店長・スタッフの障害への理解と配慮により職場定着した事例
- 事業所名
- はるやま商事株式会社 はるやま高知野市店(法人番号 6260001030329)
- 所在地
- 高知県香南市
- 事業内容
- スーツ及びその関連用品の販売
- 従業員数
- 3,003名(嘱託・パートタイム社員等非正規含む 10月末現在)
- うち障害者数
- 56名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 清掃、整理整頓、商品組み 肢体不自由 15 商品の補正 内部障害 4 販売 知的障害 18 清掃、整理整頓、商品組み 精神障害 9 販売 発達障害 7 清掃、整理整頓、商品組み 高次脳機能障害 1 清掃、整理整頓、商品組み 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
昭和30(1955)年4月に岡山県玉野市に洋服専門店として創業。昭和52(1977)年12月に「東京紳士服株式会社」(販売会社)を設立。平成3(1991)年4月に「東京紳士服株式会社」および、「旧:はるやま商事株式会社 (仕入専門会社) 」を吸収合併し、商号を「はるやま商事株式会社」に変更。平成29(2017)年1月に「はるやま商事株式会社」を持株会社体制へ移行、商号を「株式会社はるやまホールディングス」に変更し、現在に至る。
ビジネスパーソン(男女)に向け、スーツ及びその関連用品の販売を主な内容として事業を展開しており、現在(平成29(2017)年3月31日時点)全国に506店舗を展開している。
これまで地域に密着したスーツ専門店チェーンとして、「はるやま」という店名で西日本中心の郊外に出店していたが、新たな市場を開拓すべく新規出店を続けるとともに、高い品質とテーラースピリットを大切にした「お客様第一主義」という不偏の原点を持ち続けながらドミナント戦略を全国に形成している。
また、ショッピングセンターへの積極出店により、郊外型の独立店舗以外の商業集積地への出店も推進し、機動的な店舗展開を実施しているところであり、今回取材を行った高知野市店は高知県内に4店舗ある中の1つである。
(2)障害者雇用の経緯
今回取材を行った高知野市店の吉谷店長は店長歴約10年。
障害者雇用に取り組み始めたのは、以前勤務していた愛媛県にある伊予松前店で店長を務めていたときからだった。当時、障害者雇用を進めてほしいという本部からの指示のもと、障害者の雇用に初めて取り組むこととなった。吉谷店長には聴覚障害の友人がいたため、障害のある人の存在を身近に感じており、障害について理解があると自身でも考えていた。そこでまず、知的障害者を対象とした販売実務科や発達障害者を対象としたOA実務科を併設していた愛媛県立松山高等技術専門校に連絡をしたところ、同学校からの支援を得て1名の就職が決定した。
その後、高知野市店へ異動し再び障害者を雇い入れることになったのだが、住み慣れていた愛媛での環境とは違い、高知県でどのようにして障害者を雇い入れればよいのかわからず悩んでいた。そこで、障害者の雇用についてインターネットで調べていたとき、たまたま地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の存在を知った。早速、職業センターへ連絡し、高知野市店で障害者を雇用するに当たっての条件などを伝え、マッチする人材を探した。その結果、当時職業センターで支援を受けていたAさんを雇用することとなった。
Aさんの採用面接を行った際には、職業センターのカウンセラーとジョブコーチが同行した。そして、Aさんの障害特性や通院状況及びそれに伴う配慮事項等を聞き、対応できると考えた。
2.取組の内容と効果
(1)Aさんについて
Aさんは大学時代に統合失調症を発症。
統合失調症の症状には大まかに「陽性症状」、「陰性症状」という2つのタイプがあり、陽性症状として妄想、幻覚、感情の混乱などがある。陰性症状としては、感情鈍麻、思考の貧困、意欲の欠如、自閉などがあり、1日の大半をぼんやり座り込んで過ごす無為自閉の状態になるケースが多く見られる。
Aさんも、ベッドや家から出られない、外を出歩くのが怖いといった症状や、幻覚や幻聴等の症状が起こり、一時は病院に入院していた時期もあった。
通院を続けながら大学を卒業後、すぐに職業センターに通所することとなり、職業準備支援(職業準備訓練)を受けた。
現在は、朝・夕2回の服薬と通院により症状は落ち着いており、通院のついでに街を散策したり、休日は家族と温泉に行くなどにより、外に出ることへの恐怖感や抵抗感はなくなっている。
(2)Aさんの業務について
職業センターからの提案で、Aさんを採用するに当たり、まず昨年の9月初めごろからトライアル雇用を3週間行った。当初、非常に緊張していたというAさんであったが、3週間のトライアル雇用期間を終えるころには、気さくに接する店長やスタッフの気遣いを感じ、現場に馴染むようになった。また、ジョブコーチによる訪問支援に関しても、特に大きな課題がなかったことから、週3回程度から週1回、月1回と徐々に減り職場定着へとつながった。
採用当初は、本部からの意向を踏まえ、バックヤードで清掃作業や整理整頓作業をしていた。まじめで几帳面なAさんの性格により、バックヤードの床や棚はいつもきれいに保たれていた。
バックヤードでの作業に慣れてきたころ、毎日同じ場所で同じ作業をするだけではつまらないだろうという吉谷店長の配慮により、新たに店舗周辺の草抜きや店頭での商品や備品整理の作業も担当することになった。
現在は、午前中は店舗の外回りの清掃、午後はバックヤード・店頭の整理作業を行っている。
取材に訪れた際、店舗の周りは草やゴミ一つなくきれいに掃除されていた。また、商品を陳列しているガラス棚の一部がわずかに破損していることに気づくなど、ベテランスタッフが見逃しているような細部にまで気を配っているAさんの仕事振りに吉谷店長をはじめスタッフも助かっている。
店頭での作業は、入荷・出荷処理、検品、ハンガーかけ、値札付け、値引きシール貼り、サイズチップの取り付けなど非常に幅広い。最初は間違えることも多く吉谷店長やスタッフがついて作業を行っていたが、現在は作業のほぼ全てを一人でこなすことが可能となっている。さらに、今年の11月1日から、当初の5.5時間勤務(休憩30分)から、10時から19時までの8時間勤務(休憩1時間)へと時間が延び、さらに活躍の幅が増えている。
店舗内観
清掃場所(カーペット・棚)
清掃場所(ガラス棚)
値札(通常、値引き)
(3)店長・スタッフの支援、配慮
- ア.
- 勤務形態
年中無休の営業で、スタッフはシフト制で勤務している高知野市店だが、吉谷店長の判断により、Aさんは通院日である金曜日を固定休としている。また、連休がほしいというAさんの希望に合わせ、土曜日も休みとしている。
Aさんは学生時代にアルバイト経験がなく、社会人として働くのは同事業所が初めてだったため、採用当初は日曜日も休みとする3連休の週と通常の2連休の週を交互に入れることで、ストレスが溜まらないよう体調面にも配慮した勤務形態としていた。
現在は仕事にも慣れてきたため、通常の2連休に、月に1回程度日曜日を休みとする3連休を取り入れている。
また、職業センターに通所していたころは、常に家族が助手席に乗った状態でしか車を運転していなかったが、現在は店舗まで車で約20分かけて一人で通勤しており、行動範囲も広がり車を運転する良いきっかけになったと話していた。
- イ.
- コミュニケーション
高知野市店と同様に障害のある社員の雇用を進めている他店では、コミュニケーションが不足していたことにより、障害のある社員が退職してしまうケースがあったという。
吉谷店長は、Aさんを始め、他の障害のある社員の共通した勤務態度として、まじめな性格から指示された仕事を忠実にやり続けることをあげていた。夏場の外での草抜き作業は、高知の蒸し暑い気候とアスファルトからの照り返しで非常に重労働である。通常のスタッフであれば、何も言わなくとも水分補給や休憩を適宜取るところ、障害のある社員の中には「やめていいよ。」と言われるまで作業をし続ける者もいて、体調不良となる者もいた。そのため吉谷店長は、体力を使う作業が続く際には、喉が渇いたり疲れたりと思った際にはバックヤードで5分程度の休憩をとるよう指示した。
このような気遣いや声かけを大切にすることで、無理せず日々の業務をこなすことができ、職場定着へとつながっている。
3.今後の展望と課題
Aさんは、今後接客業務に携わっていきたいと意欲を燃やしている。
紳士服の中には、ネクタイ、ワイシャツ、スーツ、礼服など様々なアイテムがある。ネクタイについては顧客によるサイズの違いがなく、色や柄での判断となるため比較的案内がしやすい。しかし、ワイシャツやスーツは顧客によってサイズが異なるほか、多様なブランドがあり商品数も豊富である。また、スーツや礼服は時、場所、目的などに応じて違いがあるため特別な知識が必要となってくる。そのため商品の案内をするためには多くの知識が必要となり、非常に難しい業務といえる。
接客に憧れのあるAさんは、店頭で清掃作業や陳列作業を行っている際、そばで他のスタッフが接客をしている様子を見てその技術を学んでいた。今では、スタッフが何も教えていないにも関わらず、お客様にトイレの場所を聞かれた際に案内ができるようになっている。
接客に興味はあるものの、まじめな性格ゆえ、顧客からの質問に答えられなかったらどうしようという不安があり自信が持てないというAさんのため、吉谷店長はお互いの時間が空いた際、接客の模擬練習を行っている。堅苦しい雰囲気ではなく、笑いも交えながら練習をしているようで、Aさんも緊張せず自然体で取り組めている。休日にははるやまのホームページに掲載されているスーツなどの商品を見てブランド名を覚えている。
まずは取り扱っている商品についての知識を増やし、接客への不安をなくすことがAさんの課題である。
はるやまで働く前と現在の自身との相違については、まずおしゃれに興味を持つようになった点という。当初はバックヤードでの清掃作業や整理整頓が主な業務であったため、店頭に出た際に目立たない格好なら何でもよいということで、ポロシャツにジーンズというラフな格好で作業を行っていた。しかし、業務内容が幅広くなっていくにつれ、店頭にいる時間も増え、またスタッフは皆スーツを着用して仕事をしていることから、自身もスーツを着てみたいという気持ちが強くなったという。そこで、スタッフ全員でAさんに似合うスーツを選び現在はスーツを着用して勤務している。
吉谷店長をはじめ周囲のスタッフの気さくさが、Aさんの仕事への不安や緊張を和らげ、思ったことを言いやすい職場環境作りの整備へとつながっている。
吉谷店長は、向上心を持って業務に取り組んでいるAさんのこれからについて、得意分野でもあるパソコンを使用した業務を行えるようになってほしい、そしてゆくゆくは、接客業務も担当できるようになってほしいと考えている。まずは、Aさんに負担がかからないよう得意とする分野でスキルを活かせる業務を取り入れていければと語っていた。
高知県内に4店舗を構えるはるやまだが、高知野市店以外での障害者雇用の状況を聞くと、障害のある社員を雇いたいのだが、労働条件というよりも通勤圏内ではないという課題によってマッチする人がなかなか見つけられない状態であるという。高知野市店では、吉谷店長をはじめ他のスタッフに関しても障害のある社員に対する理解が進んでいることから、これから障害のある社員の雇用枠が増えた場合、更なる雇用も検討していきたいと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
高知支部 高齢・障害者業務課 中川 萌
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