事業所の外観

1．事業所の概要

株式会社エス・ディ・ロジは、株式会社スズケンの物流センター業務を受託し、メーカー物流（医薬品メーカーから医薬品卸までの物流）、卸物流（医薬品卸から医療機関・保険薬局までの物流）、商品管理などを一貫して行っている。物流センターの主な業務は「入庫業務」「出庫業務」「在庫管理業務」である。主となる卸物流では、医薬品メーカーから仕入れた医薬品を「確実性」「迅速性」「安全性」「生産性」のコンセプトのもと、物流ネットワーク内の支店（道内16支店）及び病院や保険薬局に納品している。また、入庫した商品は定められた保管場所へ棚積みを行い、在庫管理を行っている。

2．障害者雇用の背景

法定雇用率を達成することを目的に障害者雇用を開始した。障害特性などについて十分に理解している状況ではない中で雇用を進め、最初は従業員の不安が大きかった。しかし、実際に雇用を進めていくにつれて、段々と不安は薄れてきている。

障害者雇用を開始した当初は、一人ひとりの障害状況を従業員へ直接伝えていたが、雇用人数が増えるに従い、障害のある従業員から一方的に伝えるのではなく、直接関わる中でその人の障害特性などを理解していく形をとった。障害の具体的な状況は一人ひとり異なるため、本人と直接関わり、「その人」が必要とする支援を考えて対応を行っている。

雇用を進めるにあたって人材が必要になった際には、ハローワークや地域障害者職業センターを利用している。また、これまでに一度、視覚障害者をトライアル雇用制度を活用して採用したことがあるが、出入庫の作業現場では危険が伴うことがわかり、最終的に常用雇用への移行を断念したケースがあった。

3．障害者の業務内容と雇用概要

午前中は、医薬品メーカーより送られてきた商品を倉庫内の保管スペースへ格納する入庫作業、午後は、病院・診療所・保険薬局から注文を受けた商品や支店への補充商品のピッキングなどの出庫作業を行っている。最初の頃はその対応に困ることもあったが今は普通に進められている。業務の中で追求する水準については、作業ペースがゆっくりである点など、本人を認めた上で捉えていくことが重要である。

雇用している障害のある従業員の年齢層は20～40代で、20代が最も多い。男性従業員が9名で、グループホームや実家などさまざまな住居で暮らしている。雇用形態は、契約社員と同じであり、一日の勤務時間は7時間45分のフル勤務である。出勤時刻は朝6時から10時まででいくつかに分かれているが、主に9時以降としている。土曜日、日曜日が休みの週休2日制であるが、2、3か月に1回土曜日出勤がある。時には残業もある。転職者が多く、その他に大学卒や特別支援学校卒などの新卒者もいる。

4．雇用における配慮

面接の際には支援機関の職員などの同席もできるよう配慮している。また、配置先については、面接などを通して決定し、配置後、対象者の状況に合わせて変更可能な体制を整えている。しかし、これまで配置変更となったことはほとんどない。

定期的に通院している従業員もいるが、通院の際は時間単位の休暇制度を活用している。また、休憩は休憩室や自家用車内などで自由に過ごす従業員もいる。障害特性の関係で大人数の中では休憩できない従業員もいるので、そのような従業員には一人の時間を過ごしてもらうよう配慮している。

何かあったときの対応や相談については基本的に現場対応としている。現場のリーダーが障害のある従業員対応の責任者となっているが、パート従業員も含め従業員全員が対応する体制となっている。加えて、「障害者職業生活相談員」の有資格者を配置し、相談体制を整えている。

チームとして働きやすくなるように、障害のある従業員だけではなく他の従業員からも意見を聞くことがある。その中には、私生活と関連する内容もあるため、業務だけではなく、生活についても対象者本人に改善を働きかけていくことがある。その際は事業所以外にジョブコーチや居住している施設のスタッフと連携して対応している。

相談や支援体制は整えているが、業務は常に作業現場のスタッフが協力していく必要があるため、みんながリラックスして業務に向き合えるよう、失敗も含め笑い話にしていけるように声をかけていくことも意識している。一方で、障害特性によりその場の雰囲気を理解する（空気を読む）ことが難しい従業員もいるが、多忙な中ではついイライラしたり、障害がない従業員と同じことを求めてしまったりすることがあるので、より注意を払う必要がある。ただ、こうしたことは障害があるから特別であると考えるのではなく、すべての従業員にも共通することとして考えている。

5．ジョブコーチ・支援機関の活用

雇用を進めていくに当って、障害のある従業員に対する指導方法が分からなかったり、指導上のポイントが分からなかったりした場合には、ジョブコーチからアドバイスを得ている。採用面接時には精神障害があるようには感じられなかった人でも、ジョブコーチに言われて気がついたり、対応を考えたりすることもあり、専門的な支援機関の持つ役割の重要性を感じることがあったという。ジョブコーチ支援制度は定期的に活用しており、雇用を始めた頃は、職場訪問やマンツーマンでの支援、相談を頻回に依頼していたが、現在は月平均1～2回程度と少なくなっており、状況に合わせ柔軟に活用している。

6．就労状況の事例

（1）仕事と趣味を両立しているAさん

20代の従業員のAさんは、発達障害（自閉症スペクトラム）と知的障害があり、言語でのコミュニケーションがあまり得意ではない。就業して4年が経過しているが、慣れるまでは大変なことが多く、業務は肉体的に疲れることもあるというが、仕事自体は楽しいと話していた。また、現場のリーダーが近くで業務を行い、フォロー体制もとられていた。

Aさんは、趣味として粘土による人形の造形を行っており、個展を開くほどの実力の持ち主である。こうした特技が職場内のコミュニケーションのきっかけとなり、職場の同僚は、Aさんの趣味を応援している。仕事と私生活にメリハリをつけており、仕事も頑張りたいが、粘土作家への夢を語っていた。

Aさん

Aさんの作品

（2）転職を経験したBさん

知的障害がある40代の従業員のBさんは、養護学校（特別支援学校）卒業後、以前の会社で10年ぐらい勤務したのち、同社の従業員募集案内をみて応募し8年間勤務している。体力的に大変な面もあるというが、周囲の人たちの支援が大きく、やりがいも大きいと話していた。以前の職場よりも働きやすい職場環境であり、今後も継続して働いていきたいと話していた。Bさんは数を数えることが苦手である一方で、仕分けなど得意な作業もあり、頑張っているとのことであった。

Bさん

7．障害者雇用の効果

初めはできないことも多いが、時間を重ねていくことで頼れる人材となっていく従業員もいる。障害の有無に関係なく、まずは一個人として理解していくことが大切であり、精神障害など目に見えづらい障害をはじめ、さまざまな障害に対して従業員の理解が促進されたという。障害者雇用をきっかけに、改めて業務を進めていくことになり、チームとして円滑な関係を構築していくことの重要性を考える機会となっている。

また、障害者雇用を始めてから特別支援学校の職業体験実習生を受け入れるようになり、事業所の社会的な役割は広がっている。

エス・ディ・ロジでは、手さぐり状態から障害者雇用をスタートしたが、ジョブコーチ支援制度を積極的に活用しながら雇用を進めた。障害にとらわれるのではなく、まずは一個人としての関わりを大切にしている事例である。

執筆者：北海道医療大学看護福祉学部 近藤　尚也