事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の概要

当法人は、ホウエツ病院を中核として日々医療、福祉に取り組む以下の組織で構成されている。

24時間体制で救急患者を受け入れ、在宅復帰や社会復帰のための回復期リハビリテーション病棟を有するホウエツ病院、在宅医療を支える林クリニック、適切な看護サービスを計画し在宅生活を支える訪問看護ステーションみやの、共同生活を通して認知症の利用者を支える若宮の里・清流の里グループホーム、そして地域密着型サービスで小規模で多機能なケア・サービスを提供する若宮の里・わきの里小規模多機能ホームである。

今回、障害者雇用の事例紹介をするホウエツ病院は、二次救急医療機関として、日々、良質な医療を提供すべく職員が一丸となって取り組んでいる。また、地域の生活を守るため、どこにでも真似できるような「スタンダード」を作ろうと努力しており、「常に相手の立場に立って考え行動する」という言葉を職員全員が念頭に置き、情熱を分かち合える仲間が集まってくるような病院を目指している。

（2）障害者雇用の背景と経緯

当法人では、以前より重度の身体障害のある職員1名と、重度以外の身体障害のある職員1名の2名を雇用していたが、重度の身体障害のある職員の退職に伴い、平成28（2016）年2月、知的障害のある職員1名を雇用。その後平成28年（2016）6月精神障害のある職員1名、平成29年（2017）1月に発達障害のある職員1名と知的障害のある職員1名、平成29年（2017）2月に精神障害のある職員1名を雇用し、平成29年（2017）8月現在、ホウエツ病院には、身体障害のある職員1名、精神障害のある職員2名、発達障害のある職員1名の計4名の職員が勤務している。

2．取組の内容と効果

（1）障害者の従事業務と職場配置

障害のある職員の従事業務は多岐にわたるが、精神障害のある職員と発達障害のある職員（以下「精神障害等のある職員」という。）3名の業務について紹介する。業務内容は、院内外の清掃・ゴミ捨て、備品の在庫確認・補充、退院時の病室清掃と備品チェックといった現場作業と、アンケート等のデータ入力・簡単なエクセルでの表作成・リーフレット折り・封筒への押印作業・ラミネート加工等の事務作業に分かれている。

障害のある職員の業務分担は、所属長が、個々の得意分野を中心に、体調を考慮した上で毎日タイムスケジュールを作成し管理している（写真1・2）。業務毎にカード式のマニュアルが整備されており、各業務開始時に、その業務に従事する対象者に手渡され終了時には勤務状況の報告も兼ねて所属長へ返却されるルールとなっている。このカード式のマニュアルは、障害のある職員と接する中で、考え出された新しい形のマニュアルである。一人で業務を行っていても困ったときすぐに確認できることや、不安や心配事があると業務に集中しきれない障害のある職員の特性を考慮し、写真や作業ポイントを細かく盛り込んだマニュアルとなっており、業務中は首から下げて、いつでも確認できるようにしている。（写真3・4）

また、障害のある職員には、1日どのような業務を行ったのか一目でわかるようなタイムスケジュールとリンクさせた業務日報を作成してもらっている。この日報の中には、困った事・相談事等何でも記載できる欄があり、これについても、終業時に所属長へ提出するルールとなっている。この自由に記載できる欄は、障害のある職員が翌日に不安や心配事を持ち越さないために有効であり、直接言葉で話すことが苦手な障害のある職員と所属長との一つのコミュニケーションツールとしても有効に活用されている。

タイムスケジュール（写真1）

タイムスケジュールとカード式マニュアル（写真2）

カード式マニュアルの一例（写真3）

カード式マニュアル（写真4）

毎月1回、障害のある職員・所属長・統括管理責任者の三者で、業務量・業務内容の把握や、体調を考慮した勤務時間の妥当性、その他生活面の不安、体調面について「振り返り」を実施している。この「振り返り」に統括管理責任者が同席することにより、勤務時間や休憩等、労務に関する相談を直接行うことができるので、その後の対応もスムーズであり、障害のある職員にとっても安心できる、話を聞いてもらえてよかったと思える場（機会）となっている。また、定期的に「振り返り」を実施することで、変動のある体調に考慮した対応が柔軟に行えるようになった。当院だけで解決できないことに関しては、ジョブコーチ等に相談し連携を図りながら、できるだけ働きやすい環境づくりに努めている。

図1　業務管理方法

（2）障害者雇用のメリット

「病院」は、専門職の資格を持った有資格者の集まりであり、専門職種が資格を活かし現場で力を発揮するためには、それを支える事務部門のサポートが必須と感じている。障害のある職員が所属している管理部は、医事課、情報管理、経理、労務、総務、施設管理から成り、総務部門は病院の縁の下の力持ち的存在、言い換えれば「なんでも屋」であるため、イベントの企画・運営、各種書類作成、他部署からの事務作業依頼等々、業務は非常に多岐にわたっている。障害のある職員は管理部の中で、施設管理部門における建物管理を含めた美化作業や、総務の簡単なパソコン入力等を含めた事務作業、資料作りなど、様々な分野で大変活躍している。実際に、現場からも「各スタッフが行っていた業務を障害のある職員が担うことで、専門職種の業務を行う時間ができ、非常に助かっている」「一所懸命にまっすぐ働く姿に元気をもらう」といった声も多く聞かれる。以下に障害のある職員が行っている業務の一部を写真で示す。

絵の得意な障害のある職員が
デザインし書いた看板

何百枚ものリーフレット折り

ゴミ捨て作業の様子

患者ケアで使用するタオル折り

退院後の病室を清掃する様子

3．今後の展望と課題

障害のある職員が安定して働くためには職場環境の他、家庭環境を含めた日常生活が非常に大きく影響すると考えている。当法人でも、就職後、生活面が安定しないために就業が続かなかった事例がいくつかある。障害のある職員が働くために、多くの支援機関のサポートを受けているが、どこまで相談してよいのか判断に迷うことがある。当法人では、身体障害者以外の障害者雇用はスタートしたばかりである。雇う側もどのようにサポートしていけばよいのか、特に気持ち的の変動が激しく出勤状況や業務の遂行状況にムラのある精神障害等のある職員をどのようにサポートしていくのか、また、どこまでサポートしたらよいのかなど、課題は残されている。

しかしながら、精神障害等のある職員を雇用する前は障害のある職員用のマニュアルや業務日誌は、文字で書かれた簡単なものであったが、日々の障害のある職員との関わりから、ア 業務の内容はより明確に示されたものでかつ一貫したものが必要であること、イ 人間関係の構築や業務時間をしっかりと管理すること、ウ 気持ちをきちんと理解するためのツールが必要であること、などがわかりそれに合わせてマニュアルの改善や、業務管理をその都度見直してきた。その成果物が、障害のある職員の業務管理の改善につながってきている。また、障害のある職員の個々の性格、得意分野、持っている才能等に気付くことができたのも、業務分担を行う上で大きく影響している。以上のことから、精神障害等の雇用については、ある程度成果は得られているが、今後においても障害のある職員個々の性格や特徴を活かした業務分担を行い、障害のある職員一人ひとりがやりがいを持って働くことができる、理解と思いやりのある職場づくりを継続していきたい。

執筆者：医療法人 芳越会 ホウエツ病院　管理部長　岩脇　美和