障がい者が活き活きと誇りをもって就労できる環境を整備し、
継続的な雇用を通じて、社会参画と自立を支援
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事業所外観
1.事業所の概要
(1)概要
株式会社伊予銀行は、明治11(1878)年創業。お客さまに対して国内13都府県の広域店舗網でビジネス展開をサポートし海外4拠点でグローバル化をサポートする愛媛県松山市に本店を置く大手地方銀行である。
平成29(2017)年3月31日現在
拠点数154(本支店145か店、出張所7か所、駐在員事務所2か所)
同行のシンボルマークを「エバーグリーンマーク」という。
同行のイメージ目標である「潤いと活力ある銀行」を念頭において制作されたシンボルマークであり、若々しく明るい太陽と、新鮮でおだやかな瀬戸内海、そして優しさや華やかさの象徴である花を、豊かな潤いに満ちた緑の大地の中に表現している。
エバーグリーンマーク
この「エバーグリーンマーク」が表現するとおり、同行は若々しくエネルギーのある銀行、人に優しい銀行、美しい心を持った華のある銀行、堅実で信頼性の高い地域の明日を創る銀行である。
(2)企業理念
同行は、存在意義を「潤いと活力ある地域の明日を創る」、経営姿勢を「最適のサービスで信頼に応える」、行動規範を「感謝の心でベストをつくす」と掲げており、これら3つを企業理念として事業を展開している。
(3)CSR活動・ダイバーシティへの取組
同行は、地域社会の発展を存立基盤とする地方銀行であり、企業理念の一つに掲げた「潤いと活力ある地域の明日を創る」の実現に向け、企業活動を通じて、本業をはじめ、福祉・文化向上、環境保全、地域活性化、教育・スポーツ振興といった様々な分野において社会貢献活動を実践し、高い信頼と評価を得ている。
また、同行は、顧客、地域社会だけでなく、働く従業員にとっても魅力のある銀行を目指す。例えば、女性が活き活きと働ける職場を実現するという強い思いを役職員で共有するための「女性活躍推進宣言」の策定や管理職への積極的な女性の登用のほか、ワークライフ・バランスの実現に向けて、厚生労働大臣から従業員の子育てをサポートする企業として「くるみん」認定をうけた企業(同行は平成20(2008)年に愛媛県で第1号の認定を取得し、平成25(2013)年に2回目、平成27(2015)年に3回目の認定を取得)のうち、より高い水準の取組を行った企業として、平成29(2017)年に愛媛県内の企業では初めて「プラチナくるみん」の認定を受けている。
2.障害者雇用の取組
(1)背景等
障害者雇用促進法については、平成25年、雇用分野における障害者差別禁止及び合理的配慮の提供義務並びに精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えるなどの改正が行われた。
一般に銀行は高い公共性、社会性を有しており、顧客、株主、地域社会からの厚い信頼、高い評価を受けるためにはコンプライアンスの徹底が不可欠とされており、同行においても経営の最重要課題の一つとして位置付けている。また、「1.概要」で記載したとおり、同行は、地域の金融機関として地域社会と歩みながらその発展に貢献することを重要視しており、積極的に組織風土の変革にチャレンジし多様な人材それぞれが活躍できるような環境を創出する姿勢がある。
平成30(2018)年4月からの法定雇用率の引き上げを想定し、同行は法定雇用率の達成のためこれまで以上に計画的かつ積極的に障害者の雇用促進・雇用環境整備に取り組むこととした。
(2)いよぎんChallenge&Smile工房の開設
いよぎんChallenge&Smile工房(愛称:ちゃれすま工房。以下「ちゃれすま工房」という。)は「障がいのある方が活き活きと誇りを持って就労できる環境を整備し、継続的な雇用を通じ、社会参画と自立を支援する」をマニフェストに掲げ、平成26(2014)年10月に開設された。
ちゃれすま工房は、特例子会社ではなく同行の業務の中で障害のある職員に可能な業務を人事部に集中させ組織化した一部門であり、本店と同じ松山市にある事務センター内に設置され、事業を行っている。
- ア.
- 組織体制(平成29(2017)年6月1日現在)
- 作業スタッフ13名(男性7名、女性6名)
主に県内特別支援学校(以下「支援学校」という。)を経由して採用しており、複数回の職場実習を通して能力、職業適性等を判断し採用している。
- 管理者5名。
同行のプロパー行員のほか、支援体制の充実を図るため、支援学校等で豊富な経験を有するスタッフ(元教諭等)を管理者として配置し、作業スタッフが安心・安全に働ける職場環境を整備している。
- 作業スタッフ13名(男性7名、女性6名)
- イ.
- 事業内容
ちゃれすま工房では、同行の周年記念行事等で配布するPR商品を製作し、営業店を中心に納品している。同行のオリジナル・マスコット・キャラクターの木工グッズ(マグネット等)及び手織り機による小物(コースター等)を製作しており、現状では安定して各営業店等からオーダーがあり、一定の量産体制を確立している。
当初は管理者指導の下で作業スタッフが製作していたが、現在ではスタッフ同士で自主的に作業内容を確認し、先輩スタッフから後輩への指導、スタッフ自身でコースターのデザインを担当するまでに至っている。スタッフ一人ひとりが自信と誇りを持って製作しており、ゆえにその完成度は極めて高い。
なお、コースターは愛媛県今治市のタオルメーカー各社の残糸を一部利用し製作している。今治市は繊維産業が盛んで、特にタオル生産は全国生産高の約5割のシェアを誇る。地域社会と障害者雇用がつながった取組であり、同行が掲げる企業理念に通じるものがある。
木工グッズ
コースター
- ウ.
- 「ちゃれすま便り」の発行
ちゃれすま工房が開設した当初から、行内の職員向けに「ちゃれすま便り」を定期的に発行している。スタッフの紹介、製作したグッズの出荷実績、イベント、トピックス等、ちゃれすま工房の動向を報告している。
障害者雇用は同行全体として推進するものであり、ちゃれすま工房が人事部という限られた部署の取組ではなく組織全体の取組であることを行内で理解・共有していくためのツールとして機能・定着しているとともに、作業スタッフ自身のモチベーション向上にも有効な手段となっている。
- エ.
- ちゃれすま工房の今後の方向性
ちゃれすま工房では最終的に15名程度の作業スタッフの採用を予定している。この際、安定した運営のためには一定量の業務を確保する必要があること、また、作業スタッフそれぞれが自らの個性・能力を十分に発揮できるようジョブローテーションも視野に入れ、木工グッズや手織コースターの製作だけでなく、ポスター、パンフレットの各支店への発送業務やメールオーダーの差し替え作業など、行内における作業の一部を請け負うことができないか検討中である。
作業風景1
作業風景2
(3) 精神障害者の雇用管理に関する取組
同行では、ちゃれすま工房だけでなく、その他の部署や営業店においても障害者雇用を推進している。とりわけ、精神障害者の雇用は社会的要請事項であるとの認識の下、雇用、職場定着に取り組んでいる。
同行では、平成19(2007)年に初めて精神障害者を雇用して以降、現在では11名が在籍している。取組の当初は行内での精神障害のある職員に対する雇用管理に関するノウハウが不足していたこともあり、様々な課題が生じその対応に苦慮した。この経験を踏まえ、人事担当者が職場の関係者からの意見・要望を徹底して吸い上げるとともに、きめ細かい対応を継続したことで、現在では職場の理解を得て協力体制を整えることができた。
ただし、精神障害のある職員の雇用管理に関しては、これがベストという正解はなく、日々新たな対応が必要と言っても過言ではない。様々なケースに柔軟に対応することを基本としているが、同行では一貫して以下のポイントに重点を置くことで、精神障害のある職員の雇用継続につなげている。
- ア.
- 配属・担当職務について
既存の業務に障害のある職員を当てはめることが難しいケースが多い。このため、どのような職場であるのか、どのような業務(仕事)があるのか、まずは人事担当者が自らの目で確認・認識するようにしている。当初は人事部が主導し面接だけで配属先を決定していたが、現状では受け入れ側となる職場側が主導して配属・職務を決定している。
- イ.
- 受け入れ先となる職場・現場の了解、承諾について
職場では「障害(者)」に対する不安や思い込みがある。偏ったイメージを払拭するため、人事担当者が職場側と十分に話し合いながら意見・要望を聞き取るようにしている。また、障害のある職員本人に関する障害特性等の情報を事前に職場の担当者や同僚に提供し、理解と協力を求めている。
- ウ.
- 職場実習
百聞は一見に如かずのことばどおり、職場実習や職場見学を通して、本人の作業能力、障害程度、同僚となる職員の反応を確認している。
- エ.
- 職場担当者・同僚に対するフォロー
精神障害のある職員を継続して雇用するためには、採用後の取組が重要となる。特に障害のある職員本人のフォロー以上に、職場の担当者や同僚に対するフォローが欠かせない。職場担当者や同僚には自身の本来業務があり、過度な負担が生じないよう現場全体をサポートする体制を確立して、現状の業務への追加といったことにならないよう配慮している。
- オ.
- 支援機関の活用・連携
精神障害者の雇用・職場定着については、障害のある職員本人、受け入れた職場双方が、職場環境や業務内容について、今後続けていけそうか確認できるようにハローワークとも相談をし、トライアル雇用制度を活用している。また、トライアル雇用期間から早期定着を図るべく愛媛障害者職業センター(以下「障害者職業センター」という。)を利用している。
人事担当者が1人で障害者雇用を進めるには限界があり、餅は餅屋というように専門家に任せることも重要な点だと考えている。採用までの段取りやトラブル時の対応、生活面の支援など職場だけでは対応できない場合は障害者職業センターに連絡し、対応を相談することが非常に効果的である。
同行における支援機関の活用・連携状況は概ね次のとおりである。
- 障害者職業カウンセラーによる訪問
職場で課題のある障害のある職員に対して、本人、職場担当者との面談に障害者職業カウンセラーに同席してもらい、聞き取りの中で改善策の提案等を受けている。
- ジョブコーチ支援
障害のある職員本人にとっては、なかなか職場では相談しにくい職場の人間関係、体調面やメンタル面についてジョブコーチ訪問時の面談で話をすることができ、何かあればジョブコーチに相談できるという安心感につながっており、働き続ける支えになっている。
また、職場にとっては、精神障害(者)の特性や接し方について理解を深めるきっかけとなっており、職場の担当者からの話もジョブコーチに聞いてもらえるので、負担感の軽減になっている。
- 職場復帰支援(リワーク支援)
障害者職業センターでは、うつ等で休職している社員について職場復帰支援(リワーク支援)を行っており、生活リズムの改善や自分のキャリアや考え方を見直すことができ、復職後の環境調整などに役立っている。
- 障害者職業カウンセラーによる訪問
3.取材を終えて
平成30(2018)年4月から法定雇用率が2.2%に引き上げとなる。
同行は、法定雇用率の算定基礎の見直しに伴う法定雇用率の引き上げを見据えて、綿密に採用計画を策定しつつ、障害のある職員と周囲の職員が安心して働くことができるよう体制や環境を整備しながら、障害者雇用を進めてきた。
ちゃれすま工房は平成29(2017)年10月で開設から3年が経過した。開設セレモニーの模様は多くのメディアに取り上げられ、その後も取材や見学の申し込みが絶えることがないとのこと。精神障害者の雇用、長期定着に向けては、職場の理解と協力を得て、日々試行錯誤を繰り返しながら雇用管理に努めている。これらの取組は、法定雇用率達成という目的があるにせよ、同行の企業理念をベースにした想いや熱意を実践したものであることが取材を通して感じられた。
同行は愛媛県におけるリーディングカンパニーの一つである。「いよぎん」の愛称で親しまれており、県内での知名度は極めて高い。それゆえに同行の取組は常に注目されており、同時にその発信力から他企業への波及効果も大いに期待できるのではないか。
地域社会をリードする同行の積極的な取組に今後も注目したい。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
愛媛支部 高齢・障害者業務課 狩野 賢二郎
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