障害者の雇用から定着までの流れと雇用後の理解・配慮が継続につながった事例
- 事業所名
- 株式会社 JA食肉かごしま 食肉事業部南薩工場(法人番号 3340001000870)
- 所在地
- 鹿児島県南九州市
- 事業内容
- 食肉製造販売業
- 従業員数
- 228名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 原料業務 肢体不自由 3 加工業務、管理業務 内部障害 1 知的障害 精神障害 1 施設管理業務 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社JA食肉かごしま食肉事業部南薩工場は、本社である株式会社JA食肉かごしまの食肉事業部を担う事業所であり、鹿児島の自然とともに生きる県内の畜産農家と連携した「産地食品メーカー」として、「安心」・「安全」はもちろん、品質や味の向上に日々努めている。
食肉の安全性や美味しさを大切に考え、事業所内でのすべての工程で徹底した品質・衛生管理を行うとともに、牛肉のトレーサビリティの実践など、一貫システムならではの厳しい管理基準を設け「安心」・「安全」をより確かなカタチを目指している。
また、変化する消費者ニーズや「食」スタイルに応えるため、新たな食肉加工品の開発にも積極的に取り組んでいる。(2)障害者雇用の経緯
株式会社JA食肉かごしま食肉事業部南薩工場では、障害者雇用について企業全体として取り組んでいくという本社の方針を受け、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)への相談に至り、今回の事例のきっかけになっている。
相談を受ける中で、企業の考えや障害者が従事する業務内容、障害者雇用を進めるに当たって不安に感じていることを確認し、企業が取り組むうえで必要なことや受けられる支援についての説明をすることで、今後障害者雇用を進めるに当たっての見通しを持てるような助言を行った。
さらに支援センターからの提案として、まずは支援者が企業の環境や業務内容を確認するために、職場見学を実施するところから障害者雇用に向けて動き出すこととなった。
2.取組の内容と効果
(1)取組の内容
- ア.
- 企業との打合せで雇用に至るまでの流れを検討
支援センターとハローワークが企業を訪問し、障害者雇用の方針について情報共有を行い、以下の流れで進める事となる。
- (ア)
- 支援センターとハローワークで企業を見学
- 職場環境や業務内容を確認。
- 企業から障害者が従事する現場やその環境について情報提供。
- 障害者の職業的課題や必要な配慮について助言を行い、作業内容や勤務形態などについては臨機応変な対応が必要となることを説明。
- (イ)
- 障害者専用求人の作成
- 企業見学で共有した情報を基に、企業が障害者専用求人を作成。
- 企業とハローワークが連携することで、応募の幅が広がることや雇用後の助成金の活用等が円滑に進められるよう意見交換を行いながら作成。
- 求人作成後は、支援センターやハローワークを通じて、障害者の応募を待つ。
- (ウ)
- 障害者の応募希望があった場合は企業見学
- 「働きたい」という障害者から相談があった場合には、まず企業の見学を勧め、実際の職場環境や業務内容を見てもらったうえで、障害者に応募を検討してもらう。
- (エ)
- 応募となった場合は職場実習(以下「実習」という。)を実施
- 実習を行うことで、企業の雇用に対する不安や障害者の働くことへの不安の払拭を図る。
- 実習中は、支援センターが状況確認を行い、作業遂行にあたって起こりうる課題の解決を図りつつ、雇用につなげられる支援を行う。
- 実習終了後、企業、障害者本人、支援センターとで面談を行い、実習中の振り返りや採否の確認を行う。
- (オ)
- 採用の場合は障害者雇用制度の活用や支援機関と連携し定着を目指す
- イ.
- 障害者雇用が開始されるまで
雇用までの流れを考えた後、支援センターやハローワークから提案のあった障害者の見学を受け入れ、実習の受け入れを行っているが、障害者本人の不安が拭えない、企業の求めるものに届かないと言う結果から採用には至らない事例をいくつか経験する。
雇用に至るまでの流れはできているが、実際に雇用を検討している職場環境としては、加工の部門ではナイフを使うことや食肉を扱っていることから現場の温度調整が重要であり、暑い場所は暑く寒い場所は寒く、その温度差も激しい現場である。加工された食肉を段ボールや袋に詰める梱包作業等もあるが、それなりに重労働であり、ある程度周りを見て動く必要もあることから、様々な障害特性のある障害者を雇用するには現場や作業内容とのマッチングを図る必要性があった。
職務への適性を含め、企業が求める毎日事故なく出退勤できるか、健康管理がしっかりできるか、会社のルールをしっかり守れるか、長く働く意欲があるか等を、面談や実習を通じてじっくり見極めをした結果、すぐに雇用に結びつかない状況が続いた。
企業との連携が始まって数か月経過して、ハローワークから紹介を受けた、精神障害のあるA氏が面接を受けることになる。支援センター担当者も同席し、A氏と一緒に企業見学、実習の提案まで行っている。
A氏は作業現場を見て、自分にはナイフを使った作業や加工、梱包などの繰り返し作業は向いていないと感じ、できる自信がないとのことで面接の段階で自ら断ってしまう。
しかし、面接が終わり企業を出る時に、敷地内の除草作業をしている従業員を見たA氏が「ああいう作業ならできるかもしれない」と話すと、企業の責任者である工場長から「施設管理の仕事ができる可能性があるのならそちらで実習をしてみますか」と提案がある。
工場長からの提案で元々は雇用に検討されていなかった施設管理業務での実習を支援センターも支援に入りながら取り組むこととなる。
- ウ.
- 実習の実施
実習が始まり、支援センターも訪問しての支援を開始している。A氏の実習内容は、施設管理業務(敷地内の除草作業、設備の修繕等)であり基本的には屋外作業になる。体験日数は10日間、体力的な不安もあったことから、前半5日間を10時から15時まで、後半5日間を8時半から17時までと短い時間から取り組めるように配慮をもらっている。支援センターは実習中に職場訪問し、A氏が分からないことや不安に感じていることについて聴き取りを行うことで、作業に影響が出ないよう不安やストレスの解消を図っている。A氏も不安を抱えながらも、特に大きな課題もなく、実習を終えることができている。
実習終了後には再度面談を行い、A氏が採用に至るかどうかの確認を行っている。A氏は自分がどれだけ仕事に取り組めるか、症状が不安定になることはないか等不安に感じていたことが、実習を通すことで解消できたとのことであった。企業も10日間という期間の中で、A氏の作業遂行能力はもちろん、実際に働いてもらうことで就業態度や健康管理の状況も確認することができ、雇用しても安心できると感じたとのことで、結果は採用となる。
- エ.
- 雇用の開始と定着支援の開始
A氏の雇用がスタート。トライアル雇用助成金を活用し、有期雇用契約期間を設け、A氏が職場環境や作業に慣れることを企業がサポート、A氏の不安の聴き取りや企業から出る雇用後の困り感を支援センターがサポートを引き続き行い、雇用してから定着を目指した支援体制を取っている。
- (ア)
- A氏への定着支援
- 実習中と同様に、作業に取り組むうえでの不安や日々の生活での悩みを聴き取ることで、仕事への悪影響が出ることを予防。
- A氏から仕事に関する相談を受けた場合には、企業へも情報共有を行う。
- A氏の状態を企業も把握しておくことで、事前にミスやトラブルが起こっても落ち着いて対応できる状態を作れる。
- (イ)
- 企業への定着支援
- A氏を雇用する上で不安に感じることや課題が発生したときに相談を受け、企業がA氏に取る対応についてアドバイスを行う。
- 障害やその特性について伝え、配慮が必要な部分への理解、周知を図る。
特にトライアル雇用期間中には、作業遂行上の課題の早期発見、早期解決を図る事を目的に、職場訪問や電話連絡で状況確認を週に2~3回の頻度で行っている。
雇用初期の段階では、不安が強くなると、支援者への相談時間や頻度が増えたり、現場の上司を通り越して人事担当者や工場長に相談してしまうなどの落ち着かない行動が多くなり、企業からそのようなときのA氏へ関わり方や伝え方がよくわからないとの相談を受けることもあった。
このときには、支援センターの職員による本人への聴き取りやA氏が通院している医療機関との情報共有を行い、A氏の気持ちを整理して、A氏と一緒に企業へ伝えるといった流れで支援を行っている。その際、企業が必要なメンバーを揃えて面談の機会を設定するなど、柔軟な対応を取ってもらっている。
その後も、必要に応じてA氏と企業が話をする場を設けることで、企業としてはどんなときにA氏は何を感じるのか、そのときどう対応したらいいのかを把握することにつながり、徐々に面談を設定することも少なくなっていった。作業に関しては、A氏が一生懸命に取り組むこともあり高い評価も受け、トライアル雇用期間も終了し、常用雇用に移ることができている。
(2)取組の効果
- ア.
- 受け入れるための準備の大切さ
雇用が始まってからではなく、雇用が始まる前の段階から雇用に向けた準備を丁寧に行ったことが、今回A氏の定着に結びついたポイントである。
- 企業が障害者雇用の検討を前向きに進めたこと
- 企業だけではなく、支援機関との連携体制を図ったこと
- 実習を活用し、障害者と業務のマッチングを丁寧に行ったこと
- A氏の応募の際、臨機応変に職務内容の幅を広げたこと
- 障害特性のことを含めて、A氏を知ろうとしたこと
- イ.
- 定着を目指した支援で就労意欲も向上
もちろんA氏自身の頑張りも雇用の定着につながっている。しかし、精神障害がありながら、仕事を続けていくうえで、毎日安定した状態を維持することは難しく、企業側の理解や配慮も継続して必要になってくる。
A氏は、採用され企業の従業員として働くこととなり、始めは体力的に続くのか、自分の障害のことを理解してもらえるのか、とても不安に感じているようであった。
しかし、実習からトライアル雇用期間中、困ったときに企業の方々と直接話をする場を通して、企業が自分を必要としてくれている、間違っていることは遠慮せず間違っていると伝えてくれると実感することができ、辛いこともあるが、今の仕事に就くことができて良かったと感じているとのことであった。
3.今後の展望と課題
(1)本人よりこれからの目標について
今回の取材の際、A氏に今後の目標について伺っている。
- A氏
- 「現在のパート雇用から準社員への登用を目指したい」
「病院受診を続けながら、体調管理をしっかりしていく」
「定年や再雇用されるまで継続して働きながらキャリアップを目指す」
「自分のことを理解してもらいながら働けることに感謝している」
除草作業の様子
薬剤の補充の様子
(2)企業より障害者雇用を通じて感じたことや今後の展望
- A氏の上司
- 「雇用前は他の従業員とのコミュニケーションや、理解が得られるか不安でいっぱいでした。しかし、雇用前の面談や見学を通して、自分の考えをしっかり持ち、働く意欲も感じられたため、採用となっています。雇用当初は、本人も不安で電話連絡等での相談も多かったですが、今では自分の業務を計画立てて取り組めています。これからも頼れる従業員として頑張ってもらいたいと願っております」
面談の様子
(3)A氏と企業への支援を通じて
現在もA氏の雇用は継続しているが、A氏が常に安定しているというわけではなく、新しい業務を任され不安を感じると相談に来ることもあれば、不安から体調を崩し欠勤してしまうこともある。業務を任せている企業としては、困ることもあると思われるが、障害があることで業務に課題が生じているのであれば、どうすれば取り組めるようになるのかを、A氏と一緒に話し、考える機会を今でも設けている。多忙な業務の中でその時間を割くことは大変なことだが、障害のある従業員が継続して働いていくには、必要な配慮だと理解を得られている。
障害者雇用を受け入れる体制を作り、障害者雇用への期待や課題に対峙しながらも、一従業員として求めるものは求めていくという形が、今後の株式会社JA食肉かごしま食肉事業部南薩工場の障害者雇用の展開と、今勤めているA氏のモチベーションにもつながっていくのではないかと感じている。
執筆者:なんさつ障害者就業・生活支援センター
主任就業支援員 社会福祉士/精神保健福祉士 伊藤 武志
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