事業所外観

1．事業所の概要

株式会社ダイエンフーズは、もともと、清水市の大遠冷蔵株式会社のマグロの冷蔵事業として昭和26（1951）年設立された。当時の大遠冷蔵は日本のマグロの相場を左右するほどの規模の会社であったが、昭和43年（1968）年に関西、中京への流通に便利な立地である四日市に移転後、漁船を倉庫に横付けして、そこからマグロを全国配送する等の業務を行っていた。その後、親会社の倒産により大遠冷蔵の業務を引き継ぐ形で、平成11（1999）年に株式会社ダイエンフーズが設立された。現在では、水産物の加工・販売業務、営業倉庫業務、レストラン業務が中心である。取扱商品は、マグロ切り落とし、ねぎとろ、かつおたたき、漬け魚など多種にわたり、スーパー等へ販売している。本社に併設している「まぐろレストラン」は国道23号線沿いにある工場直営のレストランで、従来は船員用の宿泊ホテルの食堂であったが、一般の方も利用できるようにし、現在に至っている。昼のランチ時にはトラックの運転手や観光客などでにぎわっている。

会社全体の年間の売り上げは約50億円である。平成26（2014）年にはマイナス60度の超低温冷凍庫と直結した加工工場を新設し、マグロ・カツオ以外の新しい分野に対応できる体制を整えている。このように、前身の大遠冷蔵の昭和26（1951）年創業以来、マグロやカツオを中心とした水産生食流通の構造改革や製品開発を行い、和食文化、魚食文化の発展に尽力している。

2．障害者雇用の経緯

（1）雇用の経緯

現在雇用している障害のある従業員は6人であるが、10数年勤務している社員もいる。障害者を雇用するきっかけは、ハローワーク、四日市障害者就業・生活支援センタープラウからの紹介や、従業員の知り合いからの相談など様々である。

（2）雇用する際の留意点

雇用するにあたって留意していることは、生産性が大事であり、仕事ができるかどうかである。仕事ができなければ雇用は難しい。ただ、障害のある人の多くは障害があるからとの理由で、全ての作業が難しいわけではない。業務に支障となるところもあれば、支障とならないところもあるので、何らかの配慮を行うことで障害のない人と同じ仕事ができる、という考えのもとで障害者雇用を進めている。

また、面接の際は、本人の就労意欲を重視している。就労意欲の乏しい人は結局長続きしない。試用期間中に、本人から「寒い」「つまらない」等と言って断ってくるケースもある。「働きたい」と本人が思うことが大事であり、本当に働きたいと思う人にはできる範囲で仕事をさせたいと考えている。これは会社だけの課題というより、それ以前の家庭や学校で、いかに働きたいと思うことができるか、働くことの意義を理解しているかが重要であろう。障害のない人についても同じだが、この意欲がないとどんな仕事でも長続きしない。

3．障害者の従事業務

障害のある従業員の6人は、主に、事務作業、製氷作業、製品詰め作業、リフト作業に従事している。取り扱う商品の出荷先はスーパーマーケットが多いので、土日、お盆、年末も忙しく、365日休みがない。このため、休日も含めてローテーション勤務である。基本的に、障害のある従業員は朝8時半から休憩を挟んで5時15分まで働いている。

肢体不自由のある従業員は事務作業や食堂の受付に従事している。事務的な作業であれば主に座って作業をするため、肢体不自由があっても業務に支障はない。

氷袋の製造作業には知的障害のある従業員と精神障害のある従業員が従事している。会社では水産物を扱っており、商品の保冷のために氷袋を大量に生産する必要がある。水の入ったビニール袋をトレイに平らに丁寧に置いて凍らせ、社内で利用する全ての氷袋を作っている。氷袋を作る作業は特段力がいる作業ではなく、どちらかというと根気のいる作業である。繰り返し行う作業が障害特性に合った作業といえる。今では氷袋の製造作業は障害のある従業員2人が中心であり、先輩の障害のある従業員が後輩に仕事を教えたりしている。非常にきっちりしているので、他の従業員が勝手に袋を持っていくと「数が合わなくなる」と注意を受けることもある。

氷袋製造作業の様子
（トレイに無駄なく袋を配置している）

商品を詰める作業の様子
（障害のない従業員と共に行っている）

また、精神障害のある従業員の1人は、フォークリフトの免許を取得して、商品を倉庫から出荷、入荷する作業に従事している。フォークリフトでパレットをトラックから倉庫に入れたり、出荷の際には、必要なパレットを確認しながら倉庫から搬出作業を問題なくこなしている。

その他にも、商品をパックに詰める作業や、魚を加工する作業にも従事している。

加工作業の様子
（冷凍されたカツオの内臓のみを金づちで取り除いている）

4．取組の内容

（1）職場環境

大規模な職場ではないので、従業員皆が顔見知りであり、何か調子が悪そうだったら声かけをしやすい環境でもある。正月には職場で鍋やぜんざいを作って食べたり、ボーリング大会、花火見物、バス旅行など職場の親睦を深める行事を定期的に行ったりしている。

職場全体の年齢層が高いので、20代、30代の障害のある従業員が働いていると、自分の子どもと同年代でもあり親心から自然と見守りができている。

従業員との面談を年に3回行うことにしているが、障害のある従業員に限ったものでなく従業員全員に対して行っている。そのときに状況を聞いて課題があれば必要な対応をすることとしている。

（2）障害者への支援

障害がデメリットにならない業務をしてもらっており、障害のある従業員だからといって特別な支援をしているわけではない。しかし、特に採用当初などは障害のある従業員も不安な面が多いので、他の従業員と同様に必要な支援を行っている。

通勤は四日市市内から自転車、車、電車などで通勤しているが、特に最初の頃は、通勤を嫌がったり、途中で帰ったりということもあった。このため、家族に相談してみると、「前の職場でもそうだった。何週間かすると慣れてくる」ということだったので理解して見守ることとした。また、採用当初は職場でパニックになったりすることもあったが、そういう場合は職場の同僚にも理解をしてもらった。身体障害や知的障害は周囲から分かりやすい点が多いが、精神障害はなかなか周囲も分かりにくいところがある。

一人暮らしの障害のある従業員もおり、日々の生活を気にかけていると、朝食や昼食は課題ないが、夕食を自分で作るのが大変だということだったので、夜は会社の食堂で食べて帰るように配慮したこともある。ただ、これも障害のある従業員だからというわけでなく、仮に障害のない従業員であっても生活が厳しければ同じことをする。

会社ではできる限りの配慮を行っているが、会社だけでは障害のある従業員の全ての生活を解決することは難しい。関係機関や家族、近所の協力を仰いだり、学校の先生にも定期的に見に来てもらったりしている。

5．障害者雇用のメリット等

（1）障害者雇用のメリット

作業ができるという前提で雇用をしているので、障害者雇用のデメリットはない。逆にメリットがなければ雇用はできない。何ができるのかは雇用してからでなければ分からない点もあるが、できなければ違う仕事をやってもらうだけである。障害のない従業員への対応と変わらない。

（2）障害者雇用を進めるために

取材をお願いした仲田管理部長によると、障害者雇用を進めるために、企業としてはその障害のある人が「何ができるか」を知りたいとのことだった。「これができる」「これができない」ということをできるだけ明確にすることが重要である。また、企業の側も一律に障害があるからと捉えるのではなく、何ができて、何ができないのかを見極めて、できないところはサポートしつつ、できるところを認めることではないか。

障害があるから全部できないと考えてしまうと何もできない。障害があるからといっても一部に課題があるだけで、それ以外は障害のない者と変わらない。そこをサポートすれば会社にとっても問題はない。

6．まとめ

仲田管理部長は、取材を通して「障害のある従業員だからといって特別なことはしていない。」と強調していた。その背景には、常日頃から従業員の長所、短所を把握して職場の配置を考えたり、声かけしやすい職場環境づくりに努めていることがある。こうした一般の従業員に対する配慮の延長上に障害のある従業員の雇用があって、障害のある従業員に対しても自然と必要な配慮ができているのではないかと感じた。障害のある従業員の良いところは、「挨拶は誰よりも大きい声でしっかりあいさつする。」という点をあげていたが、取材をしていると、障害のある従業員に限らず職場全体であいさつがしっかりしているとの印象を受けた。障害者雇用を円滑に進める上では、それ以前に一般の従業員にとっても働きやすい職場環境、という素地が重要であることを改めて考えさせられた。

執筆者：三重大学人文学部 法律経済学科
准教授　石塚 哲朗