難病患者の就労意欲と職業能力を活かす企業の工夫
- 事業所名
- 社会福祉法人 恩腸財団 済生会熊本病院(法人番号 3010405001696)
- 所在地
- 熊本市
- 事業内容
- 医療・福祉
- 従業員数
- 1,841名
- うち障害者数
- 15名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 内部障害 2 知的障害 5 精神障害 5 発達障害 高次脳機能障害 難病 1 広報業務 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 難病(慢性炎症性脱髄性多発神経症)
- 目次
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事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
済生会熊本病院は昭和10(1935)年に創立され、「医療を通じて地域社会に貢献する」という理念のもと、「救急医療」、「高度医療」、「地域医療と予防医学」、「医療人の育成」を基本方針に掲げ、保険、医療、福祉の増進および向上に必要な各種事業を展開している。
(2)障害者雇用の経緯、背景
済生会熊本病院は平成22(2010)年より障害者専用求人で募集を始め、その後、積極的に障害者雇用に取り組んでいる。その背景として、同法人では障害者の福祉施設の運営も行っており、就労継続支援事業の就労場所を同病院内に設け、売店や清掃、クリーニング作業などに障害者が従事しているということもあり、日常的に職員も障害者に接する機会が多いという職場環境が、障害者と共に働くという意識を高めている。
2.取組内容とその効果
(1)取組の内容
- ア.
- 採用のきっかけ
Aさんの採用については、障害者専用求人ではなく一般求人であった。病院側が必要としている能力に応えられる人材としてハローワークからの紹介を受け、面接とその後のハローワーク担当職員同席のもとに行われた、病気についての情報共有やその対応方法について話し合った結果、就業時間や休憩の確保などを工夫することで、Aさんの職業能力を十分に活かすことができるのではないかという判断のもと採用した。
- イ.
- 業務内容
採用当初は国際業務を担当し、外国人の患者や国際ボランティアの受け入れサポートなどをしていたが、Aさんの活躍で業務のマニュアルができルーチン化されたことにより、他部署へ業務移管することができた。新たな仕事については、Aさんと相談し、本人の興味のある広報業務にチャレンジすることとなった。現在は、職員向けの広報やホームページの作成、アンケート調査やマスメディアへの対応、経営会議の準備などを主な業務として活躍している。
- ウ.
- 事業所の工夫(院内コンセンサス・配慮事項・業務の選定等)
Aさんの病気は外見からはわからないこともあり、職場内での病気の特徴やその配慮事項についての理解が必要となった。そのため、所属長が出席する会議で説明がなされ、各部署での周知の徹底と情報共有が図られた。
主な病気への配慮事項としては、勤務時間の短縮と休憩の確保がある。応募時の求人はフルタイムでの勤務であったが、Aさんの病気の特徴として、常に疲労感があり長時間勤務が難しいということであったため、通常8時30分から17時までの勤務を15時までの短縮勤務として開始した。その後、時間延長を試しながら振り返りを行い、本人との相談の上で段階的に就業時間を延ばし、現在は15時30分までの6時間勤務となっている。さらに、身体的負担を軽減するため、休憩時間と休憩場所が設けられている。休憩時間は、基本的に体調に合わせて適宜取ることができるように配慮されているとともに、昼の休憩以外にも午前と午後に時間が設定されている。休憩場所については、周囲の目を気にせず落ちついてゆっくり休養がとれるよう職員用の保健室が用意されている。そこにはベッドもあるため、ゆったりと身体を横にして休むこともできるようになっている。
相談体制については、所属長と本人の双方で常に相談をすることができるオープンな関係作りに取り組んでおり、体調やシフト勤務の調整など、いつでも相談しやすい環境が整っている。また、月に1回の通院が継続できるように業務に影響の少ない日時を相談しながら確保している。
業務内容の選定については、能力や適性を踏まえて本人と相談をしながら検討している。さらには、体調に支障をきたさないようシフト勤務を調整しながら、研修などにも積極的に参加できるよう、Aさんの就労意欲と職業能力が向上できるようサポートしている。
職場の様子
休憩室
(2)取組の効果
各部署でのAさんの病気とその対応方法についての周知の徹底という院内コンセンサスを得て、Aさんが病気のためにできないことを他の職員が自然にフォローするという職場環境が整っているおかげで、Aさんが自分から仕事に対する配慮を求める必要がないことがAさんのストレス軽減に繋がっている。
また、勤務時間の短縮や休憩時間の確保により、身体的負担も減らすことができ、無理することなく安定して働くことができている。
さらには、Aさんが得意なことを活かせる業務を選定することで、職場内の障害者雇用の意識に変化が生じた。Aさんを雇用する前は、難病ということばのイメージにとらわれ過ぎ、一緒に働くことは難しいのではないかというイメージが強くあったが、「できないこと」に着目するのではなく、その人の持っている能力を活かせるような工夫や配慮をすることで、他の職員と同じように仕事ができるという意識が職場内に広がっている。
3.今後の展望
(1)事業所としての想い
多くの事業所は「働く」ということに対して固定観念が強いのではないかと思う。フルタイム勤務や残業ができなければ良い仕事は難しい、という固定観念が、障害者雇用の障壁の一つになっているのではないだろうか。難病患者の就労でも事業所は「難病」ということばのイメージが先行し、病気についての理解ができていないにもかかわらず、知らず知らずのうちに負のレッテルを貼ってしまうことがある。そうした偏見や病気に対する無理解が難病患者本人の意欲と能力には関係なく、就労の機会を奪ってしまっていると思う。Aさんのように、フルタイム勤務でなく短時間勤務であっても十分に能力が発揮できるような働き方や職場環境について、共に話し合い、試行錯誤しながら、その人に合った工夫の方法を見つけ出していくことが必要である。
事業所の工夫次第で、その人に応じた仕事はきっとある。そのためには、その人の持つスキルを見出す視点と、それを活かすことのできる職場環境を一緒に作っていくことが何より大切だと考える。
また、これまでは、主に事務職としての採用で障害者雇用を進めてきたが、人材の確保が困難という現状もある。そうした課題を解決し、障害者雇用を一層進めていくためにも、さまざまな部署で、その人に応じた職務内容を提供できるよう柔軟に対応していきたい。そうして、障害者雇用の枠を広げながら、少しでも障害者が自分の能力を発揮して社会に参加できるように事業者側としても頑張っていきたいと思う。
(2)Aさんの想い
Aさんは、県外の大学で就職活動をしていたが、疾患特性により残業やフルタイム勤務ができないことを伝えると採用を渋られることが多く就職が困難であった。けれど、Aさんはあきらめずに就職活動に取り組んだ。様々な支援機関に足を運び、病気のことを相談したが、難病に対する認識や理解が乏しいことや障害者手帳がないという理由で、適切なサポートを得ることが難しく上手くいかないことも多かった。
しかし、地元のハローワークに「難病患者就職サポーター」が配置されていることを知ったAさんは、早速、その支援者とヤングハローワークに相談した。そうしたAさんの就労に対するたゆまぬ努力の結果、現在、自分の持つ能力を発揮して活躍できる職場に出会うことができた。
Aさんは、自身の職場のことを人、職場環境ともに、とても恵まれていると感じている。けれども、同じ難病患者と話すとこのような職場は珍しいと思うそうだ。他の難病患者は、その病気が見えづらいためにさぼっているのではないか、特別扱いしすぎではないのかという心ないことばを掛けられることも多いという。だからこそ、Aさんは自分の働き方が前例となり、難病患者の活躍できる機会を拡げていきたいと願っている。そのためにも、自分が誰かのロールモデルとなって発信できるよう、これからも新しい仕事にもチャレンジしていきたいと考えている。
病気への配慮を一緒に考えるだけでなく、やりがいの持てる仕事を共に考えてくれる事業所があることを、そして、そうした事業所の工夫次第で、難病疾患があっても負い目を感じることなく、会社の一戦力として働くことの喜びを感じて活躍することができるということを一人でも多くの人に伝えていきたいと力強く話していた。
「せっかく病気になったので」と辛いはずのことさえも前向きに受け止めることのできるAさんだからこそ、きっと誰かのロールモデルになれるだろうと筆者は感じた。
執筆者:熊本障害者就業・生活支援センター
主任就業支援ワーカー 原田 文子
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