障害の有無より業務遂行能力を重視し、人材育成を図る
- 事業所名
- 三和電子株式会社(法人番号 5260001019810)
- 所在地
- 岡山県津山市
- 事業内容
- 電気機械器具製造業
- 従業員数
- 135名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 はんだ付け 肢体不自由 1 システム制作 内部障害 知的障害 1 間接部門の作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚障害、肢体不自由、知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)会社の沿革と概要
三和電子株式会社(以下「同社」という。)は、基板実装から性能試験・コーティング・ケース組立まで、一貫生産体制で産業用機械の基板製造を行う。SMT実装、はんだ付け、各種コーティング塗布、電気試験、機能検査、ケース取付、組立、完成品までをワンストップで対応。試作・変種変量生産も含め、短納期で高品質な製品を提供している。基板治具であるディップ・キャリアや粘着パレットの製造も手がける。
昭和55(1980)年 広島県神石郡三和町に会社設立 昭和56(1981)年 現在地(岡山県津山市)を三和電子本社とする 平成5 (1993)年 チップ実装を主軸に事業スタート 平成17(2005)年 第2工場として隣接地に工場拡張、ISO9001 認証取得 平成20(2008)年 株式会社 京写グループへ (2)障害者雇用の経緯
同社にハローワーク津山から、はんだ付け経験のある聴覚障害者(以下、「Aさん」)の紹介があった。同社では精度の高いはんだ付け技術者を必要としており、Aさんが県南の製造業就業時にはんだ付け経験がある点に注目。即戦力としての育成を視野に入れ、ハローワークを介して本人と面談を重ね行い、採用に至る。
聴覚障害のある従業員の採用は同社で初めてということもあり、採用後に岡山障害者職業センターの「ジョブコーチ支援」を平成27(2015)年12月~平成28(2016)年1月までの間、利用した。
2.職場環境の整備
聴覚障害のある従業員の採用は同社で初めてのケースであり、業務上のコミュニケーションをどのように行うかが最初の課題となった。
同社ではAさんとのコミュニケーション手段として、主に電子黒板を利用している。本人は読唇術の経験もあるが、集中力、体力を要する読唇術によるコミュニケーションは本人負担が大きい。また、音声を文字に変換する専用のパソコンを導入したが、社内では専門用語を多用するため誤変換されることが多く、読唇術同様、継続的な利用には至らなかった。その他にも、社員の間で手話を学ぶ取組など、さまざまな試みを行った結果、行き着いたのが電子黒板の利用であった。入社当初は紙とペンによる筆談も行っていたが、現在はより便利な電子黒板を活用し、筆談だけでなく、分かりにくい点は図を描いて説明。さらに身振り手振りのジェスチャーで補足することによりコミュニケーションをとっている。
コミュニケーションに使う電子黒板
日常的に現場で指示をしたり、作業の説明をしたりする上で必要とされるのは、障害者に限らず、相手といかに分かりやすく意思疎通ができるかである。Aさんについては、対面でのやり取りの場合であれば、特殊な機器を使わなくても、目の前での筆談により文字や図で示し、動作で補うというやり方はいたってシンプルな方法であるが、業務を遂行する上での大きな支障はなく、スムーズにやり取りができている。
一方、同社では月に1回、社長からの話を社員が聞く朝会を行っている。その際には、Aさんに伝える配慮として、話の内容を文字化してプロジェクターに投影することにより、「見える化」したが、これにより、他の従業員にもより内容が伝わるという副次的効果もある。
もう一つの問題が、「時間」の伝達である。現場では休憩などの時間の区切りをチャイムで知らせるが、Aさんには音ではなく視覚的に知らせる必要がある。そこで導入したのが回転灯(パトライト)である。時間をライトの点滅で知らせるため、伝わりやすい。
しかし、工場内は物流を効率化するため、レイアウトの変更が頻繁に行われる。レイアウトによっては作業場所から回転灯が物陰に隠れ見えなくなることもあるため、対策として、回転灯が見えにくくなる場合は鏡を利用して、Aさんの作業場所から回転灯が見える工夫をしている。
ところで、同社では、工場内のレイアウト変更に限らず作業台や照明の設置、床や壁面の補修、休憩室の整備などを、外部の業者に依頼するのではなく、従業員が「自分たちで行う」という企業風土がある。
障害のある従業員が直面する不便・問題についても同様で、不便等を解消するための対応、例えばドアノブをレバー式に交換する、必要な場所には自動ドアを導入するなどについても、関係する従業員が会社と話し合って実施するなど、必要な改善・整備などがスムーズに行われやすいという強みがある。
3.取組の内容
(1)障害者への対応
同社では、障害のある従業員がいることは特殊なことではなく、業務を遂行する能力があれば、障害の有無にかかわらず貴重な戦力と捉えている。したがって、障害者が従業員の一人として安心して仕事ができる環境を提供することは企業として当然のことと考えている。そして、職場の同僚もフォローし合う気遣いが自然にできている。
しかし、そのような対応も一朝一夕にできるようになったわけではない。現在、同社ではAさん(聴覚障害者)のほかに2名の障害のある従業員(知的障害1名、肢体不自由1名)が在籍している。それぞれ状況も対応も異なるため、採用・配置・育成にあたってはその都度、試行錯誤しながら取り組んでいる。障害者雇用を進めるためには、マニュアルを作って一律に対応できるようなことではなく、個別に対応を検討し、体制の構築、ノウハウの蓄積を行う必要があると考えている。
障害者雇用に限らず幅広く人材を採用したいという同社にも、障害者の採用に関する苦い経験がある。それは脊椎損傷で重度の肢体不自由の障害者の受け入れを断念したケースである。
現場での体験実習を経て、工場内の作業には対応できる見込みはあったが、通勤に使う車の乗り降りや身辺処理(排泄等)に介助が必要で、社内でのサポート体制を模索したが、受け入れ体制が整わず採用を見送った。本人の仕事に対する意欲は高いものの、身辺処理面での限界、企業で提供できる介助・サポート体制の限界などにより、断念せざるを得なかったケースであった。
(2)管理者の声
管理部人事経理課 松本和之課長代理
- ア.
- 管理部人事経理課 松本和之課長代理
「当社のはんだ付けは高度で、特殊技能と経験を要する。社内の品質評価はもちろんだが、客先の認定試験もあり、高い品質が求められる。聴覚障害者の採用は当社でも初のケースであったが、Aさんははんだ付けの経験があり、即戦力となる下地となる技術を持っていたことが採用の決め手となった。
入社して3年になるが、すっかり当社に馴染み、マイペースで業務に従事している。他の従業員も同僚としてAさんとごく普通に接しており、特別な気遣いはしていない。従業員間のコミュニケーションも支障はなく、電子黒板を介して教え合っている。Aさんも業務時間内は作業に集中しており、当社もそうした環境を整えることに気を配ってきた。業務外でも、会社行事へ友人を連れて参加したり、休暇を利用して海外旅行をしたり、社内外の過ごし方も他の従業員と変わりない。
障害者雇用に関して事業所としては初心者に相当する経験しかないが、第一に考えているのは障害者本人が安心して業務に従事できる環境を整えることだ。大げさな設備を用意することよりも、本人の要望を汲み取りながら、社長をはじめとする我々管理者と従業員が身の回りのできることから改善を行い、知恵を出し合い取り組んでいる。
品質、納期とも顧客からの要求はシビアで、それに応えていくことが当社の使命である。製品に対しても妥協は許されない。品質を高め、ノルマをクリアするため従業員も日々の業務に従事しており、障害の有無に関係なく業務を通じて求められる品質は変わらない。
間接部門に従事する障害者も同じで、直接製造に携わっていなくても、縁の下の力持ちとして工程改善という形で主力部門を支えてくれている。
当社の従業員は一つの技能だけに特化するのではなく、多能工化を目指し、日々研鑽に励んでいる。障害の有無にかかわらず、当社の一員としてマルチに活躍できる技術と経験を積んでほしいと願っており、社としても後押しをしていきたい。」
(3)障害者の声
- ア.
- Aさん(入社3年:聴覚障害)
はんだ付けを行うAさん
「納期が早い製品は対応が大変ですが、集中して業務にあたっています。ハンダ付けの作業は精度が求められるだけでなく、顧客の要望も多種多様です。作業をする上で分からないことは同僚や上司に尋ねています。」
- イ.
- Bさん(入社2年:知的障害)
「不安なことがあっても自分から相談しやすい雰囲気があり、同僚の人たちも声をかけたり、気遣ってくれたりして、コミュニケーションがとれていると感じます。これからも経験を積んで、いろいろなことにチャレンジしていきたいです。」
工場内の壁の塗替えをするBさん
4.今後の課題と展望
Aさんの採用はハローワークからの紹介がきっかけであったが、Bさんは高等支援学校の実習生として高2、高3の2年間、同社での体験実習を経ての採用であった。実習時から従業員とも顔なじみでうちとけており、自然に会社にも馴染んでいった。
障害者雇用に関して相談することで、高齢・障害・求職者支援機構などとのつながりも生まれた。同社では、今後も障害者雇用に取り組むなかでできた縁やきっかけを大切に、障害のある方などからの自薦・他薦問わず、幅広く障害者の受け入れを行っていく方針である。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 岡山支部 高齢・障害者業務課
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