事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の背景・経緯

（1）事業所の概要

株式会社吉村甘露堂（以下「同社」という。）は米菓製造販売店として昭和4（1929）年福井県鯖江市にて創業、昭和41（1966）年に法人化し、有限会社吉村甘露堂を設立。その後、株式会社への組織変更を経て、昭和50（1975）年、豊かな名水と広大な水田に囲まれた大野市郊外に生産工場を新設。平成9（1997）年大野工場に一貫生産工場を増設。平成12（2000）年より本社機能を鯖江市から大野市へ移転し、現在に至る。

あられ・おかきなど米菓を製造し、福井県をはじめ全国各地の食品スーパー等の販売店に納入するとともに、鯖江市と大野市本社工場内にある直売店舗にて販売を行っている。

社是として「おいしさは愛」を掲げ、“社員に優しく、おかきにやさしい会社”をモットーに、近年、政府が進める働き方改革方針に準じ、勤務時間短縮、有給休暇取得増加等、社員に優しい職場づくりに熱心に取り組んでいる会社である。

（2）障害者雇用の背景・経緯

同社における障害者雇用の歴史は古く、鯖江工場時代の約50年以上前からすでに知的障害のある社員が働いており、大野工場移転時には7、8人の障害のある社員を雇用していたとのこと。その後も継続的に障害のある社員の雇用実績があり、障害者雇用に対する理解とその基盤は長年の積み重ねにより培われているようである。ちなみに平成27（2015）～29（2017）年度における障害者実雇用率は、いずれも8％台である。

採用については多様な方法をとっており、知的障害のある社員Aさんは同社の求人募集情報を見て入社を希望、自ら応募し面接を受け入社した。一方、発達障害のある社員Bさんは、当初障害者福祉サービス施設に所属しており、施設から同社への依頼により、約2年間の職場実習を経て採用された。いずれも障害者の雇用に積極的な同社の姿勢が表れている。

2．障害者雇用の取組内容と効果

（1）工程概要

工場で製品ができあがるまでの工程概要は以下のとおり。

ア.

洗米・浸漬

洗米後一昼夜浸水し、充分な水を含ませ、翌朝水を切る。

↓

イ.

製餅

粉砕機で丸粒の米を粉状にし、蒸練機で20-30分蒸し上げて餅にする。

↓

ウ.

切断・乾燥

乾燥した餅を裁断機でそれぞれの決まったサイズに切断し、生地にする。

↓

エ.

焼き

特徴に応じて、反覆釜、運行釜、平釜の3種類の釜で焼き上げる。

↓

オ.

味付け

焼き上がったあられ、おかきを調味料が入ったサラダ油や醤油で味付けする。

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カ.

選別・包装

味付けしたあられ、おかきを割れや欠けなどを選別し、包装・箱詰めして、お客様の元へ出荷する。

（2）取組内容

ア.

知的障害のあるAさんについて（選別・包装工程を担当）

Aさんは一度に複数の指示を受けると、抜けが出る場合が多い。Aさんの上司は「私も確認フォローをしている。抜けがあると注意するが、厳しくは言わず、穏やかに自覚させる。私は後処理を行わず、必ずAさん本人に対応させている。処理に時間はかかるが、責任を持たせるとちゃんとやってくれている。」と話す。

Aさんは明るくおしゃべり好きで、パソコンや携帯電話の操作に詳しく、また温泉巡りが趣味でもあり、仕事以外の話題が豊富で、他の社員とのコミュニケーションも全く問題ないとのことである。

「入社したての頃は、苦慮したこともあったが、この人はこういう対応をすればいいと分ってきた。きつく言ったり、あれもこれもと指示するとパニックになるので、それさえ避ければ一つずつ一生懸命やってくれるし、Aさんも分からないことは絶対聞いてくる。」と上司は微笑んでAさんを見つめる。

おかきの選別をするAさん

指示書を確認するAさん

製品別梱包数を示す指示書

イ.

発達障害のあるBさん（焼き・味付け工程を担当）

Bさんは几帳面で、着替えでも衣類を一つひとつ定位置に置くため時間がかかる。業務においても自分自身のこだわりがあり、常に自分のペースで事を行うとのこと。Bさんの上司は「この仕事を何時までに完了させること、と指示してもできないことがあるので、時間に余裕のある業務を選択し、配置している。また、作業指示をする場合は、完了時間を明確に区切らず、Bさんの作業ペースに合わせるようにしている。時間はかかるが、一つひとつしっかりとやってくれるので、すごくありがたい。」と話す。

焼き上がった数種類のおかきの
混ぜ合わせ作業を行うBさん

混合完了したおかきを袋詰めし、
次の工程へ送るBさん

ウ.

共通事項について

障害のある人が入社した場合、配属先の上司などに障害特性や配慮事項等を伝えるが、他の社員に広く伝えるような説明は特に実施していない。苦情を言う社員もあるが、その都度上司が説明して理解を得ている。

外部の障害者支援機関については、これまで利用することなく済んでいるとのこと。Bさんが障害者福祉サービス施設から職場実習に来ていた期間には、当該施設から担当者が時々確認に来ていたが、その後必要なくなっている。

勤務時間において、両名とも8時から15時までの出勤である。繁忙期においては残業を依頼することもあるが、無理にならないよう16時までとし、それ以上は遅くならないよう配慮されている。また、上司も、早く帰れるよう仕事のやり方やスムーズに仕事が流れるよう段取りを意識しているとのこと。

（3）効果

すでにAさんは10年以上、Bさんはほぼ7年以上、同社で働き、定着している。

「もはや私よりよく知っているところがあり、いなくなったら困る存在になっている。」とAさんの上司は言う。

3．今後の展望

同社の吉村社長にも話を伺った。

「障害者を雇用することについて、なんら特別なことはしていない。障害のある人もない人も何の差別もすることなく、来る者は拒まず、まずは働いてみる。できる範囲で、無理なことはせず、続けていたらできる業務の範囲が広がっていたということ。いろんな仕事をやらせてみて、一番合っている業務内容を探りながら共に働く、というやり方がよいと自然とわかってきた。50年以上前から知的障害のある社員が何名か働いていたが、昔からうちの会社はそういう人を大事にしていた。」と話す。

また、「実は私自身も視覚障害があり、ほとんど見えない。だから障害のある人の気持ちはよく知っている。これからも障害のある人にも何のわけ隔てなく、機会あればどんどん雇用していく。」とも話す。

ちなみに、同社は、平成27（2015）年に「子育てサポート企業くるみん認定」を、平成28（2016）年には、家庭と仕事の両立に会社と社員が一緒に協力して取り組む活動が高く評価され、「子供と家族・若者応援団表彰」内閣府特命担当大臣表彰を受賞している。

吉村社長は「ものづくりの中では働き方改革という国の方針もあり、会社と労働組合が一丸となって働き方の見直しを進めている。始業時間を遅くしてみようか、休憩時間を増やそうかなど、組合がどういう働き易い職場を目指しているのかを聞きながら、いろんな改革を行い、社員が働き易い職場にしようと進めている。“社員に優しく、おかきにやさしい会社”を理想とし、障害のある社員に対しても、足らない部分は皆で補い、本人たちもできることをきちんとやるということをこれからも続けていく。」と笑顔で話す。

自身が視覚障害者である吉村社長の下、社是「おいしさは愛」として培われてきた同社の文化、スタイルが障害者雇用にも現れていると感じられた。

吉村社長

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構　福井支部
高齢・障害者業務課　　藤野　伸二