事業所外観

1．事業所の概要、障害者雇用の経緯

（1）事業所の沿革

「道の駅うすい」は、株式会社うすいが嘉麻市の「指定管理者制度委託事業」として物産施設全体の管理運営を行っている事業所であり、平成17（2005）年4月に物産館うすいとしてオープンした。名称が「道の駅うすい」となったのは同年11月からであり、福岡県内では8番目に設立された道の駅である。物産販売所にパン工房、菓子工房、コーヒー工房、たこ焼、うどん・そばコーナーを併設し、情報案内コーナーでは嘉麻市のイベント、美術館の情報、道路情報、各イベント情報などを紹介している。

（2）事業所の特徴

山口克己社長（以下「駅長」という。）は、「多くの道の駅では、鮮魚類の販売、パンの販売、飲食店等のテナント個々の会社にスペースを提供して営業していただくのですが、ここでは自前で社員がやっています。」と語る。また、農業生産者数の少ないなかでの野菜、果物等で揃わない商品については、「道の駅うすい」自らが市場からの仕入れを行い、商品の品数を確保し、欠品をなるべく少なくできるようにお客様目線で心掛けている。さらに、2名の指導農業士が生産者（栽培農家）の出荷物の生産履歴に基づく出荷時の残留農薬の検査、出荷時期のアドバイスなど、商品の安全・安心を確保するために利用者の立場に立った様々な取組を行っている。加えて、「ベジタブル＆フルーツアドバイザー」が、野菜や果物を美味しく効果的に食べるための野菜や果物の見分け方、調理方法、保存方法などをアドバイスしており、オープン以来、そのような取組の中で各売り場が着実に売り上げを伸ばしてきた。

すべて自前で行うため様々な面で苦労が多く多忙ではあるものの、駅長はじめ社員がよく協力し、和気あいあいと仕事をしている様子が伺える。駅長のフレンドリーな人柄と社員との自然な応対ぶりが、そのまま現在の職場の明るい雰囲気に反映されているのではないかと取材で訪問した筆者には感じられた。

（3）障害者雇用の経緯

「障害者を雇用しようとしたきっかけは、ある障害者施設から栽培野菜や加工品等を出荷された際に、施設利用者である障害者の方が職員と一緒に来られていて、その仕事ぶりを見ていたら、ひょっとして障害者の方々に我々の仕事を手伝ってもらうことができるのではないかと考えたことです。」と駅長は語った。

「道の駅うすい」の営業時間は9時から18時30分までで、その他に開店準備や閉店後の後片付けなどにかかる時間も多い。定休日は正月元旦から4日だけであり、社員は当然ながら交替制勤務となっている。

そのような労働条件の中で、知的障害者を採用した結果、他の社員との協調性にもさほど大きな問題はなく、仕事も何をいつまでにと明確に指示をすれば、きちんとこなしてくれた。これは、駅長の期待を上回っていた。ただ、前述の障害者施設やハローワークからは身体障害者の雇用も勧められたものの、作業場所が全体的に狭く、受入れが難しい面があり、諦めざるをえなかった。そのため、現在は知的障害者を2名雇用しており、さらに取材時にはトライアル雇用で知的障害者を1名雇用している。

本稿執筆者は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構（以下「機構」という。）で障害者の雇用に関する助成金業務に携わっているが、本事例のような50人未満の小規模事業所で障害者を雇い入れるに当たっては、作業環境の整備・改善、人的支援などに必要なコストがネックになるという声を企業からいただくことがある。

「道の駅うすい」でも、機構の「障害者介助等助成金（業務遂行援助者の配置助成金）」を申請し、平成22（2010）年6月から受給され、知的障害者の雇用に活用いただいている。

2．取組の内容と効果

（1）障害者の職場配置と業務

現在、知的障害者2名のうち1名（Aさん）は物産販売所での倉庫のバックヤード作業を担当し、もう1名（Bさん）は鮮魚・寿司部門のパック詰め作業を担当している。

バックヤード担当のAさんは7年目で62歳の男性社員、パック詰め作業の担当のBさんは4年目で57歳の男性社員である。また、19歳の女性Cさんをトライアル雇用中であるが、パック詰めされた製品へのラベル貼り作業を主に担当している。

Aさんのバックヤード作業では、採用当初は担当業務をかなり限定していたが、少しずつ業務の幅を拡大してみると対応できることが明らかになった。他の社員の仕事ぶりにならって、現在ではお客様との対応もできるようになっている。

知的障害者の方の中には人間関係をうまく処理することが苦手な方もおり、感情の行き違いから不安になり、あるいは不満をもって周囲から孤立するケースもある。この職場でAさんが他の社員とコミュニケーションがうまくとれるようになったということは、本人の適応力が優れていたことと、他の社員が、勤務時間のみならず休憩時間なども含め人間関係がうまくいくように配慮したことが要因であろう。

また、Bさんのパック詰め作業では、最初は手順書を見ながら作業を進めていたが、次第に手順書がなくても対応できるようになり、パック詰めから、バーコード入力、台車での運搬、ケースへの陳列へと仕事の幅がどんどん広がっていった。これについても、Bさん自身の熱心さや努力とともに、周囲の社員の配慮や協力があったからであろう。

そうした2人の仕事ぶりに、「本当に助かっています。職場の主力であり、いないと困る存在です。」と駅長は話されていた。

また、トライアル雇用中のCさんは、取材当時は入社2ヶ月だったが、パック詰めされた鮮魚のラベル貼り作業をしており、Bさんが仕事の指導をしているとのことであった。つまり、Bさんは自分の仕事をこなすだけでなく、後輩に教えることもできるレベルである。

作業現場

バックヤード（洗浄）作業

（2）相談できる環境づくり

駅長によると、Aさん、Bさんを雇い入れた当初はいろいろと配慮が必要であったとのことである。

鮮魚などを扱う社員には昔ながらの職人気質な人もおり、悪意はなく大きな声で荒っぽく指示しがちだが、障害者個人の特性により、大きな声で指示をされると緊張し困惑してしまうことも多い。したがって、今は周りの社員が大きな声で指示しないように注意している。駅長は、「障害のある社員と一緒に仕事をする上では時間がかかったり、同じことを幾度も指示しなければならないことがある。また、仕事に対するモチベーションが日々変化するなどという事があるが、そうしたことが彼らの特徴であるという事を認識し、配慮したうえで仕事をしてもらう事を我々自身も十分認識すれば、成果は必ず出る。根気強く、優しく丁寧に指導するという気持ちが一番大切で、そうすれば彼らは確実に成長するでしょう。」と強調する。

また、定期的な相談の機会をつくっているわけではないそうで、社員自らが日頃からAさんやBさんの様子を気にかけて、自発的に話しかけるなどコミュニケーションをとっており、本人たちを緊張させないようざっくばらんに話すことを心がけているとのこと。精神的な負荷をかけず職場に定着できるよう社員一人ひとりも配慮している。駅長は、「朝礼のときにもできるだけ本人たちの顔色を見るようにしています。」と言う。

知的障害者の雇用に当たっては、駅長を含め社員のだれも専門的な知識を持っていたわけではないが、結果として知的障害のある社員が職場に順応し定着していることは、社員全体がいろいろと試行錯誤する中で、自然に働きやすい職場環境や種々の配慮が生まれてきたのではないかと思われる。中小企業にとっての障害者雇用のあり方を考えるうえで、参考となる実践的なケースではないだろうか。

3．今後の課題

現在のところ、地域障害者職業センターのジョブコーチ支援など障害者就労支援機関の各種支援は受けていない。ただ、今後の会社の発展に伴う計画的な社員採用を考えた場合、対象障害者の特性を適切に把握・確認でき、採用後に会社側も障害者本人も種々の相談ができるなどのメリットがあるため、これら関係機関への相談窓口の確保策を検討することが一つの課題ではないかと考える。

執筆者：独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
福岡支部　統括　堤　隆之