外食産業における特例子会社のリーディングカンパニーを目指して
- 事業所名
- 株式会社トリドールD&I(法人番号 4140001103684)
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 飲食業に係る清掃業務、事務代行業務など
- 従業員数
- 106人
- うち障害者数
- 98人
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 9 清掃作業、事務作業 内部障害 知的障害 83 清掃作業、事務作業、店舗補助作業、仕込み作業 精神障害 6 清掃作業 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1.トリドールグループの沿革及び事業所の概要
昭和60(1985)年8月 焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業 平成7(1995)年10月 有限会社トリドールコーポレーション→株式会社トリドールに組織変更 平成12(2000)年11月 セルフうどんの新業態として「丸亀製麺加古川店」開店 平成22(2010)年12月 グループ全体で国内で500店舗を達成 平成23(2011)年4月 ハワイに海外1号店を出店 平成27(2015)年6月 グループ全体で世界1,000店舗を達成 平成28(2016)年10月 持株会社体制移行に伴い株式会社トリドールホールディングスに商号変更 平成29(2017)年7月 株式会社トリドール→株式会社トリドールジャパンに商号変更 平成29(2017)年10月 特例子会社 株式会社トリドールD&I設立 トリドールグループは昭和60(1985)年に加古川で創業された焼鳥居酒屋を原点として、焼鳥、うどん、焼きそば、ラーメンなど多業態を展開し、「すべてはお客様のよろこびのために」を経営理念としている。創業の原点である「食の感動」をモットーとし、全国で800店舗以上を展開する讃岐釜揚げうどんの「丸亀製麺」を筆頭に、焼きそば専門店「長田本庄軒」や焼鳥ファミリーダイニング「とりどーる」、醤油ラーメン専門店「丸醤屋」など、全業態の店舗数は平成29(2017)年3月時点で海外店舗を含め1,200店舗以上、連結売上高は1,000億円以上にのぼっている。国内においてはフランチャイズ展開は行わず、全ての店舗が直営店方式で店舗ごとでの製造を行い「手作り・できたて」を基本として、効率化が進む「食」の世界において、たとえ非効率になっても、あえて顧客の前で手作りし、「脱」セントラルキッチン方式で臨場感あふれるエンターテイメント性の高い空間を実現している。
また、事業展開は国内だけにとどまらず、日本の「おもてなしの心」とトリドールグループがこだわり続ける「手づくり・できたて」の味を提供するため、多くの国や地域において積極的に事業を展開し、地元の人々に愛される店づくりを行っている。
現在は売り上げの8割以上が丸亀製麺となっており、新規出店も継続している。セルフうどん店舗数および売り上げでは2位以下を大きく引き離し、日本一となっており、店舗設計、価格、メニューを模倣したうどん店が展開されたり、大手の外食チェーンがうどん市場に参入するなど、外食市場に影響を与えるほどの存在となっている。現在の経営目標は「2025年、グループ売上高5,000億円、6,000店舗を展開。世界外食企業トップ10へのランクイン」。
株式会社トリドールD&I(以下「同社」という。)はそんなグループの中の特例子会社として平成28(2016)年10月に設立された。トリドールグループは近年、毎年300人程度が入社しており、社員数が増えるとともに従来人事部の一部署で行っていた障害者雇用関係業務が非常に多忙になってきたことで、法定雇用率を維持する観点からも障害者関係の専門部隊としての役割を担っている。
2.障害者雇用の経緯
トリドールグループでは7年前から本格的に障害者雇用を開始したが、それまではまだ障害者雇用などに関する事情には疎く、障害者雇用状況報告書を提出した際にハローワークからの指摘により障害者雇用率制度について初めて詳しい内容を知った程度であった。当時、グループ全体の規模と業績は急成長期に入っていたこともあり、それに伴う年間300人から500人の常用雇用労働の増加により、その時点では、法定雇用率1.8%に対して実雇用率1.2%と大きく乖離してしまっており、法定雇用率に満たない場合の納付金も増加しその金額も1,300万円前後とかなりの高額になっていた。障害者雇用が急務となっており、同時にその必要性を意識しだした頃であった。その後、3年間をかけて約30人の障害者を採用し、雇用率2.0%を達成することができた。また、当初の障害者雇用については、ハローワークと連絡を取り合うとともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のリファレンスサービスに掲載している情報も参考に、他の事業主の雇用方法や社内での職場定着に資する取り組みなどが大いに役に立ったという。
最初の障害者雇用のきっかけとしては、上記のような法定雇用率や納付金を意識しだしたことが入り口であったが、現在は企業の義務として法令順守・社会貢献活動の観点からの採用こそが重要であると認識しており、「働く場所の提供だけでなく、同じ人として隔たりのない職場環境づくりを行い、会社と社会に貢献する活動をする」ということが同社の理念となっている。障害者雇用は組織統治、人権、労働法など、幅広い分野にかかわる活動であり、障害者の就労や仕事のあり方を考え、障害者個々の資質を生かし、いかにやりがいのある職場を提供していくかを目標に取り組むとともに、採用したからには責任を持って人材育成を行い、企業にとって良い人材となるように共に成長を目指している。
東京本部エントランス
3.採用時の配慮などについて
同社の障害者の採用職種は店舗の清掃業務が7割程度で残りは店舗の食材の仕込み業務や本社での事務業務などである。
採用選考に関しては、まず採用面接の前に体験実習(以下「実習」という。)という機会を設けている。これは、実際の現場で実際の仕事を体験し、障害のある求職者側と企業側のミスマッチを防ぐことを第一の目的とした制度である。同社は障害者採用に際しては、障害の種類や程度、会話の巧拙などは関係なく、「働きたいという気持ちがあるかどうか」を重視しており、その気持ちを確認することが実習の大きな目的である。
実習を行う際には、各種学校や就労移行支援事業所、就労継続支援施設、ハローワークなどに求人を行い、その時点で事前見学会を開催し、保護者、支援者を交えて情報交換を行い、目に見える障害特性や生活面の情報をできるだけ多く把握し実習の前段階とする。そして次に3日~4日間の実習となるのだが、実際の勤務場所や作業内容を、担当するトレーナー(詳細は後述)とともに実地体験し、体力、人間関係、通勤、技術面などに対する適性を勘案する。その際には、「自分の障害をどれだけ把握しているか」「自身でコントロールできているか」「必要な配慮はなにか」など、できるだけ多くの情報を把握し、マッチングの材料とする。その上で、必要な設備、道具、コミュニケーションなどの配慮も具体的に検討する。実習期間中に把握した情報で最終面接を行い、採用内定となる。その後ミスマッチを防ぐため、雇用契約会という形で保護者も含めて最終的な配属希望などの具体的なヒアリングを行う。
4.就業についての取組と課題点
上記の選考期間を経て入社した後は、3か月間の試用期間を設けており、この期間中に対象者のレベルに合わせてあわてることなく業務内容を習得してもらう。同社はトレーナー制度というものを導入しており、障害者4~6人に対して、常時一人の専属トレーナーを配置、このユニットが1店舗~2店舗、多くても3店舗の清掃業務を担当することになっており、就業時の障害者の業務に関してはすべてこのトレーナーが把握、指導することになっている。その目的は、障害者一人ひとりの障害に合わせた配慮を行い、仕事に対するやりがいを持たせるとともに、成果を出せる人材を育成することにある。
また、このトレーナー制度の利点としては、同じ環境で常時過ごすことにより、早期に気付き・指導を行いイレギュラーな課題を未然に解決したり、課題が生じた後でも対応策を即断できることである。また、それ以外でも、有給休暇取得を奨励し、定期的な心身のリフレッシュを促進したり、個々の障害特性に応じて必要な器具や設備の整備、体調に応じた作業内容の変更などの対応が取りやすいという利点がある。トレーナーからの報告はトレーナー日報やエリア担当社員への報告を通して他の社員も情報を共有できるようになっており、課題点や解決策などをフィードバックできる体制を整備している。
障害者の離職率はかなり低いが、これは上記トレーナー制度によって親身な対応が可能なことや、課題を抱えている社員には家族との連絡手帳や電話でのやりとりや、トレーナーだけでなく支援機関(NPO法人みちしるべ神戸、兵庫障害者職業センター)のジョブコーチも交えての面談など、迅速に対応していることが要因であると考えられる。
さらに、近年、働いている障害者の中で、就労時間や業務内容のステップアップを望む者が徐々に出つつあり、そうした者への対応(短時間勤務からの時間延長、職務創出、技能の棚卸し(技能確認と試行)、評価基準設定など)も課題と考えている。具体的には、就労時間を延ばしても業務レベルを維持できるかどうかの見極めや、現在の担当業務以外の新たな業務の切り出し(職務創出)が必要と考える。そのため、各人の技能の棚卸しも行っており、絵が上手い社員には、新たな職務として店舗でのイラストを描く、会社の年賀状の図柄などを提案してもらうなどの試みも行っている。また、ステップアップ希望者に対する公平な評価基準の設定や、次のステップとなる仕事の創出も今後の課題となると想定している。
5.障害者の事例
●就労未経験でも、素直さと職務とのマッチングで成長
- Aさん23歳(入社3年11か月)
- 知的障害
- 加古川エリアで清掃業務担当
- 特別支援学校を卒業後、就労移行支援事業所で半年間訓練を行う
- 人と会話するのは得意ではないが、体調管理は自分自身でしっかりとできるうえ、根気強く作業ができ、手先も器用である。
●自己成長を通じて、自分に自信を持つ
- Bさん24歳(入社2年9か月)
- 焼鳥ファミリーダイニング「とりどーる」で食材の仕込み業務担当
- 発達障害
- 普通高校を卒業後、専門学校に入学
- 就職活動がうまくいかず、就労移行支援事業所での訓練の後に入社
- 指示した作業を確実に終えることができ、報告・連絡・相談をきちんと行える。また、挨拶や身だしなみも継続して守ることができる。
●PCスキルを活かし、能力を発揮
- Cさん41歳(入社4年11か月)
- 本社で人事労務事務担当
- 精神障害
- 普通高校を卒業後、一度就職したものの1年で退職し、その後7年間引きこもり。職業訓練を経て同社に就職
- 自分の障害特性を理解しており、体調やメンタルの管理ができている。また、入社前から勤労意識も高かった。
清掃作業の様子
6.今後の展望
今後同社は、外食企業の特例子会社のなかでのリーディングカンパニーを目指していく。そのためには、社員が自ら自慢できる会社、社員が評価してもらえる会社、社員同士の分け隔てがない会社、誰もが成功体験ができる会社、社会と会社の役に立つ仕事ができる会社でなければならない。障害者の就労や、仕事のあり方を考え、障害者個々の資質を生かしてやりがいのある職場環境をいかに提供していくかが重要であると考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
兵庫支部 高齢・障害者業務課 井本 信敬
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