働くことでの自立を目標とした障害者雇用
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事業所外観
1.事業所の概要
有限会社小尾ダイカスト(以下「当社」という。)は先代社長が一から立ち上げ、創業期には夫婦2人で子供を背負いながら製造から配達まで行い、そこから現在の規模まで会社を育て上げた。そして、息子である現社長が二代目社長として引き継ぎ、経営にあたっている。
創業から現在まで社風として引き継がれていることは、「小尾ダイカストの構成員は一つの家族である」ということである。そうした社風のもと、従業員全員が家族の一員として会社を盛り立てている。そして、障害者雇用についてもそうした社風のもと、従業員の協力があって初めて成り立っている。
当社は自動車と二輪車の部品を主に製造している。アルミ合金を溶かし鋳造して、それを加工して出荷する一連の流れの中で、安全面や作業効率などの改善により、健常者、障害者を分け隔てなく同じ工場内で同じ作業をしてもらっている。その他の、作業条件、雇用条件、採用時面接等でも健常者と変わりなく同等に行っている。
2.障害者雇用の経緯
(1)雇用の契機
今から約37年前、先代社長がひとりの障害者の方を雇用したのが始まりである。当時は障害者雇用をどう進めればいいのか、本人とどう接すればいいのか手探り状態だったこともあり、その方は残念ながら長くは続かず退職された。そこで、もう一度トライしようと、二人目の障害者を雇用することになった。当時、NHKで障害者を雇用する会社として取材され放送されたのを機会に、社員も障害者との接し方を少しづつ考えるようになった。しかし、その方も長くは続かず退職となり、しばらく時間を置くこととなった。数年後、あらためて障害者の雇用を進めることとし、3度目のトライとして2人の障害者の方を雇用すると同時に、前回の失敗を活かした取組みを行った結果、雇用継続することができた。そして、その数年後、知的障害者の雇用にも取り組むこととなった。
(2)基本的な考え方
先代社長は元々、人に対して面倒見が良く『人は皆、平等である』と話しており、現社長もその考え方を引き継ぎ今に至っている。現社長は、障害者の定期的採用を続け、障害のある従業員が多くなってきたところで、今後のとるべき対応を人事担当と相談し、「年1回の頻度で、障害のある従業員の父母と会社との相互の意見交換の場を設け、今後、会社が障害者を雇う環境づくりや、自立をテーマに双方が連携・協力する必要がある。」と考え、父母会をスタートすることとした。父母会にはもう一つの目的があり、本人一人ひとりの特徴(特長)を把握する機会でもある。雇用するからには会社側がその人の特徴(特長)を把握し、対応していくことが重要であり、長期的な雇用や適切な関係作りに向け、会社としては父母会を大切にしている。
(3)リーマンショックとリストラ
その後、リーマンショックが起こり売上半減。やむなくリストラを実行せざるを得ず、苦渋の選択ながらリストラを決断。しかし実行にあたり現社長は障害者を守ることを選んだ。「健常者は他の会社へ再就職できるが、障害者はそうも行かない!だから障害者の雇用を守らないといけない!」と健常者のリストラ対象者一人一人に話をし理解を得てリストラを実行した。その後は売上も少しづつ戻り何とかやって行けるようになり、一部の日系ブラジル人の方を正社員化するなど、当社は他社とは違う経営を貫く。
現社長の方針は、従業員は皆家族であり、同じ人間である。障害があるかないか、日本人であるか外国人であるか、男性であるか女性であるかといったことは関係ない。そして、当社に勤めた以上は、会社はトコトン付き合うと明解である。
(4)「自立」に向けて
当社が「トコトン付き合う」のは何故か?
それは、障害者でも使用できる設備や工夫次第で会社の戦力になると考えるからである。個々の作業の成果は、個人の特徴(特長)に左右される。したがって、特定の作業では、障害のある従業員の方が高い成果を上げることができると当社では考える。特に知的障害者は長年にわたって様々な特徴(特長)のある方と接してきた経験では、単純・反復作業が得意な方が多いと感じている。そして、当社は四輪車、二輪車部品の成型から二次加工までを行っており、単純・反復作業が多い業種のため、知的障害者の特長である、工程数の少ない単純な作業を継続して間違いなく実行するといったことが活かされている。
大手企業の担当者は、当社の作業担当が障害者と聞くと不安な顔をする。しかし、現社長は言う。
「そういう人は分かっていない。見えるものでしか判断していない。やってみないと分からないのに、表面的な点ばかり見て、やらせずにいる。」
「健常者と障害者は同じ!、それぞれの特徴や個性が違うだけ。雇用率だけを守っていく会社と訳が違う。」
「自立」に対して本人・家族と一緒に考えている当社の社長だからこその発言である。そして、本稿の作成にあたる取材の最後にこう述べている。
「当社では職場でも障害の有無に関係なく、同じ環境の中で働いている。障害者だからといって特別の環境でやるのではなく、普通の環境で力を発揮する。そのためには社員全体の理解や協力が必要である。当社の従業員は障害者を特別扱いせず普通に接している。その行動は障害者の「自立」に対する優しさだと考えている。ここまで初代社長から引き続き理解してくれた従業員には本当に感謝しており、ありがとうと言いたい。私の代になり何人かの障害のある社員たちと接してきた。様々な問題点や出来事があると、それを事例として父母会と情報共有し、一緒になって本人たちの将来を見つめている。一方で、『障害者の雇用期間が短い』という現実も分かってきた。また、『(障害者の中には)ある年代になると老化が進む方がいる。』という課題もある。これらを解決することが今後の課題だと考えている。
当社では、愛知県立三好特別支援学校と協力し、職場実習を受け入れ、そこから何度かの実習を重ねていき、採用するという流れが3年連続で続けている。しかし、世間をみると障害者の社会的な「参加」「就職」「定着」などがまだまだ現実には難しいのではないだろうか。そのため、父母などの家族の方には、いざという時に頼れる(利用できる)ように、頼れるところ(関係機関など)には今のうちからパイプを繋ぐように話している。世の中は、あれはダメ、これもダメというように、どんどん窮屈になってきている。しかし、色々な困難がある中でも、当社は一丸となり楽しく前向きに障害者雇用に取り組んで行きたい。」
3.取組の内容と効果
当社では障害者が作業できるように機械の設備を特別に改造するなどはしていない。
健常者が安全に作業できる環境であれば、障害者でも必ず安全に作業できるはずと考えるからである。重要なことは、特別なことではなく、「作業を安全に行う教育」、「できているかの確認」、「報告できるようになるための日々訓練」の3点を確実に行うことではないだろうか。障害者の将来の自立を目指すためには、「報・連・相」がきちんとできることが重要であり、当社では日頃から取り組んでいる。そうした積み重ねの中で、障害のある従業員はそれができている。
また、全社員に向け、普段から小尾ダイカストは積極的に障害者雇用を行っていく旨をアナウンスしている、新規採用者にも「当社は積極的に障害者雇用をしている会社なので各部署に障害を持っている従業員がいるけど普通にしていればよい。特別に構える必要もない。」と伝えている。普段関わっていくのは身近な従業員の人たちなので、その認識をしていただくのが一番大切なことなのではないかと考えている。そうした認識があってか、障害者の人がいつもと様子が違うと従業員の方が教えてくれたり、帰りに一緒の方向だから車で送ってくれたりしている。また、休憩時間に一緒にお菓子を食べながらの話しの輪に誘ってくれるなど、関係作りが苦手な人もいる知的障害の人にも積極的に関わってくれている。
ともに働きやすい環境づくりはいろいろと大変な点があるはずだが、当社は従業員たちの理解のおかげで障害者にとって働きやすい職場環境が実現できている。
ダイカスト部品の製造・加工風景
ダイカスト部品の
サンドブラッシングによるバリ取り作業4.今後の展望と課題
現在、直面している最大の課題は、加齢の影響、年数・経験を経ることや馴れにより生ずる問題で、例えば、「集中力が続かなくなってきて生産数が落ちていく」、「馴れることで手を抜くことを覚える」、「色々な欲が出てくる」といったことである。それらは加齢によりある程度しかたのないことであったり、ある意味で本人が成長したともいえることもあるが、働くうえでは重要な課題である。会社(管理職、人事、経営者など)、ご家族、本人と色々模索しながら、一つ一つ解決していかなければいけないことと思い、取り組んでいる。
また、長年、働いている従業員については、両親等も高齢になり、親等の支えのない「自立」の実現という現実と向き合う必要がくるケースもある。そこを三位一体(会社、本人、関係機関)となってどう取り組んでいくかを早め早めに話し合っていかなければと考えているところである。
5.最後に
これからも全従業員に対して「働きたい会社、やりがいのある仕事」を提供し続けられるようにがんばっていきたい。
中小企業の置かれた経営環境は厳しい状況にあるが、従業員がこれからも長く働け、モチベーションを高く持ち、仕事ができるような会社づくりをしていきたいと願っている。
執筆者:有限会社 小尾ダイカスト
総務人事部部長 長野 成人
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