チームワークと心のバリアフリー環境にて精神障害者の定着に取り組んでいる事例
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事業所外観
1.事業所の概要
(1)設立
昭和40(1965)年、岐阜県内の各農協が出資母体である岐阜県販売購買農業協同組合連合会の岐阜県経済農業協同組合連合会への改名時に、より高度化し複雑化する経済事業を円滑に運営し専門的できめ細かいサービスを提供するために事業別に子会社を設立することとなり、その一環として同年7月に岐阜県くみあい飼料株式会社が設立された。また、時代の流れに沿うために新たに昭和60(1985)年に岐阜くみあい食鳥株式会社を設立した。その後、系統飼料事業の地域別工場集約方針に沿って飼料製造を取りやめて、平成元(1989)年に社名を岐阜県くみあい飼料株式会社から岐阜くみあい直販株式会社に変更するとともに、農畜産物や農業用EM(有用微生物群)関連資材の取扱を開始した。平成5(1993)年には、岐阜くみあい直販株式会社が岐阜くみあい食鳥株式会社を吸収合併して岐阜アグリフーズ株式会社と改名し本店を現在地とした。その後、プロバイオティクスであるEM菌を使用した安全・安心で高品質な商品の開発に大手量販店等とともに取り組み、平成7(1995)年に当時多用されていた抗生物質や合成抗菌剤を一切使用しない生産物(食鳥・豚肉)の開発に成功した。現在、主力の特別飼育鶏の他、特色ある銘柄肉として飛騨牛、飛騨旨豚、美濃ヘルシーポーク、奥美濃古地鳥等を取扱い、卸売り、ギフト販売を行っている。また、飼料添加剤のEMフィードやEM活性水とプロポリスより開発した化粧品の販売事業も行っている。
(2)事業概要
- ア.
- 総合食品事業(食肉製造・販売事業及び家畜家禽の飼育事業)
- 主力商品である特別飼育若どりや奥美濃古地鶏は自社農場や契約委託農場にて、飛騨旨豚、美濃ヘルシーポークは指定農場にて、抗生物質・合成抗菌剤に替わるEMフィードを配合した飼料により飼育をしている。ISO9001、ISO22000の認証を段階的に取得後、発展的に解消しながら食品の安全と品質に関するGFSI認証スキームのひとつである「SQFレベル3」を取得した。取引先や消費者に、最高レベルの包括的な食品安全・品質管理システムを担保として、飼育・食肉処理加工・輸送・流通に至る事業を展開中である。
- イ.
- 生活関連付加価値事業(化粧品・健康食品)
- か(環境)、き(規制緩和)、く(暮らし、食物)、け(健康)、こ(高齢化社会)をテーマとした事業開発を行っている。現在の主力商品としては、プロポリスと天然ハーブに独自技術を加味した自然派・無香料のプロハーブ化粧品、EMクリームや健康食品などの高品質で低価格な良品の提供事業を展開中である。
(3)経営理念と社是、品質方針
岐阜アグリフーズ株式会社は、全農100%出資の子会社として安全な国産農畜産物を消費者にお届けすることを使命とし、高品質で安心できる商品提供をその方針としている。
- ア.
- 全農グループ経営理念
私たち全農グループは、生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になります。
私たちは「安心」を3つの視点で考えます。
- 営農と生活を支援し、元気な産地づくりに取り組みます。
- 安全で新鮮な国産農畜産物を消費者にお届けします。
- 地球の環境保全に積極的に取り組みます。
- イ.
- 社是
- 一.私たちは「安全・安心・良質」な農畜産物を通して、健康でより良い社会づくりに貢献します。
- 一.私たちは常に「品質向上」をめざし、「信頼」ある商品をお客様にお届けします。
- 一.私たちは「コミュニケーション」を大切にし、明るく働きがいのある職場づくりをめざします。
- 一.私たちは常に「誠実」に行動し、社会の模範となるよう努めます。
- 一.私たちは常に地域社会の一員として「社会に貢献」するとともに、環境問題に積極的に取り組みます。
- ウ.
- 食品安全・品質方針
岐阜アグリフーズ株式会社は、生産者・消費者・取引先の信頼に応えるため、全社員が食品製造に携わる者としての自覚を持ち、内外部のコミュニケーションを積極的に推進します。また、法令・規制及び顧客要求事項を遵守し、常に食品安全と品質マネジメントシステムの継続的改善に努め、必要な資源の投入を図り、お客様のニーズに適応した安全・安心な商品の提供により顧客満足の向上と社会貢献に取り組みます。
2.障害者雇用の経緯
岐阜アグリフーズ株式会社は、平成7(1995)年から障害者雇用促進法に従って障害者の雇用に取り組んできた。その後の法改正により雇用率の引き上げや納付金・調整金対象事業所変更の中で同社も対象事業所となった。比較的早期からの障害者雇用の取組により、法定雇用率を下回ることなく推移してきたが、その結果雇用障害者の高年齢化が進み、貴重な戦力維持の対応策に取り組む必要が生じた。
一般的に「社会貢献」には、社会に資することを目的とする「直接的社会貢献」と、特定の事業や行為が結果として社会貢献につながる「間接的社会貢献」がある。明確な定義がないものの社会貢献は、「何が社会のためになるかが大事である」といわれており、雇用や就業支援についてもその活動の一環と見なされている。同社は障害のある社員を雇用する中で、単に就業の機会を提供するだけでなく、就業を通じたスキルアップや自立につながる支援が間接的に社会貢献に寄与していると捉え、職場の戦力維持と社会貢献の両面から障害者雇用に取り組んでいる。
3.取組の内容と成果
(1)募集・採用
身体障害のある社員3人は10年以上(最長は20年以上)前に雇用された社員で、最近は岐阜労働局主催の障害者就職合同面接会、ハローワーク、岐阜障害者職業センター(以下「職業センター」という。)、岐阜障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)からの紹介で採用を行っている。
- ア.
- 障害者就職合同面接会の場合は、運用ルールに沿って面接会場で業務内容の説明をした上で、志望動機等より一次面接の合否を決定する。二次面接者には、改めて面接場所と日時、支援者の同席希望の有無等を確認し二次面接を実施する。日時や同席者については対象者本人の希望が最優先される。ときには、ハローワークや支援機関の担当者から面接時の注意点等について事前にアドバイスを受けることもある。二次面接の結果はハローワークに連絡される。内定者についてはトライアル雇用制度の活用やジョブコーチの支援を受けることができ、会社はトライアル雇用期間中の業務遂行状態や他の社員との関わり合いなどを確認して最終合否を決定している。
- イ.
- ハローワークや職業センター、支援センターからの紹介の場合は面接から始めるが、面接時の支援者等の同席については要請があれば認めている。面接に合格すれば、トライアル雇用制度の活用とジョブコーチの支援を受けることができ、トライアル雇用期間中の業務遂行状態や他の社員との関わり合いなどを確認して最終合否を決定している。
ただし、支援センター経由の場合は、求職者の経済的負担を多少とも和らげるために、トライアル雇用制度活用前の実習期間中に求職者に手当が支給される岐阜県独自の制度であるチャレンジトレーニング制度を活用する場合もある。
- ウ.
- 採用の要件として、所属部署等に対して障害があることや障害特性等に関して、周知することへの承諾を必須としている。その理由は、過去に障害があることを対象者本人の希望から所属部署等に伝えずに雇用したことがあり、その後周囲に障害があることを気づかれたことが対象者のストレスとなり、同僚との不和が生じたことから、幾度も話し合いを持ったが良い方向には向かわずに、結果的に退職に至った経緯があったからである。このようなことを二度と繰り返さないためにも、所属部署等に対して正しい情報を提供して職場の同僚の協力を得ることが大切と考えるからである。
(2)障害者の業務・職場配置
同社は、HACCPガイドラインに沿った「食品安全プラン」「食品品質プラン」によって食品業界における食品安全と品質を同時に管理するためのマネジメントシステムであるSQF(Safe Quality Food)に基づいて事業運営を行っている。商品の製造は、原材料の受入から流通に至るまで各工程で「規格」や「手順」が規定されており、それらはアイテム毎に手順書にまとめられている。食品の安全に関わるCCP(重要管理点)、品質に関わるCQP(重要品質点)は、その手順書に分かりやすく記載されている。
また、同社は社是に「コミュニケーション」の大切さを掲げており、職場内ミーティング、トップミーティング、事業検討会、社員大会、親和会活動等を通じて話しやすく安心して働ける雰囲気の職場が形成されている。業務への不安や孤立感を抱かせないためには、支援が受けやすいグループ作業が最適であるとの判断から、製造・加工ラインの業務を就業の中心としている。
入社直後に「話しやすく安心して働ける雰囲気の職場」であるとはいえ、たやすく受け入れられないことを考慮して、一定の期間は、関連支援機関の支援を受けている。
さらに、製造ラインは365日稼働のためシフト制勤務を敷いている部署もあるが、通院やストレスの低減に配慮して、休日は特定の曜日に固定している。
(3)取組の効果
岐阜アグリフーズ株式会社には、現在勤続年数1年未満から20年以上の社員まで、年齢は20歳代から60歳代後半まで年齢幅の広い10人の障害のある社員が勤務している。1人は短時間労働者であるが、法定時間外労働を含めると短時間労働者以外の常用雇用労働者に近い状態での勤務をしている。他の9人は週40時間に法定時間外労働を加えた勤務を、障害のない社員と同様に粛々と業務に従事している。障害のある社員の中でも精神障害のある社員に対しては、勤務時間への配慮や症状の確認、休憩場所の確保等日々の労務管理等が難しいとされるが、同社では今のところそのような面での課題は全く見られない。
その要因として考えられるのは、各種認証取得段階で整えた「規格」や「手順書」の存在で、分りやすく詳細に記載されたその手順書等に従えば、業務が全うできる安心感があるからである。一例ではあるが、手順書である「衛生管理基準書」の従業員の健康状態の把握に関する事項の「全ての作業者に対しての健康状態の確認」は、差別感の解消につながるものといえる。
また、所属部署等への情報提供は、障害や個人の特性に沿った支援に止まらず、チームワークの構築にも活用されている。良いチームワークとは、「相互理解による信頼関係」「対等な立場で気軽に意見を言い合える関係」「失敗したときに落ち込ませない」「各自が自分の役割を理解している」「情報の共有ができている」が重要な要件である。これらの要件は、「コミュニケーション能力」により内容の充実度が左右されるが、社是にも掲げている「コミュニケーション」の大切さを各自が理解を深めて履行することで、社内全体に「話しやすく安心して働ける職場環境(心のバリアフリー)」の形成にまで至ったものと考えられる。
業務の明確化やチームワーク、話しやすく安心して働ける職場環境(心のバリアフリー)は、全社員に働きやすい職場として受け入れられている。特に、それぞれ障害がありながらも前向きな意見が多く、不満の声が聞こえないなど、直近では勤務年数が4年間を越える障害のある社員を筆頭に定着化の兆しが見られる。
4.今後の展望
精神障害のある社員の雇用に関しては、一般的に「職場でトラブルを起こす」「無断欠勤を繰り返す」等の労務管理の難しさから採用を敬遠する意見も多い中、実際にそのような事例もあったが、その原因を一方の当事者だけに負わせるだけでなく、双方の課題として取り組んだ結果として、良い成果につながったものと考えられる。たまたま良い人材に出会えたのか、真の実績なのか、新規雇用者も含め時間をかけて検証する必要性がある。また、障害のある社員自身も企業が取り組んでいる資格取得支援や研修による知識向上支援等を活用して、キャリアアップを図ることが期待される。過去には、キャリアアップのために配置転換を行ったところ、症状が回復した事例もあり大変喜ばしいこともあった。これも社会貢献の一環と捉え、今後も障害者雇用に前向きに取り組むことが期待される。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
岐阜支部 高齢・障害者業務課 中谷 伊三美
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