事業所外観

1．事業所の概要

株式会社ジェイアール東海ウェル（以下「当社」という。）は、東海旅客鉄道株式会社（以下「JR東海」という。）の100％出資で平成18(2006)年10月2日に設立され、平成20(2008)年4月に特例子会社に認定された後、営業開始し11年目に入っている。営業開始以来、JR東海及びJR東海グループ会社などにおける印刷物のデザイン作成、各種印刷物の校正、製版、印刷製本などを行っており、オフセット印刷機やオンデマンド印刷機を導入している。また、同時に封入・封かん事業に取り組むとともに、平成25(2013)年10月からはJR東海太閤ビル内の文書集配事業を開始、平成26(2014)年7月からは新たに特定信書便事業許可を取得することで信書郵便物運搬事業を開始し、事業範囲を拡大している。さらに平成29(2017)年4月には、JR東海の物品管理事業を開始している。一人でも多くの障害のある社員を採用するため、JR東海と全ての業務の洗い出しを行いながら障害者雇用率アップのための取組を行っている。

2．障害者雇用の取組

当社の経営理念は「共働共生」である。「自立を目指す障害のある人」と「障害（個性）を思いやる人」が共に働き、共に学び、豊かな事業運営を目指し、開かれた地域社会の発展に貢献することとしている。障害の有無に関わらず、社員全員が信頼して下さったお客様に良い商品をお届けするという誇りと、働く意欲や達成感を持つことができる会社を目指している。また、地域に根ざした活動や他企業との交流等により、障害のある社員が積極的に社会に参加できるよう支援している。

障害のある社員のうち半数以上が知的障害のある社員であり、開業当初から特別支援学校を中心として新卒採用を行ってきた。また、支援機関である愛知障害者職業センターと連携を進めるなかで、同センター利用者が研修などでの来社を契機とした採用や、就労移行支援事業所からの採用を行うなど、多様な人材確保を進めている。

障害者の採用にあたっては、職場見学や職場体験実習を積極的に受け入れるとともに、愛知労働局職業安定部・愛知県産業労働部・名古屋市総務局・愛知障害者職業センターや愛知障害者職業能力開発校・障害児を持つ親の会等の関係機関・団体などを通じて生の情報を入手しながら進めてきた。

さらに、障害者雇用団体の全国障害者特例子会社連絡会、障害者雇用企業支援協会、全国重度障害者雇用事業所協会、JR三社（JR東日本・JR西日本・JR東海)の特例子会社連絡会、ハートフルネット中部連絡会などとの連携により、障害者雇用への取組充実を図ってきた。

特に、「ハートフルネット中部連絡会」は、愛知・三重・岐阜・静岡地区の障害者雇用関連会員（企業、支援機関など）から構成され、平成22(2010)年1月から活動を開始した組織であり、障害者雇用の一層の推進とそのための情報交換を活動目的としている。事務局を担う企業は、特例子会社のデンソー太陽、日東電工ひまわり、中電ウイング、トヨタループスそして当社の5社である。情報交換のテーマは、家庭と支援機関との関わり方、法定雇用率アップへの対応、精神障害者の就労安定と義務化、職場定着、モチベーション向上の工夫、加齢や障害の進行に応じた業務支援対策と工夫、差別禁止と合理的配慮などと多様であり、ディスカッションでさらに内容を深めながら活動を進めている。発足当初の参加企業、支援機関などは18か所であったが、現時点では140か所と年々増加している。

3．効果的で具体的な事例紹介　～もっと、何とかしたい～

障害の有無に関係なく、全ての社員が強く生き抜くために、仕事においては持てる力を惜しみなく発揮できる仕組、環境作りが大切だと思っている。その具体的事例の一端として、特に障害のある社員の多くを占める知的障害のある社員を対象とした取組を次に紹介する。

1. コミュニケーション能力の向上に向け、「接客六大用語」と「会社での挨拶」を、リーダー的存在として位置付けた社員の号令に従い、全員で唱和する活動を行い、人前で話すことの勇気と自信を養っている。
2. 毎月1日のミーティングで「今月の取組姿勢」として、社員が自ら考えたテーマに併せて「エイエイオーコール」の号令かけを行い、度胸作りと発言への自覚作りの機会としている。
3. 日々の業務目標設定の手法として、今日の作業でどんな点に重点を置くのか、目標達成のために何を行うかなどについて毎朝ボードに記入し、退社前に管理者と共に振り返り、自己評価を行うこととしている。評価結果は、確認評価ノートに〇△×のシールで記録し、互いに確かめ合うことで、力を発揮できる風土作りに役立っている。
4. 障害のある社員の状況などについて、会社と社員の家族（保護者）との間の報告・連絡・相談を適切に行うため、「ホウレンソウノート」を導入している。これは会社での状況、家庭での状況に関する情報共有をタイムリーに行い、相互理解と連携を深めることを目的としており、決して日記帳ではない。社員自身が読む事ももちろんできるが、家庭と連携して社員をシッカリと守ろうという当社の姿勢と期待を込めたツールとして活用している。
5. 障害者技能競技大会（アビリンピック）への参加は自主性に任せて強制はしない。参加したい人が参加するスタイルであり、社員自らが決めて行動することに重点を置いている。「自立して生きていく」には何事にも自らの強い意志でチャレンジするという風土作りを養うことに繋がっている。
6. 新規採用社員の最初の給与支給日に、給与明細書と共に手作りの色紙を会社から贈呈している。色紙には「初めての給料おめでとう、今まで大切に育てていただいた親に感謝の気持ちを伝えて下さい」と記して手渡している。働くことの大切さと定年まで長く働いて欲しいとの会社の願いを込めるとともに、会社と家族（保護者）との絆作りの一つと位置付けている。色紙を見られた保護者からは様々な反応をいただき、当社としても大変嬉しく感じている。
7. 毎年、名古屋市消費生活センター職員を講師として招き「悪質商法に騙されない」「社会人として身につけたい、大事なお金の上手な使い方、守り方」をテーマに研修を実施している。過去に、マルチ商法に騙されかけた社員の経験を活かした取組である。
8. 障害者雇用支援月間に向けて(独)高齢・障害・求職者支援機構が募集している同月間ポスターの原画（絵画・写真）には、自らの仕事を絵画で表し、仕事に生きがい、やりがいを持たせる取組の一つとして位置付けて参加している。私の職場を見て欲しいという意気込みとチャレンジする大きな心づくりに繋がっている。

印刷室(1)
オフセット印刷機業務

印刷室(2)
印刷物の断裁・製本作業業務

文書集配業務(1)
メール便等の配達風景

文書集配業務(2)
メール便等の発送・仕分け風景

封入・封かん業務
発送物等の準備風景

4．今後の展望と課題

私（筆者）が当社の社長に就任するにあたり、ある先輩に3つの事を教わった。(1)障害のある社員が辞めない努力と風土作り、(2)障害者雇用の大切さを大いに宣伝する、(3)災害発生時における障害のある社員の安全確保の3つである。

日々の仕事で色々と予期しない事も発生するが、もっと良い方法を見出すために、社外の組織の仲間にも智恵を借りよう、足を運んで直に聞いて見てみようと社長として心掛けている。

JR東海との打合せの中で、次のような新たな動きも出てきている。

1. JR東海の現場において中核を担う社員を対象とした「ミドルリーダー研修」の研修生が当社を見学し、障害者雇用の仕組み、障害のある方への理解、接し方などについて学んだ。
2. JR東海グループ各社の選抜者を対象とした「JR東海グループ研修」において、当社を毎年見学コースに組み入れており、障害者雇用の大切さと実態を学んでいる。
3. JR東海グループの障害者雇用率確保のため、グループ各社の人事担当者を対象とした研修が行われ、採用ノウハウなどの共有を図っている。その際、平成29年4月新設の公益社団法人全国重度障害者雇用事業所協会（全重協）の障害者雇用相談コーナー（全国7か所）の利用をJR東海グループ各会社に積極的に勧めており着実に効果が表れている。

これからも、常に社員は大事な仲間であり、大きな戦力であるとの認識のもと、どうしたらもっと社員個々の力を発揮していけるのか、あの手この手を使い、取り組んでいきたいと考えている。

執筆者：株式会社ジェイアール東海ウェル
代表取締役社長　萩野　義明