事業所外観

1．事業所の概要

サクラ電線工業株式会社（以下「サクラ電線」という。）は昭和45（1970）年8月にサクラ電線工業有限会社として設立され、各種ビニル電線の販売を開始した。昭和48（1973）年より電線切断機や自動端子圧着機等の設備を整え、昭和54（1979）年から電線ケーブル端末加工を開始するなど、現在の業態となる。昭和61（1986）年に相模原工場を設置し、本社を相模原市に移転、その後、平成4（1992）年には本社ビルを新築、平成13（2001）年に管理棟及び資材倉庫を購入など相模原市内で事業を拡大し、相模原市に根付いて事業を行っている企業である。

サクラ電線は工作機械や産業用ロボット、検査装置などの部品となる産業用のワイヤーハーネスや各種ケーブルを主力製品としており、幅広い産業分野で使用されている。小ロットの生産にも対応し、顧客からの多様な図面・仕様に合わせた製品を、多種・変量・混流生産している点がサクラ電線の特徴となっており、月に800～900種類のハーネス等を約8万本製造している。製品の多くは顧客の仕様に合わせた高機能かつ特殊な用途の製品がほとんどであるため、柔軟な生産システムの構築や機械設備での対応はもちろん、手加工や製品チェックのために技術者の勘やノウハウに頼る部分も多く、熟練した技術者が必要となることから、人材教育に力を注ぎ、技術者のスキル向上に努めている。平成29（2017）年12月現在の従業員数は50人である。その内、6人が障害のある従業員であり、製造、検査、出荷等の部署にそれぞれの職業適性等に合わせて配置されている。6人のうち、知的障害のある従業員、精神障害のある従業員各1人は10年を超えて勤務しており、9年目を迎えた精神障害のある従業員も勤務をしている。

今回は「在職する障害者の加齢に伴う課題への対応」と「精神障害者が定着できる職場環境」をテーマに、サクラ電線の中津川副社長に話を伺った。

2．障害者雇用の取組

（1）知的障害のあるAさんの事例（在職する障害者の加齢に伴う問題への対応）

Aさんは東北地方の中学校卒業後に上京し、30年以上住み込みで働いていたが、経営者が変わったことをきっかけに、会社都合により退職となった。その後、療育手帳を取得してグループホームへ転居し、相模原就労援助センターの支援で求職活動を続けていた。平成19（2007）年に、サクラ電線で2週間の実習とその後の3か月のトライアル雇用後、正式雇用となった。業務は主に電線の端末加工などに従事している。

まじめな性格で、正式雇用後は担当する作業の幅が広がり任される仕事が増え、難易度の高い作業も行うようになっていった。しかし60歳を迎えたころから、本来は切ってはいけない電線を切るなどの、これまでなかったようなミスが見られるようになってきた。また、手すきの時間が生じたときに自分の判断で作業を進めるような場面も見られるようになった。作業ミスを周りの従業員から指摘されることも増え、そのことからAさんはストレスを感じている様子があった。元々まじめに仕事に取り組むAさんのことを評価していた事業所としては、雇用を継続させるためにはどのような環境や支援があれば安定して働けるのかを、支援機関も交え検討を行った。その結果として、難易度の高い作業を減らし得意とする作業に業務を絞ることでミスを減らすこと、Aさんが専門にできる仕事が途切れないような作業の配分をすること、周りの従業員がAさんへの関わりを意識して行えるよう業務体制を変更することなどに取り組むこととなった。この取組の結果、Aさんの作業ミスが大幅に減った。Aさん自身でやるべきことがわかる環境となったこと、「仕事がきちんとできる」という再評価をされるとともに、そのことがフィードバックされる体制となったことで、ストレスも軽減され、再び安定して働けるようになった。

体調面でも血圧が高くなる、目が見えづらくなるなどの症状が出るようになっていたが、体調面での変化についても支援機関と連携し、障害者就業・生活支援センターを通してグループホームとも情報共有をはかっていった。グループホームでの様子だけでは把握しづらい面を、就労先との連携のなかで把握できたことで、Aさんの通院状況の確認やメガネを新調するなどの対応を取ることができた。

勤続10年の表彰を受けたAさんは、働くことに生きがいを感じて「定年まで働きたい」と希望するなど、元気に仕事に取り組んでいる。

Aさんの作業の様子

（2）精神障害者が定着できる職場環境について

サクラ電線の作業は、正確さと器用さが求められるものほとんどで、一般のパート従業員に応募してきた障害のない人も、全員ができるという訳ではない。現在、雇用されている4人の精神障害のある従業員を採用するきっかけは、地域の支援機関からの紹介であった。この4人以外にも、何人も実習を受け入れてきたが、その中で「この人ならこの仕事ができるのではないか」と検討した結果、職業適性等が合って採用となったのが今の精神障害のある従業員である。精神障害者といってもそれぞれ異なる特性がある。最初のうちはフラフラと歩きまわる様子が見られた従業員も、一つの仕事を覚え、主担当として業務を任されるようになると仕事に集中して取り組めるようになった。仕事の速さは遅いが、誰よりも正確な仕事ができる従業員もいる。最初からきっちりとした仕事をする従業員もいる。一人ひとりが力を発揮できる職場環境を整えることで、精神障害のある従業員も安定して力を発揮している。

3．取組の効果

（1）サクラ電線の取組の背景

サクラ電線では、ダイバーシティの考え方の下、様々な状況にある従業員の働きやすさを優先して雇用が進められている。会社の基本的な考え方として「その人が一番力を発揮できる状況」を意識して経営がされており、その人に合った役割を見つけることが重要だと考えている。全従業員数50人の中で、高齢者、女性の割合が高く、なるべく従業員個々の希望に沿うように勤務時間を調整し、休暇なども取れるようになっている。会社として一番大切なことは仕事ができることで、そこを基本として、会社が融通を利かせられる部分は柔軟に対応している。

この「その人が一番力を発揮できる状況」を意識して取り組まれていることの一環として、障害者の雇用も位置付けられている。職場においては、その人が仕事としてできることがあれば、障害の有無はあまり意識されていない。それぞれの部署で「これならこの人にできるのではないか」という作業に合わせていく形を取っており、そういった面では障害のない従業員と同様の処遇となっていることで、雇用されている障害のある従業員に疎外感はない。他の従業員からすると、障害のある従業員が普通に同僚として隣にいる状況となっており、障害があってもなくても、自分ができることで、普通に仕事をするという形となっている。事業所として従業員それぞれの特徴を捉えて、役割を決めていることから、業務全体がうまく回っている。精神障害のある従業員のなかには、定時出勤ができない人もいるが、勤務時間の変更などで柔軟に対応している。一般のパート従業員もその人に都合の合わせて勤務時間を調整しており、勤務時間の変更についてはその延長線上にあるので、会社としては特に問題は感じていない。

（2）中津川副社長の話を伺って

中津川副社長は「特別なことはしていない」と何度か発言しているが、相模原市内の障害者施設で事件が起こった際には、精神的な面でケアをしようと思い、雇用している障害のある従業員を集め「心配しなくていいよ」と声をかけたそうである。彼らがどのように感じているのか、理解しようという姿勢があることから、このような行動が自然と出てきたのではないかと感じた。障害の有無というより、その人がどのような形であれば、力を発揮できるのかを、すべての従業員に対して考える姿勢が、従業員を理解しようということにつながり、そのことで、自然と障害のある従業員の働きやすい環境につながっていることが、今回の取材を通じて強く感じたことである。

執筆者：社会福祉法人相模原市社会福祉事業団
就労援助センター/相模原障害者就業・生活支援センター
就業支援員　長沢　伸孝