事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

会社設立は、昭和45（1970）年9月。当初は、食品の卸しが主体であったが、その約10年後食品製造を始め現在に至る。豚肉、鶏肉を中心に食肉、加工品を製造、販売している。

障害者の雇用は、食品製造を始める頃まで遡ることになる。先代社長の知人が経営する事業所が、物作りを通して障害者雇用の場を作り就職支援をしていることに触れ、そこから障害者雇用に関心を持ち、自社でも障害者雇用の場を提供し始めた。現在では、12名の障害のある社員が就業している。

また、グループ会社として就労継続支援A型事業所を設立し、障害者雇用を積極的に推進している。現在は、グループ全体418名の内、障害のある社員を55名雇用するに至っている。

2．障害者雇用の取組

当事業所で働いている障害のある社員は知的障害者が多く、多くの社員はグループホームに居住し、そこから自動車、公共交通機関を利用して通勤している。障害のある社員の多くは製造職として働いているが、精神障害者は気分の浮き沈みなどの点から考えて、刃物を扱う仕事は難しいと判断する場合が多い。また、工場の建物自体が古く、環境が整っているとは言えないため、身体障害者の採用実績は少ない。結果として、今では知的障害のある社員の割合が多くなっている。障害のある社員の職種は、最初の頃は、包丁を使用した肉の加工が主であったが近年機械化が進んだこともあり、現在では、梱包、仕分け作業が多い。

障害者を採用する場合は、まず、実習を行なってその人の障害特性などを見てそれから適材適所への職場配置を行なっている。トライアル雇用も利用している。企業在籍型ジョブコーチも自社内に配置し、職場適応に関わっている。

障害者を雇用するに当たっては、障害特性などに関する社内での勉強会を月に1回のペースで実施。現場の管理者もこの勉強会に出席することで障害者への理解が深まっている。

仕事を離れた社内イベントも充実している。レクレーション（部署対抗スポーツ大会）、グループ全体の社員と家族の交流を図る「大光祭り」（食肉加工業ならではの出店も多数有り）、社員旅行、社員総会（社員表彰、懇親会）など。これらのイベントには障害のある社員も積極的に参加しており、社内行事を通してコミュニケーションは非常に良好な関係にある。

障害のある社員が働く上で一番気を遣うことは、製造現場での災害である。工場の中では、大きな機械や刃物が使われていて、危険なところが多くある。障害のある社員にそのことを説明しているが、口頭での指示だけでは、説明内容を忘れてしまうことが多いことを前提に、その対策として、危険な場所には全て掲示物を置き、「危ない」ということを目で見て分かるようにしている。また、作業方法においても同様に、以前は口頭により作業説明を行なっていたが、やはり忘れてしまうことが多いため、作業手順を図解し、視覚に訴えることによりミスが軽減できるようになった。

以上のような努力の結果、長く勤める障害のある社員が、職場になくてはならない存在になっている。

新港工場は、従業員が70名。業務内容は、豚肉のカットがメイン。障害のある社員は7名在籍しており、内3名が豚肉のカット作業、3名が加工の作業（ハム、ソーセージ）、1名が清掃の業務に従事している。以前は、職業訓練に取り組んでいる能力開発センターからの卒業生を多く採用していたが、最近は、県内にある特別支援学校の卒業生を採用している。採用の際は、事前に1か月の研修を実施し、本人が働いてみてどうだったか、継続できるかどうか、会社としても本人が業務に向いているかを判断している。

そうしたこともあって、能力開発センター出身者は勤続28年になり、自分の仕事に自信を持てるまでになった。

仕事は、障害のある社員が、ラインリーダーに付いてラインリーダーの作業方法を見て、一緒に作業して、その後一人でできるようにしていく。入社5年目の社員は、仕事を覚えるのは障害のない他の従業員より少し遅かったが、一旦覚えると障害のない社員よりも作業が早くなった。

工場での作業は、一日立ち仕事（10時、15時の休憩、12時の昼食）になるが、障害のある社員の体力には問題ない。

加工の作業は、商品が50～60品目有り、新商品も加わってくる。作業方法を覚えることは大変なことであり、毎日、作業前に作業方法を必ず確認している。

とはいえ、一度覚えた作業であっても、時間が経ち作業に慣れてくると、作業がおろそかになったり、作業方法を自分なりに変えたりすることがある。そのときは、適切な作業方法に戻す様に指導している。障害のある社員に注意するときは、曖昧な表現を避け、具体的に、何がだめなのか、詳しく説明する様に心がけている。説明は1回ではなく、根気よく何回も繰り返し行うことで本人も理解することになる。

また、季節の変わり目や、心配事があると体調を崩し、落ち着きがなくなる場合が多く、仕事が雑になることがある。特に、障害のある社員は、自分の変調に気付かない場合が多いことから、周りの同僚がサインを見逃さないように心がけている。これによって、障害のある社員は自分の変調を乗り切って仕事を続けることができる。

年々、食品工場は、安全衛生、品質管理等市場からの要求のレベルが上がり作業が煩雑になってきている。その作業に障害のある社員がどこまで対応できるか見極めることが肝要となってくる。

キャリアアップとしては、工場長の障害のある社員への期待として、仕事を安心して任せられる人に育つことの他、今後は指導者の立場として、新人に対して仕事を教えることができる者が出てくることを期待している。

障害のある人が、新港工場への就職が決まると、数人でアパートに入居し、そこから通勤する。仕事が終わるとアパートでは出身元の支援施設の担当者が、仕事、生活などの相談に対応する体制を整えている。先ほどの入社5年目の社員は、仕事に対して自分が思ったようにできない、上司から言われたことができないことを悩んでいた。本人の仕事ぶりには変化がなかったので会社では気付かなかったが、このことを生活支援の担当者が本人から聞きとり会社へ連絡を取った。生活面の支援は気が知れた施設の担当者に任せることで、会社として気が付かない所にも手が届き連携した取組ができている。

会社から障害ある社員の家族へ、障害のある社員の家族から会社への相談、連絡などは殆どない。障害のある社員本人と会社とアパートでの共同生活と生活支援の担当者との関係構築により、障害のある社員が家族の支援なしに自立できる環境ができている。学校卒業から就職、自立までは当然ながら、将来は結婚までのライフプランが設計できる環境作りにも会社ぐるみで応援している。

3．今後の展望と課題

大きな課題はないが、以前は障害のある社員も障害のない社員も分け隔てなく接し、それでも障害のある社員も仕事を覚えていったが、最近は、障害者を取り巻く雇用環境の変化、障害の多様化などにより、一般の社員からも、障害のある社員への対応に関して、以前にも増して個々の障害特性に応じた配慮が必要となっている現状に不安と戸惑いの声が聞かれるようになったことから、改めて、一般従業員への教育が必要になってきている。

障害のある社員の会社への定着度も変わってきている。以前から働いている社員は長い人で勤続40年近くにもなるが、最近の傾向として仕事が合わないなどの理由で辞めていく人もいる。

法定雇用率が上がっている中で、今後も障害者雇用へ積極的に取り組み、近隣の障害者の雇用創出に繋がるよう努力を続けたい。県、国などの障害者雇用を推進する公的機関との情報交換の場を積極的に設けるなど、障害者雇用に役立つような公的なサポート体制の充実を希望する。

作業の様子（1）

作業の様子（2）

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
長崎支部　高齢・障害者業務課　麻生　香