障害者を特別な扱いをせず、必要な人材として雇用する
- 事業所名
- 日本海綿業株式会社(法人番号 1230001002302)
- 所在地
- 富山県富山市
- 事業内容
- リネンサプライ
- 従業員数
- 400人
- うち障害者数
- 12人
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 工場、洗濯作業 肢体不自由 1 工場、仕分作業 内部障害 1 営業、管理 知的障害 8 工場、仕分・投入・結束・タタミ作業 精神障害 1 工場、仕分作業 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
工場外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
日本海綿業株式会社(以下、「当社」という。)は昭和37年(1962年)12月に病院基準寝具の賃貸を事業目的にして設立された。その後、リネンサプライ、一般貸布団、医療関連商品販売事業、さらに医療材料の減菌代行を行うメディカルサポート事業を加え現在に至っている。
また、北陸3県、隣接する新潟、長野、岐阜及び関東地方にも支店、営業所、工場を設け営業活動を行っている。これらの事業のうち、リネンサプライ事業は当社が、シーツ、医療用白衣、タオル、浴衣等の寝具類を顧客に提案し、当社で繊維資材の購入、縫製加工、殺菌消毒クリーニング、指定時間の配送、利用後の回収、殺菌消毒クリーニングといった一連の流れを行うもので、主に病院、ホテル等の衛生的な管理が要求される業種に納品している。
(2)障害者雇用の経緯
リネンサプライ業は、障害者の雇用率が高く全国平均を大きく上回る企業が多い業種である。当社でも取引先の病院からの依頼を受け、精神障害のある人の社会復帰の訓練の一環として短時間勤務で受け入れを行ってきた。
平成25年(2013年)5月に、多くの障害のある社員を雇用し、ほとんどの作業を知的障害のある社員が行っている広島県内の事業所を見学する機会があった。その事業所では、障害のある社員を「必要な人材」として位置付け、障害者雇用に取り組んでおり、障害のある社員の雇用について基本的な考え方から見直しする必要性を感じた。これを機に当社でも、総合支援学校、高等支援学校との就業体験やハローワークへの求人を通じ障害のある社員の雇用を進めるようになった。特に富山総合支援学校とは連携を図り、希望する生徒の就業体験の受け入れを進めている。また、企業見学を定期的に受け入れ、教育活動に協力するとともに就業体験を受け入れ、会社への関心と理解を深める機会を持っている。
障害のある社員を雇用する場合は、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)との間でジョブコーチによる支援を受け、職場適応を図り、障害のある社員本人だけでなく、事業主、同僚、家族に助言をもらい就労の安定に努めている。また、社内研修等の機会を利用し従業員の理解を深め、障害者職業生活相談員資格認定講習の受講を積極的に進めている。
今後の雇用情勢を考えると、柔軟に人材を確保する体制作りには障害のある社員の雇用が重要であると考えており、これからも障害のある社員も障害のない社員と同じように一人ひとりを大切な人材と考え、一緒に現状を改善し、会社の発展または安定した就労や生活につながるよう進めていきたい。
2.取組の内容と現状
(1)取組の内容
- ア.
- リネン類洗濯工場における仕分・投入作業
採用に当たっては、3か月間のトライアル雇用を行い、互いに作業や職場環境への適応や職業適性の可否を判断した。その間はジョブコーチ等に対象者本人と周囲との調整やコミュニケーションの補助、職業適性のアドバイスを行ってもらい職場定着に向けて指導をお願いした。病院やホテルなどの取引先から回収したリネンを用途別に選別し洗濯工程への投入を行う作業で、4人の知的障害のある社員が8時30分から17時まで働いている。新規採用の際には、まず高等支援学校からの就業体験を受け入れた。就業体験を行うに当たり、責任者と指導者を決めて障害特性や性格などを説明し、仕事や職場とのマッチングを見極めるよう工夫した。責任者の役割は全体の流れと対象者の能力、障害特性、性格等を考え、就労の安定を目指すことである。また、指導者は業務内容、安全、作業手順、職場でのコミュニケーション等を指導している。
【障害のある社員と周囲の社員との関係】
従業員に障害があるという意識はあまりなく、職場の同僚という意識で接している感じが多い。
【指導者 安邊さんの話】
当初は、間違いや集中力が続かないなど課題が多かったが、ジョブコーチに間に入ってもらい、双方の悩みやズレなどコミュニケーションの足らない部分を埋めてもらった。また、どのように指導すればよいかジョブコーチと共に考え、わからないことは実際にやって見せ、忘れない様に「絵」や「図」を用いて提示し、根気よく指導した結果、一つずつ仕事を習得することや本人の職場定着を実現できた。
仕分・投入作業の様子
- イ.
- 玄関マット・清掃モップ洗濯工場における洗濯作業
専用の大型洗濯機と乾燥機を使い、レンタル品のマットやモップの洗濯作業を行う業務で適切な温度管理、洗剤管理のもとで洗浄・脱水しその後は乾燥機で乾燥を行い、薬剤でワックスを付着させる。
聴覚障害のある社員1人が8時30分から17時まで働いている。この社員はハローワークの一般枠で採用した。当初の労働条件は時給によるものであったが、現在は正社員となっている。
障害のない社員との関係に課題は全くない。本人も同僚も障害があることは認識しているが、人により得意不得意があることを前提に、お互い協力しているので障害について特別に意識することはない。
なお、当該社員については、病衣の乾燥、プレス仕上げにおいて上着を袖出しし、効率を上げる作業や、仕上ったシーツ・包布の結束作業、台車への保管作業など様々な作業の習得が期待される有為な人材として働いている。
洗濯作業の様子
昼食風景(社員食堂)
(2)現状
- ア.
- 周囲の感じ方
職場では障害のある社員を特別視することはないが、障害特性についての理解は不足している。そのため、障害のある社員に対して
- (ア)
- 体調や精神状態により作業の効率や周りへの対応方法にムラがある。
- (イ)
- 社会人としてのマナーや会社で決められた規則を守ることができないときがある。
- (ウ)
- 周囲の状況が把握できない。状況を把握し、仕事の優先順位やペースを考えた行動をとることができないときがある。
などの不安を感じている。
- イ.
- 障害のある社員の立場
周囲と上手にコミュニケーションをとることが難しいため
- (ア)
- 障害特性によっては、体調や精神面が不安定な場合がある。
- (イ)
- 会社の就業規則等は一般社会や社会通念を基に作られており、使われる言葉は障害のある社員にとって難しいことがある。
- (ウ)
- 得意な領域と苦手な領域の格差が大きいため、周囲に対する対応が時と場合によって変化することがある。
などを伝えることができないことがある。
このように、障害のある社員と障害のない社員との間でお互いの理解を深めるためには、個々の障害特性を理解し、適切な対応ができる専門的な知識が必要となっていることから、障害のある社員に対する理解者の育成、障害特性の周知や情報の共有等を目的に、ジョブコーチ支援を始めとする各種支援制度の活用や就労支援機関等の関係機関と連携することが重要である。
- ウ.
- 障害のある社員への配慮
当社では、知的障害のある社員の雇用割合が多い。そのため、知的障害(者)の特性に考慮して以下のように配慮している。
- (ア)
- 仕事がしやすい職場環境
■指示系統の配慮様々な人から指示するのではなく、指示系統を統一しておくことで指示を受ける障害のある社員が混乱しないようにする。
■職場でのルールを分かり易く表示する会社のルールや勤務での約束事を、分かっているかどうか確認すること。また。分かり易いことばで伝えること。(例えば、ロッカーの使い方、休憩時間の過ごし方、書類の提出の仕方)
■家族や関係機関との連携雇用に当たっては、家族が本人の仕事をよく理解し、支える体制作りが必要。更に欠勤、仕事に集中できない、体調不良などの健康面、精神面の解決は関係機関との連携が必要。
■キャリアアップ障害の有無にかかわらず長期にわたって同じ仕事を続けていると変化を求めるようになる。その際にはキャリアアップできる機会があれば自信や周囲からの評価を感じ、やる気が生まれる。職場に多くの職種を準備し柔軟に受入れることで職場の定着を図る。
- (イ)
- 仕事を教え一緒に働く
■障害のある社員の個人差を知る障害のない社員一人ひとりに個人差があるように、障害のある社員にも個人差がある。特に障害がある社員の場合は得意な領域と苦手な領域の差が大きいことを理解し、それぞれの能力を把握する。
■学習するのに時間がかる一つの仕事を覚えるまでに多くの時間と回数が必要な場合がある。繰り返し指導し伝えることで効果が現れる。過大な期待を抱かずに指導することが大切。
■伝達手段としての絵や記号一般的に、文章を理解することや数字を操作することは苦手な人が多い。作業工程を絵や図で表現などの工夫をする。
■仕事を評価する障害の有無にかかわらず「過ち」を注意するだけでなく「正しい行動」を評価し本人の自信につなげる。感受性が豊かであるので、「否定された」と受け取られないよう、効果的な「評価の仕方」、「注意の仕方」が大切。
- (ウ)
- 教え方の原則
- ことばや文字だけでなく、「具体的」にやってみる。やってみせて、一緒にやる、一人で反復して行うことで習得に近づく。
- あいまいにしないで「正確」に教える。一度、身につくと修正するのが大変。
- 一貫した方法で教える。説明方法を変えたり、異なったやり方をすると混乱する。
- 「教えた通りにやっているか」を定期的にチェックする体制が必要。
- 感受性は豊かである。「否定された」、「差別された」といったことに敏感であり、年齢に応じて社会人として対応することが大切である。
- 明確な決まりやルールを理解し守ろうと努力することの重要性を伝えること。「新しいことを覚えるためには時間がかかるが、一度覚えたことはしっかりとこなす」、「毎日の繰り返しとなる生活習慣(生活能力)を身につけることができる」などの障害特性を理解すること。
3.今後の展望
同業他社の事例を参考に
(1)採用方法の確立
採用にあたりミスマッチを防ぎ職場定着率を高めるためには、就業体験、トライアル雇用制度を活用し、適性をお互いに見極める必要がある。今後も障害者雇用の経験を積み安定した採用を行うためには、支援学校やハローワーク、支援センター等の関係機関との連携を深めていくことが重要である。
(2)作業内容の見直し
これまで「こんなものだ」と固定観念で見てきた作業に見直しや工夫を行い、障害のある社員の能力を引き出せるような作業環境作りを進める。
(3)職場環境作り
各現場の責任者や指導者だけでなく、会社全体として障害についての知識や理解を深める。また、指導方法や安全管理、サポート体制を改善することが大切である。
以上の実現のためには専門的な知識が不可欠であり、ジョブコーチ等の支援者(支援機関)との連携を進める。
執筆者:日本海綿業株式会社 取締役総務部長 松井 喜義
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