五霞工場全景

1．事業所の概要

株式会社サリックスマーチャンダイズシステムズ（以下「同社」という。）は、焼き肉チェーン店を経営する株式会社安楽亭の100%子会社として、グループ約230店舗で使用する食材等の仕入れから製造、物流までを担うサプライチェーンの中核を担っている。安全、安心な食品を製造し、必要なときに必要なものを店舗、そしてお客様に届けることが重要な役割である。

＜設立経緯等＞

2．障害者雇用の経緯

親会社の安楽亭は、障害者雇用を地域貢献に資する企業の社会的責任と考えており、同社も安楽亭グループの一員として、平成17（2005）年から障害者雇用をスタートさせた。

スタート時は、障害者に関する専門の知識を持っている人がいないため、当時の総務人事課や現場の担当者は、障害特性やコミュニケーションの取り方などを一から勉強し、問題が発生する都度、茨城障害者職業センターに相談した。　　

様々な改善も行っており、特に障害者が作業しやすくなるよう現場のレイアウト改善を熱心に行ってきた。また、後述する「労働災害防止ルール」の基礎となる「労働災害環境ルール」の作成やマニュアルの作成も地道に行ってきた。

数年前に障害者職業生活相談員が入社、働く環境が一層安定している。これはスタート時の苦労が実を結んだ結果といえるだろう。

3．採用・配属

（1）採用方法

障害者の採用方法は、次のとおりである。

ア.

ハローワークへの職業紹介（障害者枠）による募集

イ.

障害者就職面接会へ参加

ウ.

近隣の特別支援学校からの紹介と職場実習の受け入れ

エ.

障害者就業・生活支援センター「慈光倶楽部」からの紹介

（2）採用（適性・意志等の確認等）と配属先の決定

採用前の職場見学、職場実習の状況により、慣れるまでのスピード、やる気、会話の成立状況などのコミュニケーション能力などを見極める。また、同社では、食品の安全を守るため作業場の温度が決められており、寒さ、暑さに対応できる体力と気力があるかということの確認も重要である。

たとえば、冷凍食品や新鮮野菜などを取り扱う作業場は、冷蔵庫のような低温（3～5度程度）になっている。逆に洗浄作業を行う倉庫は、夏場は送風機はあるがとても蒸し暑い反面、冬場は寒く、まったく異なる厳しさがある。

そこで、まず半日の職場見学を行い、適性と働く意志・意欲がある方は、もう半日の体験作業を行い、さらに1～2週間の職場実習を行う。こうした体験をすると、入社希望者は2～3割減るが、適性と働く意志のある方たちの応募、選考、採用につながるとともに、配属先についても的確に決めることができる。具体的な選考・採用についてはハローワークと連携して進めているが、こうしたプロセスを経て採用することにより、これまでに採用した19名の方は全員が現在も働いており、100％の定着率につながっている。

4．定着のポイント

19名の障害者がこの厳しい環境の中にあって、1人も辞めていない理由としては、まず本人たちの努力である。加えて、総務人事課および各現場の従業員がさまざまな努力、配慮をしているからである。

以下、その内容を紹介する。

（1）総務人事課と現場の信頼関係の構築

総務人事課は、履歴書、本人面談、紹介先のハローワークや就労支援機関などから情報を得て、長所ばかりでなく、苦手な部分についても配属先の部門長に伝える。また、「配属したら終わり」ではなくて、配属後も現場に頻繁に顔を出し、現場と一緒になって問題点を解決するよう努めている。これが総務人事課と現場の信頼関係の構築につながっている。

（2）障害者育成のための基本

障害者を育てるのは現場である。だれもが障害者へ積極的に声をかけ、仕事を理解するまで根気強く説明し、ほめるときはほめ、注意しなければならないときは見て見ぬふりをしないでしっかり注意する。これらが障害者を育成するための基本である。そして、もともと日頃からコミュニケーションのとれている温かみのある職場であることが、障害者を雇用し、育てる上での良い環境となっている。

（3）ジョブコーチの活用

茨城障害者職業センターには、たびたびジョブコーチの派遣をお願いしている。特に新規採用者や、新しい作業へのスムーズな対応には、障害者支援の経験が豊富なジョブコーチは、頼りになる存在である。

そうしたジョブコーチが、同社について次のように話す。

「とにかく障害者の面倒見のよい会社。他社であれば退職となるような障害者に係るトラブル、ミスマッチがあっても、障害者職業生活相談員の2人が職場の異動、勤務時間の調整など、粘り強く対応し、雇用の継続を図っている。」

（4）障害者就業・生活支援センター慈光倶楽部との連携

慈光倶楽部からは、利用者7名が同社に勤務しているので、総務人事課及び現場が日ごろから密接に連携を図り問題を解決してきた。

慈光倶楽部の担当者は、同社について次のように話す。

「職場は寒く、単純な作業の繰り返しで楽な仕事ではないが、みなさん張り合いを持って働いている。これは、障害者職業生活相談員の2人が日常的に声をかけ、どのようなことでも熱心に相談に乗っていることが大きい。また、この関係が障害者同士にも広がり、お互いに声をかけ合い、お互いをフォローしながら日々の作業を進めるよい人間関係づくりにつながっている。」

（5）障害者雇用の大きな力「障害者職業生活相談員の2人」

ア.

障害者と常に一体の 2人

上記の障害者職業生活相談員の2人とは、総務人事課の担当係長（以下「A係長」という。）とベテランの看護師（以下「B看護師」という。）である。障害者の気持ちをよく知り、障害者を活かすために日々全力投球する2人の存在は大きい。

2人は、事務の仕事のほかに障害者と全く同じように午前9時から午後3時まで、洗浄部門において、洗浄作業をしながら、障害者の体調、精神状態、職場での人間関係等の状況を把握し、声かけ、相談への対応や指導を行っている。昼食時も障害者と同じ席に座り、食事をしながら話をするようにしており、常に障害者の微妙な変化に気づける至近距離で障害者を見守っている。

特にB看護師は経験豊富で、体調不良が病気によるものか障害特性によるものかなどの判断も的確であり、作業者の顔色や動きにも注意を払い、小休止や水分補給を行っているので健康問題は起きていない。

イ.

障害者の気持ち

障害者職業生活相談員について、働いている障害者おふたりは次のように話された。

「わからないことや困ったときに相談したい人がすぐそばにいる。体調のよくないときに体の変調に気づき、すぐ対応してくれる看護師さんが脇にいる。これだけで安心して仕事に打ち込める。」

「同じ環境で一緒に仕事をしてくれるので、私たちの大変さもわかってもらえる。自分たちのよき理解者2人がそばにいるので、家族も安心している。」

5．仕事の内容

下記の現場は、前述のとおり、食品に合わせた厳しい温度帯の中での作業であるが、どの職場の障害者も全力で取り組んでいる。

洗浄部門に従事する障害者は10名（知的障害者4名、精神障害者4名、内部障害者1名、聴覚障害者1名）と最多であり、障害の種類も多様である。同社の障害者雇用のモデル職場のような部門であり、A係長とB看護師が障害者と一緒になって働きながら指導している。

野菜や肉などの食品を入れて店舗に送る通い箱（ボックスとフタ）の洗浄作業（写真・左下）及び洗浄後のボックスを重ねて安定させる作業（写真・右下）を行っている。

大切な食品を入れるボックスであり、すみずみまでチェックし、どんなに小さな異物も見逃さない注意力や几帳面さが必要である。

チェック後は、水で丁寧に洗浄し、最後に防菌のためにアルコール液で消毒する。ボックスは1人で1日、200～400個、フタは300～600個も処理するので、スピードと忍耐力が必要であるが、各自の障害特性に適したペースで作業をしている。

洗浄作業

洗浄後のボックスをまとめる作業

ピッキング補助作業の知的障害者と精神障害者計4名は、ピッキング作業を行う人たちが作業に集中できるよう折りたたみコンテナの組み立てや野菜をピッキングしやすい単位に袋詰めしたり、在庫の移動や補充をしたりするなどの作業を行っている。

各店舗へ決められた時間に商品を届けるために、トラックへの積み込み時間は厳守しなければならない。正確さと時間と勝負するスピードが要求されている。

惣菜加工の補助作業の精神障害者1名は、野菜のカットや計量を担当している。

保冷作業、入出庫作業（写真・下）は、身体障害者1名が担当している。産地から届いた食品や惣菜工場で製造した惣菜品の荷受・冷凍庫への保管・在庫管理を行っている。

保冷庫の一部

商品（肉類）の検品とラベルの添付作業

このほか、清掃作業に身体障害者1名、各種データの入力をする事務に精神障害者1名が従事している。

6．安全対策

安全対策には特に気を使っており、労働災害は起きていない。特に参考になるものを2つ紹介する

（1）労働災害防止ルール

洗浄部門における労働災害防止ルール（写真・下）を職場内に掲示している。写真主体で、ひと目でわかるように工夫している。

労働災害防止ルール

（2）安全ペーパーテスト

安全第一の作業を行えるよう、部門別の安全ペーパーテスト（安全や衛生に関する重要10項目を内容とするもので、下の写真参照）を職場の随所（作業机等）に貼付し、常に安全確認をするよう促し、随時テストも行っており、安全対策に効果を上げている。

特に、知的障害のある社員については、安全ペーパテストを活用した指導が効果的である。障害特性の影響もあり、重要事項を覚えるまでには時間がかかるものの、項目を絞り、わかりやすい表現で繰り返して指導する（覚える）ことで、一度覚えたことは確実に身につき、身についたルールはしっかり守られている。

安全ペーパーテスト

7．今後の課題と展望

（1）生活設計と健康対策

少子高齢化の時代を迎える中、年金受給年齢の引き上げも行われており、健康で長期的に働き続けることが社会全体の課題となっている。障害者にとっても、健康で長く働くための健康対策が一層重要となっている。特に暴飲暴食など、勤務に影響を与えるほどの生活習慣の乱れについては、厳しい指導を行っている。これらは、業務はもとより本人の将来を考えた対応であり、今後は、個人に見合った指導をどのように行っていくかを課題としている。

（2）多様な人材活用

女性や若者の人材活用に関しても積極的に推進している。企業内託児所の設置はその一例である。障害者についても業務のレベルアップや従事できる業務を増やしていくなど、戦力化の仕組みを構築中である。障害者にとっては、社会性の向上・経済的自立、企業にとっては生産性の向上による安定経営という、障害者・企業双方にとってメリットのある取組みを進めている。

（3）おわりに

障害者職業生活相談員でもあるA係長は、障害者のために働きたいという志（こころざし）を持って、大学で社会福祉学を学んだ。また、B看護師は、障害者福祉施設で働きながら、いつの日か企業という実践の場でこの経験を活かしたいという強い思いを持っていた。まさに2人は、同社で働くために勉強し、経験を積み、満を持して入社してきたわけである。

最後に2人のお気持ちを紹介し、まとめとする。

ア.

A係長の話

「障害者のみなさんと、共に悩み、共に成長していることを日々実感しており、この仕事を担当させていただき、うれしいかぎりです。障害者関係の仕事をしたいと、福祉関係の大学に進みいろいろと学びました。企業では、理論通りに事は運びませんが、学んだことは決して無駄ではなかったと感じています。今後もたくさん経験を積みながらみなさんと一緒に精進していきたいと考えております。」

イ.

B看護師の話

「この仕事が好きで、毎日、会社に来るのが本当に楽しみです。1日として同じことの繰り返しはなく、日々新鮮です。これまで福祉施設で13年間、障害者の仕事に携わってきましたが、それはそれで充実した日々でしたが、現在は企業における実践ですので、真剣勝負の緊張感もあり、一層充実した日々になっています。今後もみなさんと一緒に成長していきたいと考えております。」

執筆者：ヒューマン・リソーシズ・コンサルタント　北村　卓也