安心して続けられる職場をめざす
- 事業所名
- 有限会社西内花月堂(法人番号 5470002013568)
- 所在地
- 香川県仲多度郡まんのう町
- 事業内容
- 菓子製造、販売
- 従業員数
- 38人
- うち障害者数
- 2人
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 製造 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 製造 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要
有限会社西内花月堂本店は香川県まんのう町に位置する洋菓子店である。
洋菓子、ケーキの店舗はもちろん、敷地内にはパン店舗、和菓子店舗及びレストランを併設し、イチゴ農園も経営している。
西内花月堂が店舗を構えるまんのう町については、公共交通機関が発達しているとは言い難く、創業当時より店頭販売のほかに、近隣地域の人々へパンや和菓子を届ける移動販売を行なっていた。
現在でも買い物に行くことが困難な過疎地域の人々のために、お菓子や総菜等の移動販売は継続して取り組んでおり、併せて、インターネット販売にも力を入れている。
また、地元の学校に赴き、一緒にお菓子作りをするなど地域の活性化にも力を入れており、「地域に必要とされる店」を目指し、お菓子を通して、子どもからお年寄りまでを笑顔にしたいという思いは創業当時から変わっていない。
主な事業内容は菓子の製造、販売であり、焼き菓子や生菓子など100点余りの商品を製造し、店頭販売、移動販売及びインターネット販売、並びにレストランでの提供と販売形態も様々である。
社員数は38名であり、うち障害のある社員は2人である。和やかな雰囲気のもと、社員が協力して業務にあたっている。
2.障害者雇用の経緯、背景
西内花月堂では、20歳の知的障害のある社員(以下「Aさん」という。)と26歳の聴覚障害のある社員(以下「Bさん」という。)を雇用している。
西内花月堂が障害のある社員の雇用について考える機会となったのが、養護学校(特別支援学校)で企画されたケーキ作りの実習に招かれたときであった。
養護学校(特別支援学校)の生徒と関わりを持つなかで、「多くの生徒が在籍しているが、皆、卒業後の進路は決まっているのだろうか」、「働く上で困ることはないようにみえるが、どのような点で困ることがあるのだろうか」等、障害のある人に対して、関心を抱くようになったと同時に障害のある社員の採用を検討していた時期でもあったため、障害者雇用という考えに行き着くまでさほど時間はかからなかった。
その後、養護学校(特別支援学校)やハローワークに相談し、ハローワークを通じて紹介を受けた。
Aさんについては、職場などの集団の中でのコミュニケーションに困難を感じること、質問を受け、その質問に応答するという、やりとりが苦手であることなど養護学校(特別支援学校)の先生から情報を得ることができた。
Bさんは、先天性難聴であり生まれつき耳が聞こえないものの、筆談での会話が可能であり、文字にすればコミュニケーションを取ることも容易であり、仕事をする上では支障はないということであった。
養護学校(特別支援学校)の生徒との関わりがあったことはもちろん、同じ作業を同じモチベーションで行なうことができ、言われたことをきちんと行う養護学校(特別支援学校)の生徒を見てきたことを振り返り、「業務内容や職場での関係などに苦手意識をもってほしくない」、「実際に困ることがあれば職場みんなで解決していきたい」という社長の考えから、事前に仕事内容を体験するインターンシップは行なわずに採用に踏み切った。
3.従事業務、職場配置
Aさん、Bさん共に製造業務に従事している。
西内花月堂では、焼き菓子、チョコレート、アイスキャンディ、ケーキ、ラスクなど様々な種類のお菓子を製造しており、二人は主に製造工程における初期段階を担っている。
具体的な仕事は、材料を溶かす、型に流す、広げる、焼成する、できあがったものを切るなどの作業である。初めての作業を行う場合には担当者を決め、マンツーマンで作業内容を教えることのできる体制をとっている。同じ工程でも、天候や気温により焼き時間、温度などが異なるため、担当者が内容を分かりやすく教えることを意識しながら、繰り返しの作業を続け、担当者ができるようになったと判断すれば、一人で作業を任せるようにした。ただし、品質管理の上でも職人によるチェックは欠かさずに行なうこととしている。
勤務時間については週6日、Aさんが9時00分~17時00分、Bさんが11時00分~16時00分である。Bさんについては、自宅と勤務地が離れているため、バスの時刻に配慮した勤務時間としている。作業が早く終わると帰りのバスの時間まで時間を持て余し、どうすれば良いのか困ってしまうことがあったため、勤務時間はきちんと守ることにしている。
Aさんの作業の様子
Bさんの作業の様子
4.取組の内容、効果
障害のある社員の雇用に当り、当人たちはもちろん、周りの社員に与える影響は少なからずあった。
障害のある社員の採用が決まった当初は、多くの社員が、コミュニケーションの取り方や教えることによる仕事量の増加や負担、責任問題等が生じることに不安を覚えていた。
それは、ほとんどの社員が今まで障害のある人と関わったことがなく、仕事内容をどう教えたら良いのか、きちんと当人に伝えられるのか不安だったためである。
しかし、実際に二人と接していく中で、その不安はすぐに解消されていった。
二人共、今では数多くある西内花月堂のお菓子の下準備を担うまでになっている。
長年の勤務経験から、仕事上で注意することもなくなり、作業効率も高く正確である。
また、社員からは職場の雰囲気が良くなるという意見もあげられた。それは、職場全体で障害のある社員をフォローし、助け合いつつ業務をこなすことで職場に一体感が生まれ、会話をする機会が増え、コミュニケーションをとる機会が増えたからだといえる。
実際に、現場見学をした際もテキパキと仕事をこなす姿から、和やかな雰囲気で話している様子まで見ることができた。
二人共、とても仕事に対して前向きである。
取材をした際にBさんから、仕事で苦労したことは思い当たらないほど、快適に仕事ができていること、働いたお金で自分の好きな洋服や本を買うことに喜びを感じているという話があった。働くことが余暇活動の充実に大きく影響し、生活の質(QOL)の向上につながっているといえる。
Aさんに関しては、働く以前は集団でのコミュニケーションが苦手であり、誰かに物事を教えることが苦手だと言っていた。しかし、周りの社員の配慮もあり、職場での人間関係に悩むこともなく、仕事を続けてこられた。
これまで仕事を続けられたことは、Aさんの中で自信につながっている。
社員一人ひとりのAさん、Bさんに対する理解や業務内外における伝え方や関わり方の工夫が、ここまで安心して仕事を続けられた理由であり、社員にも、二人にとってもプラスの効果があったと考えられる。
5.今後の課題と展望
地元の養護学校(特別支援学校)では生徒数が年々増加しており、それに伴い、卒業後の受け入れ先の確保が難しくなっている。そのような養護学校(特別支援学校)の生徒に対し、地元で仕事ができる場所を提供したいという思いから、現在、西内花月堂ではA型事業所の開設を検討している。
クッキーの計量や袋詰め、ケーキに使われるイチゴの栽培等を仕事内容とし、サービス管理者のもと障害のある社員が安心して働くことのできる事業所を目指している。
しかしながら、実現させるためにはいくつかの課題をクリアしなければならない。例えば、開設に係る申請書類や資料の作成、障害特性に応じた配慮等である。
取材した際に、社長は次のような意気込みを語ってくれた。「開設するに当たり、考慮しなければならない点も多々あるが、障害のある人と地域の人がもっと関わることのできる社会にしたいという思いが強い。コミュニケーションの取り方や関わり方を工夫するだけで障害のある人に対する見方は大きく変わる。障害のある社員の雇用から障害のある人との関わりを増やす機会を増やしていくこと、障害(者)に対する理解を深めることを目的にしていきたい。」
厚生労働省は、民間企業に義務付ける障害者の法定雇用率を、平成30(2018)年4月から2.0%から2.2%に引き上げることを決めた。また、車いすの就労者に合わせて机の高さを調整したり、イラストや図表を使い視覚的に分かりやすい形で仕事を説明したりと、障害のある人が就業するにあたって、支障を改善するための「合理的配慮」の提供も新たに義務づけている。
障害のある人にとって働きやすく、働き続けることのできる職場環境について考慮した障害者雇用をきっかけに社会全体としての障害理解が進められることを期待して、取材を終えることができた。
執筆者:香川大学教育学部特別支援教育講座 教授 坂井 聡
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