えしているだけです。」と語られた。こうした自然な関わりが障害のある社員の安心感や信頼感につながっているのだろう。

次に、業務日報の取組を紹介したい。これは、その日に行った業務内容とともに、1日の振り返りを記入するものである。振り返りには、業務に関することのみならず、悩みや体調に関することなども自由に書くことができる。そして、その振り返りに対して、専任の担当社員がコメントを返す。こうしたやり取りの中で、障害のある社員が「理解してもらえている」と安心することができる。また、日報には1週間の目標を記入する欄もあり、自身の成長にもつなげていけるようになっている。

なお、この日報はかつて紙媒体であったが、現在では電子入力になっている。電子入力にすることで、自分の思いをことばにしやすくなった人が多くいたそうである。そして、この日報の電子入力のフォーマットを作成したのは就業支援室に勤務する障害のある社員である。

今では、ただ文章を入力するだけではなく、業務内容や体調をグラフ化できるプログラムも組み込まれているのだという。

業務日報（サンプル1）

体調のグラフ化（サンプル2）

就業支援室には専用のオフィスが用意されているが、そこにも実にきめ細かな配慮がなされている。以下に、写真とともにその一例を紹介したい。

就業支援室の様子（1）

オフィス内のデスクは基本的に円卓を使用している。そのことによりスペースにゆとりが生まれ、前や横からの圧迫感も緩和されており、個々のパーソナルスペースを確保している。また、壁に設置されているホワイトボードには、現在誰がどの業務を行っているかが一目で分かるように一覧表にされており、状況に応じて、また、体調に応じて仕事を選択できるようになっている。

就業支援室の様子（2）

オフィス内の一角に設けられたリフレッシュスペース。ロッカーで作業スペースと仕切られているため、onとoffの切り替えがスムーズにでき、落ち着いて休憩することができる。

就業支援室の様子（3）

体調が優れないときに横になって休むことができる休憩スペース。ベッドが2台用意してあり、休める場所があるという安心感にもつながっている。

就業支援室の様子（4）

白を基調としたトイレは、大変広く、清潔感がある。また、別にシャワールームも完備されており、嘔吐等により衣服が汚れてしまった際にも対応できるようになっている。

就業支援室の様子（5）

トイレに向うスロープは車いすの人とすれ違うこともできる幅が確保されている。

この他にもオフィス内にはラジオ放送が流れており、静か過ぎる環境により緊張感や圧迫感が高まらないようにされているなど、細かな配慮が行き届いていた。

（2）取組の効果

上記のような取組により、安心・集中して働くことができ、自身の能力を発揮することができるようになっている。就業支援室を見学した際にも社員が黙々と業務に集中していた姿が印象的であった。結果として精神障害のある人からの応募が増加し、退職者も減ったというお話もうなずける。そして、障害のある社員の能力が発揮された結果、現在では、「この方にこの仕事をしてほしい」と就業支援室に指名付きで仕事の依頼が来ることもあるのだという。本人が作成した業務マニュアルを実際に見せて貰ったが、具体的な画像と丁寧な説明が記されており、驚くほど分かりやすいものであった。障害のある社員が自らの能力を存分に発揮し、それが認められることで自信を付け、働く意欲につながっていくというポジティブな循環が生まれている好事例であろう。

4．今後の課題と展望

就業支援室の大きな目的の一つが「職域を広げてもらうこと」である。面接時には「私はこの仕事しかできません。」と話す人も、ここでは様々な業務に従事してもらうようにしている。例えば、業務日報の電子入力についても苦手な人はいるが「苦手なことにも挑戦してみましょう。勉強のつもりでやってみましょう。」と声をかけるのだという。

向いている・向いていないに関わらず様々な業務に取り組む中で、自らの可能性に気づき、職域を広げてもらう。スキルアップの状況次第で様々な職種へチャレンジしてもらい、キャリア形成の場として活用してもらう。そして、ゆくゆくは他の部署へ正式に迎え入れてもらう。こうした障害のある社員の職能開発を今後はさらに目指していきたいとのことであった。

5．まとめ

以上のように日本セレモニー、とりわけ就業支援室では、障害のある社員が安心して働くことができ、自らの能力を存分に発揮できるための配慮がなされていた。また、それだけでなく障害のある社員の可能性を広げ、職域を広げるための取組もなされていた。障害の有無に関係なく、相互に認め合いながら共に働く“共働”を実現している日本セレモニーの取組に、今回の取材を通して大きな感銘を受けた。

執筆者：国立大学法人 山口大学教育学部 講師　宮木　秀雄