事業所外観

1．事業所の概要

「介護老人保健施設　ほほえみの里」（以下「同施設」という。）は、岩手、宮城、青森の3県で病院や介護施設などの運営を手がける「医療法人仁泉会」が、介護保険制度が始まった平成12（2000）年に開設。主に医療ケアやリハビリを必要とする要介護者が、在宅復帰を前提に入所できる施設で、長期、短期含め定員は100名。ほかにデイケアも60名定員で受け入れている。施設内に指定居宅介護支援事業所、在宅介護支援センターを併設しているほか「ほほえみグループ」として宮古市内を中心に訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、グループホーム、介護予防運動指導事業所も運営。グループ全体でおよそ180人を常用雇用している。

2．障害者雇用の経緯

同施設では、現在7人の障害のある職員を雇用している。

（1）視覚障害のある職員3人

同施設がオープンした平成12（2000）年に、マッサージ担当として角膜白斑の職員（現在50代）を採用。以前から同施設の近くで治療院を開いており、当初は手の空いているときに来てもらう形で依頼。その後専属として雇用した。この職員は宮古市の視覚障害者団体の役員も務めており、そのつながりから平成17(2005)年に先天性緑内障の職員（現在30代）、平成27（2015）年に視野障害の職員（現在50代）を追加雇用した。

（2）知的障害のある職員1人

平成27（2015）年4月、特別支援学校（以下「支援学校」という。）を卒業した自閉症の職員を新卒採用（現在20代）。同施設での職場実習（以下「実習」という。）（1週間を2回）を経て採用に至った。

盛岡市内の支援学校に通っていたが、卒業後は地元（宮古市）での就職を希望。支援学校の教員と同施設の職員が知り合いだったことが縁で、実習を受け入れた。調理の仕事に興味があるということで調理部門での実習を行うこととなったが、現場から「知的障害者と接したことがなく、どのように対応したらいいのかわからない」といった不安の声があり、実習前に支援学校の担当教員、両親及び岩手障害者職業センター（以下「職業センター」という。）担当者同席のもと「自閉症とはどのような障害か」「本人の性格」「コミュニケーションの留意点」などを共有するミーティングを行った。

（3）肢体不自由のある職員1人

交通事故によるひざ関節機能障害のある職員。ハローワークを通じて応募があり、平成29（2017）年9月に採用した。

（4）精神障害のある職員 2人（うち1人は休職中）

就職面談会（一般求職者を対象としたもの）をきっかけに、平成29（2017）年10月に、2人の障害のある職員を採用。対象者に精神障害があることは、採用試験の面接時に把握した。当初、精神障害のある職員の雇用は想定していなかったが、面接時の印象や意欲、住まいが同施設に近く徒歩通勤できること、希望する勤務時間帯などの条件が合致したことなどから採用を決定した。

3．取組の内容と効果

同施設の利用者は身体障害、認知障害など「何らかのハンディキャップ」がある人が多く、その利用者と普段接している職員は、障害のある人への接し方をある程度心得ているとも言える。そのため特段の配慮や体制づくりをしなくとも自然なかたちでフォローができている面も少なくない。

（1）視覚障害のある職員

マッサージ（あんま師）のスキルをいかし、施設利用者にマッサージを提供。2人の職員の勤務時間は8時30分〜17時30分、もう1人の職員の勤務時間は、通勤に使っている路線バスのダイヤの都合で9時30分〜16時30分の勤務時間となっている。

マッサージの希望者が多いため順番待ちになることも多い。そのため、施術を希望する利用者を他の職員がベッドまで案内するなどのフォローをしている。

オープン当初から働いている職員は「まるで見えているよう」で、特別なフォローは必要なかったとのこと。点字表示などは、必要であれば本人が自分で用意し掲示している。その後、視覚障害のある職員を2人雇用する際には、同じ部署の職員たちでシミュレーションし「どのように見えるのか」を自ら体験することで、視覚障害の特性を理解し、その場その場での適切なフォローができるようになった。

マッサージを行なっている様子

（2）知的障害のある職員

本人の希望通り調理部門に配属し、主に盛り付けなどの補助業務を行なっている。勤務時間は9時30分〜16時30分。仕事に慣れるまでは15時30分までにしていた。

当初は、本人のフォローとほかの職員との「つなぎ役」として、知的障害のある妹を持つ職員を「教育係」として配置していた。また、1年目は職業センターのジョブコーチ支援を利用し、本人、担当者、ジョブコーチ（職場適応援助者）による3者面談を月に1度実施。業務上の課題や悩みごとなどを共有し、ジョブコーチのアドバイスのもと改善に取り組んだ。2年目からは、地元の支援団体「はあとふるセンターみやこ」がジョブコーチ支援を引き継ぎ、面談を2か月に1度の頻度で行なっている。

盛り付けで分量を指示する際、実際に見本を見せ「これと同じぐらいに」と指示するよりも、「何グラム」「何個」といった具体的な数字を示したほうがわかりやすい。また、複数の作業を順番立てて行うことが苦手なため、指示は一つずつ出し、その作業が終わったら次の指示を出すというようにしている。以前は手順などのマニュアルを作って壁に掲示し、いつでも確認できるようにしていたが、現在は作業に慣れ手順も理解していることから掲示はしていない。

現在3年目。職場の環境にも慣れ、周りの職員とのコミュニケーションもだいぶ取れるようにもなってきた。本人も「調理師免許を取りたい」「いずれはフルタイムで働きたい」と話すなど意欲が見られる。現場の調理師もこうした意欲に応え、盛り付け以外の作業をお願いするなど、「できること」の幅を広げられるような配慮をしている。

調理場

（3）肢体不自由のある職員

送迎バスの運転を担当。就業時間は8時〜10時、および15時〜17時。勤務条件は、同じ業務担当の他職員（2人）と同じで、同等に業務をこなしている。

（4）精神障害のある職員（1人は体調を崩し休職中）

介護予防のための運動教室の運営補助（物品の準備や健康チェック、日誌の記入など）を担当。就業時間は8時30分〜16時。

取材時は、まだ雇用して2か月程度。何かあれば知的障害のある職員のジョブコーチ支援も依頼している「はあとねっとみやこ」に相談することとしているが、今のところ相談が必要なトラブル等は発生していない。人が大勢いる場所にいると強いストレスを感じるため、参加者の多い教室には配置しないよう配慮をしている。また、急な作業変更など突発的なことへの対応が苦手で、それに気を取られて通常業務でミスをし、ストレスから心身の不調（涙が止まらなくなるなど）を訴えたことが2〜3回あった。しかしいずれも1〜2日の休養で回復し、現場復帰している。

4．今後の展望と課題

現在、県内にある支援学校の生徒1人の実習を受けて入れており、介護職での採用を考えている。一方で育成のための体制がまだ整っていないことが課題。新卒の障害のある職員が社会経験を積みながらその分野でスキルアップ、キャリアアップもできるようにしていけたらと考えているが、現時点ではまだ難しい。

また、視覚障害のある50代の職員が数年後に定年を迎えるため、マッサージ担当の今後の体制づくりも課題。残った2人でカバーするのは難しいと思われる。追加の採用も見据えた世代交代を検討しなければならない。

5．障害者雇用を検討している事業所へのアドバイス

介護業界など人材が不足しがちな分野において、障害者を雇用することは人材の確保にもつながる。知的障害のある職員の採用は前例がなく不安があったが、実習で職業適性や職場との相性を見て判断できたのがよかった、と採用担当者。支援学校や支援機関のサポートも手厚く「案ずるより生むが易し」だったと振り返る。こうした支援制度を積極的に活用することで、障害者の意欲や職業適性などをいかした雇用ができるのでは、と語った。

執筆者：ライタ－　鈴木いづみ