障害の有無に関わらず従業員として同等に接し、育成
- 事業所名
- 株式会社中国フジパン(法人番号 6260001014100)
- 所在地
- 岡山県倉敷市
- 事業内容
- 食品製造業
- 従業員数
- 479名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 10 製造 精神障害 1 製造 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1)会社の沿革と概要
株式会社中国フジパン(以下「同社」という。)はフジパングループの一企業として、岡山県(本社工場)と愛媛県(四国事業所)の2か所に工場を持ち、中四国、関西を販売エリアにパンを製造。岡山の本社工場では、年間約1億個のパンを生産している。
昭和37(1962)年 岡山、倉敷の5業者が企業合同により岡倉産業を設立 昭和38(1963)年 公募により名称を「瀬戸内製パン株式会社」とし、創業開始 昭和56(1981)年 フジパンと業務提携 平成11(1999)年 会社名を「株式会社中国フジパン」へ 平成18(2006)年 四国フジパンを吸収合併 平成26(2014)年 岡山に新工場を設立 平成30(2018)年 岡山に新工場を増築 岡山の本社工場では、食パン、バターロール、菓子パン、学校給食用の米飯など、9ラインが稼働。さらに、平成30(2018)年9月にはペストリーなどの2ラインが新たに加わる予定。
(2)フジパングループの理念
社是に「和」を掲げ、グループの全社員が「和」の精神で協力し、一丸となって企業経営を通じ、社会の進展と文化向上に寄与することを基本理念としている。中国フジパンでもその基本理念が従業員に浸透している。
(3)障害者雇用の経緯
現在、同社の本社工場では知的障害者6名、精神障害者1名の7名、四国事業所では知的障害者4名の合計11名が就労している。
障害者雇用の経緯は、平成27(2015)年に岡山県立の3つの高等支援学校(琴浦、まきび、瀬戸)からの職場実習の受入を契機に、平成29(2017)年4月に実習経験者から1名を新卒者として採用したところから始まっている。その後も高等支援学校からの卒業生の採用、ハローワークの紹介による採用により現在に至っている。
2.職場環境の整備
(1)職場環境の整備
職場実習を通じて各人の特性を把握したうえで採用し、個人の性格や能力と作業の適性に応じた配属先を決定している。障害者が業務に従事する製造ラインの責任者のみならず、現場外の総務担当者も障害者本人と積極的にコミュニケーションを取り、無理のなく働ける環境づくりに配慮している。
例えば、本人が発熱していることに気付かず業務に従事しようとする者が過去にあった。真面目に業務に取り組む姿勢が強いために、自分の体調を顧みず、決められた業務の遂行を優先する傾向がある者については、そうした傾向を把握した上で、現場や総務担当者が声をかけ、体調を含め本人に変わった様子がないかを把握し、必要な配慮をする体制をとっている。
(2)障害者の従事業務
同社では、製造ラインの大半は機械で自動化されているが、機械では対応できない作業を従業員が行っている。生地をこねる→成形する→発酵させる→焼く→包装する、という製造ラインの流れの中で、パンの形を整えたり、焼きあがったパンを天板から外してラインに流したりする作業を同社では障害のある従業員が担当している。また、パンに使うレーズンの選別も手作業で行われており、湯でレーズンをほぐし、水切りした後、茎や枝、不良品の除去などの作業を障害者が担当する。いずれも作業を継続する上で根気と集中力、体力を要する単純作業であるが、単純化、細分化した作業を決められた時間内に行うことは、知的障害者の障害特性にマッチしている面があり、高いパフォーマンスを発揮することがある。
(3)障害者の職場配置と安全教育
現在、同社が雇用する障害のある従業員11名は全員が製造ラインでの作業に従事している。作業は障害のない従業員と共に分担しており、障害者向けの作業を特別に設けていない。
同社では各人の障害を「個性」と捉え、障害の有無で業務や対応に差をつけるのではなく、「個性」を生かすという観点から担当業務を定め、現場に配置している。
また、職場実習や入社後の研修で重きを置いているのが安全教育である。現在の担当業務は手作業が中心で、機械操作などを行う機会はないが、安全教育として機械の取扱などに関する指導を定期的に実施し、労災事故を未然に防ぐ取組に力を入れている。
3.取組の内容
(1)障害者への対応
同社では、障害者に対し「話を聞くこと」「話をすること」を基本姿勢として接している。日常的には配属された製造現場の係長が管理者として指導・育成に当たるが、その際には、「褒める」(努力等を評価する)と「叱る」(問題点を強く指導する)を基本に、相手に分かりやすい指導を心がけ、各人の仕事に対するモチベーションを高めるよう努めることとしている。
また、会社から指示されたことを熱心に取り組もうとするあまり、根を詰めすぎたり、頑張りすぎる者も少なくないことから、無理をすることがないように上司等が配慮している。
現在の従業員は、作業への取組姿勢・就労意識が高く、成果や姿勢を「褒める」ことは、本人のやる気や自信につながっている。一方、事故やけがの防止に関することや、衛生管理上で注意すべき点など、厳正に遵守すべき点については、迅速かつ確実な理解のために、「叱る」(強く指導する)こともある。ただし、総じて勤務態度等は良好で、事故等に関すること以外で強く指導・注意するようなことはない。
また、障害者が業務に関して分からないことや困ったことは、現場の管理者をはじめ、同じ職場の従業員とのコミュニケーションを通じて対応やフォローを行うが、現場を離れている場合でも総務課のスタッフが声掛けをし、本人が話しやすく、どんなことでも相談できる雰囲気作りに努めている。
(2)障害者の声
選別するレーズンの水切り作業を行うAさん
Aさん(入社4年:知的障害)
「レーズンパンに使うレーズンの選別を担当しています(1日に約600キロを選別するため)。選別作業の時間配分が大変で、時間に追われることがあります。分からないことがあるときは、同じ職場のベテランの女性パートさんに聞いています。自分という人間が正当に評価されていると感じられることが、入社してよかったと思うことです。現在、29歳ですが、30歳、40歳を過ぎても、この会社で働き続けたいです。休日は軽い運動をして過ごしています。」
焼けたパンをラインに流す作業を担当するBさん
Bさん(入社9カ月:知的障害)
「メロンクーヘンやチョコクーヘンを製造するADラインで、焼きあがったパンをラインに流す作業を担当しています。焼きたてのパンは熱いので、やけどをしないように気をつけています。分からないことがあれば、同じ職場の人に聞いていますが、皆さん、優しく教えてくれます。今は自宅から通勤していますが、一人暮らしをすることが今後の目標です。休日は野球や陸上の練習をしています。」
(3)管理者の声
西野秀樹取締役工場長
西野秀樹取締役工場長
「Aさんが担当しているレーズンの選別は、根気と正確性が求められる作業です。本社工場では1か月で18トン、1日約600キロを選別しており、集中力を要する大事な仕事を担ってくれています。非常に真面目に業務に取り組んでくれており、自分の体調が悪くても懸命に作業をする真面目過ぎるところがあるので、コミュニケーションを密にとり、無理をしないように配慮しています。
Bさんは高等支援学校在学時の当社での実習を経て、パートとして採用しましたが、勤務態度が良く、製造現場の係長からの推薦もあり、準社員となりました。パンを天板から外してラインに流す作業やパンの成形を担当しています。特に、パンを天板から外す作業は体力を要する作業ですが、頑張って取組み、縁の下の力持ちとして同じ現場の先輩従業員やパートさんからも厚い信頼を得ています。
Aさん、Bさんと同じ現場で働く従業員も、彼らが障害者だから、と特別な対応や気をつかうということはしていません。従業員として現場に馴染んでおり、他の従業員も同じ現場で同等に仕事をする仲間として自然に受け入れてくれています。
現場ではけががないよう安全面には注意していますが、現場の責任者も他の従業員と同じ態度で指導にあたっています。現場はもちろんですが、総務も含め、声を掛け合い、話しやすい環境を整え、皆がコミュニケーションをしっかり取ることで、障害の有無に関係なく優秀な戦力として育成しています。」
4.今後の課題と展望
平成29(2017)年6月1日時点の同社の障害者の実雇用率は2.21%で、雇用状況は決して高くはないが、今後も高等支援学校の実習受入などを通じて、障害者の採用を継続し、雇用率を高めていく意向である。
工場内には段差があり、通路が狭いなどの施設・設備上の制限があるため、現在は知的障害のある方等を中心に採用している。製造ラインでの細分化、単純化された作業を担当することは、そうした作業では高い集中力・持続力を発揮しやすい知的障害者の障害特性・作業場上の特長を活かすものであり、実際にAさん、Bさんとも与えられたポジションで安定した仕事ぶりで成果を上げている。
今回、取材で訪問した筆者は、「障害者だから」と特別視しない雰囲気を現場だけでなく、現場外の総務担当者をはじめ社内に共通して感じた。そして、同等に仕事をしていこうとする意識が障害のある従業員にも、障害のない従業員にもあり、障害ゆえににできないことなどがあれば、周囲が自然にフォローする職場の雰囲気も感じられた。
取材にご協力いただいた同社の総務ご担当者は、Aさんの「30歳、40歳を過ぎても、この会社で働き続けたい」という言葉をうれしく思ったという。Aさんの言葉が、障害者を障害の有無に関わらず従業員として同等に考える同社の姿勢と成果を物語っているものと思われた。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 岡山支部 高齢・障害者業務課
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