働きたい障害者と病院をつなぐ“ジョブコーチ”
- 事業所名
- 社会福祉法人恩賜財団済生会支部 静岡県済生会 静岡済生会総合病院(法人番号 3010405001696)
- 所在地
- 静岡県静岡市
- 事業内容
- 総合病院
- 従業員数
- 1,061人
- うち障害者数
- 14人
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 事務 肢体不自由 5 清掃・検査助手・医師事務補助 内部障害 知的障害 精神障害 6 メッセンジャー・洗濯 発達障害 1 リネン 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、精神障害、発達障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
静岡済生会総合病院(以下、「当院」という。)は、静岡県が「三菱重工静岡三菱病院」を買収し、済生会に経営を委託し、昭和23(1948)年6月の開設以来、静岡市駿河区唯一の公的病院として、地域に信頼される医療を提供すべく努めている。
隣接地には静岡県済生会経営の特別養護老人ホーム、肢体不自由児施設・肢体不自由者更生施設・盲人ホームがあり、地域の介護・福祉施設や医療機関との連携を重視する急性期病院である。
(2)当院の理念・基本方針
(理念)
私達は暖かい思いやりの心で質の良い医療・福祉サービスを実践します
(基本方針)
- 患者さんの満足、職員の満足、社会の満足をめざします。
- 地域のすべての皆様に、差別なく必要な医療を提供します。特に社会的弱者の方には、一層の配慮をはかります。
- 医療、福祉、保健にまたがる、総合的なサービスを提供します。
(3)障害者雇用の経緯
当院では障害者が地域で安心して暮らせるよう、外部の業者に委託していた業務を障害者雇用に切り替えるなど、積極的に障害者の採用を進めている。
なお、障害者雇用を進めていくことは、看護師等の専門職の負担軽減を図り、専門的な業務に専念できるようにすることも狙いとしている。
平成25(2013)年には外部委託していた院内の洗濯業務を障害のある職員の担当業務とすることとし、ジョブコーチを1名採用。洗濯室を担当していた職員がジョブコーチの研修を受講し、直接指導を担当するようにした。そして、平成25(2013)年2名、平成26(2014)1名、平成28(2016)年2名、平成29(2017)年1名と数年かけて精神障害者6名を採用し、洗濯業務を徐々に障害者雇用に切り替えるようにした。また、院内駐車場閉鎖に伴い、駐車場管理を担当していた身体障害のある職員3名の新たな担当業務の開拓を行った。多くの部署の協力もあり、会議室や医局の清掃のほか、病棟に設置してある車いす、点滴台の点検・清掃、リハビリ室の浴槽の清掃、病棟への洗濯物の回収などを障害のある職員が担当することとした。
平成28(2016)年には外部に委託していた病棟メッセンジャー業務を障害者雇用に切り替えることとし、身体障害者1名を採用し、次に元々病棟メッセンジャー業務を担当していた派遣社員1名を直接雇用に切り替え、さらに洗濯室で病院の中を熟知している精神障害者1名を異動し、3名体制で業務を開始した。
平成29(2017)年には臨床検査科の派遣職員を障害者雇用に切り替えることとし、病棟メッセンジャー業務を担当していた職員1名を臨床検査科に異動し、同年10月に病棟メッセンジャー業務で新たに精神障害者1名を採用した。
(4)障害者の業務内容
- ア.
- 病棟メッセンジャー業務
各病棟内のスタッフステーションなどの定められた部署を回り、血液などの検体や医療機器、発注伝票、書類などを回収する。回収したものは臨床検査科等の各部署に運び、各部署から受け取った内服薬、注射薬、医療機器、情報処理機器、用度品、心電図、X線画像などを各病棟へ配達する。
- イ.
- 洗濯業務
- (ア)
- 洗い業務:タオルやシーツ、病衣、白衣、検査着等を業務用洗濯機と乾燥機で洗濯を行う。
- (イ)
- たたみ業務:洗濯が終わった洗濯物を決まった手順でたたむ。
- (ウ)
- 配達業務:シーツや病衣等を各病棟へ配達する。
- (エ)
- 回収業務:病衣やシーツ、掛け布団カバー、枕カバー等を各病棟で回収する。
- ウ.
- 清掃業務
駐輪場や正面玄関等の院外、会議室や医局等の院内、病棟内の車いすや点滴台の清掃等を行う。
- エ.
- その他
医師事務作業補助業務、医事業務、検査助手等を行う。
2.取組の内容と効果
(1)募集・採用
募集は基本的にはハローワークを通して募集を行っている。
事前にハローワークと相談して、募集業務に必要なスキルや職場環境などを伝えて、適性のある人材の紹介を受けたり、障害者の就職面接会に参加もしている。就労移行支援事業所等の支援機関にも声をかけ、ハローワークを通して応募を依頼している。
障害者の応募があった時は、まずは職場見学で、応募者に職場の雰囲気や業務内容を見てもらう場を設けている。当院としても応募者の人柄や意気込み、適応できそうかなどを知る機会としている。その後、再度意思確認を行い、応募の意思があれば面接、職場実習という流れで進めて行く。職場実習は2週間程度行い、実習後に本人や支援機関の職員と一緒に実習の評価を行い、職業適性の有無等を確認している。
採用前に実習を行うことによって、業務内容のミスマッチが減少し、応募する障害者にとっても事前に職務内容や職場の雰囲気を体験的に知ることができるため、お互いにとってのメリットがあるものと思っている。
最近は採用する際に、障害者への支援ノウハウがある部署で採用し、数年程度、経験を積んだ当事者を新規開拓した部署へ異動するという流れで進めている。
洗濯業務で採用した職員を2年前にメッセンジャー業務へ異動した。院内の場所を熟知していたことと、異動前に3ヶ月程度、研修期間を設けてその間に業務や新たな人間関係を構築することができたため、大きな問題もなく移行することができた。
(2)ジョブコーチの配置
当院では平成25(2013)年からジョブコーチを採用し当事者や職場の上司、現場担当者に対して支援を行っている。また実際に障害のある職員に接している職員もジョブコーチの研修を受講し、現在は4名のジョブコーチがそれぞれの現場で支援を行っている。
ジョブコーチの資格の有無に関わらず、近くに理解のある職員がいることは実際に働く当事者にとって安心感を与えるのではないかと思っている。
(3)コミュニケーション
現場担当者やジョブコーチが定期的に障害のある職員と面談を行い、仕事や生活の悩み、体調面での不安などを話し合う機会を作っている。採用当初は面談を毎日行うが、慣れてきたら週1日、月1回、必要に応じて、と面談を行う間隔を少しずつ広げている。言葉ではうまく伝えにくい職員には交換日誌を行い、勤務中には話しにくいちょっとしたことでも書いて聞けるような環境を整えている。
交換日誌は勤務中に聞けなかったことや、生活面での悩み、体調面での不安、薬の変更などを記入、コミュニケーションを図っている。内容によってそのままコメントで終わる場合や、直接面談する時間を取ってじっくり話を聞くこともある。ジョブコーチだけでなく直属の上司も毎日日誌をチェックしている。
(4)障害特性に応じた配慮
本人から申し出があれば短時間勤務から始められるよう配慮をしている。業務に慣れてきたら相談の上、少しずつ勤務時間を増やしていけるよう支援をしている。また、通院のために休暇を取ることも奨励している。休憩時間に一人になりたい時は、一人でゆっくり休憩できるような環境も整備している。
また当日の作業内容が明確に分かるよう、1日のスケジュールを明示している。作業は手順をマニュアル化し、マニュアル化しにくい作業は、Q&Aを作成して困った時に見ることができるようにしている。メモ帳に記入するのが苦手な場合は○を付けるだけのメモ帳を作成して業務の簡素化に配慮している。
採用当初は先輩職員と一緒に作業し、一人でできるようになってきたら少しずつ同行する時間を減らし、見守る体制に移行している。
(5)各種支援制度の活用
業務を遂行する上で課題のある職員については、障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センター、出身の就労移行支援事業所等を活用し、生活に課題があり業務に支障が出ている職員には障害者就業・生活支援センターや地域生活支援センター等を活用している。
実際、頻繁に遅刻を繰り返す職員がいて、何度も面談を行い、就寝時間や出発するまでのタイムスケジュール等を本人と話し合って決めるなど、様々なことに取り組んだが、改善には至たらなかった。そこで障害者就業・生活支援センターや地域生活支援センターに協力を依頼して、自宅を訪問して貰い、本人の生活面での困りごとを相談してもらった。その結果、自宅に週1日、ヘルパーに来てもらうことになり、生活環境が安定してきたら、少しずつ遅刻の回数が減り、本人も意欲的に取り組めるようになってきている。
3.障害者雇用の展望と課題
当院の障害者雇用の目標は、ひとりひとりが「社会人として“自立”していくこと」である。そのためには、1つの部署にまとめるよりも、本人の障害特性を見極め、能力を発揮できる部署に広く配置する方がより活躍、成長できると思っている。社会経験の少ない当事者にとって、色々な職員と一緒に働くことはとても貴重な経験である。時には悩んだり、失敗をしたりもするが、まわりの人に支えられながら成長していくことで、病院のスタッフとして欠かせない人材に育って欲しいと願っている。
現在の課題は「職場への定着」である。退職する理由は人それぞれだが、悩みを誰にも相談できずに一人で悩んだりすることもある。悩みを的確に捉え、必要な時に必要な支援を迅速かつ的確にできるかが重要ではないかと考えている。そのためには、普段から面談をして定期的に顔を合わせ、近況報告や雑談などで常に状況を把握しておくことが必要であり、いつでも相談できるような信頼関係をつくり、見守っていきたいと思っている。
執筆者:静岡済生会総合病院 職場適応援助者(ジョブコーチ)
総務管理課総務室 和田 順平
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