個人の特性を活かした業務での雇用継続
- 事業所名
- 有限会社福田屋ドライ(法人番号 5290802005659)
- 所在地
- 福岡県北九州市
- 事業内容
- クリーニング業
- 従業員数
- 20名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 洗濯物の運搬、梱包等 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病 その他の障害 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次
-
事業所外観
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
「有限会社福田屋ドライ」(以下「同社」という。)は、昭和33(1958)年に一般クリーニング事業を営む目的で福田正信氏とその家族が設立した福田屋クリーニングが母体であり、昭和63(1988)年に有限会社となっている。その後、工場が手狭になったため、平成3(1991)年に小倉南区に新工場を建設、また翌年には朽網(くさみ)駅前支店を開設する。さらに平成15(2003)年にはリネン部を新設し、主にホテルのタオルや工場の作業服のクリーニングを開始した。
※本稿は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構福岡支部の担当者が同社を訪問し、取材・執筆している。
(2)障害者雇用の経緯
クリーニング業の洗浄、シミ抜き、アイロンがけなどは職人の仕事というイメージがあるが、これらの仕事に付随する洗濯物の梱包、運搬などの業務に障害者が携わっているケースは多い。一方、そうした業務には長時間の立ち作業や重い衣類の運搬など体力的に負荷がかかるものが少なくなく、どちらかといえば男性に向いている仕事といえるのではないのだろうか。
今回、取材に応じていただいたのは、同社現社長の福田信晴氏の奥様である専務取締役の福田美千代氏(以下「専務」という。)であり、専務は、「知的障害のある2人の従業員は、もちろんそれぞれ性格は異なりますが、仕事はしっかりやりますし遅刻や無断欠勤もないですよ。」と語る。
同社では、以前から「インクル春ヶ丘」(障害者の就労移行支援事業や就労継続支援B型事業、自立訓練事業などに取り組む障害福祉サービス多機能型事業所。以下「インクル」という。)の利用者である障害者を雇用してきた。一般的に、知的障害者は単純な反復作業に向いているといわれたりするが、作業内容や手順をマスターすれば、障害のない従業員以上の成果をあげる方も珍しくないといわれている。
専務によると、最初にインクルから知的障害者の雇用を勧められた時には種々考え、採用後も色々な試行錯誤を繰り返したが、本人たちが仕事に慣れると予想を上回る働きぶりであり、その後の障害者の採用につながることになったとのことである。
一方で専務は、「これまでにはうまくいかなかったケースもあります。以前にグループホームから職場実習に来ていた人がいて、メンタル面が非常に繊細で気になっていたのですが、来週からトライアル雇用へ移行という段階になって来られなくなってしまいました。正式に賃金を貰うに当たって不安になってしまったようでした。」と残念そうに語った。
このような経験もあり、同社では職場での各人の仕事ぶりだけでなく、日常の様子などにも気を配っているとのことである。
2.取組の内容と効果
(1)担当業務と受入れ
現在働いている知的障害者2名のうち、Aさんは入社10年目、Bさんは約5年になる。取材時には2人とも45歳で、同社の前にもそれぞれ職歴があった。現在の担当業務は洗濯物の運搬、梱包等で共通している。
Aさんは、性格はとても真面目で几帳面。仕事に取り組む姿勢は常に一生懸命である。ただし、周囲の人とコミュニケーションをとることが苦手であり、人とのコミュニケーションを自らのストレスとして感じてしまうため、他の従業員と親しく会話をしたり食事を一緒にとるということはない。一方、Bさんは明るく社交的な性格で、挨拶も丁寧でよく気が利くタイプとのことである。このように性格的には異なる2人だが、共通しているのは仕事に取り組む真面目さで、遅刻や無断欠勤はなく、決められた手順に従いしっかりと作業をこなしている。
知的障害の特性として抽象的概念や表現を理解することが苦手なため、指示や作業手順を覚えることに時間がかかるケースが見られる。また、個人差もあり、個別の指示・指導が必要なことも多い。しかし、同社のような20人規模の事業所においては一人ひとりの特性に合わせた計画的な指導・教育方針を持って対応することは容易ではない。担当業務・指導担当者の選定、作業手順や指示方法の見直しなど、取り組むべきことは多いからであるが、同社では、まずは周囲の従業員に対して、障害者雇用に関する会社の方針、障害のある従業員への配慮事項等について丁寧に説明し理解と協力を得ることが大切と考えている。また、インクル等の支援機関と連携し、必要な支援を活用することも重要と考えている。従業員の先入観や不安を軽減又は解消し、職場に障害者を暖かく迎え入れるためにはそうした取組みが必要と考えるからである。
障害者雇用を進めるにあたっては、筆者も特別支援学校の職場実習や地域障害者職業センターのジョブコーチ支援などを活用し、スムーズな職場への受入れに向けた適切な職場配置や作業方法の検討を行うための支援を受けられることが大変重要と考える。そのためには、同社のように日頃から障害者就労支援機関に相談し、必要な支援制度が活用できるようにしておくことが望ましい。
なお、同社では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置助成金)」を平成19(2007)年1月から受給している。
<作業風景>
タオルのシワ取り
タオルの梱包
(2)クリーニングの作業工程、業務内容
クリーニング店の具体的な作業工程やそのなかで知的障害者がどのような仕事に従事しているかについては広く知られてはいないと思われることから、簡単に紹介する。各工場により若干の違いがあるが、同社では以下の作業工程を経て品物がお客様の元に届くことになっている。
- ア.
- 受付
- イ.
- 検品
ポケット内の点検、ボタンやシミの有無、ほつれや破れなどがチェックされ、また、白・黒・中間色など色別に選別される。
- ウ.
- シミ抜
洗う前にシミがあれば薬品を使ってシミを取る。
- エ.
- 本洗い(洗浄)
素材や色、汚れなどの状態に応じて水洗いやドライクリーニングが行われる。ドライクリーニングは石油系の洗浄液を使用した方法で、特に油性汚れには欠かせない工程である。
- オ.
- 再洗浄
本洗いで落ちなかったシミをプロの技で落とす。
- カ.
- 乾燥
立体形の乾燥機で乾燥させる。衣類をハンガーにかけたままごく自然な形で乾燥するので、形くずれ、ボタンの割れ、毛玉などがない。
- キ.
- 仕上げ
ワイシャツやズボンなど割と簡単なものであればパート従業員が担当するが、その他のデリケートな取扱いを必要とする衣服等については、熟練した専門の職人がその衣類に応じて美しく仕上げを行う。
ちなみに、同社のキャッチフレーズは「職人手仕上げ あなたのこだわりおまかせください」であり、「お客様のお品をきれいに仕上げたい」というこだわりを肝に銘じ、一点一点手仕上げで仕上げている。
(3)業務、勤務と配慮事項
先に述べたように、AさんとBさんの担当業務は洗濯物の運搬、梱包等であり、前述の各作業工程をつなぐような役割を担っている。具体的には次のような作業である。
- シーツやバスタオル、フェイスタオルを車から降ろす。
- 水洗機に入れて洗う。
- 洗濯が終わったら乾燥機に投入する。
- 乾燥したタオルを機械に通してたたむ。
- 梱包する。
勤務形態は週休2日で、勤務時間は8時30分から14時まで。昼休みが1時間で、午前中に10分間の休憩時間をとるようになっている。通勤に要する時間は2人ともさほど長くはなく、現在の勤務時間が今のところ適度で身体の負担も少ないようだ。
「担当業務もそうですが、勤務形態もできるだけ変えないようにしています。以前に本人の家庭の事情で週2日の休日が変更になったときには、混乱して生活リズムがくずれてしまったことがあります。自分の中できちんと形が決まっているものは、変えない方がいいようですね。」と専務は言う。これは自らの経験から培われた貴重な感覚、知識である。さらに、「今日、Aさんは半袖の服を着ていますけど、外が寒くてもオールシーズン同じ格好で仕事をしています。でも、雨や強風の日もあるので、何か外囲いでもすることを考えないといけませんね。」と語った。
社長も専務も、当初は知的障害に関して専門的な知識は特に持っていなかったとのことだが、就労支援機関の職員や主治医とも相談しつつ、障害者と日々接していく中で自ら経験を積み重ねていった結果、知識やノウハウを社内で持つことができるようになった。また、本人たちも少しずつ仕事や環境に慣れ、力を発揮できるようになり、同社での雇用継続が実現したのではないかと思われる。
3.今後の展望と課題
同社では、障害のある従業員を3人体制とし、2人ずつの交替勤務にすればさらに一人ひとりの負担が減るのではという考えから、もう1人の障害者を募集中である。障害者の法定雇用率制度では雇用義務の対象外である事業所規模で、実質的には社長と専務のみが労務管理を行う体制の同社において、熱心に障害者雇用に取り組まれている。これには、これまでに採用した障害のある従業員の働きぶりが評価されての募集であることはもちろんだが、何か問題が発生した際にインクル等の就労支援機関と相談でき、必要な支援を受けられたことが要因として大きい。そうした連携体制を維持・広げてゆくことで、今後も障害者個々人の特性を活かした雇用の継続・拡大を行っていくことは可能であると同社では考えているとのことであり、筆者としても期待したい。
最後に、これはクリーニング業界に限った課題ではないが、障害者本人やその家族の高齢化に伴い、長期の雇用継続に向けた支援体制を維持することが困難になることが懸念されるところであり、今後の国や団体等による公的支援の一層の充実強化が求められてくるのではないだろうか。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
福岡支部 統括 堤 隆之
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